007シリーズ第1作「ドクター・ノオ」が公開されたのが1962年。そう、今年は50周年なのだ。
シリーズで一番好きなのは?と問われたら僕は常に「ロシアより愛をこめて」(1963)と答えてきた。またファンの間では「カジノ・ロワイヤル」(2006)を推す声も高い。
しかし23作目「007 スカイフォール」を観て考えを改めた。これこそ紛れもないシリーズ最高傑作である。
評価:A

メガホンを取ったサム・メンデスは1965年イギリス生まれ。演劇畑でキャリアをスタートさせ、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの演出家を経てロンドンのドンマー・ウエアハウスの芸術監督を勤めた。そのドンマーで演出したミュージカル「キャバレー」が大評判となり、ブロードウェイに渡った。ここでロブ・マーシャル(後に映画「シカゴ」でアカデミー作品賞受賞)が共同演出・振付として加わり、1998年のトニー賞で最優秀リヴァイヴァル作品賞、主演男優賞(アラン・カミング)など4部門を受賞した(この年、最優秀ミュージカル作品賞、演出賞を受賞したのは「ライオンキング」だった)。
この「キャバレー」に目を留めたのがスティーブン・スピルバーグである。彼は「アメリカン・ビューティ」の監督にサム・メンデスを抜擢、初監督作品で1999年のアカデミー作品賞・監督賞に輝いた。
メンデスは2003年ケイト・ウンスレットと西インド諸島で結婚、男の子をもうけた。2008年にケイトとレオナルド・ディカプリオ主演の映画「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」を撮ったが、2010年に離婚した。
「スカイフォール」は極めて役者たちが充実している。特に舞台俳優の活躍が目立つ。
例えばメンデスは"M"を演じるジュディ・デンチと舞台"The Cherry Orchard","The Sea"や"The Plough and the Stars"で一緒に仕事をしているし、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでレイフ・ファインズ(←シリーズ初登場)主演の「トロイラスとクレシダ」「リチヤード3世」などを演出している。デンチは「恋に落ちたシェイクスピア」でエリザベス1世を演じアカデミー助演女優賞を受賞し、ファンズは「シンドラーのリスト」でアカデミー助演男優賞、「イングリッシュ・ペイシェント」で主演男優賞にノミネートされている。
敵役のハビエル・バルデムは「ノーカントリー」でアカデミー助演男優賞を受賞。今回は明らかにゲイを演じており、queer(本来は「風変わりな」「奇妙な」という意味で、現在はゲイ、バイセクシャルなどセクシャル・マイノリティを指す言葉)な雰囲気を巧みに醸し出している。メンデスは彼をあたかもミュージカル「キャバレー」における"MC"のように演出する。
また後半に登場するアルバート・フィニーはこれまで5度アカデミー賞にノミネートされている名優である。
スタッフも錚々たる面々が名を連ねる。撮影監督のロジャー・ディーキンスはこれまで9回アカデミー賞にノミネートされており、今回も卓越した仕事を成し遂げている。作曲のトーマス・ニューマンは「アメリカン・ビューティ」からメンデスとコンビを組み、アカデミー賞には10回ノミネートされている。
脚本家チームに「グラディエーター」「ラストサムライ」「ヒューゴの不思議な発明」のジョン・ローガンが参加したことも大きい。
オープニングのスピード感から瞠目させられた。カー・チェイスで始まりそれがバイク・チェイスに移行、さらに畳み掛けるように列車の上での格闘に。手に汗握る展開とは正にこのこと。シャープで洗練された映像、鮮やかな編集。凄い!アデルが歌う主題歌もクールでいいね!ジョン・バリーが作曲した「ゴールドフィンガー」や「ロシアより愛をこめて」に匹敵するレベルだ。
今回は「母性としての"M"」に焦点が当てられる。ハビエル・バルデムは"M"を母親のように慕っていたが裏切られ、それが憎悪に変わり復讐の鬼と化す。つまりこれはマザー・コンプレックスの物語なのだ。アカデミー外国語映画賞を受賞したペドロ・アルモドバル監督・脚本のスペイン映画「オール・アバウト・マイ・マザー」のことを想起した(アルモドバルは同性愛者である)。
また映画の後半ではジェームズ・ボンドのルーツを辿る旅になるところもすこぶる面白い!
必見。
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