オスカー・ナイト2013/アカデミー会員の行動心理を分析する
今年のアカデミー賞授賞式、僕の予想(こちら!)したうち、的中したのは作品・監督・主演女優・主演男優・助演女優・脚色・視覚効果・衣装デザイン・長編ドキュメンタリー・編集・外国語映画・音響編集・録音・歌曲・作曲・短編アニメーション・短編実写の計17部門であった。過去4年間の実績としては平均18部門となった。
予想(こちら!)にも書いたが、監督賞にノミネートされなかった映画が作品賞を受賞するのは「ドライビング Mss デイジー」以来、実に23年ぶりの珍事である。今回の流れは全て、ベン・アフレックがノミネートを逃した瞬間から動き出した。まず俳優仲間が怒った。「どうしてベンが入っていないんだ!」彼らにとって監督に進出し、アカデミー賞にノミネートされるというのは甘美な夢であり、それが踏みにじられたということは許しがたい行為であった。地獄のどん底から這い上がって来たベンを応援したいという気持ちもあった。俳優組合の票が一気に「アルゴ」に集中した。さらにベンアフを気の毒に想う感情の波はプロデューサー組合、監督組合にも広がっていった。こうして大勢は決まった。
ちなみに投票資格を有するアカデミー会員は総数5,784 。その内訳は〈俳優1,172、製作者450、会社重役443、音響401、脚本376、監督369、PR368、美術367、短編&アニメ349、視覚効果294、音楽232、編集 224、撮影206、ドキュメンタリー166、ヘア&メイク121、他246〉となっている。
つまり「アルゴ」の作品賞受賞を決定付けたのは同情票である。もしベンアフがちゃんと監督賞にノミネートされていれば、多分違う結果になっただろう。
似たような事例が「バタフィールド8」(1960)で主演女優賞を受賞したエリザベス・テイラーにも起こった。大した映画ではなかったが、授賞式の直前にリズは肺炎で生死の境を彷徨った。その為に同情票が集まったのである。彼女自身この映画が大嫌いで、完成後一度も観ていないという。その年に「アパートの鍵貸します」で候補になり、受賞を逃したシャーリー・マックレーンは皮肉を込めて「わたしも死にかけたら良かったわ!」と言ったのは有名なエピソード。歴史は繰り返される。過去から学ぶ姿勢は大切である。
またレビューにも書いたが、「アルゴ」の裏テーマは《ハリウッド万歳!》。元々アカデミー賞向きの作品だったのだ。
という訳で今年「アルゴ」が作品賞を受賞するのは必然、自明のことであった。もし予想を外した人がいるならば、「センスが欠けているじゃないの?」と言わせてもらおう。
さて、巷で監督賞の大方の予想は「リンカーン」のスピルバーグであった。しかし僕はそれはないだろうと踏んでいた。そもそもアカデミー会員はスピルバーグに対して良い感情を持っていない。成功して大金持ちになった彼へのやっかみ・嫉妬の気持ちもあるだろう。
彼の最高傑作「E.T.」が公開された年、アカデミー会員が作品賞と監督賞に選んだのは、リチャード・アッテンボローの頭でっかちな凡作「ガンジー」だった。これは歴史に残るミス・ジャッジとして悪名高い。またスピルバーグが「カラー・パープル」を撮った年、アカデミー賞では10部門11人(助演女優賞で重複)が候補となったが、監督賞はノミネートされなかった。そしてなんと受賞は0!これはスピルバーグが賞狙いに走ったことに対する会員の拒絶反応、バッシングが原因だった。
だから今回アカデミー会員になったつもりで、その行動心理を推測した。僕だったらこう考えるだろう。「スピルバーグは既に過去2度監督賞を受賞しているんだから、もういいんじゃない?」「監督賞を3度も受賞するほどの器なの??」「もうお金も、名誉も十分得ているのに、まだ欲しいか?貪欲な奴め。えげつない」だから彼には投票しない。「ライフ・オブ・パイ」を観て、その深遠な世界観、宗教映画的格調の高さからアン・リーこそ相応しいと考えた。
授賞式の感想に移ろう。今年のベスト・ドレッサー賞はアン・ハサウェイ!洗練されたドレスで素敵だった。本当に君は輝いていたよ、アン。
全篇ミュージカル仕立てで、音楽に満ちた授賞式で愉しかった。最後に司会のセス・マクファーレンとクリスティン・チェノウェスが歌った"Here's to the Losers"(負け組に乾杯!)には大爆笑。キャサリン・セダ=ジョーンズ/「シカゴ」の"All That Jazz"は明らかに口パクだったけれど、ジェニファー・ハドソン/「ドリームガールズ」は相変わらずパンチの効いた熱唱で圧巻だったし、「レ・ミゼラブル」チームの"One Day More"も素晴らしかった(些かラッセル・クロウがズレていた??)。
シャーリー・バッシーが登場し「007 ゴールドフィンガー」を歌ったのはびっくりした!声の衰えは隠しおおせなかったけれど、調べてみると彼女は76歳なんだね。In Memoriam(追悼)コーナーで昨年亡くなった作曲家マーヴィン・ハムリッシュの遺影とともにバーブラ・ストライザンドの歌声「追憶(The Way We Were)」が聴こえてくる演出も粋だったなぁ。
主演女優賞で名前を呼ばれたジェニファー・ローレンスが壇上に上がろうとして階段で転けて、間髪をいれずヒュー・ジャックマンがエスコートしようと駆けつけた場面はさすがだった。ヒュー、どこまでいい奴なんだ!!
それからテッドが登場し、「授賞式後の乱交パーティーはどこなの?」と言ったのに対し、マーク・ウォルバーグが「ジャック・ニコルソンの家だよ」と答えていたが、後で考えてみるとロマン・ポランスキー監督が少女(当時13歳)に淫行した事件現場ってニコルソン邸だったよね(1977年)。際どいジョークだなぁ。ちなみにポランスキーは逮捕され、保釈中に映画撮影と偽ってヨーロッパに逃亡。翌年フランスでナスターシャ・キンスキー主演の「テス」を撮った(ナスターシャとも性的関係があったと言われている)。以後一度もアメリカに入国していない。
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