「夢売るふたり」と現代女性監督・演出家事情
女性の舞台演出家、映画監督というのは20世紀に極めて少なかった。やはり演出とかオーケストラの指揮者という職業は、トップに立ち大勢の人間を動かす仕事であり、軍隊の指揮官のように絶対的独裁者でなければならない。それが女性だと男性スタッフからなめられたり、抵抗にあいやすいという側面は否めないだろう。
事情が大きく変化したのは1998年にジュリー・テイモアが演出したミュージカル「ライオンキング」がトニー賞で最優秀ミュージカル作品賞、最優秀演出賞を受賞した時からだろう。女性演出家初の快挙であった。この作品は2012年に「オペラ座の怪人」を抜き、ブロードウェイ史上最高の興行収入を上げた。ジュリー・テイモアは映画監督にも進出し、「フリーダ」はいい作品だった。
2001年にはスーザン・ストローマンが振付・演出したミュージカル「プロデューサーズ」が最優秀演出賞を含むトニー賞最多の12部門を受賞した(僕は同年ブロードウェイにて、オリジナル・キャストで観劇した)。ストローマンは同作品の映画版の監督も務めたが、こちらはトホホの出来だった。
そして2010年に映画「ハート・ロッカー」でキャスリン・ビグローが女性初のアカデミー監督賞に輝いた。
日本で女性監督のホープと言えば、なんてったって西川美和だろう。1974年広島県広島市生まれ。「ゆれる」(2006)でキネマ旬報ベスト・テンで日本映画第2位、「ディア・ドクター」(2009)では第1位に選出された。また「ゆれる」を自ら小説化した作品は三島由紀夫賞候補となり、「ディア・ドクター」の原案小説「きのうの神さま」は直木賞候補になった。才女である。その彼女が原案・脚本・監督した新作が「夢売るふたり」である。
評価:B+
出演は松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈ら。映画公式サイトはこちら。
結婚詐欺をテーマにした作品だが、女性映画として秀逸である。女の打算的でしっかりした側面、どうしようもなくだらしない側面、精神的強さ、そして弱さが赤裸々に、容赦なく描かれる。女性ならではの視線である。
松たか子が素晴らしい。圧倒的存在感だ。ナイーブで、ある意味「流される人」の阿部サダヲもいい。「ゆれる」の香川照之や「ディア・ドクター」の笑福亭鶴瓶が友情出演しているのも嬉しい。
この映画から受ける印象は男性と女性とで随分異なるのではないだろうか?そういう意味でも鑑賞後、色々と話したくなる作品である。
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