映画「桐島、部活やめるってよ」
評価:A
すげーよ!今まで数多くの青春映画を観てきたけれど、この作品ほど「高校生のリアル」を描いたものは他に思い浮かばない。ピチピチとしてヴィヴィッドな青春群像が息づいている。現役高校生は必見。
監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八。原作は早稲田大学在学中に本作で小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウ。公式サイトはこちら。
原作者も脚本家も監督も男なわけで、どうしてこれだけ女子高生の生態の本質を突くことが出来るのか、僕にはちょっと信じられないな。まいったね。このリアルさは前代未聞だ。見かけは仲良し4人組、でも実は……というのがスリリングで面白過ぎる。調べてみると原作が発表された時も、男性作家なのに何故女子高生の気持ちが分かるのかと随分話題になったらしい。
「千と千尋の神隠し」の神木隆之介、「告白」の橋本愛、「SAYURI」の大後寿々花ら、子役出身者たちが凄くいい。神木くんは特に、2004年3月にWOWOWで放送されたドラマW「恋愛小説」が強く記憶に残っている。
僕は高校生のとき吹奏楽部だったのだけれど、この映画で描かれる吹奏楽部の様子は全く不自然さがなかった。学校の教室で個人練習(ロングトーンやスケール)をしながら、窓からグラウンドで走る憧れの運動部男子を真剣に見つめている女子の先輩って、確かにいたいた!とても懐かしかった。
映画部が男しか部員がいなくて、みんなダサくて、部室が暗くて陰気で、学校のヒエラルキーで最下層というのも爆笑。あるある!
クライマックスが吹奏楽部の演奏するワーグナー/歌劇「ローエングリン」より”エルザの大聖堂への行列(入場)”というのも嬉しいね。全国大会で金賞を受賞した屋比久勲/鹿児島情報高の十八番。感動的シーンだった。
この作品の秀逸なところはタイトルロールである筈の”桐島”が一度も画面に登場しないこと。ヒッチコック映画「レベッカ」とかサミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」みたいだ。主役不在によりドラマに緊張感と焦燥感が高まる。それは本質的に人間が抱える「存在不安」に結び付くし、考えてみれば高校生というのは「未だ何者でもない」中途半端な存在であり、不安定であるのは当たり前のことなのだ。鋭い切り口である。
彼らの家庭での生活を一切描写しなかったのもこの映画の勝利だろう。舞台は主に高校内部で展開され、カメラが外に出ても映画館とか、バスの車内までに留まっている。
映画が終わっても何も解決されないし、取り残されたような感覚に陥る観客も当然いるだろう。しかし高校を卒業することがゴールじゃないし、人生は続く。そういうものだ。
高橋優による主題歌「陽はまたのぼる」も力強く、印象的だった。
また現在“『宮部実果』~映画「桐島、部活やめるってよ」スピンオフ~”がWOWOWで無料放送中(8/27まで)。絶対見逃すな!
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