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2013年2月 8日 (金)

セーゲルスタム/大フィル~北欧からの招待状

2月7日(木)ザ・シンフォニーホールへ。

セーゲルスタム/大阪フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会。

  • グリーグ/ピアノ協奏曲
  • セーゲルスタム/交響曲 第248番「鏡に映された歪み…」世界初演
  • シベリウス/交響曲 第5番

ピアノ独奏は小山実稚恵さん。

グリーグは遅めのテンポでオーケストラはスタカート気味に弾き、切れがある。なかなかの好演。

ただピアノはミス・タッチの多さにびっくりした。中村紘子レベル。ffは力任せに叩くので荒っぽく、音が濁る。所詮はチャイコフスキー国際コンクール第3位、ショパン国際ピアノコンクール第4位の実力でしかないなと想った。

ソリスト・アンコールはセーゲルスタム/SEVEN QUESTIONS TO INFINITY。むしろこちらの方が良かった。あまり強く弾く音がなかったからだと推察する。最後は高い音を出す鍵盤が足りなくなって指が端の木の枠を叩き、遂には蓋を閉めてその上を叩くなどのパフォーマンスあり。愉しい趣向だった。

フィンランドに生まれたセーゲルスタムの新作は演奏時間が22分で、「私にとっての創作の父であるシベリウスが最後に書き上げた単一楽章の交響曲である第7番と同じ長さになっています」と作曲家自身が語っている。

シベリウスの交響曲の中で一番有名で、演奏機会が多いのはダントツに第2番だろう。次が第1番。理由は簡単。4楽章形式で、第1楽章がソナタ形式。分り易くクラシック初心者向けなのだ。ショスタコーヴィチがアホなソヴィエト共産党幹部にも理解出来るよう作曲した交響曲第5番が一番人気なのと似ている。

シベリウスの第1番を聴けば、チャイコフスキーの影響が濃厚だったことが明瞭である。第1、第2番を書いた頃の彼は未だ形式に囚われていた。しかし第7番に至ると形式から自由になり、単一楽章に収束している。そこでは音楽とフィンランドの自然(森や湖)が渾然一体となっている。交響曲第5番はそれに至る過程の作品といえるだろう。

本来4楽章形式で書かれたが、第1楽章と第2楽章を合体し、全3楽章に改訂されたのもその現れである。なお原典(4楽章)版はヴァンスカ/ラハティ交響楽団がBISにレコーディングしており、オーケストレーションも現行のものとは随分違うので面白い。

シベリウスは1915年4月21日の日記にこう記している。

 今日11時の10分前に16羽の白鳥を見た。人生最大の感動のひとつだ! 神よ、なんという美しさ! 白鳥達は長い間、私の頭上を旋回していた。そして輝く銀のリボンのように、太陽の光の霞の中へ消えていった。
 声は鶴のような木管楽器の類だが、トレモロがない。まぎれもなくサリュソフォーンの音色だが、白鳥の声はトランペットに近い。小さな子供の泣き声を思い起こさせる低い繰り返し。自然の神秘と人生の憂愁! 第5交響曲のフィナーレのテーマ、トランペットのレガート……。
 これは長い間、真の感動から遠ざかっていた私に起こるべきものであった。こうして今日、私は聖なる殿堂にいるのだ。

この体験、啓示が交響曲第5番・終楽章の主題となった。

ちなみにサリュソフォーンとはこんな木管楽器。

Sarrusophone_2

金属製でダブルリード。現在ではコントラファゴットで代用されている。

NHK大河ドラマ「平清盛」や映画「ヴィヨンの妻」の音楽で知られる吉松隆さんは高校3年生の時、シベリウス/交響曲 第7番を聴いて作曲家になる決心をしたという(詳細は→こちら)。吉松さんの交響曲の持つ静謐さや響きの透明感はシベリウスに共通する。また吉松作品は鳥をテーマにしたものが多い(「朱鷺によせる哀歌」「デジタルバード組曲」など)が、シベリウスにおける白鳥(交響曲第5番以外にも「トゥオネラの白鳥」がある)に相当すると言えるだろう。交響曲第1番「カムイチカプ交響曲」はアイヌ語で「神の鳥」という意味で、アイヌ民族の伝説をフィンランドの国民叙事詩「カレワラ」に見立てている。

セーゲルスタム交響曲は打楽器が多彩で、ハンマーを打ち下ろしたり、サンダーシートが鳴ったり、ノコギリがまるでテルミンのような音を発したりするなど遊び心満載で笑った。まるで子供がおもちゃ箱をひっくり返して大はしゃぎしているような、童心に帰れる作品だった。彼も吉松さんもシベリウス/交響曲第7番という同じ出発点なのに、どうしてここまで作風が乖離しているのだろう!?とても興味深い。ちなみに現在まで260もの交響曲を完成させているセーゲルスタムだが、1993年以降に作曲されたものは全て指揮者なしで演奏されるという。今回も彼はステージ下手でピアノを担当した。

プログラム後半のシベリウスも遅めのテンポで開始されるが、第1楽章後半のアレグロ・モデラートの部分に入るとかなり速くなり、コントラストが鮮明。弦はしっとりと濡れ、金管も仄暗く、「フィンランドの音」が感じられた。一方で木管は歯切れよく軽快。なんとも清々しい。僕が実演で聴いた中で最もシベリウスらしい、掛け値なしの名演だった。

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