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幻の「こんな私じゃなかったに」(川島雄三 監督)上映!/桂小金治 出演映画を観る会

5月12日(土)阿倍野区民センターへ。

Koki

落語家・桂文我さんの主催で、桂小金治(八十五歳)さんが役者として初めて出演した松竹映画「こんな私じゃなかったに」(昭和二十七年、1952)の鑑賞会。ふたりの対談あり。

監督は川島雄三。日本映画の金字塔「幕末太陽傳」(フランキー堺 主演)が余りにも有名。これは落語「居残り佐平次」「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「死神」などをベースにシナリオが書かれている。またスタジオ・ジブリの鈴木敏夫プロデューサーが川島の最高傑作と推す「洲崎パラダイス 信号」や「雁の寺」にも痺れたねぇ。

こんな私じゃなかったに」は当時の流行歌で、「上海帰りのリル」や「銀座の恋の物語」と同様の、いわゆる歌謡映画である。出演は水原真知子、宮城千賀子、山村聡ら。DVD等で発売されておらず、文字通り幻の作品。既に35mmフィルムは失われたが16mmは綺麗な状態で現存しており、それが上映された。

想像以上に面白くてびっくりした。ヒロインは洋装で、大学で化学の研究を続ける、所謂”モダン・ガール”(1920年代は略して”モガ”と呼ばれた)。一方、その姉は元・芸者で、現在は稽古屋(←上方落語でお馴染)を営んでいる。いつも和服姿の古風な女。しかし劇中で主人公は家の経済状態が悪く、姉が借金を抱えていることを知る。彼女は大学に通いながら、夜は芸者のアルバイトを始める。つまり「古い日本の因習」と「新しい自由な空気」との狭間で激しく揺れ動くことになるのである。この構図が実に新鮮だ。また彼女の恋人が天文学者で、ベガとアルタイルについての薀蓄を語る場面がいい。速いダイアログ、土砂降りの雨などが印象的。ユーモアのセンスもあって、やっぱり川島雄三はモダニストであり、天才監督だったと改めて実感した。プロット自体が落語「持参金」を下敷きにしていると感じさせる点も興味深い。またヒロインが恋人にビンタを食らわせる場面で画面の端に犬が登場、文我さんの解説によるとこれは浮世絵に出てくる手法なのだそうである。深いっ!

水原真知子が三味線にのって端唄「春雨」を踊る場面が美しかった(文我さんは「あの踊りは完璧で、寸文の狂いもない」と絶賛)。また桂小金治さんは幇間(太鼓持ち)役で登場。撮影当時二十六歳、落語家になって五年目だったそう。劇中では「餅の滝登り」や鶏が卵を産む場面など、お座敷芸を披露。

上映後の対談によると、当時「二つ目」だった小金治さんは、四谷にあった寄席小屋「きよし」で高座に上がると、その都度後ろの壁にもたれて聴いていた客から「狸の賽!」とか「長短!」などとリクエストされたそうである。後から知ったのだが、それが助監督三人を引き連れて来ていた川島雄三監督だった(「川島監督は畳席が好きだった」)。そうしたある日、楽屋でお茶子さんから大きな名詞を渡された。裏を返すと手書きで「一献(いっこん)献じたし。いかが?」と書かれていたという。その夜、川島監督と落語の話や貧乏の話をしていると、「映画に出てみないか?」と誘われた。演技の経験がないと躊躇うと「あたしの言うとおりに動いていればいいんだよ」と言われた。翌日、撮影所の重役に会うと、片手を広げて「(ギャラは)これでどうか?」と問われた。当時前座の給料は一回二百から四百円が相場だったので、五百円貰えるのかと思った。ところが実際は一本五万円×年間六本の契約だった。小文治師匠(上方出身)に相談すると、「やりゃあええやないか。わしより高給取りになったな」と言われた。「ただし、女優だけは手を出すなよ」と念を押され、その教えは今までしっかり守ってきた。また大船撮影所で俳優の笠智衆から「駅から撮影所までの道中、立っているものなら電信柱でも郵便ポストでも何にでも挨拶しなさい」と助言を受けた。その通り実行していたら食堂で助監督三人を引き連れた別の監督から「君面白いね」と声を掛けられ、新たな映画出演が決まったという。

「面舵いっぱい、のりたまで三杯!」というテレビCMのキャッチコピーはNHKのドラマ「ポンポン大将」に出演していた頃に小金治さん本人が思いついたものだとか。また、幼い頃父親にハーモニカを買って欲しいとねだったら、草笛を吹いてみせ「やってみな」と言われた。何日か頑張っているうちに吹けるようになった。そうしたある日学校から帰宅するとハーモニカが置いてあり、「努力の上に辛抱立てたんだ、報われて当然だ」と父から言われたというエピソードなどを語られた。

さらに寄席で三味線漫談家、粋談で有名な柳家三亀松が出演する時に客に受けるものだから押して(予定時間を超過して)しまい、トリを務める小文治師匠の持ち時間が少なくなるのを見るに見かねた小金治さんは三亀松に「あんたのせいでうちの師匠が迷惑している」と直談判に行ったそう。それを聞いた小文治は怒り、「三亀松師匠に謝れ!」と言った。しかし三亀松曰く、「いいんだよ。こいつが言うことが正しい」と帯をくれたとか。いい話を伺った。

最後は草笛で唱歌「故郷」を披露(大きい音が出てびっくり!)。また「大工調べ」で棟梁が啖呵を切るところを息も継がずにやり〆。充実した会だった。

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