大植英次/大フィル、3度目のマーラー交響曲第5番
7月22日、岸和田市にある波切ホールへ。
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、
- モーツァルト/交響曲 第35番「ハフナー」
- マーラー/交響曲 第5番
7月19日の東京都交響楽団への客演を頚椎症の再発でキャンセルした大植さん。安静療養の結果、見た目は元気そうだった。
モーツァルトはのびやかで、ふっくらまろやか。第2楽章は速めのテンポで流麗。第4楽章は弾力に富み、スタート・ダッシュが小気味好い。大植さんは全身で音楽の歓びを体現していた。
同じコンビでマーラーの5番はフェスティバルホールと、3年前の定期@ザ・シンフォニーホールで聴いた。この定期は異様に遅いマーラーで話題騒然、大植さん重病説がまことしやかに囁かれた位である。
ドロドロとしてグロテスク。粘っこい糸を引くような解釈であった。
今回と演奏時間を比較してみよう。カッコ( )内は3年前の計測である。
- 第1楽章:13分(16分)
- 第2楽章:15分(19分)
- 第3楽章:19分(24分)
- 第4楽章:10分(16分)
- 第5楽章:16分(19分)
- 計:73分(94分)
なんと3年前より20分以上も短くなっている!大植さんの師、レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルのCDが74分46秒だから、ほぼ同じくらいといえるだろう。
上述した定期演奏会は2009年2月で、その年の3月22日に大植さんのお母さんが亡くなられた。つまり3年前の”異形のマーラー”は病状が思わしくない母のことを想い、大植さんが死の観念に囚われていたゆえにああなったのではないか?と僕は考えている。
今回は「病的なマーラー」のイメージが払拭され、生を肯定し、それを謳歌するような演奏であった。
弦は対向配置。コントラバスはステージ下手(客席から向かって左側)に配置された。
第1楽章は重量級の演奏。象がノッシノッシと歩くような、時には足を引きずる表現も。寂寞として孤独な印象。「情熱的に荒々しく」と書かれた第1トリオに入ると一転、テンポを積極的に動かす。
第2楽章は激情。音楽はうねり、表情がカメレオンのようにコロコロ変わる。終盤はエネルギーが爆発!今回初めて、第1,2楽章にベートーヴェン/交響曲第5番の「運命動機」が引用されていることに気が付いた。
第3楽章ではコンサートマスターの前に席が用意され、ホルンのソリスト(村上 哲さん)がそこで吹いたので驚いた。この楽章はマーラーが幼少期を過ごしたボヘミアの森を想起させるが、同時に大植さんは森の暗闇の不気味さも感じさせた。また弦の切れ味が良かった。
そして第4楽章アダージェット。息の長い旋律が想いを込めて、デリケートに表現されていた。まどろみの中に聴こえてくる天上の調べ。今にも消え入りそうなピアニッシモが、最後の一線でぎりぎり踏みとどまっているという絶妙さが素晴らしい。
第5楽章は生き生きと弾けるリズムが印象的。躍動感に溢れている。コーダはもの凄いスピードでパワフル!大植さんが前へ前へとつんのめると、指揮台が同時にググッと前進したのでびっくりした。こんな光景見たことない!
同じ指揮者がたった数年間でこれだけ違った解釈をするというのは、世界的に見ても他に例がないのではないだろうか?大植英次、油断も隙もない男である。
最後に、今回は大フィルのトランペットとホルン(村上さんを除く)がミスを連発。過去5年間で僕が聴いたうちでも最低の出来だった。余りのことに怒り心頭に発した。
以前から僕は大フィルの欠陥は弦高管低のアンバランスにあると繰り返し指摘してきた。しかし市からの補助金問題など台所事情は思わしくなく、状況は悪くなる一方である。そろそろ真剣に、センチュリー響と統合するなどして金管の強化を図るべき時期に来ているのではないだろうか?僕はこのオケの行末を憂う。
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コメント
いつも、楽しくみています♪ ありがとうございます。大植さんから、音楽する喜びがあふれていた様に思います。私も驚きました。指揮台か動くなんて、本当にびっくりです。
投稿: マスノ ヨシエ | 2012年7月25日 (水) 11時01分
マスノさん、コメントありがとうございます。
人が乗っていても指揮台は動くんですね!その事実を今回初めて知りました。貴重な体験でした。
投稿: 雅哉 | 2012年7月25日 (水) 20時17分