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2012年8月

2012年8月31日 (金)

「アベンジャーズ」、あるいはアメコミのプロレス映画

評価:C

Avengersposter

映画公式サイトはこちら

ロバート・ダウニー・Jrはアカデミー主演男優賞候補になった映画「チャーリー」(1992)の頃からリアル・タイムで観ていて好きな役者だし、ニヒルな「アイアンマン」シリーズも愉しんだ。最新作の「アベンジャーズ」は前評判が非常に高く期待していたのだが、鑑賞中に食傷気味となり、うんざりしたというのが正直な感想である。

本作でスーパーヒーローもの「アイアンマン」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」「ハルク」が結集。アメリカン・コミックスには他にも「X-メン」「スパイダーマン」「デアデビル」「ファンタスティック・フォー」(以上マーベル・コミック)、「スーパーマン」「スーパーガール」「バットマン」(DCコミック)など沢山あるわけで、これだけヒーローを希求している国民は、世界中を見渡してもアメリカ以外にないんじゃなかろうか?はっきり言って、ちょっと異常である。

「スーパーマン」が登場したのが1938年、「バットマン」が1939年で「キャプテン・アメリカ」が1941年。これは38年にヒトラーがオーストリア併合したことと無関係ではあるまい。そして41年には日本軍による真珠湾攻撃があり、第二次世界大戦に突入した。一方、「ファンタスティック・フォー」と「X-メン」が登場したのが1961年、「スパイダーマン」と「アイアンマン」が1963年。ベルリンの壁が築かれたのが61年、キューバ危機が62年だから、米ソ冷戦の時期と一致している。

「アベンジャーズ」はマッチョなヒーロー同士のプロレスごっこが延々と展開される。たしかに特撮は凄いしアクション映画として出来は決して悪くないが、観ていて次第に飽きてくる。

ここでプロレスの歴史を紐解いてみると、現在のプロレスの直接の起源は、19世紀後半にアメリカに広まったカーニバル・レスリングとされる。南北戦争の時代であり、レスリング勝者に懸賞金が与えられるという興行はエイブラハム・リンカーンも行っていたそうだ。

つまりアメコミのヒーローもプロレスも戦争の歴史に密接に結び付いており、「強いアメリカ」「正しいアメリカ」の象徴なのだろう。移民の集合体、多民族国家であるアメリカで、人種も生活様式もバラバラの民衆を結束させるには共通の敵(悪役)と絶対的なヒーローを必要としているとも言えるだろう。そしてそれが、ありもしない「大量破壊兵器」を理由にイラクに侵略し、「悪の枢軸」フセインを倒したジョージ・W・ブッシュと、それを星条旗を振りながら熱狂的に支持したアメリカ国民(支持率は90%に達した)の姿にも繋がっている。病んだ国である。

詰まるところ「正義とか悪というのは相対的なものであり、時代によって変わるし、まぁ日本人の僕には関係ないや」という結論です。

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2012年8月27日 (月)

 * 《私家版ナショナル・ストーリー・プロジェクト》

昭和の時代の話である。現在の大学入試センター試験は僕が受験生だった頃、共通一次試験と呼ばれていた。理系だった僕は数学が得意で、模擬試験でも何度か満点の200点を取っていた。

回答はマークシート方式。例えば解答欄が2桁あり、出た答えが1桁なら余った欄は数字の横にあるアスタリスク(*)、通称「米印」を塗りつぶすルールになっていた。しかし過去に一度も答えと一致しなかった例はなく、先生からは「もし桁数が違っていたら不正解と考えなさい」と教えられていた。

試験当日となった。解答欄は3桁。しかし出た答えは2桁。「あれっ、間違えた!」もう一度計算する。同じ答え。「変だなぁ……ま、いいか。これは後まわしにして次の問題に行こう」しばらく先に進むとまた不一致にぶち当たる。「??」飛ばす。さらに米印。何度計算しても導き出される数字は同じ。時計を見る。焦る。汗でじっとり濡れた手の中で鉛筆がすべる。「カリカリ」周囲からはマークシートを擦る静かな音。目の前が真っ白になり心臓がドックンドックン鼓動を打つ。あと10分!覚悟を決め、自分の計算を信じて猛スピードで米印を次々と塗り潰してゆく。しかし時既に遅く、未回答の問題を沢山残したまま無情にも終了のベルが鳴った。

帰宅し母の顔を見ると「全然駄目だった!」と泣き崩れ、布団の中にもぐりこんだ。そのまま消えてしまいたかった。翌日には2日目の試験があったが、今年は到底無理だからよほど行くのを止めようかとすら考えた。しかし親にも説得され、沈んだ気持ちのまま再び会場へ。

全てが終了後、新聞の朝刊に掲載された模範解答で自己採点した。なんと数学は*印がズラッと並んでいるではないか。僕の計算は正しかったのだ!蓋を開けてみると150点あった。

夜のNHKニュースで、前例のない*印が突然登場し多くの受験生たちが混乱したこと、教育現場から非難の声が上がっていることなどが報道された。結局、数学の平均点は例年より数十点下がった。そして僕は無事に志望校に合格した。

この年の事件は誰とはなしに「共通一次の米騒動」と呼ばれるようになった。

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密やかな調べ 《私家版ナショナル・ストーリー・プロジェクト》

モンポウの「秘密」が好きだ。

「内なる印象」というピアノ曲集のひとつ。演奏時間2分くらいの、ささやかな音楽である。

この小品を教えてもらったのは僕が20代の頃。高校吹奏楽部時代からの親友に紹介された。それまではフェデリコ・モンポウというスペインの作曲家の名前すら知らなかった。

「この曲を聴くとね、寂しい気持ちになるんだ」と彼は言った。

その友人は僕らが30歳のとき急性骨髄性白血病に罹り、あっという間に別の世界へ旅立ってしまった。

「秘密」の囁きに耳を傾けながら、僕はそっと彼のことを想う。

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2012年8月23日 (木)

日韓の文化度を比較する

日本と韓国の文化度の差異を、「国際社会における評価」という視点から客観的、多角的に解析してみよう。

2012年現在、世界遺産に登録されている数は日本が16(文化遺産12・自然遺産4)で、世界第14位。大韓民国は10(文化遺産9・自然遺産1)で世界第24位。ちなみに朝鮮民主主義人民共和国は高句麗古墳群の1つ。

参考までに世界遺産登録数ベストテンを列記しておく。

  1. イタリア 47(文化遺産44・自然遺産3)
  2. 中国 43(文化遺産30・自然遺産9・複合遺産4)
  3. スペイン 42(文化遺産38・自然遺産2・複合遺産2)
  4. フランス 38(文化遺産34・自然遺産3・複合遺産1)
  5. ドイツ 37(文化遺産34・自然遺産3)
  6. メキシコ 29(文化遺産26・自然遺産3)
  7. インド 28(文化遺産22・自然遺産6)
  8. イギリス 27(文化遺産22・自然遺産4・複合遺産1)
  9. ロシア 25(文化遺産15・自然遺産10)
  10. アメリカ 21(文化遺産12・自然遺産8・複合遺産1)

さらにユネスコの無形文化遺産(代表リスト)に登録されているのは日本では能、文楽、歌舞伎など20件。韓国はパンソリ(歌と打楽器による口承文芸)など14件である。ちなみに中国は29件(+危機リスト 7件)で世界最多。余談だが、パンソリに関しては韓国映画「風の丘を越えて/西便制」(1993)をご覧になることをお勧めしたい。

ノーベル賞を受賞した日本人は今まで18人。文学賞では川端康成と大江健三郎の2人が受賞している。ちなみに経済学賞は未受賞。一方、大韓民国は金大中の平和賞のみ。よって平和賞以外での受賞が韓国国民の悲願となっている。

また村上春樹さんはフランツ・カフカ賞(チェコの文学賞)とエルサレム賞(イスラエル)を授与されたが、これらを受賞したアジア人は彼ただ一人である。

映画に目を向けてみよう。米アカデミー外国語映画賞が名誉賞と呼ばれていた時代に日本映画は「羅生門」「地獄門」「宮本武蔵」が受賞しており、近年では「おくりびと」がある。また黒澤明監督「デルス・ウザーラ」はソ連代表として外国語映画賞を受賞した。他にも個人賞として1958年にナンシー梅木が「サヨナラ」で助演女優賞、1986年にワダエミが「乱」、1993年に石岡瑛子が「ドラキュラ」で衣装デザイン賞、1988年に坂本龍一が「ラスト・エンペラー」で作曲賞、2001年に「千と千尋の神隠し」が長編アニメーション賞を受賞している。

一方、韓国映画は今まで米アカデミー賞に一度もノミネートすらされたことがなく、世界三大映画祭と言われるカンヌ国際映画祭(パルム・ドール)、ベルリン国際映画祭(金熊賞)、ヴェネツィア国際映画祭(金獅子賞)では最高賞の受賞歴がない(日本は「地獄門」「影武者」「楢山節考」「うなぎ」でパルム・ドール、「武士道残酷物語」「千と千尋の神隠し」で金熊賞、「羅生門」「無法松の一生」「HANA-BI」で金獅子賞を受賞している)。これら映画祭での受賞は韓国映画界の悲願となっている。

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2012年8月20日 (月)

映画「桐島、部活やめるってよ」

評価:A

Kirishima

すげーよ!今まで数多くの青春映画を観てきたけれど、この作品ほど「高校生のリアル」を描いたものは他に思い浮かばない。ピチピチとしてヴィヴィッドな青春群像が息づいている。現役高校生は必見。

監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八。原作は早稲田大学在学中に本作で小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウ。公式サイトはこちら

原作者も脚本家も監督も男なわけで、どうしてこれだけ女子高生の生態の本質を突くことが出来るのか、僕にはちょっと信じられないな。まいったね。このリアルさは前代未聞だ。見かけは仲良し4人組、でも実は……というのがスリリングで面白過ぎる。調べてみると原作が発表された時も、男性作家なのに何故女子高生の気持ちが分かるのかと随分話題になったらしい。

「千と千尋の神隠し」の神木隆之介、「告白」の橋本愛、「SAYURI」の大後寿々花ら、子役出身者たちが凄くいい。神木くんは特に、2004年3月にWOWOWで放送されたドラマW「恋愛小説」が強く記憶に残っている。

僕は高校生のとき吹奏楽部だったのだけれど、この映画で描かれる吹奏楽部の様子は全く不自然さがなかった。学校の教室で個人練習(ロングトーンやスケール)をしながら、窓からグラウンドで走る憧れの運動部男子を真剣に見つめている女子の先輩って、確かにいたいた!とても懐かしかった。

映画部が男しか部員がいなくて、みんなダサくて、部室が暗くて陰気で、学校のヒエラルキーで最下層というのも爆笑。あるある!

クライマックスが吹奏楽部の演奏するワーグナー/歌劇「ローエングリン」より”エルザの大聖堂への行列(入場)”というのも嬉しいね。全国大会で金賞を受賞した屋比久勲/鹿児島情報高の十八番。感動的シーンだった。

この作品の秀逸なところはタイトルロールである筈の”桐島”が一度も画面に登場しないこと。ヒッチコック映画「レベッカ」とかサミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」みたいだ。主役不在によりドラマに緊張感と焦燥感が高まる。それは本質的に人間が抱える「存在不安」に結び付くし、考えてみれば高校生というのは「未だ何者でもない」中途半端な存在であり、不安定であるのは当たり前のことなのだ。鋭い切り口である。

彼らの家庭での生活を一切描写しなかったのもこの映画の勝利だろう。舞台は主に高校内部で展開され、カメラが外に出ても映画館とか、バスの車内までに留まっている。

映画が終わっても何も解決されないし、取り残されたような感覚に陥る観客も当然いるだろう。しかし高校を卒業することがゴールじゃないし、人生は続く。そういうものだ。

高橋優による主題歌「陽はまたのぼる」も力強く、印象的だった。

Kiri2

また現在“『宮部実果』~映画「桐島、部活やめるってよ」スピンオフ~”がWOWOWで無料放送中(8/27まで)。絶対見逃すな!

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選定!小学生/中学生に観せたいアニメ

この記事を書く契機となったのは日テレで放送された「ジブリの本棚~宮崎駿が選ぶ子供たちに読ませたい本50冊」という番組である。これはDVD,Blu-rayでも発売されている。それじゃ、アニメーション版を僕がやろうじゃないかという企画だ。

まずは宮崎駿さんが関与した(監督作、および原画・レイアウトのみ担当した)ものから小学生向きの作品を。「太陽の王子ホルスの大冒険」「長靴をはいた猫」「パンダコパンダ」 「アルプスの少女ハイジ」「赤毛のアン」「未来少年コナン」「ルパン三世カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「崖の上のポニョ」。「パンダコパンダ」には後のラピュタ、トトロ、ポニョの原型を認めることが出来る。

またイタリア放送協会(RAI)と東京ムービー新社の合作「名探偵ホームズ」で宮さんが演出したのが第3話「小さなマーサの大事件!?」、第4話「ミセス・ハドソン人質事件」、第5話「青い紅玉(ルビー)」、第9話「海底の財宝」、第10話「ドーバー海峡の大空中戦!」。うち2作品は劇場版でも観ることが出来る(Blu-rayで発売中)。登場人物は全て犬。いずれもクオリティが高い。

テレビ「ルバン三世」第2シリーズで宮さんが手掛けた第145話「死の翼アルバトロス」と第155話(最終回)「さらば愛しきルパンよ」もお見逃しなく。ラピュタのロボット兵(ラムダ)が登場する。

ディズニー映画なら「白雪姫」「ピノキオ」「バンビ」「ファンタジア」「ダンボ」「不思議の国のアリス」「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ノートルダムの鐘」「ライオンキング」「ファンタジア2000」「プリンセスと魔法のキス」を。「ライオンキング」の起源は手塚治虫の「ジャングル大帝」である事実をちゃんと子供たちに伝えることもお忘れなく。

またディズニーの短編作品より、アカデミー賞(短編アニメーション部門)を受賞した「三匹の子ぶた」「うさぎとかめ」「三匹の親なし子ねこ」「風車小屋のシンフォニー」「みにくいアヒルの子」などを挙げておく。

スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮からは「アメリカ物語」。主人公はロシア移民のネズミ。スピルバーグの祖父の想い出を託している。ジェームズ・ホーナー作曲の主題歌"Somewhere Over There"が素晴らしい。

ピクサー映画は第一作「トイ・ストーリー」以降の全て。ここのCGアニメはハズレなし。同ジャンルにおいて未だにTHE ONE AND ONLYと言えるだろう。ピクサーの作品はみなBuddy films(バディ・ムービー)だ。つまり「仲間が一番」ということ。子供たちはこれらを通して協調性を学ぶだろう。

手塚治虫が製作した短編アニメ「人魚」「ジャンピング」「おんぼろフィルム」はいいね。手塚原作で大友克洋脚本、りんたろう監督の「メトロポリス」も上出来。

文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞などを受賞した「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」。「オトナ帝国」はむしろ、大人が泣くかも。1970年代へのノスタルジー。

毎日映画コンクール・大藤信郎賞を受賞した杉井ギザブロー監督「銀河鉄道の夜」は登場人物たちが擬人化された猫として描かれている。子供たちにとって親しみやすいだろう。同じ宮沢賢治原作として、それほど好きじゃないけれど高畑勲監督「セロ弾きのゴーシュ」も挙げておく。

ウォレスとグルミット」(イギリス)はクレイ(粘土)アニメ。「チーズホリデー」「ペンギンに気をつけろ!」「ウォレスとグルミット 危機一髪!」など。アカデミー賞短編アニメ部門受賞。長編もあるが、そちらはイマイチ。スピンオフ「ひつじのショーン」もお勧め。

伝統的ストップモーション・アニメーションの手法を採用した「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」はミュージカル仕立てで、ダニー・エルフマンの曲も大好き。ダークな味わい。

スティーヴン・スピルバーグが監督した「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」はモーションキャプチャーの手法を用いたアニメーション。インディー・ジョーンズを彷彿とさせる冒険活劇だ。音楽がジョン・ウィリアムズというのも贅沢だね。

《高学年》サウス・パーク映画無修正版」もミュージカル。ブラックなパロディ満載。「ブレイム・カナダ」(カナダのせいにしろ!)がアカデミー歌曲賞にノミネート。テレビ・シリーズも併せてどうぞ。これを製作したトレイ・パーカーとマット・ストーンは後にブロードウェイに進出し、「ブック・オブ・モルモン」がトニー賞でミュージカル作品賞を含む9部門を独占した。

《高学年》押井守監督「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」「機動警察パトレイバー the movie 1・2」は掛け値なしの傑作。

次に短編で、面白いと言うよりはアーティスティックな作品をご紹介しよう。

《高学年》アレクサンドル・ペドロフ(ロシア)「老人と海」はガラス板に絵を描く手法。アカデミー賞短編アニメ部門受賞。

《高学年》フレデリック・バック(カナダ)「木を植えた男」「大いなる河の流れ」アカデミー賞短編アニメ部門受賞。バックは上映時間30分の「木を植えた男」を5年半、24分の「大いなる河の流れ」も6年の歳月を費やして完成させた。一級の芸術作品である。

《高学年》ユーリ・ノルシュテイン(ロシア)「あおさぎと鶴」「霧につつまれたハリネズミ」「話の話」は切り絵を使ったアニメーション。

次に中学生向けをご紹介しよう。

宮崎駿さんが関与したものから「魔女の宅急便」「紅の豚」「耳をすませば」「ハウルの動く城」「借りぐらしのアリエッティ」「コクリコ坂から」。

押井守監督の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」とその続編「イノセンス」。「マトリックス」にも多大な影響を与え、世界中に沢山のファンを持つカルト作品。

そしてこれは外せない、泣く子も黙る「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズ。

細田守監督の「時をかける少女」「サマー・ウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪

女の子には「魔法少女まどか☆マギカ」。これにはおったまげた!究極の傑作。作品の奥深さを理解するには中学生にも無理かも(と挑発しておく)。

最後に、宮崎駿さんが原画などスタッフとして参加し、名作の誉れ高い「空飛ぶゆうれい船」(1969,東映動画)と「どうぶつ宝島」(1971,東映動画)は残念ながら未見につき、リストに入っていないことをお断りしておく。

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2012年8月19日 (日)

ダークナイト ライジング

評価:A

Thedarkknightrises

この映画が上映中だった米コロラド州の映画館で銃乱射事件が発生し、12人死亡、58人が負傷する事態になったことでも話題となった。公式サイトはこちら

原題は"The Dark Knight Rises"だが、それを日本の宣伝部はどうして別のカタカナ英語に置き換えるの??全く意味不明。

監督がクリストファー・ノーランだから完成度が高い作品であることは間違いない。しかし前作「ダークナイト」が超弩級、極めつけの傑作だっただけに、分が悪いのは致し方ない。

今回の悪役ベインが武装蜂起する過程は、言ってみればロシア革命の雛形だよね。ブルジョアを否定し、持たざる者への富の再分配を主張しているわけだし。2時間44分という上映時間の中でこれだけの世界観を描けるって大したものだ。

前2作唯一の欠点は女優陣の弱さだった。ヒロイン・レイチェル役がケイティ・ホームズからマギー・ギレンホール(←ブス!)に交替になるというハプニングもあった(ケイティがトム・クルーズと付き合い、そのスキャンダルが嫌われたため)。しかし今回はアン・ハサウェイとマリオン・コティヤールが配され、実にゴージャス。特にアンのキャットウーマンはセクシーで最高!

それにしてもクリスチャン・ベール(ブルース・ウェイン)、マイケル・ケイン(執事アルフレッド)、モーガン・フリーマン(ルーシャス・フォックス)、そしてマリオン・コティヤールと4人のオスカー俳優が配されているのは壮観である。

ただジョーカー役でアカデミー助演男優賞を受賞したヒース・レジャーが亡くなり、今回出演がなかったのが残念だった。「ダークナイト」の最後でジョーカーはアーカム精神病院送りになるので、当初は本作でも登場させる予定だったのではないだろうか?

ハンス・ジマーの音楽がクールで格好いい!痺れた。

最後に、イタリアのカフェでアルフレッドが見るのは幻想か現実かという謎掛けが実に面白い。「インセプション」の独楽(コマ)みたい。張り巡らされた伏線から論理的に考えて、導き出される結論は唯一つ。さすがクリストファー・ノーラン、憎いね!

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2012年8月18日 (土)

桂文我 宗助 二人会(8/12)

大阪梅田・太融寺へ。

  • 桂雀五郎/時うどん
  • 桂 宗助/不精の代参
  • 桂 文我/三枚記請
  • 文我&宗助/ネタあれこれ
  • 桂 文我/素麺喰い
  • 桂 宗助/千両みかん

「不精の代参」に登場するのは「えげつない不精」と宗助さん。また文我さん曰く、故・桂枝雀が「あれこそ究極の落語」と言っていたと。

対談では製作費が8千万円かかったという「米朝アンドロイド」の話題も。動きがぎこちないそう。 

素麺喰い」は小三治の速記本に出てくるとか。”素麺道”には初伝・中伝・奥伝があるという、けったいな噺。宗助さんによると毎夏、米朝宅へ箱詰めのそうめんを送ってくる某会社社長さんがいて、板前修業を積んだ経験のある宗助さんですら「業務用でもあんな大きな箱は見たことない」弟子に分けても、夏だけでは食べきれないそう。

千両みかん」は久しぶりに聴いたが、本当によく出来た噺だなと改めて感心した。これはある意味、白昼夢と言えるのではないだろうか。真夏の日差しが強すぎて、ふと心に湧いた出来心。「笑いは緊張の緩和」と論じた桂枝雀の「サゲの4分類」では「変」にあたる。魔がさす瞬間を捉え、人間の狂気を描いた作品。凄みがあった。

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2012年8月12日 (日)

日米それぞれのナショナル・ストーリー・プロジェクト

僕は「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」こそ、21世紀に生まれたアメリカ文学の最高峰だと確信している。

これはアメリカのラジオ局NPR (National Public Radio) の企画で、作家のポール・オースターが全米のリスナーに向けて「実際にあった、あなた自身の物語を送って欲しい」と呼びかけ、寄せられた作品を番組の中で朗読するというもの。そして4000通を超えた掌の小説の中から厳選された179編を収めたアンソロジーが2001年9月13日に出版された。9・11同時多発テロの直後である。日本語訳は新潮文庫に収められ、アメリカ文学の翻訳で名高い柴田元幸らが担当した。

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戦争があり、家族の死(AIDSなど病死や、時には犯罪の犠牲者)があり、幼い頃の想い出があり、喜びや悲しみがある。内容は多岐に渡り、この小説を読むとアメリカの国土がいかに広大で、そこに住む人々の人種や生活様式がいかに多様であるかが分かる。つまり鮮やかにアメリカが見えてくるのだ。

中でも特に印象に残ったのは、茫洋とした虚無感に包まれた「隔離」と、漠然とした未来への不安感が尾を引く「アリゾナ州プレスコットのホームレス」である。

「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」は多くの日本の作家たちにも多大な反響を与えた。例えば芥川賞作家で、「博士の愛した数式」が第1回本屋大賞を受賞した小川洋子の小説「人質の朗読会」は「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」をフィクションで試みた作品である。→小川洋子がそのことを語ったインタビュー記事へ

Hito

またamazon.co.jp《文学・評論》サイト内にあるWeb文芸誌マトグロッソにおいて、日本人による「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」も始動した。選者は内田樹(「私家版・ユダヤ文化論」で小林秀雄賞を受賞)と高橋源一郎(小説「優雅で感傷的な日本野球」で三島由紀夫賞を受賞)。こちらも出版されている。

Uso

日本版「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」を読むと、本家本元のアメリカ版と全く別物なので面食らう。まず地域性・多様性がない。たとえば一つの物語を読んだだけではそれがどこの出来事なのか、著者が東北の人なのか九州の人か、文章から全く判別出来ない。「日本人って生活水準に落差がなく、どこでも似たような暮らしをしている均一な民族なんだなぁ」という感慨を抱いた。昭和後期によく使われた「一億総中流」とは、見事に言い当てた表現である。

ただここで注意しておかなければならないのは、ラジオで幅広く原稿を募ったアメリカ版に対し、日本版はインターネットでの公募という点である。この条件により、投稿する層が限定されたという側面は否定出来ないだろう。

それからアメリカ版と比べ、日本版の方は深刻で過酷なエピソードが少ない。なんだかほのぼのしていて、最後に落ちがある「落語的噺」が多いなと想った。軽いのだ。こうして考えてみると、落語という芸能はやはり日本で生まれるべくして生まれたんだなぁと痛感した。

つまりアメリカ版を読むと「こんな(ハードな)人生を送っている人たちがいるのか!」と驚嘆し、対して日本版では「嗚呼、こういうこと、日常であるある」と共感する。そういう決定的相違がある。

このようにアメリカ人と日本人の気質や文化の違いを理解する上でも、このプロジェクトは意義深い。是非併せて一読されることをお勧めしたい。

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2012年8月10日 (金)

桂雀三郎 with まんぷくブラザーズ/真夏の夜の落語と音楽!

8月1日、TORII HALLへ。

  • 桂 雀太/色事根問
  • 桂雀五郎/転失気
  • 桂 雀喜/桃次郎(長坂堅太郎 作)
  • 桂雀三郎/船弁慶
  • 雀三郎 with まんぷくブラザーズ/コンサート

コンサートの曲目は以下。

  • オープニングミュージックコンサートのテーマ
  • やぐら行進曲
  • 反逆者のうた(vs.カーナビ)
  • おばあさんの古時計(「大きな古時計」のパロディ)
  • 江戸の人気者
  • いおうてカポーレ(ロシア民謡調) 新曲
  • ヒアルロン酸ブルース 新曲
  • おばあちゃんのクリスマス 新曲
  • 怖い夜
  • ヨーデル食べ放題
  • それぞれの味
  • そよ風のラブソング
  • 忘れんぼうのサンタ苦労ス

最初にトリイホールの鳥居学社長が袈裟姿でご挨拶。ここ千日前に昔は寺が六つあったが、今は全くなくなってしまった。昨年の8月1日から近所で護摩を焚き始めたが、人からの勧めもあり、思い切って自分で寺を持ち住職になる決意をしたと。いや~、びっくりした。「あんさん、今時(いまどき)のお方やおまへんな」という落語「くっしゃみ講釈」の台詞を想い出した。やっぱり大阪人は面白い。

雀太さんは緩急のリズムが耳に心地よい。

雀喜さんはマクラもネタ(新作)も詰まらん。

コンサートは愉しかった!爆笑に次ぐ爆笑。新曲が3曲も聴けたのが嬉しい。「いおうて(祝うて)カポーレ」はお釈迦様の誕生日、4月8日の「花祭り」をテーマにしている。クリスマス・ソングは沢山あるけど、花祭りの歌ってないよね。考えてみれば確かに不公平な話だ。

落語と歌の両方をたっぷり堪能出来て、お値打ちな会でした。

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桂文我・林家正雀/玉造・猫間川寄席

7月29日、さんくすホール@玉造へ。

  • 桂まん我/豆炭
  • 桂 文我/渋酒
  • 林家正雀/「怪談牡丹燈籠」より”お札はがし”
  • 正雀・文我/東西対談
  • 正雀/おどり「彦六の奴さん」
  • 桂 文我/はらわた餅

まん我さんは、師匠が高座に掛けないけったいな噺。「あのネタだけは演る気にならんですなぁ」と文我さん。マクラで、羊はアホでオウム科は視力がよく賢い、と動物園飼育係の談話を紹介。しかし一番不思議なのは人間だと。ほんと、そうだね。

文我さんは枝雀師匠について大いに語られた。生前、立川談志さんが「枝雀は俺を避けている」と文我さんにぼやいていたこと。また、あるパーティで談志さんが枝雀さんに近づいてきて「落語の不条理について語りませんか?」と声を掛けたところ、枝雀さんは「わたし理屈は嫌いですねん」と逃げ出したエピソード。

国際免許証を取った枝雀さんは落語会で弘前から鉢のに移動する際、レンタカーを運転しながら「十和田湖に寄ろう」と突然言い出し、助手席に座った文我(当時:雀司)さんは生きた心地がしなかったこと。

東京で枝雀独演会があったとき、打ち上げで新橋の駒忠(こまちゅう)で呑んでいると、「面白くねぇ」と独り言をいう酔っ払いが隣に座り、文我さんをじっと見据えて「おめぇ、突拍子もねぇ顔をしているな!」と絡まれた。枝雀さんは離れたところでそれを眺めながらゲラゲラ笑っていたそう。また真夏に師匠の言付で梅田の阪神百貨店まで凍結酒「福寿」を買いに行ったが、帰宅すると完全に溶けてしまっていた想い出など。

東京から年一回のゲスト・正雀さんの師匠・林家彦六(八代目・正蔵)は台湾で買った山猫様を自宅に祭っており、毎朝牛めしをお供えしてお焚き上げをしていたそう。ある日、その山猫様がゴミ箱に入っているのを見た正雀さんが驚いて報告すると「ねずみに齧られたから捨てた」と。まるで落語みたい。また彦六師匠の健康法は毎日水を七合飲むことだったとか。

ご本人は醤油番茶(大さじ一杯のしょうゆにほうじ茶を注ぐ)を飲むのが好きだという話も。

正雀さんは姿勢が良く凛とした高座。無表情なのが怖い。これが怪談を演じる極意なのかと唸った。

トリの「はらわた餅」は江戸落語「黄金餅」を上方に移植したもの。

終わってみると3時間半におよぶ長丁場だったが、おふたりの師匠の逸話がたっぷり聴けて、退屈しなかった。

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2012年8月 7日 (火)

細田 守監督「おおかみこどもの雨と雪」と宮崎アニメ

評価:A

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宮崎あおい、大沢たかおらが声を担当。映画公式サイトはこちら

細田 守監督の「サマーウォーズ」は偶然に頼ったご都合主義のシナリオに欠陥があった。しかし今回の新作は文句なし。アニメーションのクオリティといい見事な出来栄えである。

驚いたのは本作のヒロインの名前が現在公開中の映画「この空の花」と同じ”花”だったことである。なんというシンクロニシティ!

細田監督は大学生の時、学園祭で「大林宣彦ピアノ・コンサート」を企画したという過去があり、またふたりとも「時をかける少女」を映画化している縁(えにし)がある。大林監督は細田監督のことを「映画の血を分けた息子」と言っている。

また「おおかみこどもの雨と雪」で感じたのは宮崎アニメへの憧憬・敬意である。

人間と自然との共生というテーマ、「となりのトトロ」を髣髴とさせる風景。すっくと立つ一本の大木、もくもくと上昇する入道雲。そして静と動の鮮やかな対比(例えば「カリオストロの城」でルパンが雲をのんびり見上げながら「平和だねぇ…」と言う場面があるからこそ、その直後に登場するクラリス運転の暴走車、カーアクションが生きるのである)。メタモルフォーゼ(変態)も「千と千尋の神隠し」以来、宮崎アニメの特徴のひとつ。さらに決定的なのは菅原文太が声優に起用されていること。そう、「千と千尋」の”釜爺”である。エンディングの歌も「いつも何度でも」を連想させる雰囲気がある(作詞:細田 守)。

実は「ハウルの動く城」は当初、細田守監督と発表され、スタジオジブリに出向していた。しかし宮崎駿さんと衝突し、頓挫。後は宮さんが引き継いだ(この失敗の反省から宮さんは「借りぐらしのアリエッティ」で一切口出しせず、我慢することになる)。そんな経緯がありながらも細田監督の宮崎アニメへの愛がどれだけ強いかを僕は今回思い知った。スタジオジブリは後継者の育成に失敗したが、ちゃんとその天才の遺伝子を引き継ぐ者がここにたくましく成長していた。そのことが何よりも嬉しい。だからと言って決して亜流や模倣ではなく、ちゃんとオリジナリティある作品に仕上げている。最後に子供たちが、それぞれ別の道を歩み出すのがいい。これは責任を持って「人生を選択する」物語である。

キャラクターデザインは「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」の貞本義行。「時をかける少女」「サマーウォーズ」でもコンビを組んでいる。まぁ、貞本の描く女の子はいつも同じという批判も当然あるだろうが、とにかく可愛いから僕は許す。貞本の絵の魅力が細田作品に大いにプラスとなっていることは間違いないのだから。これからもいい関係を続けて欲しい。

爽やかで、最後は心地よい涙を流すことが出来る傑作。必見!

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裏切りのサーカス

評価:B+

Tinker_tailor_soldier_spy

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邦題を見てこれがスパイ映画だと分かる人がどれくらいいるだろう?「サーカス」とは英国諜報部を指す隠語だそうだ。原題は"Tinker Tailor Soldier Spy"。直訳すると「鋳掛け屋(修理工)、仕立て屋、兵士、スパイ」この意味は映画を観れば納得出来る仕掛けになっている。まぁどちらも分かりにくいが、邦題のセンスはいただけない。

原作は「寒い国から帰ってきたスパイ」のジョン・ル・カレ。自身もMI6で諜報員だった経験を持つ。だからプロットにリアリティがある。

監督はスウェーデン映画「ぼくのエリ 200歳の少女」のトーマス・アルフレッドソン。

ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、マーク・ストロング、ジョン・ハートら男優陣が素晴らしい。名優揃いである。

ソ連の崩壊後、スパイ映画が作り難い時代になった。しかし本作のように冷戦時代という設定なら問題ない。なんだか懐かしいような気持ちになりながら、物語の面白さを堪能した。

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2012年8月 6日 (月)

ゲルハルト・ヴァインベルガー初来日/バッハ・オルガン作品全曲演奏会 1

8月3日いずみホールへ。

これから7年間に渡り、計14回でJ.S.バッハのオルガン作品を全曲演奏してゆく壮大なプロジェクトが発進した。バッハ・アルヒーフ・ライプツィヒ所長クリストフ・ヴォルフが推薦するオルガニストが次々に来日する。その第1弾となる今回は初来日となるゲルハルト・ヴァインベルガーが登場。ドイツ・バイエルン生まれ。1996-2008年にかけJ.S.バッハのオルガン全作品を22枚のCDに録音し、ドイツ・レコード評論家大賞を受賞している。

満席。いずみホール音楽ディレクターの磯山 雅さんによると、滅多にないことだが大入り袋(100円)が出たそう。またBACHというそれぞれの文字がアルファベットの何番目かを足していくと、B(2)+A(1)+C(3)+H(8)=14になるとのこと。つまり14はバッハの数字というわけ。

  • トッカータとフーガ「ドリア調」 BWV538
  • オルガン小曲集より受難のコラール
    ”おお神の小羊よ、罪なくして” BWV618
    ”キリストよ、汝神の小羊” BWV619
    ”われらを幸せにするキリストは” BWV620
    ”イエスが十字架に付けられた時” BWV621
    ”おお人よ、お前の大きな罪を泣け” BWV622
    ”主イエス・キリストよ、われら汝に感謝す” BWV623
    ”神よ、われを助けてなさせたまえ” BWV624
  • 小フーガ ト短調 BWV578
  • 協奏曲 ト長調 BWV592
  • ”われらの救い主なるイエス・キリストは” BWV665,666
  • ”イエスよ、わが喜び” BWV713
  • ”汝の御座の前にわれはいま進み出で” BWV668
  • プレリュードとフーガ ニ長調 BWV532
  • カンタータ第156番”片足は墓穴にありてわれは立つ”より
    シンフォニア BWV156
     (アンコール)

高い尖塔のイメージを喚起する演奏。オルガンは多彩な音色を奏で、壮大なシンフォニーを構築する。毅然とそびえる山。偉大な神を前にして、我々は無力な存在でしかない。ただ跪き、頭を垂れるのみ。降り注ぐ音のシャワーを全身に浴び、魂が洗われるような体験であった。

ドリア調」は斬新で、コラールは朴訥で無垢な祈り。小フーガは凛と立つ。

後半の協奏曲は歓びに満ち、祝祭的雰囲気。終曲のプレリュードとフーガ ニ長調は輝かしく、有無を言わせぬ説得力がある。心地よい響きに身を委ねながら、僕はクリスチャンではないけれど、教会の天窓から目映い光が差し込む光景をそこに幻視した。

アンコールの曲は後にバッハ自身の編曲によりチェンバロ協奏曲第5番 第2楽章 ラルゴに生まれ変わり、グレン・グールドのピアノ演奏で映画「スローターハウス5」(ジョージ・ロイ・ヒル監督)に使用された。その映像を思い浮かべながら、愉しいひと時を過ごした。

次回は2013年3月20日(祝)。スイス在住の小糸 恵が登場する。

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