大林宣彦監督は何故AKB48「So long !」MVを撮ったのか?その個人史を辿りながら考察する。
巷では巨匠・大林宣彦 監督がアイドル・グループAKB48のミュージック・ビデオ(MV)を撮ったということで話題が沸騰している。しかし長年のファンから見ると、実はそれほど意外な組み合わせではない。
大林監督は商業映画デビュー作である東宝「HOUSE ハウス」(1977)より以前、1960-70年代にかけ草創期の敏腕CMディレクターとして名を馳せていた。チャールズ・ブロンソンを起用した「マンダム」やソフィア・ローレンの「ラッタッタ」(原付バイク)、カトリーヌ・ドヌーヴの化粧品、山口百恵・三浦友和の「グリコアーモンドチョコレート」、高峰三枝子・上原謙の「国鉄フルムーン」などがその代表作である。
つまり「これこれの商品(「So long ! 」)を売りたいので、しかじかのタレント(AKB48)を起用してプロモートして欲しい」という注文はお手の物。その道のプロなのだ。
また初期から大林監督はミュージカル志向が強かった。1969年には「てのひらの中で、乾杯!」という作品を撮っている。キリンビール工場見学者向けに上映されたPR映画で、可愛らしい「ビールの精」がビールが出来るまでの工程を教えてくれる全篇ミュージカル仕立ての作品であった(僕はDVDを所持している)。
原田知世主演、不朽の名作「時をかける少女」のカーテンコールでヒロインは松任谷由実(作詞・作曲)の歌を歌いながら、軽やかに時をかける。キネマ旬報誌で読者選出ベストワンに輝いた「さびしんぼう」もまた、エンドクレジットで富田靖子がショパンの「別れの曲」の旋律にのせ、瀬戸内海を渡る船上で歌うのだ。
KANが「愛は勝つ」でブレイクする前にリリースしたセカンドシングル「BRACKET」(1987)のMVも大林監督が手がけた。大林映画「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群」、瀬戸大橋博「モモとタローのかくれんぼ 」、大連・尾道友好博「夢の花・大連幻視行」の音楽をKANが手がけた縁ゆえだった。
さらに1988年アイドル坂上香織のデビュー曲のために「香織の、-わたしものがたり」というMVを古里尾道で撮っている(僕はレーザーディスク LDで所持)。2004年には、やはり尾道で若手ミュージシャンCANCION(カンシオン)のMVを製作した(詳細は→こちら)。
さて、「So long ! 」である。大林監督の発言を引用する。
「AKB48の子らの人間的な美しさを描いてください」が秋元康さんの演出依頼の理由。一所懸命こそが美しいのだと、3.11以降のこの日本を生きる若い世代の姿を描いた。3日間で64分の映画作りも一所懸命。僕はすっかり惚れ込みましたよ。
また、今まで数多くAKB48のMVを手がけてきた高橋栄樹 監督(軽蔑していた愛情、夕陽を見ているか?、ポニーテールとシュシュ、永遠プレッシャー)は大林監督に私淑している。高橋監督が乃木坂46を撮った「生田絵梨花×高橋栄樹」という作品は尾道でロケを行い、しかもなんと生田が映画館で大林監督の「この空の花 -長岡花火物語」を観るシーンまであるのだ!その高橋監督は”見習い”として「So long ! 」ロケに参加し、部分的にカメラで撮影しているという(←この情報はツイッター上でのやり取りで、高橋監督ご本人から直接伺った)。高橋監督(1965年生まれ)やアニメ「おおかみこどもの雨と雪」「サマーウォーズ」の細田守 監督(1967年生まれ)は正に”大林チルドレン”と呼べるだろう。細田監督の「時をかける少女」は大林版のリメイクではなく、なんと続編として仕上がっている。細田監督は金沢美術工芸大学在学中に「
「So long ! 」はいきなりA MOVIEの文字から始まる。これは「HOUSE ハウス」から「日本殉情伝 おかしなふたり」まで大林映画の慣例だったが、「異人たちとの夏」(1988)以降封印され、「転校生 さよならあなた」(2007)から復活したもの。”これが映画だ!”という宣言である。続いて大林監督のナレーションが被る。アヴァンギャルドな個人映画仕様。そしてなんと本作は「この空の花 -長岡花火物語」の続編として仕上がっていたのだからぶっ飛んだ!「この空の花」の映像が引用され、出演者も一部重複している。アイドル相手に、したたかにもこんな芸当を成し遂げてしまう大林監督にも驚かされたし、この異形の怪作にGoサインを出した秋元康プロデューサーの英断も凄い。試写で見せられた段階で「こんなふざけたもの創りやがって!」と激怒し、他の監督に撮り直しを命じるのが普通だろう(時間は十分あったし、秋元Pはそれだけの力を持っている)。果たしてこれはアイドルのMVと言えるのか!?AKBヲタの間で賛否両論渦巻き、喧々囂々、騒然となることは必定。いや、炎上マーケティングを得意とし、予定調和を嫌う秋元Pのことだから、それを見越した上で「面白そうだ」とニンマリしているのかも知れない。結局僕たちは彼の手のひらの上で踊らされているだけなのだ。
AKB48は東日本大震災直後から、被災地支援として毎月一回、メンバー数名を現地に派遣してミニ・コンサート活動を続けてきた(現在も継続中)。「So long ! 」の舞台となる福島県南相馬市にも彼女たちは既に訪れている。一方、大林監督は「この空の花」で新潟県長岡市を舞台とし、東日本大震災と福島原発事故を包括的に語った。「So long ! 」の物語は南相馬と長岡を結び、それと共にAKBと大林宣彦も合体した。正に監督が言うように「映画とは辻褄の合った夢」なのである。
「So long ! 」はいろいろな意味において異色作であり問題作だ。これを受けいられるのか、それとも拒否反応を示すか。貴方の場合はどっちだろう?
追伸:大林監督が「HOUSE ハウス」より前に企画し、温め続けているライフワークが福永武彦の小説「草の花」映画化である。このタイトルがまるで隠し言葉のように密やかに、「So long ! 」に仕組まれている。そこにもご注目下さい。
- 再びAKB48「So long !」MVについて/大林宣彦 擁護論
- AKB48、あるいは「劇場型アイドル」
- DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on
少女たちは傷つきながら夢を見る
(↑東日本大震災をテーマに据えた高橋栄樹監督作品)
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