ミュージカル映画、今後の展望
ミュージカル映画「レ・ミゼラブル」が世界中で空前の大ヒットを飛ばしている。日本で12月に公開された本作が、まさか3月現在までロングランになるとは予想だにしなかった。
1950年代「雨に唄えば」「バンド・ワゴン」「パリのアメリカ人」などMGMミュージカルで頂点を極めたブームは、1960年代に「ウエストサイド物語」「マイ・フェア・レディ」「サウンド・オブ・ミュージック」といった名作を生んだ。1970年代になると明らかに衰退し、近年では《ミュージカル映画は当たらない》というジンクスがまことしやかに囁かれるようになっていた。
しかし21世紀になって風向きが変わり始めた。ロブ・マーシャル監督「シカゴ」(2002)がアカデミー作品賞を受賞したのである。ミュージカル映画が作品賞に輝くのは「オリバー!」(1968)以来、実に34年ぶりの快挙であった。
2008年に公開された「マンマ・ミーア!」は、なんとイギリスで「タイタニック」の興行成績を塗り替える大ヒットとなり、ギリシャでもオープニング興行成績が歴代1位となった。《ミュージカル映画は当たる》時代が到来したのである。
「レ・ミゼラブル」のプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュが次に考えているのは間違いなく、同じ作詞・作曲家コンビによるミュージカル「ミス・サイゴン」映画化だろう。ベトナム戦争を背景としテーマが重厚だし、十分アカデミー作品賞を狙える作品である。はっきり言って「レ・ミゼ」より映画向き。僕も大いに期待している。
「オペラ座の怪人」「キャッツ」のアンドリュー・ロイド=ウェバーが長年暖めているのが「サンセット大通り」。監督が「タクシー・ドライバー」「ヒューゴの不思議な発明」のマーティン・スコセッシにほぼ決まりかけた時期もあった。主役ノーマ・デズモンドの候補に上がった女優はグレン・クローズ、ライザ・ミネリら。脚本家ジョー・ギリス役はオーストラリア公演で同役を演じたこともあるヒュー・ジャックマンでお願いしたい。
ヒュー・ジャックマンと言えば、彼が演りたがっていたロジャース&ハマースタインの「回転木馬」再映画化の話はどうなったのだろう?記事は→こちら。
次に映画化が既に決まっている作品をご紹介していこう。
まずはスティーヴン・ソンドハイム作詞・作曲「イントゥ・ザ・ウッズ(Into the Woods)」。監督は「シカゴ」のロブ・マーシャル。赤ずきんちゃんやジャックと豆の木、シンデレラなど童話の主人公たちがたくさん登場するファンタジックな作品。僕は宮本亜門演出で舞台版を観ている。
「リトル・ダンサー」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」のスティーヴン・ダルドリー監督は「ウィキッド」を準備中。「オズの魔法使い」前日譚である。
またバーブラ・ストライザンドがミュージカル「ジプシー」再映画化に出演する可能性も取り沙汰されている。
アニメ「サウス・パーク」で人気者となったトレイ・パーカーとマット・ストーンはブロードウェイに乗り込み「ブック・オブ・モルモン」でミュージカル作品賞・演出賞・楽曲賞など9部門を制覇。映画化のプロジェクトが着々と進んでいる。
ビヨンセ主演、クリント・イーストウッド監督で4度目の映画化となる「スター誕生」は撮影直前の段階になりビヨンセの妊娠が発覚、延期となったが、果たして再開されるのかどうか……。ビヨンセはディズニー版「アイーダ」(作詞:ティム・ライス、作曲:エルトン・ジョン)も期待したい。
あとマックG監督でトニー賞受賞の「春のめざめ」が動いており、同じくトニー賞受賞した「ジャージー・ボーイズ」はコロンビア・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザーズが製作を検討したが断念。現在暗礁に乗り上げている。
ウィル・スミスがプロデューサーのミュージカル映画「アニー」は当初、娘のウィロウ・スミスが主役を務める予定だったが、製作が遅れ12歳になってしまったので諦めた。「ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~」で史上最年少アカデミー主演女優賞にノミネートされたクヮヴェンジャネ・ウォレス(9歳)が現在交渉に入っている。オリジナル版は大恐慌直後1930年代ニューヨークが舞台となるが、今回は設定を現代に移し、有色人種がアニーを演じるのがミソ。1982年にジョン・ヒューストン監督が映画化しているが駄作。しかし「シカゴ」のロブ・マーシャルが監督・振付したディズニー提供テレビ版「アニー」(1999)は大傑作だった。キャシー・ベイツや、トニー賞受賞者のアラン・カミング、クリスティン・チェノウェス、オードラ・マクドナルド(1970年生まれの彼女は既にトニー賞を5回!受賞している)など出演者が豪華。アニー役のアリシア・モートンも可愛い。超オススメ。閑話休題。
「アメリカン・ビューティ」「007 スカイフォール」のサム・メンデス監督は一時ソンドハイム作詞・作曲の「フォーリーズ」映画化を企画していたが、現在どうなっているかは不明。メンデスは昔「スウィニー・トッド」も暖めていたが、これを放棄しティム・バートンが実現した経緯がある。
サム・メンデスとロブ・マーシャルが共同演出でトニー賞のリヴァイヴァル作品賞に輝いた「キャバレー」は是非どちらかの監督で再映画化して貰いたい。ライザ・ミネリがオスカーに輝いたボブ・フォッシー監督版は優れているが、楽曲の約半分がカットされていることに不満が残る。
あと僕が映画化して欲しいのはソンドハイムの「リトル・ナイト・ミュージック」。イングマール・ベルイマン監督のスウェーデン映画「夏の夜は三たび微笑む」が原作である。ソンドハイムが黒船来航をテーマにした「太平洋序曲」もいいんじゃないかな?
様々な人種が織りなす人間模様を描く「ラグタイム」も希望する。「カッコーの巣の上で」「アマデウス」のミロシュ・フォアマン監督が以前同じ原作を映画化したが、非ミュージカルだった。
ブロードウェイ/ウエストエンド以外のミュージカルに目を向けると、映画として観たいのは小池修一郎・作演出「MITSUKO ~愛は国境を超えて~」、ウィーン・ミュージカル「エリザベート」、フレンチ・ミュージカル「壁抜け男」「ロミオとジュリエット」等である。三谷幸喜さんには近い将来ミュージカル映画を撮って貰いたい。「オケピ!」でもいいが、出来ればオリジナルで。
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コメント
>>1982年にジョン・ヒューストン監督が映画化しているが駄作。しかし「シカゴ」のロブ・マーシャルが監督・振付したディズニー提供テレビ版「アニー」(1999)は大傑作だった。
本当、その通りです。しかし日本では82年作の映画の吹き替えがDVD化され、そればかり評価されている気がします。
日本での人気は高いのに、ディズニー版が見られない・評価されないのはとても悔しいしもったいないですね!
このようにハッキリと評価している所は少なかったので感動しました。
投稿: 名無し | 2013年8月26日 (月) 04時26分
コメントありがとうございます。
ディズニー版「アニー」が日本で商品化されないのは全く解せないことですね。僕はBSで放送されたのを観て大変感銘を受け、仕方がないから北米版DVDを買いました。ただしリージョンコード1なので日本のプレーヤーでは観られません。
投稿: 雅哉 | 2013年8月26日 (月) 12時59分