進化する21世紀のカルテット/ハーゲン弦楽四重奏団
2月28日(木)いずみホールへ。
ハーゲン弦楽四重奏団のコンサート。オール・ベートーヴェン・プログラムで、
- 弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調
- 弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調
- 弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調「ラズモフスキー第1番」
最初と最後の曲に中期のものを組み入れるという面白い構成。しかも全てヘ長調で統一されている。明朗な、日溜まりの音楽。作曲家のダーク・サイドは封印された。
今やベートーヴェンの交響曲を古楽器で演奏するとか、モダン楽器でピリオド・アプローチするのは当たり前になった。
しかし実は弦楽四重奏の世界で、ピリオド・アプローチの解釈に遭遇する事は稀である。理由は不明だが、このジャンルは明らかに立ち遅れている。例えばウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの団員によって結成されたモザイク四重奏団はベートーヴェンの初期弦楽四重奏しか録音していないし、クイケン四重奏団は中期(ラズモフスキー・セット)までである。
だから今回、初めて生でピリオド・アプローチによる四重奏を体験した。ハーゲンの場合、弓を弦に当てた直後に奏でられる頭の部分と音尻は徹底してノン・ヴィブラート。伸ばした音の中腹で装飾的にヴィブラートを掛けるという手法だった。これが衝撃的にいい!pure tone(←ノリントン命名)の美しさに惚れ惚れした。
第1番 第1楽章の提示部はのびやか。しかし決して音楽は弛緩しない。展開部は激しく畳み掛ける。エッジが効いて切れ味鋭いが、決して攻撃的にはならない。知性のひらめきがあった。初期の作品だが、そこには明らかに後のベートーヴェンが刻印されていることが認知出来た。
全体を通して彼らの演奏から伝わってきたのは「ヴィブラートは決して常態として(恒常的に)用いるのではなく、ここぞという時の武器なのだ」という強い意志である。
弦楽四重奏団はヴィオラが弱いとそれが致命的欠陥になる得る。しかしヴェロニカ・ハーゲンは力強く雄弁だった。アルバン・ベルクSQが解散したいま、ハーゲンSQこそ世界最高のカルテットなのではあるまいか。
20世紀に常識だったcontinuous vibrato(ヴィブラートの垂れ流し)は害悪でしかない、と認識を新たにした夜であった。
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コメント
音楽の初心者です。室内楽を聴くことが多く、日本の常設四重奏団の演奏は定期的に聴いています。ホールの形態にもよるのでしょうが、最近第一ヴァイオリンの音に別な音が聞こえるようになり聴きづらくなってきました。28日のハーゲンQでは、そんな余計な音は聞こえませんでした。その後このBlogを拝見する機会があり、ビブラートのことが参考になりました。絶対音感など持っていませんが、チョット調べてみようかなと、そんな気になっています。
投稿: tamo2 | 2013年3月 4日 (月) 12時11分
tamo2さん、コメントありがとうございます。
ヴィブラートは音の振動ですから、微妙に周波数(高低)が揺れ動きます。それが関係しているのかも知れませんね。
また別の可能性として、倍音が聴こえているのでは?倍音について一番わかり易い講義はレナード・バーンスタインによる「答えのない質問」DVDです。ドリームライフから発売されています。ご参考になれば幸いです。
投稿: 雅哉 | 2013年3月 4日 (月) 20時07分
ご紹介下さった答えのない質問」、調べてみたらおもしろそうなのでDVD購入しました。面白そうなのですが、理解できるかどうかは別ですが。今考えると図書館という手もあったのですね。あるかどうかは別ですが。
投稿: tamo2 | 2013年3月 8日 (金) 00時12分
ご紹介いただいた「答えのない質問」、少し高いかなと思ったのですが、面白そうなので買っちゃいました。
投稿: tamo2 | 2013年3月 8日 (金) 14時54分
tamo2さん、再コメントありがとうございます。
「答えのない質問」を見ると、レニーが教育者としていかに優れていたかということがよく分かります。歴史的名レクチャーです。収録されたのはリゲティ、ベリオ、ブーレーズといった無調&前衛音楽全盛期ですが、そのなかで調性音楽がいずれ勝利するだろうと宣言するレニーが格好いいです。あとタバコをプカプカ吸いながら講義するのが時代を感じさせますね。「だから肺がんで死ぬんだよ!」と画面にツッコミを入れながら鑑賞しました。
それから、近いうちに「室内楽の森へ~厳選!これだけは絶対聴いておきたい77曲」という記事を出すべく鋭意準備中です。またご訪問下さい。
投稿: 雅哉 | 2013年3月 9日 (土) 08時49分