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2012年12月22日 (土)

これはミュージカル映画の革命だ!/「レ・ミゼラブル」の画期的撮影法について語ろう。

評価:A+

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ミュージカル映画は撮影前に歌を録音し、役者はそれに合わせて口パクで演技するのが従来の撮影方法であった。 しかし本作においてトム・フーパー監督(「英国王のスピーチ」でアカデミー作品賞・監督賞を受賞)は画期的方法を考案した。Singing Liveである。 撮影現場に伴奏用電子ピアノを配し、役者は特別なイヤホンを耳の中に入れ、そこから流れるピアノの音に合わせて自由に感情を込めて歌い、同時録音する。オーケストラは後にそれにシンクロさせて演奏する。舞台で「歌い上げる」感じではなく、登場人物たちは旋律に乗せ、静かに、呟くようにその想いを吐露するのだ。リハーサル期間は8−9週間に及んだという。

アン・ハサウェイの母親は舞台女優であり、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のフィラデルフィア公演に出演していたという。当初はコゼットの母・ファンテーヌを工場から追い出す女工役でファンテーヌのアンダースタディ(代役)も兼務していたが、やがてその実力が認められ本役に抜擢された。アンが7歳の時だった。つまり彼女はかつて母が演じた役を映画のオーディションで勝ち取ったのだ。これに賭ける想いは計り知れないものがある。正に絶唱、鬼気迫る入魂の演技であった。ファンテーヌが「落ちていく」過程が生々しく描かれており、びっくりした。アカデミー助演女優賞受賞は確実だろう。

ヒュー・ジャックマンは元々母国オーストラリアで「美女と野獣」のガストンや「サンセット大通り」のジョー・ギリス役などミュージカル出演経験が豊富な役者である。ロイド=ウェバーは「オペラ座の怪人」映画化にあたりタイトルロールに彼を熱望したが、丁度ブロードウェイでミュージカル「ボーイ・フロム・オズ」出演中で叶わなかった。ちなみにヒューはこの作品でトニー賞の最優秀ミュージカル男優賞を受賞した。またアカデミー賞授賞式やトニー賞授賞式で司会をした時もその美声を披露している。「レ・ミゼ」冒頭部分でゲッソリ痩せている彼の姿に並々ならぬ意気込みを感じた。アカデミー主演男優賞にノミネートされることを期待したい。

サマンサ・バークス演じるエポニーヌは「25周年記念コンサート」でも観たが全然好きになれなかった。ところがどうしたことだろう!映画の彼女は文句なしに素晴らしかった。なんという切なさ!しっとりした歌い方も舞台とは全然違う。トム・フーパー監督の演出力に舌を巻いた。

アマンダ・セイフライドは最初、なんとエポニーヌ役でオーディションを受けたそうだ。実は彼女、15歳の時アマチュアによる(恐らくハイ・スクールでの)上演で「レ・ミゼラブル」のコゼットを演じたことがあるという。コゼットはこの悲惨な物語の中で唯一の「希望の光」である。彼女は多くの人々から一身に愛を受ける。アマンダはまるで天使のようだった。ミュージカル映画「マンマ・ミーア!」で観た彼女より、魅力が2倍増しになっている。

映画のための新曲"Suddenly"はリトル・コゼットと出会った喜びをバルジャンが歌う。コゼットはこの作品において象徴的存在だからこの追加はとても自然で説得力がある。アカデミー歌曲賞は有力であろう。また、リトル・コゼット役のイザベル・アレンちゃんがむっちゃ可愛い!

マリウスのエディ・レッドメインもはまり役。優男で、なんとなく頼りない感じがピッタリ。

テナルディエのサシャ・バロン・コーエンとその夫人役ヘレナ・ボナム=カーターも適材適所。ガブローシュを演じた少年もすごく良かったな。この映画のキャスティングはパーフェクトである。

ジャベール警部役のラッセル・クロウは歌が上手くないと批判されているが、僕はあまり気にならなかった。ビジュアル的に堂々として格好いいし、悪くなかったと想う。

ミュージカル・ナンバーの順序を入れ替えたり、映画的創意工夫は多々あるが、アンジョルラスの死に様など舞台版への敬意も十分感じられた。司祭役にオリジナル・プロダクションでジャン・バルジャンを演じたコルム・ウィルキンソンを配し、最後バルジャンが天に召される場面で再び登場させるなんて憎いね!ファンの心を掴んで離さない。バリケードが築かれていく過程を見せる演出が興味深かったし、壮観なラストにも圧倒された。貴方がミュージカル・ファンなら必見である。

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