松田理奈 ヴァイオリン・リサイタル with金子三勇士 (5/26)
ザ・シンフォニーホールへ。
松田理奈さんのヴァイオリンを聴くのはこれが3回目。
ピアノは金子三勇士(かねこみうじ)さん。金子さんは日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、6歳で単身ハンガリーに渡った。国立リスト音楽院大学ピアノ科を卒業。名前はおそらく「ミュージック」に由来するものと思われるが、「さんゆうし」と読めるのも面白い。リスト(ハンガリー生まれ)を得意とする。ちなみに(オーストリア系である)リストの家庭ではドイツ語が使われていたため、彼は生涯ハンガリー語を話せなかったという。
曲目は
- ブラームス/ハンガリー舞曲 第5、6、1番
- ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
(休憩) - クライスラー/プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
- リスト/コンソレーション 第3番、ラ・カンパネラ(ピアノ独奏)
- テレマン/12の幻想曲より第4番(ヴァイオリン独奏)
- ドヴォルザーク/わが母の教え給いし歌
- J.S.バッハ&グノー/アヴェ・マリア
- カッチーニ/アヴェ・マリア
- クライスラー/美しきロスマリン
- マスネ/タイスの瞑想曲
- サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
アンコールは
- ゼキーナ・アブレウ/ティコティコ
- クライスラー/プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット
ハンガリー舞曲は元々、ロマ(ジプシー)の音楽なので情熱的で濃厚なイメージを抱いていたが、松田さんの演奏はむしろ透明感があり、清新。青春の息吹が感じられた。控えめにコントロールされたヴィブラート表現に気品がある。
ブラームス/ヴァイオリン・ソナタは一言一言語りかけるように、朴訥に開始される。繊細に作曲家の心のひだを手繰るように弾かれる。凛とした佇まいで瑞々しい!この第1楽章 第2主題はクララ・シューマンへの憧憬を表現したものだと僕は想っている。第3楽章には自作の歌曲「雨の歌」に基づく旋律が登場、これはクララが特に好んでいた歌だという。
クライスラーの「前奏曲とアレグロ」は決然として厳粛な精神性を湛えた演奏。
リストのピアノ曲は一音一音が磨かれ、明快に響き、過剰なロマンチシズムに陥らない。ラ・カンパネラ(鐘)は畳み掛けるテンポと切れがあり、金子さんは、ブタペストに生まれリスト音楽院で学んだジョルジュ・シフラの再来だなと想った。
テレマンは要所要所のみのヴィブラートで勝負。時代の精神にのっとったピリオド・アプローチに近い表現。格調高くお見事。
ドヴォルザークは力強く、太い低音が魅力的。
カッチーニはしっとりと美しく、クライスラーは歯切れよく、潔いワルツ。
サラサーテは野太い音で、弓が数本切れる熱演。
松田さんの使用楽器は某NPO法人から貸与されているJ.B.Guadagnini(ガダニーニ)。今回のリサイタルの準備を始めたときに電話があり、突然楽器の返却を求められたとのこと。「いつかは返さなければいけないと分かっていましたが、いざとなると愛着もあるので辛いです」と。友達からは「まるで不倫関係みたいだね」と言われたそう。だからこのリサイタルが別れとなり、最後は涙を流しながらの演奏だった。
レコード大賞などで歌手が泣きながら歌う場面には何度も遭遇したが、弦楽器では初めて。記憶に残る貴重な体験となった。
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