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 * 《私家版ナショナル・ストーリー・プロジェクト》

昭和の時代の話である。現在の大学入試センター試験は僕が受験生だった頃、共通一次試験と呼ばれていた。理系だった僕は数学が得意で、模擬試験でも何度か満点の200点を取っていた。

回答はマークシート方式。例えば解答欄が2桁あり、出た答えが1桁なら余った欄は数字の横にあるアスタリスク(*)、通称「米印」を塗りつぶすルールになっていた。しかし過去に一度も答えと一致しなかった例はなく、先生からは「もし桁数が違っていたら不正解と考えなさい」と教えられていた。

試験当日となった。解答欄は3桁。しかし出た答えは2桁。「あれっ、間違えた!」もう一度計算する。同じ答え。「変だなぁ……ま、いいか。これは後まわしにして次の問題に行こう」しばらく先に進むとまた不一致にぶち当たる。「??」飛ばす。さらに米印。何度計算しても導き出される数字は同じ。時計を見る。焦る。汗でじっとり濡れた手の中で鉛筆がすべる。「カリカリ」周囲からはマークシートを擦る静かな音。目の前が真っ白になり心臓がドックンドックン鼓動を打つ。あと10分!覚悟を決め、自分の計算を信じて猛スピードで米印を次々と塗り潰してゆく。しかし時既に遅く、未回答の問題を沢山残したまま無情にも終了のベルが鳴った。

帰宅し母の顔を見ると「全然駄目だった!」と泣き崩れ、布団の中にもぐりこんだ。そのまま消えてしまいたかった。翌日には2日目の試験があったが、今年は到底無理だからよほど行くのを止めようかとすら考えた。しかし親にも説得され、沈んだ気持ちのまま再び会場へ。

全てが終了後、新聞の朝刊に掲載された模範解答で自己採点した。なんと数学は*印がズラッと並んでいるではないか。僕の計算は正しかったのだ!蓋を開けてみると150点あった。

夜のNHKニュースで、前例のない*印が突然登場し多くの受験生たちが混乱したこと、教育現場から非難の声が上がっていることなどが報道された。結局、数学の平均点は例年より数十点下がった。そして僕は無事に志望校に合格した。

この年の事件は誰とはなしに「共通一次の米騒動」と呼ばれるようになった。

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