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2012年11月12日 (月)

補聴器のハウリングで場内騒然!ブロムシュテット/バンベルク交響楽団@兵庫芸文

11月11日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。

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ヘルベルト・ブロムシュテット/バンベルク交響楽団(ピアノ:ピョートル・アンデルシェフスキ)で、

  • モーツァルト/ピアノ協奏曲 第17番
  • ブルックナー/交響曲 第4番「ロマンティック」

B1

指揮者とソリストが登場したあたりから客席でピーという高音が流れ始めた。僕の経験上、補聴器のハウリングと思われる。しかし意に介する事なくタクトは振り下ろされた。演奏会において指揮者はMaster of Ceremonyであり、絶対的存在だ。彼が腕を降ろさない限り奏者も、聴衆も、ホール・スタッフもその演奏を止めることは出来ない。 耳障りな高音はモーツアルトの演奏中、そしてソリスト・アンコール(シューマン/幻想曲ハ長調 Op.17)の最後まで流れ続けた。

ブロムシュテットは御年85歳。ご高齢なので超高周波のハウリングが聞こえていなかったのかも知れない(高音域の感音性難聴)。読者の皆さんは若年者にしか聞こえないモスキート音をご存知だろうか?詳細は→こちら

演奏の方はアンデルシェフスキのタッチが柔らかく、繊細な弱音(pp)と優しい響きが魅力的だった。第3楽章は生き生きとして、水面を跳ねる魚を連想させた。

休憩時間になるとロビーは騒然とした雰囲気になった。ホール・スタッフに詰め寄る人々。後で聞くところによると、払い戻しを要求した人もいたという。「あの高音で頭が痛くなった……」と意気消沈して項垂れる男性の姿も。とにかく心から音楽を楽しめる状況では全くなかった。

後半冒頭にマイクを持ったゼネラル・マネージャーが登場し、謝罪した。「第1楽章で雑音の報告を受け直ちに確認させましたが、当施設で音を発している機材はありませんでした。恐れ入りますがお客様がお持ちの電子機器を今一度お確かめ下さい。特に補聴器の可能性が高いと考えられます。ご本人が自覚されていない場合もありますので、周囲の方で気付かれた方はスタッフにお声を掛けて下さい」ここでホール内を無音状態にしてハウリングがないか確認。客席から「補聴器を持っている方に一度スイッチを入れて貰ったらどうでしょうか?」「ステージが明るくなってから雑音が聞こえたので、客電を落としてみて下さい」などといった意見が飛び交う。一発触発、ピリピリと険悪な空気が流れる。しかし今回は大丈夫だった。そこでおもむろにオケの楽員が登場。

ブルックナーは第1楽章冒頭、ホルンの突き抜ける音から一気に魅了された。バンベルクのオケはくすんだ、いぶし銀の響きがする。弦楽器は黒ずんで光沢のある木の柱、そして金管楽器は多少錆びが入った真鍮を連想させる。「嗚呼、これがドイツの音なんだ!」と感じ入った。

ブロムシュテットはとても85歳とは想えない快調なテンポで、矍鑠(かくしゃく)たるタクトさばき。第1楽章 第2主題は歯切れよく曖昧さは皆無。明晰な解釈だった。またズシリと腹に響くフォルテシモも鮮烈。「決然としたブルックナー」と評したい。なかなかこれだけのレベルの「ロマンティック」を聴けるチャンスはないのではないだろうか?

以前、同じ兵庫芸文で佐渡裕さんが指揮するオペラを鑑賞した際も一幕の間中ずっと補聴器のハウリングが鳴っていたことがあった。同一人物の可能性は高い。ということは今後も繰り返されることが予想される。さて次はどう対応する、芸文?

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コメント

はじめてコメントさせて頂きます。
自分もあの場におりました。
前半の高周波音には参りました。犯人探しが始まるところなどは関西ならではでしょうか。
いくら難聴なご高齢の方で、ご自分ではわかってらっしゃらなかったとしても、許せるもんではありません。本当に怒りがおさまりません。
しかし、後半のブルックナーは、そのせいもあってか相当に熱の入った名演だったと思います。感動しました。
この演奏会のことは、ブルックナーのことだけ思い返すようにしています。

投稿: Masa | 2012年11月12日 (月) 14時08分

Masaさん、コメントありがとうございます!

この事件を契機に「難聴の方がコンサートに行くのを遠慮するような気の毒な事にはなって欲しくない」と書かれている方がいらっしゃいました。

でも、それは一寸違うんじゃないかな?と僕は思います。

一人の持つ補聴器の暴走が、二千人近い他の観客に迷惑をかけ、音楽を聴く楽しみを妨げたのです。一人にとっての福音が他者に対する凶器になりうる。このことを自覚して、補聴器が必要な方は例えば周囲の人にハウリング音が出てないかその都度確認するなど、慎重に行動されるべきでしょう。

投稿: 雅哉 | 2012年11月12日 (月) 20時13分

 兵庫芸文定期会員です。
ここ7年間、芸文ホールに通い続けて昨日ほど不愉快な気分に
させられた事はありませんでした。1階K列で聴きましたが
演奏スタートと同時に聞こえ始めたあのキーンと突き刺さるような音。
両隣の方は特別な反応を示していらっしゃらなかったので私の耳鳴りか
と思い込もうと努力しましたが無理でした。
 ステージ上の演奏者も不快に感じられたかと心配でした。
休憩時間に抗議していらっしゃった男性たちの中で年配女性は
私一人だったかも知れませんが「ひょっとして補聴器から漏れる音では
ありませんか?」と申し上げました。実は夫が補聴器使用者で、そこから
時々漏れる不快音はしばしば夫婦喧嘩のタネになっております。
後半のブルックナー演奏中に「あの音」が消えていたのでホッと
しましたが、「大丈夫だろうか?」とハラハラしながらの音楽鑑賞に
なってしまいました。こんな事が二度と起こらない事を切望します。

投稿: もとこ | 2012年11月12日 (月) 23時44分

もとこさん、コメントありがとうございます。

皆が不愉快・哀しい気持ちになった補聴器のハウリング、これは由々しき問題であり、今後積極的解決策が望まれます。兵庫芸文もことの重要性は分かっている筈です。今後同じようなことが繰り返され、評判を落とせば、ホールの死活問題にもなりますから。

残念なことに、あの超高周波は音源の位置特定が難しいことですね。以前いずみホール@大阪でも同じように雑音を発している人があり、その時は幸いな事に僕の席の近くだったので、ご本人に直接注意を申し上げ事なきを得ました。

投稿: 雅哉 | 2012年11月13日 (火) 00時52分

聾学校に勤めている者です。
この内容を読んで、残念に思いました。
聴覚障がいをお持ちの方の中にも、音楽が好きな方はたくさんいらっしゃいます。
聴力次第でハウリングに気づくことができる人と気づくことができない方がいらっしゃいます。
補聴器がしっかり耳穴に入っていないときに、ハウリングします。
私たち聾学校に勤めている者も聴覚障がいがある方や生徒の補聴器がハウリングを起こしているときは、肩を少しトントンとして、「ハウリングしていますよ」と伝えると、本人は、ハッとして補聴器をしっかりはめます。
演奏会場の皆様も、遠慮して言わないで我慢するよりも、ハウリングを起こしていることをちょっと伝えるだけで解決します。
どうぞ、優しい気持ちで「ちょっと、ハウリングが」と言ってあげてください。聞こえなくても、口が「ハウリング」と動くだけで、本人は何のことかわかると思います。
「注意する」というより、「伝える」という気持ちの方がありがたいです。
皆様が、気持ちよく音楽鑑賞ができるようなることを期待しております。

投稿: tarou | 2016年1月 9日 (土) 14時54分

日本人の「遠慮する」つまり「気になることがあっても相手に言わない」という性質は、奥ゆかしい美徳ではありますが、同時に欠点にもなる諸刃の剣だと僕は想います。僕自身は演奏会で隣の人が発する雑音が気になれば積極的に言うように心がけています。最後まで不愉快な気分を味わいたくないので。「言わないで後悔するより、言って後悔した方がいい」これが座右の銘であります。むしろ言って事態が好転する場合の方が断然多いですから。

投稿: 雅哉 | 2016年1月10日 (日) 01時17分

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