映画「苦役列車」
評価:B+
山下敦弘監督は「リンダ リンダ リンダ」(2005)、「天然コケッコー」(2007)、「マイ・バック・ページ」(2011)がみな好きな青春映画だったので本作も期待していた。公式サイトはこちら。
原作には登場しないヒロインをAKB48の前田敦子が演じるということで話題になった。2011年にこの原作小説で芥川賞を受賞した西村賢太は「前田さんは可愛いけど、キャスティングは不満」「柏木由紀さんとお願いしたが、聞いてもらえなかった」 「人気アイドルが演じることでの集客効果ということを除けば、オリジナルキャストはいらなかったんじゃないかと僕は思います」と言いたい放題。
主人公の名前は「北町貫多」であり、よく見ると「西村賢太」と対になっていることが分かる。これは私小説だから原作者としては自分自身の物語に架空のキャラクターが入り込むのが我慢ならなかったのであろう。しかし映画を観る限り不自然さはないし、巧みな改変であったと僕は考える。あっちゃんの役は演技が上手い、下手が問われるようなものではないが、とにかく可愛かった。初登場の場面でジョン・アーヴィングの小説「ガープの世界」を読んでいるのも良かった(古本屋でアルバイトしている大学生という設定)。下着姿で海に飛び込む場面は胸がキュンとした。だから僕は彼女の全てを肯定する。可愛いことは正義だ。それは他のどんな価値観をも超越する真理である。
森山未來はドラマ&映画版「モテキ」で本当にいい役者になったなぁと感心していたのだが、今度は完全な別人になり切っている。面構えといいその肉体といい、中卒の日雇い労働者以外の何者でもない。天晴れ!
山下監督の「マイ・バック・ページ」が学生運動で騒然とした1960年代後半の青春群像だとしたら、本作は1980年代後半の青春を生き生きと描いている。森山演じる主人公は面倒な男だ。こんな奴が近くにいたら誰しも敬遠するだろう。希望の光が見えないどん詰まり人生。しかし彼はどっこい生きてゆく。ただがむしゃらに。そのバイタリティにこそ救いがある。そんな映画である。
余談であるが、劇中に出てくる土屋隆夫著「泥の文学碑」は調べてみると、原作者にとってとても大切な小説のようだ。
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