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2012年6月28日 (木)

大林宣彦監督「この空の花 - 長岡花火物語」

大林宣彦監督の映画は世界中の誰よりも愛しているし、誰よりも知っているという自負はある。劇場公開された作品は全て観たし、「EMOTION 伝説の午後=いつか見たドラキュラ」など16mmや8mmの個人映画、チャールズ・ブロンソンの「マンダム」等のCM、「私の心はパパのもの」「彼女が結婚しない理由」「三毛猫ホームズの推理」「三毛猫ホームズの黄昏ホテル」「麗猫伝説」などテレビ用作品、KAN「BRACKET」、阪上香織「香織の、ーわたし ものがたり」などミュージック・ビデオ、瀬戸大橋博「モモとタローのかくれんぼ 」、大阪花博「花地球夢旅行183日」、大連・尾道友好博「夢の花・大連幻視行」などイベント映像も観ている。ちなみにわが生涯オールタイム・ベストワンは大林映画「はるか、ノスタルジィ」である。

さて、最新作「この空の花 - 長岡花火物語」の話だ。

評価:A+

Hana

映画公式サイトはこちら。出演は松雪泰子、髙嶋政宏、原田夏希、猪股南(新人、一輪車の世界チャンピオン)ら。16年ぶりに大林映画に帰ってきた尾美としのりにも注目。

大林監督は1989年に「北京的西瓜」を世に問うた。これは千葉県船橋市の中国人留学生の交流を描く物語である。ところが主人公と留学生たちが中国で再会する場面をロケする予定日直前の1989年6月4日に天安門事件が起こった。中国側からは「スタッフの安全は保証する」という連絡があったが、大林監督は中止を決断した。その場面になると1989年6月4日を全部を足した(1+9+8+9+6+4=)37秒間、スクリーンが真っ白になった。映画という名の、花も実もある絵空事=フィクションと、現実が出会った瞬間であった。

同様のことが「この空の花」でも起こった。この映画は企画当初、長岡花火と長岡空襲を描く作品になる筈だった。しかし撮影の準備段階で東日本大震災と福島原発事故が発生した。この未曾有の出来事を無視することは出来ないと、大林監督は丸ごと作品に取り込んでしまった。

幕末から明治にかけての戊辰(ぼしん)戦争、長岡藩士・小林虎三郎による国漢学校創設(米百俵)、日米開戦に最後まで反対した山本五十六、ハワイ真珠湾攻撃、イギリス首相チャーチルのV(ピース)サイン、長岡空襲(焼夷弾の構造)、模擬原子爆弾投下、広島・長崎の原爆投下(被爆二世)、敗戦後の日本軍捕虜シベリア抑留、ビキニ環礁の水爆実験(第五福竜丸事件)、放浪の画家・山下清、熊本県天草市に江戸時代から伝わる「牛深(うしぶか)ハイヤ節」、2004年中越地震、3・11東日本大震災など、遥か時空を超えた物語が渾然一体となり、夥しいカット数・目まぐるしい編集に頭が混乱することは必至。そこを貫き走るのが一輪車の集団。真に幻想的風景である。やがて混沌(カオス)の中からひとつの想いが明確に浮き上がってくる。

「まだ戦争には間に合いますか?」ーそれは想像力を働かせること。相手の痛みに思いを馳せること。人間にしか出来ない能力である。

脳科学者・茂木健一郎さん曰く、「脳が追いつかない時、人は感動するんですよ」大林監督は圧倒的情報量の釣瓶撃ちでそのことを実証する。

この映画の登場人物たちは饒舌である。畳み掛けるように喋る。大林監督の劇映画デビュー作「HOUSE ハウス」はオプチカル合成などを駆使し、映像が過剰だった。一方「この空の花」は台詞や字幕が洪水のように押し寄せる、言葉が過剰な作品といえるだろう。

大林監督は次のように語る。「映画は言葉だ。人の心の願いをこそ伝える手紙のようなものだ」本作は”言葉のモンタージュ”により、その信念を実践している。

本作はフィクションでありながらモデルとなった登場人物も登場し、アニメーションあり、紙芝居あり、高校生による演劇あり、ごった煮である。果たしてこれは映画なのか?それともドキュメンタリーか?いや、ジャンル分けは無意味だ。その全てを包括しているのだから。「この空の花」は何でもあり、死者と生者が共存するワンダーランドである。僕は物語の中盤からとめどもなく流れ続ける涙をどうすることも出来なかった。

音楽も豊穣だ。テーマ曲(ボレロ)を久しぶりに大林映画に復帰した久石譲(「水の旅人」以来19年ぶり!)、主題歌「それは遠い夏」(ワルツ)の作詞・作曲を伊勢正三(なごり雪、22才の別れ)、挿入曲「花火」は曲・演奏がパスカルズ、さらに坂田明のサックス演奏あり。

大林映画はその処女作「HOUSE ハウス」から冒頭に"A MOVIE"という表示が出るのが特徴だった。しかし「おかしなふたり」以降その慣習は封印された。「この空の花」では久しぶりに再登場。しかも"A MOVIE ESSAY"に進化しているではないか!確かにエッセイという呼び名こそ相応しい作品かも知れない。必見。

以下余談だが、僕の愛する大林映画のベスト20(+1)を列挙する。

  1. はるか、ノスタルジィ
  2. 時をかける少女
  3. ふたり
  4. 廃市
  5. この空の花
  6. 日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群
  7. なごり雪
  8. さびしんぼう
  9. 転校生(オリジナル版@尾道市)
  10. HOUSE ハウス
  11. 理由
  12. 彼のオートバイ、彼女の島
  13. 青春デンデケデケデケ
  14. 麗猫伝説(日テレ「火曜サスペンス劇場」)
  15. EMOTION 伝説の午後=いつか見たドラキュラ
  16. あした
  17. 異人たちとの夏
  18. 風の歌が聴きたい
  19. 22才の別れ Lycoris 葉みず花みず物語
  20. その日のまえに
  21. 可愛い悪魔(日テレ「火曜サスペンス劇場」)

さらに、これはいただけない大林映画ワースト5。

  1. 漂流教室
  2. あの、夏の日~とんでろじいちゃん~
  3. ねらわれた学園
  4. 金田一耕介の冒険
  5. 転校生 -さよなら あなた-(リメイク版@長野市)

最後に、大林監督のライフワークである福永武彦の小説「草の花」と壇一雄の「花筐(はながたみ)」映画化が実現することを心から希って(勿論、音楽は久石さんで!)、締めくくりたいと想う。

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