再びAKB48「So long ! 」MVについて/大林宣彦 擁護論
この記事は下記を補完するものである。
予想された通り、「So long !」発売後、ミュージック・ビデオ(MV)の内容を廻り、賛否両論熱いバトルが展開されている。意外だったのは肯定派が多かったこと。僕は3:7くらいで否定的意見が大勢を占めるのかと想像していたのだが、蓋を開けてみると概ね〈50/50 フィフティ・フィフティ〉かな?Amazonレビューを見ても気持ちいいくらい意見が割れている。
しかし考えてみると、これだけの論争を巻き起こす作品って最近では劇場公開映画でも滅多にお目にかかれないのではないだろうか?「話題になってこそナンボ」だ。無難な凡作に価値はない。この異形の問題作を世に出すと決めた秋元康プロデューサーの勝利と言えるだろう。
AKBヲタの代表として、漫画家・小林よしのり氏の意見をご紹介しよう→こちら! ちなみによしりん先生は元々、大島優子推しだったが、最近は市川美織(みおりん)や渡辺美優紀(みるきー)に傾いているみたい。ご本人はDD(誰でも大好き)と仰っているけれど。
「こんなクソMV撮りやがって。大林宣彦を絶対許せない!」と怒り、嫌悪しているヲタたちの意見をざっと読んでみると、彼らの非難は概ね以下に要約できるのではないだろうか。
- 合成(特撮)がチープ
- 内容が説教臭く、ウザい
- 画面が暗く、メンバーたちの顔がよく見えない
全く仰る通り、ごもっともだ。アイドルMVの役割は彼女たちをより可愛らしく、魅力的に描くことであり、彼女たちがはち切れんばかりの笑顔で飛び跳ねている姿を見て「萌え~」っとなることだと定義するなら、「So long ! 」は余りにもかけ離れた存在であり、そういう意味では明らかに失格だろう。
しかし古くからの大林映画フリークの立場から観ると、これは立派な64分の映画(A MOVIE)である。大林監督は16mm個人映画「EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ」(1967)を撮った頃からちっとも変わっておらず、アヴァンギャルド(前衛芸術)精神を貫いているなぁと嬉しくなる。勿論、それをアイドル相手にしていいことなのか?俺たちには関係ねーよ、と言われたら返す言葉はない。つまり「So long ! 」MVは本来存在してはならない、禁断の果実なのだ(←ヲタにとっては”腐った果実”だろう)。
それでは各項目について擁護を始めよう。
「合成がチープ」 : 好き嫌いは別にして、これは映像作家・大林宣彦のスタイルである。商業映画デビュー作「ハウス HOUSE」から、「ねらわれた学園」「漂流教室」「水の旅人」「この空の花 -長岡花火物語」もみなそう。要するにわざとなのだ。「映画とは花も実もある絵空事」であり、電気紙芝居なんだよというメッセージである。それが嫌という人がいるのは当然だろう。元々縁がなかったんだね、と諦めて貰うしかない。前田敦子には沢山のファンがいたけれど、それに匹敵するだけアンチがいた。それと同じ事。アンチを産まないものは大したことないのである。
「内容が説教臭く、ウザい」 : 「So long !」という作品は「この空の花」の続編であり、前作のエッセンスを凝縮し、戦争・爆弾・花火・大震災・原発事故を結ぶ教育映画なのだ。「何でアイドル使ってそんなことするんだ?」って疑問に想うのは当たり前だろう。「花がれき」とか、長岡市が震災がれきを受け入れた意義とか、いまどうしても伝えたいことが沢山あった。そうした要素が詰め込まれた密度の濃い作品に仕上がっている。AKB48も被災地の復興をテーマにした「風は吹いている」を歌い、支援するミニ・コンサートをこの2年間、毎月現地で行なってきた。中々出来る事じゃない。そんなアイドル、他にいる?つまり大林監督とAKB48両者の被災地復興への願い、”未来”への”夢”がひとつに結びついたのが本作なのだ。その想いこそ、僕はしっかりと受け止めたい。
「画面が暗く、メンバーたちの顔がよく見えない」 : 原田知世主演「時をかける少女」とか石田ひかり主演「ふたり」の時代、大林映画の照明はしっかり当たっていた。しかし確かに「So long !」の照明は不十分で、例えば「天国の日々」「ツリー・オブ・ライフ」のテレンス・マリック監督みたいに、レフ板を使用せず自然光だけで撮っているんじゃないかと想われる場面もある。どうしてなんだろう?と僕はしばし考えた。
大林監督は生者と死者が同居する映画を撮り続けてきた。「ふたり」「あした」「異人たちとの夏」「この空の花」などがそれに該当する。監督は2010年に心臓を患い、手術を受けた。僕が推測するに生死を彷徨ったその体験以降、作風はより一層、死者の側に引き寄せられたのではないか?こうして画面は沈んでいった。本作は棺桶に片足を突っ込んだ老人(75歳)が、若者に託した遺言みたいなものだ。死んだ妻を取り戻すために冥府に入ったギリシャ神話のオルフェウスとか、監督が愛してやまない福永武彦最後の小説「死の島」で喩えるなら、現世と「死の島」を行き来するカロンの艀(はしけ)に乗った情景を想像してみて欲しい。あの感覚だ。あっ!そういえば小説「死の島」は広島で被爆した女性がヒロインだった。「この空の花」「So long !」に繋がっている。
「So long !」は生者と死者だけではなく、過去と現在、フィクションとドキュメンタリーも同居している。つまりメタフィクション (Metafiction)でもある。この混沌(Chaos)こそ、本作の真髄と言えるだろう。そこには暴走老人の狂気すら感じられるのである。
だから「So long !」を観た、健康な若い人たちが「意味が分からない」「得体が知れない」「不気味だ」と戸惑うのはごく自然な反応である。それでいいんだ。
大林宣彦、空恐ろしいアーティストである。
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