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2012年12月

2012年12月31日 (月)

2012年映画ベスト30+α

今年映画館で初公開された映画の中から、良かったものを選出した。基本的に各タイトルからレビューにリンクを張っているが、一部公開時に観ることが出来ず、後日ブルーレイで鑑賞し書けていないものもある。

  1. DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら夢を見る(日)
  2. この空の花 -長岡花火物語(日) 
  3. 別離(イラン)
  4. 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 始まりの物語/永遠の物語(日) 
  5. レ・ミゼラブル(英)
  6. 希望の国(日)
  7. 007 スカイフォール(英)
  8. 桐島、部活やめるってよ(日) 
  9. 鍵泥棒のメソッド(日)
  10. フランケンウィニー(米) 
  11. ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(米)
  12. ドラゴン・タトゥーの女(米)
  13. ヒューゴの不思議な発明(米)
  14. ダークナイト ライジング(米)
  15. 最強のふたり(仏)
  16. ミッドナイト・イン・パリ(米)
  17. プロメテウス(米)
  18. ドライヴ(米)
  19. アルゴ(米)
  20. おおかみこどもの雨と雪(日)
  21. 人生はビギナーズ(米)
  22. わが母の記 (日)
  23. 裏切りのサーカス(英仏)
  24. 夢売るふたり(日) 
  25. 苦役列車(日)
  26. 悪の教典(日)
  27. アメイジング・スパイダーマン(米)
  28. ランゴ(米)
  29. ファミリー・ツリー(米)
  30. アーティスト(仏)
  31. ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜(米)
  32. 戦火の馬(米)

上位10作品のうち6作が日本映画というのが象徴的。また「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら夢を見る」「この空の花 -長岡花火物語」「希望の国」と3・11,福島原発事故を扱った映画が気を吐いた。アカデミー作品賞・監督賞を受賞した「アーティスト」はイマイチだった。

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2012年12月26日 (水)

白黒3Dアニメーション「フランケンウィニー」

評価:A

Frankenweenie

映画公式サイトはこちら

「フランケンウィニー」は元々、1984年にティム・バートンが監督した30分の短編で、実写映画だった。これは長らくお蔵入りとなり、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」DVDの特典映像として初めて収録された。今回それが長編ストップモーション・アニメーションとしてリメイクされた。

ティム・バートン作品全てを貫くテーマは「異形(Freak)への愛」だ。本作ではそれが最も純粋で、私的な形で結晶化している。彼の最高傑作と言っても過言ではない。

全篇、過去のホラー映画へのオマージュで溢れている。

タイトルから分かる通り、映画「フランケンシュタイン」(1931)をベースにしていることは勿論だが、例えばスパーキーの恋人犬をご覧あれ。

Frankenweenie2_4

彼女は映画「フランケンシュタインの花嫁」(1935)のパロディになっている。

Elsa

また理科のジクルスキ先生は、

Frankenweenie3_7

明らかにゴシック・ホラーの名優ヴィンセント・プライス(「恐怖の振り子」、「アッシャー家の惨劇」、「赤死病の仮面」などエドガー・アラン・ポー・シリーズに主演)をカリカチュアライズ(戯画化)したもの。

Vincent Vin_2

彼はマイケル・ジャクソン「スリラー」MVのナレーションでも有名だが、ティム・バートンが私淑しており、1982年の初監督作品「ヴィンセント」(6分の短編アニメーション)はそのものズバリ、ヴィンセント・プライスへの熱烈なラヴ・レターである(プライス本人がナレーションを担当)。また遺作はティム・バートンの「シザーハンズ」である(マッドサイエンティスト役)。この時ヒロインを演じたウィノナ・ライダーはこの度「フランケンウィニー」で声優を務めている。

級友エドガーの名前は当然、エドガー・アラン・ポー由来だが、

Frankenweenie4

その造形は「ノートルダムのせむし男」を彷彿とさせるといった具合。

同じく級友にトシアキという日本人の少年がいるのだが、何故日本人?と疑問に感じていたら、後半その必然性が明らかとなる(ネタバレなのでここでは説明しない)。グレムリンやミイラ男、ドラキュラのパロディもあるし、若き日のクリストファー・リーまで登場!

舞台となるのはアメリカ郊外の町ニュー・オランダ。これも何故オランダ?と思っていたらクライマックスに風車小屋が登場したので納得した。フランケンシュタインだから風車小屋は絶対必要だもんね。でもアメリカだから基本的に風車小屋はない。だから……。

Frankenweenieとは「フランケンおたく」という意味。ティム・バートンの自画像(自伝)でもあるわけだ。

「キモカワイイ」キャラクターが次から次に登場して飽きさせない。ホラー映画を愛する全ての人にお勧めしたい。

来年のアカデミー賞、長編アニメーション部門は是非本作が受賞して欲しい!だって今回逃したら、ティム・バートンがオスカーを手に入れるチャンスは恐らく二度とないだろうから。

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2012年12月22日 (土)

これはミュージカル映画の革命だ!/「レ・ミゼラブル」の画期的撮影法について語ろう。

評価:A+

Les

下の記事も併せてお読み下さい。

ミュージカル映画は撮影前に歌を録音し、役者はそれに合わせて口パクで演技するのが従来の撮影方法であった。 しかし本作においてトム・フーパー監督(「英国王のスピーチ」でアカデミー作品賞・監督賞を受賞)は画期的方法を考案した。Singing Liveである。 撮影現場に伴奏用電子ピアノを配し、役者は特別なイヤホンを耳の中に入れ、そこから流れるピアノの音に合わせて自由に感情を込めて歌い、同時録音する。オーケストラは後にそれにシンクロさせて演奏する。舞台で「歌い上げる」感じではなく、登場人物たちは旋律に乗せ、静かに、呟くようにその想いを吐露するのだ。リハーサル期間は8−9週間に及んだという。

アン・ハサウェイの母親は舞台女優であり、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のフィラデルフィア公演に出演していたという。当初はコゼットの母・ファンテーヌを工場から追い出す女工役でファンテーヌのアンダースタディ(代役)も兼務していたが、やがてその実力が認められ本役に抜擢された。アンが7歳の時だった。つまり彼女はかつて母が演じた役を映画のオーディションで勝ち取ったのだ。これに賭ける想いは計り知れないものがある。正に絶唱、鬼気迫る入魂の演技であった。ファンテーヌが「落ちていく」過程が生々しく描かれており、びっくりした。アカデミー助演女優賞受賞は確実だろう。

ヒュー・ジャックマンは元々母国オーストラリアで「美女と野獣」のガストンや「サンセット大通り」のジョー・ギリス役などミュージカル出演経験が豊富な役者である。ロイド=ウェバーは「オペラ座の怪人」映画化にあたりタイトルロールに彼を熱望したが、丁度ブロードウェイでミュージカル「ボーイ・フロム・オズ」出演中で叶わなかった。ちなみにヒューはこの作品でトニー賞の最優秀ミュージカル男優賞を受賞した。またアカデミー賞授賞式やトニー賞授賞式で司会をした時もその美声を披露している。「レ・ミゼ」冒頭部分でゲッソリ痩せている彼の姿に並々ならぬ意気込みを感じた。アカデミー主演男優賞にノミネートされることを期待したい。

サマンサ・バークス演じるエポニーヌは「25周年記念コンサート」でも観たが全然好きになれなかった。ところがどうしたことだろう!映画の彼女は文句なしに素晴らしかった。なんという切なさ!しっとりした歌い方も舞台とは全然違う。トム・フーパー監督の演出力に舌を巻いた。

アマンダ・セイフライドは最初、なんとエポニーヌ役でオーディションを受けたそうだ。実は彼女、15歳の時アマチュアによる(恐らくハイ・スクールでの)上演で「レ・ミゼラブル」のコゼットを演じたことがあるという。コゼットはこの悲惨な物語の中で唯一の「希望の光」である。彼女は多くの人々から一身に愛を受ける。アマンダはまるで天使のようだった。ミュージカル映画「マンマ・ミーア!」で観た彼女より、魅力が2倍増しになっている。

映画のための新曲"Suddenly"はリトル・コゼットと出会った喜びをバルジャンが歌う。コゼットはこの作品において象徴的存在だからこの追加はとても自然で説得力がある。アカデミー歌曲賞は有力であろう。また、リトル・コゼット役のイザベル・アレンちゃんがむっちゃ可愛い!

マリウスのエディ・レッドメインもはまり役。優男で、なんとなく頼りない感じがピッタリ。

テナルディエのサシャ・バロン・コーエンとその夫人役ヘレナ・ボナム=カーターも適材適所。ガブローシュを演じた少年もすごく良かったな。この映画のキャスティングはパーフェクトである。

ジャベール警部役のラッセル・クロウは歌が上手くないと批判されているが、僕はあまり気にならなかった。ビジュアル的に堂々として格好いいし、悪くなかったと想う。

ミュージカル・ナンバーの順序を入れ替えたり、映画的創意工夫は多々あるが、アンジョルラスの死に様など舞台版への敬意も十分感じられた。司祭役にオリジナル・プロダクションでジャン・バルジャンを演じたコルム・ウィルキンソンを配し、最後バルジャンが天に召される場面で再び登場させるなんて憎いね!ファンの心を掴んで離さない。バリケードが築かれていく過程を見せる演出が興味深かったし、壮観なラストにも圧倒された。貴方がミュージカル・ファンなら必見である。

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2012年12月21日 (金)

芸術的才能は遺伝するか?~バッハ家、服部家、宮川家、そしてミュージカル「レ・ミゼラブル」の場合

果たして音楽の才能は遺伝するのか?という命題に対して、J.S.バッハの家系が具体例として取り上げられることが多い。

大バッハの次男カール・フィリップ・エマヌエル(C.P.E.)はハイドンやベートーヴェンに多大な影響を与え、末子クリスティアンは「ロンドンのバッハ」として知られ、モーツァルトの初期作品はクリスティアンと瓜二つである。また長男ヴィルヘルム・フリーデマンや五男ヨハン・クリストフ・フリードリヒも作曲家。約2世紀半の間にバッハ家が輩出した音楽家は60人に及ぶという。

日本に目を向けてみよう。「蘇州夜曲」「東京ブギウギ」「青い山脈」などの作曲で有名な服部良一(1907-1993)は土人形師の息子として大阪・玉造に生まれた。朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団のために「大阪カンタータ」を書き、「青い山脈」の旋律は六甲山を眺めている時に浮かんだそうだ。その息子・服部克久(1936-)は「音楽畑」シリーズで有名であり、アレンジャーとしても活躍している。さらに孫の服部隆之(1965-)はドラマ「王様のレストラン」「新選組!」、ミュージカル「オケピ!」などの音楽を担当し、三谷幸喜とのコラボレーションで名高い。

また「恋のバカンス」「宇宙戦艦ヤマト」「ゲバゲバ90分!」で知られる宮川泰の息子、宮川彬良はNHK教育テレビ「クインテット」のアレンジなどで大活躍しており、作曲家としても「マツケンサンバII」が大ヒットした。僕は新作のバレエ音楽「欲望という名の電車」がすごく好きだ。

最後に現在映画が公開中で、俄然盛り上がっているミュージカル「レ・ミゼラブル」を取り上げよう。これやミュージカル「ミス・サイゴン」を作曲したのがクロード=ミッシェル・シェーンベルク(1944-、フランス)である。まずは写真をご覧あれ。

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彼の祖父の兄がアルノルト・シェーンベルク(1874-1951、オーストリア・ウィーン生まれ)。12音技法を創始し、無調音楽への道を切り開いた作曲家であり、「浄められた夜」(弦楽合奏版・弦楽六重奏版あり)や「グレの歌」が有名。

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写真を見比べてびっくり。DNAの威力はすごいでしょう?そして豊かな音楽的才能も確実に遺伝していたのである。

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2012年12月15日 (土)

ザ・チーフタンズ 結成50周年記念コンサート

ザ・チーフタンズのことを初めて知ったのは映画「遥かなる大地へ」(1992)公開時である。今から丁度20年前だ。当時、夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマン共演で、アイルランドの小作人(クルーズ)と地主の娘(キッドマン)がアメリカ大陸に渡る物語だった。サントラはジョン・ウィリアムズが作曲したオーケストラ曲に、ザ・チーフタンズが絡むという構成だった。ちなみに主題歌はアイルランド出身の歌手エンヤが担当した。

ザ・チーフタンズは1962年に結成(今年50年)。アイルランドの伝統音楽に現代的アレンジを施し、あらゆるジャンルの共演者を迎えその融合を図った。グラミー賞を7回受賞。スタンリー・キューブリック監督の映画「バリー・リンドン」(1975)の音楽を担当し、「愛のテーマ(アイルランドの女)」で世界的名声を博す。

12/2(日)兵庫県立芸術文化センターへ。

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チーフタンズで使用している民族楽器はアイルランドのバグパイプ=イーリアンパイプや山羊皮を張った片面太鼓=ボーラン。 またイーリアンパイプを担当するパディ・モローニはホイッスル(ソプラニーノ・リコーダーに似た縦笛)も兼任。

メンバーはアイルランドのダブリン出身者が多いが、ヴォーカルのアリス・マコーマックはスコットランド北西部の海岸沖にあるルイス島の出身。フィドル(ヴァイオリン)兼ステップ・ダンスを踊るジョン・ピラツキ&ダンス専門のネイサン・ピラツキ兄弟はカナダ出身。彼らはカナダで生まれたオタワ・ヴァレー・ステップダンスアイリッシュ・ダンスを融合させたダイナミックな踊りで観衆を魅了した。またキャラ・バトラーによるアイリッシュ・ダンスもあり。彼女の姉ジーン・バトラーは「リバーダンス」の初代プリンシパルである。

民族舞曲あり、歌あり、ダンスあり。アイルランド民謡からスコットランド、イングランドの曲ありと盛り沢山。実に愉しい!彼らの演奏を聴きながら、曲調がアメリカのカントリーミュージックに近いなと感じた。そこではたと気がついた。

ジェームズ・キャメロン監督の大作「タイタニック」(1997)は1912年イギリスのサウサンプトン港を出発し、ニューヨークに向かう途中で事故に遭う。映画の中でレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが船底に近い3等客室でダンスを踊る場面がある。ここで流れる音楽がアイリッシュ・ミュージックなのだ。つまりこのようにしてアメリカ大陸に伝播したというわけ。音楽は国境を超え、繋がっている。ちなみにキャメロンは当初エンヤに音楽を依頼したが、経験がないからと断られている。代わりに登板したジェームズ・ホーナーはキャメロンにこう言った。「要するにエンヤに似た曲を書けばいいんだろう?お安いご用さ」こうして彼はアカデミー歌曲賞および作曲賞を受賞した。

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なお来日コンサートの模様は2013年2月にWOWOWで放送される予定。

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2012年12月11日 (火)

フルシャ/大フィルのバルトーク、チャイコフスキー、ボロディン

12月10日(月)ザ・シンフォニーホールへ。

ヤクブ・フルシャ/大阪フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会第1日目。

  • バルトーク/組曲「中国の不思議な役人」
  • チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
  • ボロディン/交響曲 第2番

フルシャは1981年チェコ生まれ。31歳という若さだが、彼を聴くのは3回目となる。

バルトークは遅いテンポで開始。アクセントを強調し、弦の強奏が強烈。前回も書いたがこの指揮者はリズム感が素晴らしい。最後は爆発的にエネルギーが噴出。バーバリズムの宴を堪能した。

余談だがWikipediaによると、タイトルの"Mandarin"が宦官を指すのか、否かは未だに議論されている模様。僕は去勢派を支持する。だって、そうじゃなければ「中国人」である必然性がないように想う。宦官なら、より物語の切実さが増すでしょ?

さて、ヴァイオリン独奏のクリストフ・バラーティは以前も聴いたことがあるが、未だ感心したことはない。

チャイコフスキーのソロは伸びやかで涼しげに弾くが、この人は良くも悪くも「軽く」て「薄い」。つまり「淡白」なのだ。やっぱり好きになれないなぁ。

一方、フルシャ/大フィルの機動力はお見事!リズムが明確でイントネーションがはっきりしている。この作品から民族舞曲としての性格を聴き取れたのは今回が初めて。ソロは×で伴奏は◎だった。

バラーティのアンコールは、

  • J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番よりアダージョ

ヴィブラート過剰で下品。華美に過ぎる。論外だ。

プログラム後半のボロディンは重々しい弦のユニゾンで開始される。一方、木管は軽やかでその対比が鮮明だった。第2楽章はホルンの高速ダブルタンギングが均一に響かず、汚かったのが残念。プロなら「吹けて当たり前」では?しかし、それ以外は文句なし。特に民族舞踏に彩られた終楽章は動的で生命力に溢れ、血潮が沸騰するような演奏だった。

またボロディンではフルシャがポケットスコアを見ながら指揮していたのが印象的だった。

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2012年12月10日 (月)

シリーズ最高傑作!「007 スカイフォール」

007シリーズ第1作「ドクター・ノオ」が公開されたのが1962年。そう、今年は50周年なのだ。

シリーズで一番好きなのは?と問われたら僕は常に「ロシアより愛をこめて」(1963)と答えてきた。またファンの間では「カジノ・ロワイヤル」(2006)を推す声も高い。

しかし23作目「007 スカイフォール」を観て考えを改めた。これこそ紛れもないシリーズ最高傑作である。

評価:A

Skyfall

メガホンを取ったサム・メンデスは1965年イギリス生まれ。演劇畑でキャリアをスタートさせ、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの演出家を経てロンドンのドンマー・ウエアハウスの芸術監督を勤めた。そのドンマーで演出したミュージカル「キャバレー」が大評判となり、ブロードウェイに渡った。ここでロブ・マーシャル(後に映画「シカゴ」でアカデミー作品賞受賞)が共同演出・振付として加わり、1998年のトニー賞で最優秀リヴァイヴァル作品賞、主演男優賞(アラン・カミング)など4部門を受賞した(この年、最優秀ミュージカル作品賞、演出賞を受賞したのは「ライオンキング」だった)。

この「キャバレー」に目を留めたのがスティーブン・スピルバーグである。彼は「アメリカン・ビューティ」の監督にサム・メンデスを抜擢、初監督作品で1999年のアカデミー作品賞・監督賞に輝いた。

メンデスは2003年ケイト・ウンスレットと西インド諸島で結婚、男の子をもうけた。2008年にケイトとレオナルド・ディカプリオ主演の映画「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」を撮ったが、2010年に離婚した。

「スカイフォール」は極めて役者たちが充実している。特に舞台俳優の活躍が目立つ。

例えばメンデスは"M"を演じるジュディ・デンチと舞台"The Cherry Orchard","The Sea"や"The Plough and the Stars"で一緒に仕事をしているし、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでレイフ・ファインズ(←シリーズ初登場)主演の「トロイラスとクレシダ」「リチヤード3世」などを演出している。デンチは「恋に落ちたシェイクスピア」でエリザベス1世を演じアカデミー助演女優賞を受賞し、ファンズは「シンドラーのリスト」でアカデミー助演男優賞、「イングリッシュ・ペイシェント」で主演男優賞にノミネートされている。

敵役のハビエル・バルデムは「ノーカントリー」でアカデミー助演男優賞を受賞。今回は明らかにゲイを演じており、queer(本来は「風変わりな」「奇妙な」という意味で、現在はゲイ、バイセクシャルなどセクシャル・マイノリティを指す言葉)な雰囲気を巧みに醸し出している。メンデスは彼をあたかもミュージカル「キャバレー」における"MC"のように演出する。

また後半に登場するアルバート・フィニーはこれまで5度アカデミー賞にノミネートされている名優である。

スタッフも錚々たる面々が名を連ねる。撮影監督のロジャー・ディーキンスはこれまで9回アカデミー賞にノミネートされており、今回も卓越した仕事を成し遂げている。作曲のトーマス・ニューマンは「アメリカン・ビューティ」からメンデスとコンビを組み、アカデミー賞には10回ノミネートされている。

脚本家チームに「グラディエーター」「ラストサムライ」「ヒューゴの不思議な発明」のジョン・ローガンが参加したことも大きい。

オープニングのスピード感から瞠目させられた。カー・チェイスで始まりそれがバイク・チェイスに移行、さらに畳み掛けるように列車の上での格闘に。手に汗握る展開とは正にこのこと。シャープで洗練された映像、鮮やかな編集。凄い!アデルが歌う主題歌もクールでいいね!ジョン・バリーが作曲した「ゴールドフィンガー」や「ロシアより愛をこめて」に匹敵するレベルだ。

今回は「母性としての"M"」に焦点が当てられる。ハビエル・バルデムは"M"を母親のように慕っていたが裏切られ、それが憎悪に変わり復讐の鬼と化す。つまりこれはマザー・コンプレックスの物語なのだ。アカデミー外国語映画賞を受賞したペドロ・アルモドバル監督・脚本のスペイン映画「オール・アバウト・マイ・マザー」のことを想起した(アルモドバルは同性愛者である)。

また映画の後半ではジェームズ・ボンドのルーツを辿る旅になるところもすこぶる面白い!

必見。

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2012年12月 9日 (日)

ロータス・カルテット&セバスティアン・マンツでブラームス三昧

12/6(木)いずみホールへ。

ロータス・カルテットセバスティアン・マンツで、オール・ブラームス・プログラム。

  • 弦楽四重奏曲 第1番 op.51-1
  • 弦楽四重奏曲 第2番 op.51-2
  • クラリネット五重奏曲 op.115

弦楽四重奏曲は交響曲第1番より前、初期の作品。一方、クラリネット五重奏曲は交響曲第4番以後の晩年の作品なので作風が異なる。この相違については下記記事で詳しく解析した。

上に書いた通り、クラリネット五重奏曲を支配する気分は秋の憂愁諦念なのだが、それは例えばチャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」を貫く絶望虚無感とは異なる。むしろ晩年のブラームスは自分の宿命を受け入れ、穏やかさ、安息感がある。抹茶のようにほろ苦く、味わい深い名曲だ。

ロータス・カルテットは結成20年。第2ヴァイオリン奏者のマティアス・ノインドルフ(元シュトゥットガルト弦楽四重奏団第1ヴァイオリン奏者)以外の3人は日本人女性である。アンサンブルは緻密で水も漏らさぬ印象。先日同ホールで聴いたウィーン弦楽四重奏団の年齢から来る「綻び」とは対照的。雨にそぼ濡れたような、しっとりした音色に魅了された。ただチェロが弱いのが些か気になった。歌心はあるのだが、もっと ー例えばジャクリーヌ・デュ・プレのようなー 激しさとか、力強さが欲しいなと想った。

マンツは”滅多に1位を出さない”ことで有名なミュンヘン国際音楽コンクール・クラリネット部門で40年ぶりとなる第1位に輝いたそうである。←40年ぶりって!?

柔らかく、繊細な音色。抜いた弱音の美しさが際立ち、ゾクゾクした。この人はとにかく、ブレス・コントロールが絶妙である(フルートで言えばエマニュエル・パユがそうだ)。北風に枯れ葉が舞う情景が目に浮かぶようだった。

アンコールは

  • モーツァルト/クラリネット五重奏曲 第2楽章

19時開演で終わってみると21時35分。たっぷりブラームスの世界に浸った。

なおカメラが4台入っており、当日の模様は2/12(火)NHK-BS クラシック倶楽部で放送される予定である。

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2012年12月 7日 (金)

大フィル/吹奏楽 meets オーケストラ(丸谷×下野×須川)

11月30日(金)ザ・シンフォニーホールへ。

Sui

下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団のスペシャルライブ。司会進行は大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部顧問の丸谷明夫先生(以下「丸ちゃん」と呼ぶ)。この企画は5回目で、僕は皆勤。今年のゲストはサクソフォン奏者で元・東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターの須川展也さん。

Sui

  • R.ジェイガー(中原達彦 編)/シンフォニア・ノビリッシマ【管弦楽版】
  • ヴェルディ/歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲
  • イベール/アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲
  • ドビュッシー(デュカ 編)/サクソフォンのためのラプソディ
  • J.S.バッハ(A.リード 編)/主よ人の望みの喜びよ【管弦楽版】
  • プッチーニ/菊【弦楽合奏版】
  • レスピーギ/交響詩「ローマの松」
  • スーザ/海を超える握手(アンコール)

元々この企画を始めた時には、吹奏楽ファンとクラシック・ファンの垣根をとり払うという意図だったが、現在ではむしろ好きな曲をやるという方向性に変わってきた、と下野さん。

シンフォニア・ノビリッシマ」は僕自身演奏したことのある、お気に入りの曲。序奏はゆったり威風堂々とした佇まい。主部に入ると颯爽として速いテンポに。パワフルな演奏。そして美しい中間部。ここはオーボエのソロにヴィオラがトレモロでしっとり寄り添う。永遠へのあこがれ。弦のカンタービレにウットリ!

シチリア島の夕べの祈り」を下野さんが初めて聴いたのは30年前、丸谷/淀工の演奏がNHK-FMで放送された時だそう。そういう思い入れがある曲だという。ただ下野さんのイタリア・オペラはなんだかモッサリしていて鈍重。これはいただけない。適性の問題だろう。

2012年4月4日、丸ちゃんは「吹奏楽の甲子園」普門館で東京佼成ウインドオーケストラを指揮、「マルタニズム」というタイトルでCD,DVD,Blu-rayが発売となった。詳細は→こちら!僕もBlu-ray版を所有している。

Maru

実はこの時、既に須川さんは東京佼成を辞めていたが、「須川さんがコンマスを務めてくれるなら振る」という丸ちゃんの期待に応えたのだそう。

須川さんの音は柔らかく、繊細なヴィブラートが耳に心地よい。色気がある。イベールは機知に富む。月夜の山でハイウェイ・ドライブを愉しんでいるような雰囲気。終楽章は遊び心が満載で、おもちゃ箱をひっくり返したよう。

ドビュッシーは霧の湖に水鳥が憩っているような幻想的風景が浮かび上がる。ジャズ系のブイブイ吹き鳴らすサックスとは対照的な世界。ちなみにこの楽器は1840年代にフランスのお隣、ベルギーのアドルフ・サックスにより考案された。

「アルメニアン・ダンス」「エル・カミーノ・レアル」で有名な作曲家アルフレッド・リードは「主よ人の望みの喜びよ」の吹奏楽用編曲とともに管弦楽版も残した。僕は高校生の時、吹奏楽部のパート練習(フルート)でこの曲のアンサンブルをしたことがあり、その時の午後の教室、そよ風に揺れるカーテンの情景が蘇るような錯覚に囚われた。

プッチーニ」の原曲は弦楽四重奏曲だそう。甘美で、やはりイタリアの血だろうか、どこかニーノ・ロータの音楽に通じるものを感じた。

ローマの松」は引き締まったリズムでキビキビした解釈。

アンコールの「海を超える握手」は恒例となった丸ちゃんの指揮!「ローマの松」のバンダ(金管別働隊)と須川さんも加わったダイナミックな演奏だった。

来年のプログラムは既に発表されており、保科洋/風紋【管弦楽版】が楽しみだが、下野さん&丸ちゃん!僕はカレル・フサ/プラハ1968年のための音楽【管弦楽版】がどうしても聴きたいんです!再来年こそはどうかよろしくお願いします。

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2012年12月 3日 (月)

第25回全日本マーチングコンテスト(高校以上の部)2012 後編

これは第25回全日本マーチングコンテスト(高校以上の部)2012 前編と併せてお読み下さい。

Ma2

では関西以外の金賞団体について書いていこう。

東関東代表

習志野市立習志野高等学校 曲はミクロス・ローザ(ロージャ・ミクローシュ)/映画「ベン・ハー」。この名曲を吹奏楽で聴けるとは!習志野は昨年、ガッチャマンやヤマト、あしたのジョーなどを演奏し、おふざけ調だったせいか銀賞だったので、今年は極めておとなしく真面目なパフォーマンスだった。僕はどちらかと言うと昨年のはじけた感じの方が好きだけど。まぁエンターテイメント・ショウではなく、あくまで審査対象なのだから致し方ない。

柏市立柏高等学校 行進曲「サーカス・ビー」(フィルモア)~マードックからの最後の手紙(樽屋雅徳)。厚みのあるサウンド、鉄壁のアンサンブル。文句なし!ピカピカに磨き上げられたたシンバルで形作る花模様が美しい。その市柏の写真は→こちら

千葉県立松戸六実高等学校 ミッシェル・シェーンベルク/ミュージカル「ミス・サイゴン」より(J.ボクー、宍倉晃 編)。マーチング自体は可もなく不可もなくという感じだったが、サウンドは整っていた。それにしても「ミス・サイゴン」で行進するとは驚いた!未だに人気がある曲だね。一方、同じM. シェーンベルクの「レ・ミゼラブル」は滅多に吹奏楽で取り上げられることはなく、好対象となっている。

西関東代表

埼玉県立伊奈学園総合高等学校 アニヴァーサリー・ファンファーレ(森田一浩)~コンサートマーチ「セカンド・センチュリー」(A.リード)~マゼランの未知なる大陸への挑戦(樽屋雅徳)。柔らかく、優しい響き。隊形が整っていて綺麗。陣形で「錨」の模様が描かれたのが印象的だった。また12人のカラーガード隊が美しい。宇畑知樹先生自ら指揮をされた。

九州代表

熊本県立熊本工業高等学校 ニューヨーク(N.ヘス)~ラプソディ・イン・ブルー(ガーシュウィン)。人数がすごく多い。ステップが揃っており、キビキビした動きで小気味いい。そして粋なポーズが決まった!

精華女子高等学校 Tokyo Olympic March(古関裕而)~オリンピック・アンセム(鈴木英史)~オリンピック・フィナーレ(鈴木英史) 「ファイアー!」の掛け声とともに元気よく登場。輝かしいファンファーレ!足並みがピタっと揃い、フォーメーションの美と(先頭を歩く)ドラムメイジャーの華麗なバトンさばきに魅了された。最後はSEIKAと人文字を作り終了。ファンタスティック!Blavissima !(Bravissimoは男性名詞)やはり精華はマーチングの華(はな)だね。余談だが、古関裕而は阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」の作曲家である。

あと金賞以外で印象に残ったのは東京農業大学第二高等学校銀賞)。なんとカラーガード隊が30人もいた。マーチングワーグナー(福島弘和 編)という選曲も異色。エルザの大聖堂への行列(ローエングリン)、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲、「ローエングリン」第3幕への前奏曲、ワルキューレの騎行、そして「タンホイザー」序曲では歌(ハミング)も。ワーグナーでもマーチングが出来るんだね!

表彰式の前に恒例となった箕面自由学園高等学校チアリーダー部「GOLDEN BEARS」の演技あり。

昨年は納得出来ないジャッジがあったが、今年の金賞は取るべき団体に与えられ、概ね妥当な評価だった。特にパフォーマンスが傑出していたのは精華女子高等学校大阪桐蔭高等学校、そして市柏の3校(順不同)だった。

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2012年12月 1日 (土)

AKB48 大島優子が途中退出で場外乱闘勃発!~映画「悪の教典」

映画「悪の教典」はAKB48特別上映会があり、メンバーの大島優子が涙を浮かべ途中退場、「私はこの映画が嫌いです。命が簡単に奪われていくたびに涙が止まりませんでした。映画なんだからという方もいるかもしれませんが、私はダメでした。ごめんなさい」とコメントを発表した。

後に彼女はブログでも「ニュースにもなったりと、お騒がせしました」と触れ、「伊藤英明さん、三池監督、関係者のみなさんご心配かけました」「スクリーンの中に感情移入してしまい、取り乱してしまいました。ごめんなさい」と詫びた。しかし最後に「でも、私はあの映画が嫌いです。すいません」と釘を差すことも忘れなかった。

ちなみに英語教師“ハスミン”を演じる伊藤英明はAKB48のシングル「涙サプライズ!」MVに特別出演しており、そこでも英語教師を務めていた。勿論、優子も生徒役で共演している。

これは「やらせじゃないか?」「炎上マーケティング」とすら言われた。その批判を受け”優子推し”の漫画家小林よしのり氏が立ち上がり彼女を擁護(詳細は→こちら!)、事態は場外乱闘の様相を帯びる面白い展開となった。

多分、優子の反応はガチだったのだろうというのが僕の意見だ。ただ彼女のとった行動が話題となり、映画のヒットに拍車がかかったことも確かである。それは中学生が殺し合いをする「バトル・ロワイヤル」が国会で取り上げられる騒動となり、その話題性で興行成績が伸びたのと同じ現象である。東宝宣伝部と秋元康プロデューサーの狙い通り、事は進行したと見るべきではないだろうか?つまり優子は(ファンを意図的に)はめたのではなく、(老獪な大人たちに)はめられたのだろう。いずれにせよ彼女は「起爆装置」としての役割をきっちり果たし、その期待に応えた。

評価:B+

Evil

映画公式サイトはこちら

貴志祐介の原作小説は雑誌「このミステリーがすごい!2011」で1位になった時点で読んだ。第1回 山田風太郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった。

映画化と聞き、内容が余りにも衝撃的なので僕はR18+(18歳未満は観覧禁止)になるのではないかと危惧したが、よくぞR15+に抑えたものである。教師と生徒の性交シーンはカットされ、残酷描写も想像したより抑えられている。観終わった時の不快感、後味の悪さが意外とない。つまり露悪的じゃない。見事な手腕だ。あの長い原作を要領よくまとめている(脚色も三池崇史監督が兼務)。

またカラスの扱いなど三池監督の映像センスが光る。

伊藤英明がやたらと裸になる場面が多く、その鍛えられた肉体美をたっぷり拝めるので、ファンの人には堪らないだろう(僕にそんな趣味は一切ないが)。

数学の釣井先生を演じる吹越満は気色悪いし、美術の久米先生を演じる平岳大は役柄通りゲイっぽい。岩松了演じる校長も事なかれ主義という雰囲気が巧みに醸し出されており、脇の役者たちが充実している。

また原作でも重要な役割を果たすクルト・ヴァイル(ワイル)作曲「三文オペラ」から”モリタート”(マック・ザ・ナイフ)の使い方も上手かった。さすがミュージカル映画「愛と誠」も撮った経験のある三池監督である。

ただこの映画最大の弱点は、クライマックス「教師がクラスの生徒、皆殺し」の場面だろう。凶器が散弾銃だけなのでワン・パターンとなり、単調な絵が延々と続くのだ。次第に感覚が麻痺し、飽きてくる。しかしこれはそういう話なので、どんな監督が撮ろうと必定だったろう。

出来は決して悪くない。ただ大島優子のように生理的に受け入れられないという人は当然出てくるだろうし、あとは嗜好の問題である。全肯定する必要もなければ全否定する必要もない。そういうことだ。もし皆が同じ意見だったら、世の中詰まんないでしょ?

なお余談だが、英単語の"magnificent"(「素晴らしい」の最上級。excellentより上)がキリスト教聖歌"Magnificat"(マニフカト)に由来するというハスミンの授業は興味深かった。原作にあったっけ??

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