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2012年5月

ミッドナイト・イン・パリ

評価:B+

Mid

アカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞。他に作品賞、監督賞、美術賞の計4部門にノミネートされた。映画公式サイトはこちら

ウディ・アレン脚本・監督作品にはひとつの原則がある。それはアレンが出演しない映画に傑作が多いこと。「カイロの紫のバラ」「マッチポイント」「それでも恋するバルセロナ」などが該当する。「ミッドナイト・イン・パリ」もまた然り。

ニューヨーク派で知られるアレンだが2005年以降はロンドン3部作「マッチポイント」「タロットカード殺人事件」「ウディ・アレンの夢と犯罪」を製作し、スペインの「それでも恋するバルセロナ」を経て今回はフランス。近年はヨーロッパで撮り続けている。次回作は「恋のロンドン狂想曲」だそうだ。

アレンは女優を魅力的に撮ることに長けた映画作家だ。「アニーホール」でアカデミー主演女優賞を受賞したダイアン・キートン、「カイロの紫のバラ」のミア・ファロー、「誘惑のアフロディーテ」でアカデミー助演女優賞を受賞したミラ・ソルビーノ、「マッチポイント」のスカーレット・ヨハンソン、「それでも恋するバルセロナ」でアカデミー助演女優賞を受賞したペネロペ・クルスなど枚挙に暇がない。「ミッドナイト・イン・パリ」でもレイチェル・マクアダムスとマリオン・コティヤール(フランス映画「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」でアカデミー主演女優賞受賞)が実に素晴らしい。輝いている。

コティヤールが演じるのはピカソの愛人アドリアナ。以前はモディリアーニの愛人でブラックとも同棲していたという。そしてベル・エポックの時代に憧れている。この設定が粋だね!

現代に生きる主人公(オーエン・ウィルソン)が夜12時の鐘の音と共に彷徨い込む1920年代のパリ。そこではコール・ポーターがピアノを弾き、ジャン・コクトー(詩人、映画監督)、ヘミングウェイスコット・フィッツジェラルドとその妻ゼルダ、ダリルイス・ブニュエル(ダリと組んだ実験映画「アンダルシアの犬」が余りにも有名)、マン・レイ(アメリカの画家、シュルレアリスト)、T.S.エリオット(イギリスの詩人。ミュージカル「キャッツ」の原作者)などが次々に現れる。ちなみにキャシー・ベイツ演じるガートルード・スタインはパリでヘミングウェイに対し「あなたたちはみな、失われた世代なのよ(You are all a lost generation.)」と言ったことで知られている。

映画を観る前にヘミングウェイの「武器よさらば」やフィッツジェラルド作/村上春樹訳の小説「グレート・ギャツビー」「バビロンに帰る」(および村上さんの解説)をあらかじめ読んでおけば、一層愉しめるんじゃないだろうか?映画でヘミングウェイが言う台詞が格好良過ぎて痺れる!コール・ポーターの人となりについては映画「五線譜のラブレター」をお勧めしたい。

魅惑的な、大人のメルヘン。そういう意味で「ミッドナイト・イン・パリ」は「カイロの紫のバラ」に近い作品と言えるだろう。

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松田理奈 ヴァイオリン・リサイタル with金子三勇士 (5/26)

ザ・シンフォニーホールへ。

Matsu

松田理奈さんのヴァイオリンを聴くのはこれが3回目。

ピアノは金子三勇士(かねこみうじ)さん。金子さんは日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、6歳で単身ハンガリーに渡った。国立リスト音楽院大学ピアノ科を卒業。名前はおそらく「ミュージック」に由来するものと思われるが、「さんゆうし」と読めるのも面白い。リスト(ハンガリー生まれ)を得意とする。ちなみに(オーストリア系である)リストの家庭ではドイツ語が使われていたため、彼は生涯ハンガリー語を話せなかったという。

曲目は

  • ブラームス/ハンガリー舞曲 第5、6、1番
  • ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
    (休憩)
  • クライスラー/プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
  • リスト/コンソレーション 第3番、ラ・カンパネラ(ピアノ独奏)
  • テレマン/12の幻想曲より第4番(ヴァイオリン独奏)
  • ドヴォルザーク/わが母の教え給いし歌
  • J.S.バッハ&グノー/アヴェ・マリア
  • カッチーニ/アヴェ・マリア
  • クライスラー/美しきロスマリン
  • マスネ/タイスの瞑想曲
  • サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン

アンコールは

  • ゼキーナ・アブレウ/ティコティコ
  • クライスラー/プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット

ハンガリー舞曲は元々、ロマ(ジプシー)の音楽なので情熱的で濃厚なイメージを抱いていたが、松田さんの演奏はむしろ透明感があり、清新。青春の息吹が感じられた。控えめにコントロールされたヴィブラート表現に気品がある。

ブラームス/ヴァイオリン・ソナタは一言一言語りかけるように、朴訥に開始される。繊細に作曲家の心のひだを手繰るように弾かれる。凛とした佇まいで瑞々しい!この第1楽章 第2主題はクララ・シューマンへの憧憬を表現したものだと僕は想っている。第3楽章には自作の歌曲「雨の歌」に基づく旋律が登場、これはクララが特に好んでいた歌だという。

クライスラーの「前奏曲とアレグロ」は決然として厳粛な精神性を湛えた演奏。

リストのピアノ曲は一音一音が磨かれ、明快に響き、過剰なロマンチシズムに陥らない。ラ・カンパネラ(鐘)は畳み掛けるテンポと切れがあり、金子さんは、ブタペストに生まれリスト音楽院で学んだジョルジュ・シフラの再来だなと想った。

テレマンは要所要所のみのヴィブラートで勝負。時代の精神にのっとったピリオド・アプローチに近い表現。格調高くお見事。

ドヴォルザークは力強く、太い低音が魅力的。

カッチーニはしっとりと美しく、クライスラーは歯切れよく、潔いワルツ。

サラサーテは野太い音で、弓が数本切れる熱演。

松田さんの使用楽器は某NPO法人から貸与されているJ.B.Guadagnini(ガダニーニ)。今回のリサイタルの準備を始めたときに電話があり、突然楽器の返却を求められたとのこと。「いつかは返さなければいけないと分かっていましたが、いざとなると愛着もあるので辛いです」と。友達からは「まるで不倫関係みたいだね」と言われたそう。だからこのリサイタルが別れとなり、最後は涙を流しながらの演奏だった。

レコード大賞などで歌手が泣きながら歌う場面には何度も遭遇したが、弦楽器では初めて。記憶に残る貴重な体験となった。

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ファミリー・ツリー

評価:B+

Descendants_2

原題は"The Descendants"(子孫たち)。これを別の意味のカタカナ(外来語)に置き換える邦題のセンスはあまり感心しない。

映画公式サイトはこちら。アカデミー脚色賞(原作あり)を受賞。他に作品賞、監督賞、主演男優賞、編集賞の計5部門にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞ではドラマ部門の作品賞と主演男優賞を受賞(他にミュージカル・コメディ部門あり)。

監督と共同脚本は「サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン。「サイドウェイ」はとても好きなコメディだ。"Loser"(人生の負け犬)二人連れがカリフォルニアのワイナリー(ナパバレー)をめぐる珍道中を描くロード・ムービー。なんと別の監督、小日向文世、生瀬勝久 主演でリメイク(「サイドウェイズ」)もされた。こちらは救いようのない駄作。

今回の新作はハワイが舞台で、ジョージ・クルーニー演じる主人公はカメハメハ大王の末裔らしい。大きな土地を持つ資産家で弁護士だから上流社会の人間である。

しかし映画が進行するにつれ脳死状態の妻が浮気していたことが判明し、ふたりの娘とも上手く行っておらず、どう接すればいいか分からない一種の"Loser"であることが次第に明らかになってゆく。

主人公一家はオアフ島に住んでいるが、高校生の娘を連れ戻すため寄宿舎のあるハワイ島に渡り、後半は妻の浮気相手に会うためにカウアイ島へも旅する。つまりこれもロード・ムービー仕立てになっているのである。

原題が示すように、主人公は祖先から引き継いだものを、子孫へどう伝えているかを真剣に見つめなおす。それが主要なテーマとなっている。

ほろ苦くて、主人公の滑稽な行動に笑ったり、ちょっと泣かされたり。映画の最後でもすべての問題が解決するわけではなく、でも最初より事態はちょっぴしだけ改善している。そして人生は続く……。そんな、素敵な映画である。

主人公と娘たちがテレビで放送されているフランスのドキュメンタリー映画「皇帝ペンギン」(アカデミー賞受賞)を観ている場面で「ファミリー・ツリー」は締めくくられる(画面は写らないが、モーガン・フリーマンによる英語吹き替え版のナレーションが聴こえてくるので、それとわかる)。意味深で印象的なラストだった。

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KOTOKO

評価:F

Kotoko

塚本晋也 監督作品。ベネチア国際映画祭において、革新性や斬新さが評価される「オリゾンティ部門」最高賞(グランプリ)を受賞。公式サイトはこちら

初めはノーマークだった。これを観る気になったのは、僕が大好きなドラマ版&映画版「モテキ」の大根仁 監督がTwitterで「今年の最高傑作」と絶賛していたからだ(大根監督は洋画では「ドライヴ」を一押しにされている)。

映画の出来云々をここで論じる気にはならない。とにかくこの作品に対しては嫌悪感しか感じなかった。それに尽きる。理屈じゃない。反吐が出る。映画館で鳥肌が立った。それだけだ。ヒロインを演じたシンガーソングライターのCoccoも大嫌いだ。生理的に受け付けない。

なんだかこのいや~な感じは以前にも体験したな、と考えていたら思い当たった。ラース・フォン・トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000、カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞)だ。以来、トリアー作品は一切観ていない(映画で不快な思いをしたくないし、時間の無駄だ)。考えてみたらあれもシンガーソングライターのビョークが主演・音楽を担当しており、ヒロインは息子と二人暮しのシングル・マザーという点でも両者は似ている。

また、KOTOKOが周囲の音に過敏に反応する塚本監督の演出は、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の二番煎じだと思った。

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有田正広/「パンの笛」~ルネッサンスから現代フルートまで歴史をたどる旅

5月18日(金)大阪府豊中市にあるノワ・アコルデ音楽アートサロンへ。

Noa

今更言うまでもなく、フラウト・トラヴェルソ(古楽器)を吹かせたら有田正広さんとベルギーのバルトルド・クイケンは世界のツートップとして並び称される、比類なき名手である。

以前、有田さんの教え子である前田りり子さんのコンサートを同じノワ・アコルデで聴いたし、有田さん本人の演奏をいずみホールで聴く機会もあった。

Arita

有田さんは曲ごとに、作曲された時代に合わせた10種類のフルートを吹き分けた。また桐朋学園大学2年生の教え子がお付きで来ていて、楽器のメインテナンスを担当。

曲目は、

  • ジョヴァンニ・バッサーノ/リチェルカータ第5番(1585)原曲:カッチーニ
    ルネッサンス・フルート、リヨン、1530、レプリカ
  • ファン・エイク/「笛の楽園」(1648)より
    わが麗しのアマリッリ、イギリスのナイチンゲール、ダフネが最も美しかったとき

    ルネッサンス・フルート、パリ、1636、レプリカ
  • ジャック=マルタン・オトテール/ランベールの宮廷歌曲より
    ある日僕のクロリスは(1720)
    バロック・フルート・ダモーレ、パリ、1730
  • フランソワ・クープラン/恋のうぐいす(1722)
    バロック・ピッコロ、パリ、1730、レプリカ(杉原広一 製作)
  • テレマン/ファンタジー 第7番、第8番(1727)
    バロック・フルート、ベルリン、1765、レプリカ(杉原&有田 製作)
  • ラヴェ&クヴァンツ/組曲 ホ短調(1750)
    バロック・フルート、ロンドン、1725、レプリカ(有田 製作)
  • アウグスト・エーベルハルト・ミュラー/モーツァルトの主題による変奏曲
    ピアノ協奏曲 第17番 第3楽章
    より(1810)
    H.グレンザー、クラシック・フルート、ドレスデン、1790
  • ジョアネス・ドンジョン/練習曲 作品10(1885)より
    エレジー、セレナード、風の歌
    ゴドフロワ&ルイ・エスプリ・ロット、初期ベーム式木製フルート、パリ、1851
  • クロード・ドビュッシー/パンの笛、またはシランクス(1913)
    L.ロット、ベーム式フルート、パリ、1913
  • 福島和夫/冥(1962)
    ムラマツ、ベーム式フルート、日本、1999
  • J.S.バッハ/無伴奏フルートのためのパルティータからサラバンド
    アンコール、前曲と同じムラマツで演奏

最初の2曲は一本の樹で作られたフルート。2本目は装飾が加わり、3本目(フルート・ダモーレ)になると分割されたものに。

1曲目のカッチーニは「愛」とか「ため息」の音型が登場。

18世紀のフランス貴族社会においてフルートは「紳士のたしなみ」と見做されるようになり、フルート・ダモーレになると太く豊かな音色に変化していった。僕は「人の声」に凄く近いなと感じた(フラウト・トラヴェルソは基本的に鳥の声を模している)。

「恋のうぐいす」は当初、バロック・ピッコロで吹かれる予定だったが、それは冒頭のさわりの部分だけになり、代わって有田さんは原曲のチェンバロで演奏された。「僕は昔から『気まぐれ』『身勝手』『子供っぽい』と言われてきたんですけれど、60歳を過ぎて何やってもいいだろうと開き直りました」と本人談。

6曲目を編纂したプラヴェはパリで活躍したフルート奏者で、クヴァンツはフリードリッヒ大王(プロイセン)のフルートの先生。有田さんの演奏はppが繊細で美しかった。

有田さんによるとモーツァルトはピアノ協奏曲第17番 第3楽章について、「僕が飼っている小鳥(ムクドリ)が作曲したんです」と語ったそうである。

ドンジョンは初めて聴いたが、幻想的で耽美。伸びやかで、時に切ない。いっぺんに魅了された。著名なフルート奏者マルセル・モイーズ(1889-1984)の先生だそう。高踏派(パルナス)の詩人ゴーティエに触発された曲もあり、それが朗読された。「セレナード」は地上にいる青年が2階のバルコニーにいる恋人に手を伸ばすが、なかなか届かないというユーモラスな情景を音の跳躍で表現しているという。ここでフルートはベーム式に進化し、円錐管から円筒管に改良された。

シランクス」は劇作家ムーレの舞台「プッシェ」の付随音楽として作曲された。ギリシャ神話に基づき、最後はパンの死が描かれている。

」は文字通り、冥界=死後の世界をテーマにした作品。西洋のフルートではなく、日本の篠笛をイメージして書かれている。有田さんは作曲家から楽譜に指示がない限り出来るだけタンギングをしないで欲しいと言われたそう。息(風)の音が印象的で、フルートの(カバード)キィを打楽器的に叩いたり、フラッター(舌を震わせながら吹く)などの技法が駆使されている。

一夜でフルートという楽器の歴史を一気に俯瞰出来る、素晴らしいコンサートだった。

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春團治、三枝、福笑/なにわ芸術祭 上方落語名人会

5月15日(火)、サンケイホールブリーゼへ。

  • 桂 吉坊/商売根問
  • 林家染弥/青菜
  • 笑福亭福笑/神通力(福笑 作)
  • 桂春団治/皿屋敷
  • 露の団六/鳥屋坊主
  • 桂 三枝/赤とんぼ(三枝 作)

商売根問」の前半部は「鷺とり」と共通。前座で聴く機会が多いのだが、三つ葉を売るエピソードは今回初めて聴いた。へー、こんなのがあったんだ!

染弥さん、最近ちょっと太った?彼は(染丸師匠と違って)女性を演じるのが不得手。

福笑さんの新作は過激で爆笑!民主党のマニフェストを「嘘つき」呼ばわりするのには胸がスカッとした。全く同感。「魔法使いサリー」や「アルプスの少女ハイジ」を歌う場面も愉しい。

今回一番のお目当ては「皿屋敷」。春団治さんの「代書屋」や「祝いのし」はそれぞれ五回ずつくらい聴いたのだけど、このネタに当たったことはなかった。時折見せる笑顔が可愛らしく、指先まで神経が行き届いた所作が美しい。またお菊さんが井戸から立ち上って来る場面は幽玄な世界を醸し出していた。他の噺家が演じる時ほど立ち上がらない(上下の動きが少ない)のも新鮮だった。これぞ至芸。絶品。

三枝さんの芸は柔らかい。「赤とんぼ」は童謡・唱歌をテーマにした創作落語。「どんぐりころころ」についての会話で”どじょう内閣”も登場。時事ネタの取り込み方がさすが。実はこの唱歌の歌詞は2番までしかなかったが、別人が3番を作ったという事実は初めて知った。三枝さんはさらに4番を作り、この歌をエンドレス(円環運動)に。その発想が愉快だ。笑いながらも、日本語の美しさを再認識させられた。

最後に、下座(お囃子)で笛を担当した笑福亭喬若さんが澄んだ音でむっちゃ上手かったことを付記しておく。彼の落語を面白いと思ったことは一度もないが、笛は文句なしに名人だ。

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幻の「こんな私じゃなかったに」(川島雄三 監督)上映!/桂小金治 出演映画を観る会

5月12日(土)阿倍野区民センターへ。

Koki

落語家・桂文我さんの主催で、桂小金治(八十五歳)さんが役者として初めて出演した松竹映画「こんな私じゃなかったに」(昭和二十七年、1952)の鑑賞会。ふたりの対談あり。

監督は川島雄三。日本映画の金字塔「幕末太陽傳」(フランキー堺 主演)が余りにも有名。これは落語「居残り佐平次」「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「死神」などをベースにシナリオが書かれている。またスタジオ・ジブリの鈴木敏夫プロデューサーが川島の最高傑作と推す「洲崎パラダイス 信号」や「雁の寺」にも痺れたねぇ。

こんな私じゃなかったに」は当時の流行歌で、「上海帰りのリル」や「銀座の恋の物語」と同様の、いわゆる歌謡映画である。出演は水原真知子、宮城千賀子、山村聡ら。DVD等で発売されておらず、文字通り幻の作品。既に35mmフィルムは失われたが16mmは綺麗な状態で現存しており、それが上映された。

想像以上に面白くてびっくりした。ヒロインは洋装で、大学で化学の研究を続ける、所謂”モダン・ガール”(1920年代は略して”モガ”と呼ばれた)。一方、その姉は元・芸者で、現在は稽古屋(←上方落語でお馴染)を営んでいる。いつも和服姿の古風な女。しかし劇中で主人公は家の経済状態が悪く、姉が借金を抱えていることを知る。彼女は大学に通いながら、夜は芸者のアルバイトを始める。つまり「古い日本の因習」と「新しい自由な空気」との狭間で激しく揺れ動くことになるのである。この構図が実に新鮮だ。また彼女の恋人が天文学者で、ベガとアルタイルについての薀蓄を語る場面がいい。速いダイアログ、土砂降りの雨などが印象的。ユーモアのセンスもあって、やっぱり川島雄三はモダニストであり、天才監督だったと改めて実感した。プロット自体が落語「持参金」を下敷きにしていると感じさせる点も興味深い。またヒロインが恋人にビンタを食らわせる場面で画面の端に犬が登場、文我さんの解説によるとこれは浮世絵に出てくる手法なのだそうである。深いっ!

水原真知子が三味線にのって端唄「春雨」を踊る場面が美しかった(文我さんは「あの踊りは完璧で、寸文の狂いもない」と絶賛)。また桂小金治さんは幇間(太鼓持ち)役で登場。撮影当時二十六歳、落語家になって五年目だったそう。劇中では「餅の滝登り」や鶏が卵を産む場面など、お座敷芸を披露。

上映後の対談によると、当時「二つ目」だった小金治さんは、四谷にあった寄席小屋「きよし」で高座に上がると、その都度後ろの壁にもたれて聴いていた客から「狸の賽!」とか「長短!」などとリクエストされたそうである。後から知ったのだが、それが助監督三人を引き連れて来ていた川島雄三監督だった(「川島監督は畳席が好きだった」)。そうしたある日、楽屋でお茶子さんから大きな名詞を渡された。裏を返すと手書きで「一献(いっこん)献じたし。いかが?」と書かれていたという。その夜、川島監督と落語の話や貧乏の話をしていると、「映画に出てみないか?」と誘われた。演技の経験がないと躊躇うと「あたしの言うとおりに動いていればいいんだよ」と言われた。翌日、撮影所の重役に会うと、片手を広げて「(ギャラは)これでどうか?」と問われた。当時前座の給料は一回二百から四百円が相場だったので、五百円貰えるのかと思った。ところが実際は一本五万円×年間六本の契約だった。小文治師匠(上方出身)に相談すると、「やりゃあええやないか。わしより高給取りになったな」と言われた。「ただし、女優だけは手を出すなよ」と念を押され、その教えは今までしっかり守ってきた。また大船撮影所で俳優の笠智衆から「駅から撮影所までの道中、立っているものなら電信柱でも郵便ポストでも何にでも挨拶しなさい」と助言を受けた。その通り実行していたら食堂で助監督三人を引き連れた別の監督から「君面白いね」と声を掛けられ、新たな映画出演が決まったという。

「面舵いっぱい、のりたまで三杯!」というテレビCMのキャッチコピーはNHKのドラマ「ポンポン大将」に出演していた頃に小金治さん本人が思いついたものだとか。また、幼い頃父親にハーモニカを買って欲しいとねだったら、草笛を吹いてみせ「やってみな」と言われた。何日か頑張っているうちに吹けるようになった。そうしたある日学校から帰宅するとハーモニカが置いてあり、「努力の上に辛抱立てたんだ、報われて当然だ」と父から言われたというエピソードなどを語られた。

さらに寄席で三味線漫談家、粋談で有名な柳家三亀松が出演する時に客に受けるものだから押して(予定時間を超過して)しまい、トリを務める小文治師匠の持ち時間が少なくなるのを見るに見かねた小金治さんは三亀松に「あんたのせいでうちの師匠が迷惑している」と直談判に行ったそう。それを聞いた小文治は怒り、「三亀松師匠に謝れ!」と言った。しかし三亀松曰く、「いいんだよ。こいつが言うことが正しい」と帯をくれたとか。いい話を伺った。

最後は草笛で唱歌「故郷」を披露(大きい音が出てびっくり!)。また「大工調べ」で棟梁が啖呵を切るところを息も継がずにやり〆。充実した会だった。

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柳家さん喬・喬太郎 親子会@亀屋(5/9)

大阪府高槻市にある割烹旅館・亀屋へ。

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  • 柳家喬太郎/たらちね
  • 柳家さん喬/天狗裁き
  • 柳家喬太郎/紙入れ
  • 柳家さん喬/幾代餅

今まで「きつねうどん」のことを、大阪の人はみな「けつねうろん」と言うと信じ切っていたというエピソードをマクラに。「たらちね」は上方の「延陽伯」を江戸に移殖したもの。嫁を貰うことが決まった主人公の照れる表情が可愛らしい。また喬太郎さんの口演はリズム感があって聴いていて心地いい。

江戸には「羽団扇」として残っていたが上方では滅んでいた噺を、桂米朝さんが文献から掘り起こし復活させたものが「天狗裁き」。現在はこの型が再び東京に輸出され、主流となっているようだ。さん喬さんは年増の女を演じるのが上手くて味がある。また男衆は気風がいい。ヨッ、江戸っ子だね!上方版と比べると天狗がコミカルで軽やか。こういう東西の違いも興味深い。

紙入れ」のマクラで喬太郎さんは「夫婦は二世の契りと申します」と始められた。「子は一世、主従は三世、間男はよせ」と続く。また「現在は《不倫》と申しますが、一昔前は《浮気》と申しました。そっちの方がいいですね。不倫だと(大声で)『倫理に反する!』と堅苦しい」で会場爆笑。ネタの方は百戦錬磨のおかみさんが表情豊かで愉しい。

古今亭が得意とする「幾代餅」は釈ネタ。その昔、真龍斎貞水という講釈師が十八番として高座に掛けており「名物幾代餅」という速記本が残っているらしい。また類似した噺「紺屋高尾」も元は同じと考えられる。さん喬さんの口演は最弱音(ピアニッシモ)から最強音(フォルテッシモ)までコントラストが鮮やか。この師弟の高座は「音楽的」という共通点がある。またマクラで噺家同士では「あいつは面白い、とか、上手い」で評価するが、お客さんは落語家を「好きか嫌い」で判断する。「そうやって我々の芸を買っていただいているのです」と。成る程、その通りだなと想った。例えば僕は東京の立川志の輔さんや上方の桂福團治さんが嫌いである(弟子の福丸くんは好き。すごい若手)。いや、確かに上手いのは分かる。でも生理的嫌悪感を感じるのだから、どうしようもない(特に志の輔さんは「ここで泣け!」みたいなあざといあの「間」に虫唾が走る)。ただ僕みたいな強烈なアンチを生むってことは、それだけ個性と実力がある証拠。だって俎上にのせる(語る)価値すらない噺家って沢山いるもの。結局、芸っていうのは理屈じゃないんだね。

喬太郎さんは少々お疲れのご様子で、亀屋の会も今後の予定は全く白紙なのだそう。ゆるりと英気を養われて、また元気な姿で上方にいらして下さい。気長にお待ちしています。

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笑福亭鶴瓶@繁昌亭朝席(ゴールデンウィーク特別興行)

5月5日繁昌亭へ。

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  • 桂 三弥/くもんもん式学習塾(三枝 作)
  • 桂 文三/四人癖
  • 笑福亭三喬/延陽伯
  • 林家笑丸/演芸落語
  • 桂春之輔/蛸芝居
  • 桂 米八/曲独楽
  • 桂 九雀/軽石屁
  • 笑福亭鶴瓶/オールウェイズ お母ちゃんの笑顔(私落語)

文三さんは眉毛を擦る癖の男がエキセントリックで面白かった!

三喬さんはさすがの上手さで聴かせる。

笑丸さんは後ろ紙切り(うさぎ)とウクレレの弾き語りで「若手落語家のバラード」
を披露。芸達者。

春之輔さんは音痴で、歌舞伎の所作が決まらない。ネタがニンに合ってない。

軽石屁」は伊勢参りを題材にした東の旅シリーズの一篇を落語作家・小佐田定雄さんが脚色・復活させたもの。難点はアホの喜六が考えた計略にしては賢すぎること。

鶴瓶さんを5/5に寄席で聴くのはこれが3回目くらいだが、ネタはみな「お母ちゃんの笑顔」。こどもの日はこれと決めておられるのかも知れない。確かに傑作だとは想うが、正直もう飽いた(8回くらい聴いた)。今度は是非「癇癪」を聴きたいな。

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大植英次/大フィルのマーラー交響曲第3番

5月10日(木)兵庫県立芸術文化センターへ。

Oue

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、

  • マーラー/交響曲 第3番

を聴く。アルト独唱はエストニア出身のアネリー・ペーボ。さらに大阪フィルハーモニー合唱団大阪すみよし少年少女合唱団が参加した。

会場は満席(2,001席)。大植さんは演奏時間100分のシンフォニーを暗譜で指揮。

第1楽章冒頭(牧神の目覚め)。9本のホルンによる勇壮な第1主題は非常に速いテンポで開始される。ところが途中からリタルダンドがかかり減速。エッ?とびっくりしていると再び急加速。さすが策士・大植英次。いきなり仕掛けてきた!こんな解釈、前代未聞である。重々しい第2主題を経て、オーボエによる第3主題は軽やかで空中に浮遊する。そして行進曲のリズムに乗ってクラリネットによる愉快な第4主題が登場すると、伸びやかで躍動感溢れる展開部へ(夏が行進してくる)。感興に満ち、豊かに歌う。生き生きとしたリズム、アクセントが効いている。後半の加速が凄い。そしてクライマックスで自然が吼える!のを僕は確かに聴いた。

メヌエットとスケルツォが交差する第2楽章(草原の花々が私に語ること)も動的で、生命の鼓動が感じられる。

第3楽章(森の動物たちが私に語ること)は滑稽で、おどけた感じがよく出ている。マーラーはウィーンで活躍したが、実は幼少期をチェコ辺境の村カリシュトで過ごしている。そのボヘミア的資質がこの楽章に色濃く感じられる。一方、中間部に舞台裏で演奏されるポストホルンが美しい。

独唱が登場する第4楽章(夜が私に語ること)では深い谷底から響いてくるようなアネリー・ベーボのアルトがブリリアント!一言一言噛み締めるように発せられ、思索に富み包容力ある歌唱に魅了された。

合唱が加わる第5楽章(天使たちが私に語ること)は無邪気でイノセント。そして第6楽章(愛が私に語ること)は穏やかで天国的。息の長い旋律をしっとりと、万感の想いを込めてオーケストラが歌い上げる。押しては引く感情の波。音楽は次第に高揚していき、その幸福感のうちにこの大作は締め括られた。

ホルンさえもう少し上手ければ100点満点の名演だったのに、と惜しまれる。この一点において、昨年夏に聴いた京響のマーラー3番の方に軍配が上がる。

大フィルは最大の課題である金管の強化を急げ!

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玉造・猫間川寄席(4/25)

玉造さんくすホールへ。

  • 桂佐ん吉/疝気の虫
  • 林家花丸/電話の散財
  • 桂 文我/おたおたの太助
  • 桂 米平/雁風呂
  • 桂 文我/関津富

佐ん吉さんは蝉の幼虫が孵化し脱皮する様子を延々6時間くらいじっと見るのが好きだという話をマクラに。

花丸さんは宝塚歌劇にはまっていて、最近では月に14-5回観劇しているとか!宝塚大劇場・バウホール、梅田芸術劇場公演の演目を1月から7月まで紹介する一幕もあり。また5月公演「近松・恋の道行」では古い大阪弁を勉強するために、ジェンヌが染丸師匠のところに通っており、その稽古に花丸さんも同席されたそう。「電話の散財」はハメモノが賑やかで愉しかった。また先代・柳家小さんが初めて携帯電話を持ったときのエピソードをマクラで披露。

おたおたの太助」、別名「牛の嫁入り」は聴いていて「お玉牛」の後半部分(夜這いの場面)を独立させたものだと判明。帰宅し調べてみると春團治さんの「お玉牛」は「おーい!ウップの万兵衛、おたおたの太助、あばばの茂兵衛……」という呼びかけで始まるそう。文我さんは他に「ぞろぞろ」「だくだく」「にゅう」等、けったいな落語の演題を紹介。しかしこの噺、「暗がりから牛を引き出す」というサゲの意味が分からなかった。ネットで疑問が氷解したが、皆さんご存知でした??

雁風呂」は釈ネタ(講談由来)。「水戸黄門漫遊記」の一部だそう。掛川の宿が舞台となる。米朝さん、雀松さん、先代の歌之助さんらが手掛けていたらしい。日本から遠く離れた常盤(ときわ)という国があり、秋になるとそこから雁が函館へ渡って来る。雁は旅立つときに柴をくわえて飛び、疲れるとこれを水の上に落としてそれに止まって休むという言い伝えがあるそうだ。また大阪に今でもある淀屋橋は「淀屋」という豪商が架けたもので、その財力が武家社会の脅威となったために幕府からお取り潰しの命が下ったというエピソードは初めて聞いて驚いた。

関津富」(せきのしんぷ)は文無しの俳諧師が主人公。これも珍品。別名「武者修行」とも言うらしい。小林一茶が妻を離縁したエピソードや、猿猴捉月(えんこうそくげつ)の話も。

落語って色々勉強になる。

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遂に出現「華麗なる舞曲」決定版!/なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2012

ザ・シンフォニーホールへ。

Nani

年一回、プロ・オーケストラの管楽器奏者が全国から結集する吹奏楽の祭典、なにわ《オーケストラル》ウィンズ(以下、NOWと略す)を聴く。今年は記念すべき10回目。昨年あった東京公演は会場の都合で今年はなく、大阪公演のみ2日間開催された。

指揮は大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部の丸谷明夫先生(丸ちゃん)と岡山学芸館高等学校吹奏楽部の中川重則先生。岡山学芸館は昨年、全日本吹奏楽コンクール自由曲で「華麗なる舞曲」を披露し、見事に金賞を勝ち取った。中川先生はNOWの過去10回の公演、皆勤賞だそうである(昨年まで客席で)。岡山学芸館の生徒たちも沢山聴きに来ていた。

5月3日(1日目)

  • スパーク/ジュビリー(五十年祭)序曲 (中)
  • オリヴァドーティ/イシターの凱旋 (丸)
  • 福田洋介/さくらのうた(課題曲  I ) (中)
  • 和田信/行進曲「希望の空」(課題曲 IV ) (丸)
  • スウェアリンジェン/狂詩曲「ノヴェナ」 (丸)
      休憩
  • モリセイ/組曲「百年祭」 (丸)
  • 長生淳/香り立つ刹那(課題曲 V)
  • リード/小組曲 (丸)
  • スミス/華麗なる舞曲 (中)

5月4日(2日目)

  • スパーク/ジュビリー(五十年祭)序曲 (中)
  • ワルターズ/西部の人々 (丸)
  • 足立正/吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」(課題曲 III ) (中)
  • 土井康司/行進曲「よろこびへ歩きだせ」(課題曲 II ) (丸)
  • カーター/ラプソディック・エピソード (丸)
      休憩
  • バーンズ/アパラチアン序曲 (丸) 
  • 長生淳/香り立つ刹那(課題曲 V )
  • 福島弘和/百年祭(NOW2012用 改訂版) (中)
  • スミス/ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲 (中)

プログラムは上記曲目となっているが、実際は今年の吹奏楽コンクール課題曲が2日間とも全曲演奏されるという大盤振る舞い。これは都合で連続来ることが出来なかった中・高生への配慮と想われる。

また、アンコールもサーヴィス満点だった。

  • (1日目)ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲 
    (2日目)華麗なる舞曲 
  • アルフォード/シン・レッド・ライン (丸)
  • 岩井直溥/アメリカン・グラフティ XV
    (虹の彼方に〜ローズ〜ダイヤが一番) (丸)

また開演30分前にウェルカム・コンサートがあり、次の曲が演奏された。

  • モリコーネ/映画「ニュー・シネマ・パラダイス」より
    メイン・テーマ~愛のテーマ~トトとアルフレード~成長
    (サックス四重奏)
  • リード/エル・カミーノ・レアル
    (ホルン五重奏、指揮と踊り:村上哲)

休憩時間にはサックス七重奏とマリンバ三重奏(マリンバ一台を三人で演奏)も。

丸ちゃんが客席に調査したところ、東京方面から聴きに来た人が50人くらい。また北海道や熊本から駆けつけたお客さんも。

さて、それぞれの曲について感想を書いていこう。

スパーク/ジュビリー(五十年祭)序曲は昨年の東日本大震災に際し、「陽はまた昇る」という楽曲を日本に提供し、その印税を全額被災地に送ってくれた作曲家スパークへの感謝の気持ちを込めて演奏された。NOWも昨年、いち早くこの曲を取り上げている。

曲は輝かしいファンファーレから開始される。そして主部は軽快に。変拍子が耳に心地よい。NOWの音は柔らかく、ホールを包み込むかのよう。

イタリア生まれのオリヴァドーティはまるでオペラのアリアのように美しい旋律が次々と現れる。まろやかで、ロマンティック。

ワルターズ/西部の人々は50年位前の曲。淀工吹奏楽部に入部したばかりの1年生はまずフルトンの「海兵隊」に取り組み、次に写譜をして勉強するのが「西部の人々」で、これは20年ほど前まで続いた伝統だったそう。簡単だが、なんだか懐かしさを感じさせるメドレー形式の音楽。またワルターズには「インスタント・コンサート」という28の名曲をたった3分に凝縮した作品もあるとか。

さくらのうた(課題曲  I )は久石譲さんの音楽を彷彿とさせる。もっと言えば「千と千尋の神隠し」に近い雰囲気。綺麗だがメリハリに乏しく、コンクールで勝てない曲だと僕は想う。

NOW恒例の実験では、丸ちゃん曰く「薄い」課題曲 I を「もっと薄くしたらどうなるか?」指揮者の目の前はサックス四重奏のみ、残りはオーケストラ配置でもう一度演奏。

行進曲「よろこびへ歩きだせ」(課題曲 II )を聴いて気が付くのはコラール風の教会音楽であるということである。僕は「この作曲家はクリスチャンに違いない」と確信した。そこで帰宅後、調査を開始した。すると……

土井康司氏プロフィール(抜粋):1964年、福岡県生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科で学ぶ。テレビ番組、ゲーム音楽等の制作を手がけていたが1987年、クリスチャンとなり、キリスト教音楽の創作を始める。作曲家として賛美の音楽を作る一方、クリスチャン・アーティストのアルバム制作においてディレクターを務める。また、福音讃美歌協会 (JEACS) 讃美歌委員として讃美歌編集に携わる。

BINGO !やっぱりガチだった。そもそもタイトルからして意味深である。こういうタイプのマーチは今までの課題曲になく、実にユニークな試みである。それにしても天理教や創価学会系の学校がこの曲を選ぶことはあるのだろうか?またコンクール全国大会が開催される普門館は宗教法人「立正佼成会」が所有するホール。そこにキリスト教の賛美歌が響くというのも面白い。

実験は透明感ある小編成と、音に厚みが感じられる大編成と2回演奏された。

吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」(課題曲 III )は日本の祭を連想させる。そして「停電でも演奏できるか?」というテーマで、各自が好きな所へ行って他の奏者が見えない位置で吹くという実験あり。こちらは勿論指揮者抜き。

行進曲「希望の空」(課題曲 IV )はコンクールで演奏するという人が多い人気曲。マーチといえば丸ちゃん。引き締まり生き生きした表現力。またこれを指揮する時の表情がなんとも嬉しそう。実験は楽譜で指定されたオプション楽器なし(小編成)と、あり(大編成)でどう違うかを聴き比べ。いずれも活気があって吹奏楽の楽しさを満喫した。

長生淳/香り立つ刹那(課題曲 V )の指揮はNOW代表でコンサートマスターの金井信之さん(大フィル・クラリネット奏者)が担当された。僕はシェーンベルクの12音技法を経て、無調音楽が主流となった事が20世紀のクラシック音楽を駄目にした(聴衆の支持を失った)と想っているので、こういう曲はどうしても好きになれない。

カーター/ラプソディック・エピソードは躍動感があって格好いい!中間部はハーモニーの美しさが際立った。

モリセイ/組曲「百年祭」の第1楽章は壮麗。第2楽章はハーモニーの美しさ。そして金管と打楽器のみで鄙びた感じの第3楽章を経て終楽章のマーチへ。

バーンズ/アパラチアン序曲は2日目のリハーサルでも聴いたのだが、その時はフルート、クラリネット、サクソフォンがそれぞれ1人ずつ、14人による極小編成版だった。本番は通常編成。溌剌とした演奏で、アパラチア山脈の雄大な景色が目の前に広がるようだった。

リード/小組曲 I. イントラーダ(序奏)は高貴な雰囲気。II. シチリアーナ(シチリア風舞曲)はもの悲しく旅愁がある。III. スケルツォは子供がはしゃいでるかのよう。IV. ジーグ(アイルランドの速い舞曲)にはそこはかとない哀感が漂う。

福島弘和/百年祭は2005年、学校創立100周年にして廃校になった奈良県立城内高校の最後の吹奏楽部員10人のために作曲された。これを吹奏楽コンクールの奈良県大会で審査員として聴いた大フィル・ホルンの村上さんが感動し、関西大会ではクラリネットの金井さんがやはり審査員の立場で聴き涙を流したという。そして今回、その金井さんからの委嘱で大編成にアレンジされた。冒頭はボロディンの「中央アジアの草原にて」を彷彿とさせる雰囲気。しっとり、たおやか。優しい楽想が心に染み入る。凛とした佇まいがあり、深い感銘を受けた。これはけだし名曲!盛大な拍手の中、ステージに上がった福島さん。「書いて良かった。感無量です。声をかけて頂いて、人と人の絆の大切さを学びました」と。

ルイ・ブルジョアの賛歌による変奏曲」は初めて聴いた。冒頭から音符の多さにたまげた!さすがスミス。万華鏡のように色彩感溢れる音楽。いいねぇ。全国大会では近畿大学、福岡工業大学、精華女子高校の3団体しか取り上げていないそうで、もっと演奏されてしかるべき曲だと想った。

同じC.T.スミスの「華麗なる舞曲」は2009年に精華女子高等学校が全国大会@普門館で金賞を獲った時や、プロの吹奏楽団・大阪市音楽団定期演奏会で聴いている。

原題は"Danse Folâtre"(Folâtreは「活発な」とか「滑稽な」という意味)。作曲家はアメリカ人なのに何故かフランス語なのである。これについてNOWメンバーで東京フィルハーモニー交響楽団オーボエ奏者の加瀬孝宏さんが疑問をtwitterに呟いておられた。僕もじっくり考えてみた。そしてひとつの仮説にたどり着いた。クロード ・T・スミスの名前の綴りはClaudeで、これはクロード・ドビュッシーと同じである。つまりスミスはフランス系アメリカ人か、両親がドビュッシーを好きだった可能性がある。さらに全音音階の多用というスミスの音楽的特徴はドビュッシーにも共通する。つまり自分のルーツであるフランス音楽に対するオマージュとしてフランス語による命名をしたのではないだろうか?ドビュッシーには「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」( Danse sacrée et Danse profane )という作品があり、タイトルがそれに呼応しているとも考えられる。また変奏曲の主題となったルイ・ブルジョアはフランスの教会音楽作曲家である。

丸ちゃんは中川/岡山学芸館による「華麗なる舞曲」岡山県大会の演奏を録音で聴き、直ぐに中川先生に電話をしたそうである。「すごいで、アンタのとこは!」が、審査員の評価は県大会も中国地区大会も芳しくなかった。「どないなっとんねん!」しかし、全国大会は圧巻のパフォーマンスで文句なしの金賞に輝いた。丸ちゃん曰く「普門館が唸っていた」

さてNOWの「華麗なる舞曲」は実にダイナミックな演奏。聴いていて燃えた!それでもさすがに超絶技巧を要する難曲だけに、1日目はトランペットやファゴット等に微細な瑕があった。しかし2日目の演奏はさらに進化しており、パーフェクト。リズムに切れがあり、熱い塊がビュンビュン飛んでくる気合の入った演奏に唖然。音圧が凄かった。特にユーフォニアムの世界的名手・外囿祥一郎さん(航空中央音楽隊ソリスト)の人間離れした壮絶なパフォーマンスには心底痺れた。必聴!

この演奏会の模様は5月31日にライヴ録音CDが発売される。是非「華麗なる舞曲」は2日目のものを採用してもらいたいなぁ。

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~大栗 裕よ永遠に~ フィルハーモニック・ウィンズ大阪 定期

4月30日いずみホールへ。

Osakan

フィルハーモニック・ウィンズ大阪(通称:オオサカン)の定期演奏会。大阪では大阪市音楽団に続く、プロの吹奏楽団(NPO法人)である。ちなみに関西フィルハーモニー管弦楽団も特定非営利活動法人(NPO)である。

今回は没後30周年にあたる作曲家・大栗 裕(1918-191982)の特集。

  • 吹奏楽のための小狂詩曲
  • 巫女の詠えるうた
  • 大阪俗謡による幻想曲
  • 交響的断章「序奏と舞」(木村吉宏 編曲)
  • 吹奏楽のための交響詩「日本のあゆみ」
  • 中村八大/世界の国からこんにちは(EXPO'70テーマソング)
    アンコール

元・大阪市音楽団の団長(兼)常任指揮者で、生前の大栗とも親交があった木村吉宏さんがタクトを取られた。木村さんは大阪音楽大学でクラリネットを専攻されている。

オオサカンを聴くのは初めて。面白いなと思ったのはコンサートミストレスがクラリネット奏者だったこと。というのは大阪市音楽団やシエナ・ウインド・オーケストラ、東京佼成ウインドオーケストラなど他のプロ吹奏楽団はみなサクソフォン奏者がコンサートマスターなのである。オーケストラのコンマスは第1ヴァイオリン奏者と相場が決まっているが、吹奏楽の場合は特にないみたい。

オオサカンの実力は世界でもトップクラスの大阪市音楽団(市音)にはさすがに及ばないが、少なくともトランペットやホルンは大阪フィルハーモニー交響楽団より明らかに上手い。京都市交響楽団レベルくらいかな。大したものだ。

吹奏楽のための小狂詩曲」は1966年全日本吹奏楽コンクール課題曲。

巫女の詠えるうた」はジャズのビートでリズミカル。冒頭の呪術的な部分と中間部の日本的叙情の対比が鮮やか。

大阪俗謡による幻想曲」は吹奏楽コンクール用に短縮された淀工版ではなく、全曲版(演奏時間約12分)。ホルンが吼えて気持ちがいい!木村さんの指揮ぶりは決して荒っぽくならず始終冷静で、その棒から紡ぎ出されるサウンドには透明感がある。

序奏と舞」は1957年に朝比奈隆の指揮でフランクフルトとブリュッセルで演奏されたオーケストラ曲を木村さんがアレンジ。能楽「羽衣」に基づくもので、鼓を打つなどお囃子による合いの手を西洋の楽器で再現しようという試みが興味深い。

日本のあゆみ」はナレーション付き。ペリーの黒船来航(大砲の音)から始まり、明治維新の官軍の歌(トンヤレ節)がリコーダー演奏で登場、さらに日露戦争の軍歌「戦友」、第一次世界大戦後の流行歌「船頭小唄」「丘を越えて」「酋長の娘」「二人は若い」等の引用を経て進軍ラッパを吹き鳴らす第二次世界大戦へ突入。戦後の焼け跡に「りんごの歌」が流れ、やがて東京オリンピックのファンファーレへ。日本人が明るい未来を信じることが出来た時代。輝かしい金管の音が力強い説得力を持ってホールに響き渡った。

演奏も良かったし、珍しい大栗の楽曲が聴けて嬉しかった。

このは

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