細田 守監督「おおかみこどもの雨と雪」と宮崎アニメ
評価:A
宮崎あおい、大沢たかおらが声を担当。映画公式サイトはこちら。
細田 守監督の「サマーウォーズ」は偶然に頼ったご都合主義のシナリオに欠陥があった。しかし今回の新作は文句なし。アニメーションのクオリティといい見事な出来栄えである。
驚いたのは本作のヒロインの名前が現在公開中の映画「この空の花」と同じ”花”だったことである。なんというシンクロニシティ!
細田監督は大学生の時、学園祭で「大林宣彦ピアノ・コンサート」を企画したという過去があり、またふたりとも「時をかける少女」を映画化している縁(えにし)がある。大林監督は細田監督のことを「映画の血を分けた息子」と言っている。
また「おおかみこどもの雨と雪」で感じたのは宮崎アニメへの憧憬・敬意である。
人間と自然との共生というテーマ、「となりのトトロ」を髣髴とさせる風景。すっくと立つ一本の大木、もくもくと上昇する入道雲。そして静と動の鮮やかな対比(例えば「カリオストロの城」でルパンが雲をのんびり見上げながら「平和だねぇ…」と言う場面があるからこそ、その直後に登場するクラリス運転の暴走車、カーアクションが生きるのである)。メタモルフォーゼ(変態)も「千と千尋の神隠し」以来、宮崎アニメの特徴のひとつ。さらに決定的なのは菅原文太が声優に起用されていること。そう、「千と千尋」の”釜爺”である。エンディングの歌も「いつも何度でも」を連想させる雰囲気がある(作詞:細田 守)。
実は「ハウルの動く城」は当初、細田守監督と発表され、スタジオジブリに出向していた。しかし宮崎駿さんと衝突し、頓挫。後は宮さんが引き継いだ(この失敗の反省から宮さんは「借りぐらしのアリエッティ」で一切口出しせず、我慢することになる)。そんな経緯がありながらも細田監督の宮崎アニメへの愛がどれだけ強いかを僕は今回思い知った。スタジオジブリは後継者の育成に失敗したが、ちゃんとその天才の遺伝子を引き継ぐ者がここにたくましく成長していた。そのことが何よりも嬉しい。だからと言って決して亜流や模倣ではなく、ちゃんとオリジナリティある作品に仕上げている。最後に子供たちが、それぞれ別の道を歩み出すのがいい。これは責任を持って「人生を選択する」物語である。
キャラクターデザインは「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」の貞本義行。「時をかける少女」「サマーウォーズ」でもコンビを組んでいる。まぁ、貞本の描く女の子はいつも同じという批判も当然あるだろうが、とにかく可愛いから僕は許す。貞本の絵の魅力が細田作品に大いにプラスとなっていることは間違いないのだから。これからもいい関係を続けて欲しい。
爽やかで、最後は心地よい涙を流すことが出来る傑作。必見!
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