サロネン/フィルハーモニア管弦楽団のベートーヴェン&マーラー
2月3日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。
エサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管弦楽団で、
- ベートーヴェン/劇付随音楽「シュテファン王」序曲
- ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番
- マーラー/交響曲 第1番「巨人」
ピアノ独奏はレイフ・オヴェ・アンスネス。アンスネスはノルウェー生まれでサロネンがフィンランドだから、どちらも北欧出身である。
ベートーヴェンではティンパニにピリオド楽器(クラシカル・ティンパニ)が使用された。またトランペットもピストンのないナチュラル管だった。しかしだからといって弦はピリオド・アプローチ(ノン・ヴィブラート奏法)ではなく、第1ヴァイオリンの向かい側はチェロで古典的対向配置でもなかった。
「シュテファン王」は呑気で愉しい曲。タイトでスリムな演奏。
アンスネスのピアノは弱音が粒立ち、一音一音がクリアで曖昧さは皆無。サロネンの指揮は歯切れがよく、古楽器演奏などでしばしば聴かれるアクセントの強調は敢えてしない。都会的で洗練され、モダンかつスタイリッシュな競演だった。喩えるなら「ドイツの泥臭さをきれいに洗い落としたら、中から最新鋭のハイブリッド・カーが出現した」って印象。
ソリスト・アンコールはベートーヴェン/ピアノソナタ 第22番 第2楽章。
今回フィルハーモニア管を久しぶりに聴いて(前回はシノーポリ指揮でマーラー/千人の交響曲@旧フェスティバルホール)感じたのは、日本のオケも近年メキメキ腕を上げ、彼らと互角の勝負だなということ。弦に限れば大阪フィルの方が上手いかも。あとフィルハーモニアはホルンとフルートが下手だった。ホルンはマーラーで3回以上音を外したし、フルート主席もBBC交響楽団の向井知香さんの方が勝っている。
さて、サロネンのマーラー解釈は怜悧で、大曲をまるで外科医のように鮮やかに腑分けしていく。レナード・バーンスタインの指揮するマーラーは主観的で、レニーがどんどんのめり込み、熱くなっていくところがスリリングかつエキサイティングだったが(彼に師事した大植英次さん、佐渡裕さんも似た傾向がある)、サロネンはその対局にあり、客観的でクール。見通しがよく、たとえ大音量でも各声部がクリアに聴こえてくる。その眼差しは彼同様に作曲家&指揮者として活躍するピエール・ブーレーズに通じるところがある(いやレニーも作曲家なんだけれどさ、マーラーに関しては同一化しちゃうんだよね)。
第1楽章のクライマックスには鋭利な切れ味があり、サロネンがロサンゼルス・フィルと録音したバーナード・ハーマン作曲/映画「サイコ」(アルフレッド・ヒッチコック監督)の音楽を想起した。
第2楽章には躍動感が溢れ、また対照的に中間部のエレガントさも印象深い。
テンポは自在に、極端なまでに動かす。終楽章コーダでは「ど、どこまでアッチェルランド!?」と加速の限界まで挑戦するかのようであった。
アンコールはボッケリーニ(ベリオ 編)/マドリッドの夜警隊の行進。
余談だが、マーラー「巨人」第3楽章・カロ風の葬送行進曲はモーリッツ・フォン・シュヴィントの「狩人の葬列」という版画に触発されたという。
どうです、雰囲気出てるでしょう?
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