カール・ライスター現る!/いずみシンフォニエッタ大阪 定期「作曲家 西村朗」
2月2日(土)いずみホールへ。
飯森範親/いずみシンフォニエッタ大阪 第30回定期演奏会。ここの音楽監督でもある大阪生まれの作曲家・西村朗さんの個展であった。
- ピアノ・ソナタ
- オーケストラのための「耿(こう)」 (1970/2013・初演)
- 室内交響曲 第3番〈メタモルフォーシス〉
- クラリネットと弦楽のための協奏曲〈第一のバルド〉
- 室内交響曲 第4番〈沈黙の声〉 (初演)
ピアノ独奏は碇山典子さん。そして元ベルリン・フィル主席クラリネット奏者カール・ライスターが登場。
正直僕は今まで西村さんの曲を理解出来ず、苦手だった。足を向ける気になったのは世界一の名手ライスターの演奏を生で耳にしたかったからだ。しかし慣れたのか、不思議と今回は心地よく、穏やかな気持で聴くことが出来た。
J.S.バッハからシェーンベルクに至る西洋音楽は非常に論理的な芸術である。平均律、十二音技法、主題と変奏、ソナタ形式、三部形式、ロンド形式、フーガ、対位法、和声学、等々。曲はこれらのルールに則って構築される。理詰めの音楽であると断じても過言ではない。しかし日本の武満徹はそういう理屈から離れて、音楽をもっと割り切れない柔らかいもの、曖昧模糊として流動的な、「水」や「夢」に近い存在として捉えた。そして西村さんはその流れを汲んでいるということが漸く分かった。
西村さんの特徴として、チベット仏教への関心が上げられる(武満にも5人の打楽器奏者とオーケストラのための"From me flows what you call Time"がある)。クラリネットと弦楽のための協奏曲〈第一のバルド〉はチベット仏教の教典「死者の書」を基に輪廻転生をテーマとし、魂の在り処を描く。室内交響曲 第4番〈沈黙の声〉でも最後にマントラ(真言)のような声が聴こえてくる。
あと武満の「水」に対して、西村さんは「光」で勝負する。高校2年生、16歳の時に作曲した「耿」は訓読みで「ひかり」である。音のシャワーが気持ちいい。
西村さんによると、生前の武満と次のような会話を交わしたそうである。
武満「西村くん、君は音が多すぎるから減らしなさい」
西村「減らせる音は一音もないんです」
武満「どうしようもないな、君は!」
しかし最近の西村作品に比べると「耿」は音符の数が少なく、「もしこれを武満さんに聴いてもらっていれば、少しは褒めてくれたかも知れません」と西村さん。
18歳で書いたピアノ・ソナタは意外にもシンコペーションのリズムが多用されており、JAZZっぽかった。西村さんの新たな一面を見た。
室内交響曲 第3番〈メタモルフォーシス〉の始まりは風の音。やがて曲調は流転して沸騰するマグマになる。
室内交響曲 第4番〈沈黙の声〉は還暦を迎え、新境地ともいうべき作品。呼びかけの声に対して、応答を待つための間=パウゼが多用されていた。西村さん曰く、「間が大事なんです」
クラリネットと弦楽のための協奏曲〈第一のバルド〉はカール・ライスターのために書かれた。ライスターからの注文は「現代音楽(特殊)奏法は吹かない。クラリネットが奏でる一番美しい音だけで書いて欲しい」とのことだったそう。
ライスターがベルリン・フィルに所属した期間1959-1993年はヘルベルト・フォン・カラヤンが芸術監督を務めた1955-1989年とほぼ一致する。カラヤンが完璧主義者だったように、ライスターも一分の隙もないパーフェクトなパフォーマンスだった。一音一音の粒が揃い、掠れることなど一瞬たりとてない。揺らぎない。曲は消え入るように終わるが、研ぎ澄まされた緊張感があった。感服した。
いずみシンフォニエッタ大阪の次回定期は7月13日(土)。待望の吉松隆(NHK大河ドラマ「平清盛」)さんの新作が発表される。その吉松さんも聴きに来られていたようで、Blogコメントが面白い→こちら。ぜひ当日は(噛み合いそうもない?)お二人のトークを聴きたいものである。
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