アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲/ミュージカル「サンセット大通り」日本初演、千秋楽
7月8日(日)、シアターBRAVA !へ。
宝塚歌劇を愛し、ゆえに(観劇する時間が無くなるから)プロ野球の監督もコーチも決して引き受けない「世界の盗塁王」福本豊さんから、会場に豪華な花が届けられていた。
ちなみに福本さんは安蘭さんが出演するミュージカルには必ず花を贈られている。
「サンセット大通り」日本初演までの紆余曲折は下記で語ったので、まずはそちらからお読み下さい。
今回初めて舞台を観て、ロイド=ウェバーがこれを作曲した当時の、迸り、炸裂する眩いばかりの才能の奔流に、めまいを感じた。「ジーザス・クライスト・スーパースター」はロック・ミュージカルだが、「サンセット大通り」はジャズとオペラの融合。凄い!ちなみに彼はこの作品でトニー賞/楽曲賞を受賞しているが、代表作「オペラ座の怪人」では逃している(その年に受賞したのはスティーヴン・ソンドハイムの"Into the Woods"だった)。
またチャールズ・ブラケット、ビリー・ワイルダーらによる原作映画「サンセット大通り」の脚本は本当に素晴らしいなと改めて感じ入った。時代を超える力がある。これは例えばシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にも匹敵する、永久不滅の古典である。
安蘭けいさんは演技、歌唱ともに申し分なし。ただ上の記事にも書いたが、やはり50歳という設定に対し彼女は若過ぎると想った。ノーマ・デズモンドは難しい役だ。老醜、腐臭、狂気、しかしそこにうっすらと残存する気高さ、といったもろもろのものを観客に感じさせないといけない。また5年後、10年後に彼女のノーマを観てみたい。
時折、安蘭さんがコミカルに観客を笑わせる場面があった。意外に想ったが、考えてみればこれはシリアス一辺倒の作品ではなく、人間の狂気と滑稽さは紙一重なのだろう。チンパンジーの葬儀など、ワイルダーは最初から笑いを意識していたのかも知れない。だって「お熱いのがお好き」とか「アパートの鍵貸します」などコメディーの名手なのだから。そういった作品の持つ、新たな側面を彼女から教えてもらった気がした。
田代万里生さんは”やさぐれた”感じが良く出ていたし、輝かしいテノールの美声に魅了された。
鈴木綜馬さんは劇団四季時代に「芥川英司」(←命名:浅利慶太)を名乗っていた頃(「キャッツ」のスキンブルシャンクス)から知っているが(退団後、芸名を返上)、今回が最高の名演だった。特に味わい深いソロには痺れたね。
彩吹真央さんはミス・キャスト。演技はいただけないし歌も駄目。でもそれほど重要な役ではないので、大して気にはならなかった。
鈴木裕美の演出はオーソドックスで、取り立てて言うべきものはない。才気はないが名作を鑑賞する妨げにはならない。大掛かりな舞台機構で赤字になったオリジナル・プロダクション(ウエストエンド&ブロードウェイ)の反省を踏まえて、安上がりで手堅く、コンパクトにまとめた感じかな。
千秋楽ということで最後に舞台挨拶あり。鈴木綜馬さんが執事マックスのナンバーのメロディーで千秋楽を迎えた気持ちを替え歌で歌われ、大いに盛り上がった!「これから喋ることを事前に考えていたんですけれど、今の綜馬さんの歌で内容をすっかり忘れてしまいました」と安蘭さん。
さらに安蘭さんは語る。「沢山の女優さんたちがこの役を演じたいと言っている意味が舞台に立って初めて分かりました。自分の運の良さを痛感しています。稽古中はすごく孤独で、今回は難産でした。子供を産んだこと無いけど(会場笑い)」それだけ大変な役ということだろう。
出演者は異口同音に千秋楽といってもこれで終わる気がしないと語っていた。きっと近い将来、再会出来る日は来るだろう。そう予感させた。
キャストはこのままで良いが、出来れば演出家を代えて再演を期待したい。もう一度絶対に観たいミュージカルである。
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