アカデミー作品賞、監督賞受賞「アーティスト」と、キム・ノヴァクの過激な批判!
評価:B+
「アーティスト」公式サイトはこちら。
アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)、衣装デザイン賞、作曲賞の5部門を制覇。フランス映画が作品賞を受賞するのは史上初の快挙であり、サイレント映画の受賞は第1回「つばさ」以来、実に83年ぶりである。
物語は目新しいものではないが、サイレントらしい表現方法(例えば口のアップをモンタージュで重ねる)が際立っていた。あと犬の名演技が素晴らしい!
ミシェル・アザナビシウス監督はアカデミー賞授賞式で「私の人生を共に歩んでくれた3人の人物に感謝したい、ビリー・ワイルダー、ビリー・ワイルダー、ビリー・ワイルダー!」と言った。
主人公に忠実な運転手クリフトン(ジェームズ・クロムウェル)がワイルダー脚本・監督「サンセット大通り」に登場する執事マックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)へのオマージュであることは明らかだろう。「サンセット大通り」(1950)もかつてサイレント映画の大スターだったノーマ・デズモンドを主人公にしている。ただしこの「アーティスト」は「サンセット大通り」のような悲劇ではなく、むしろプロットとしてはミュージカル映画「雨に唄えば」(1952)に近い。そして主人公とヒロインによるタップ・ダンスの場面はフレッド・アステア&エレノア・パウエルによる至福の”ビギン・ザ・ビギン”(映画「踊るニューヨーク」Broadway Melody 1940)を彷彿とさせる。ちなみに”ビギン・ザ・ビギン”の名場面は「ザッツ・エンターテイメント」(1974)にも収録されている。
また僕がとても嬉しかったのは本作のクライマックス・シーンでバーナード・ハーマンがヒッチコック映画「めまい」の為に作曲した、まことに美しい音楽"Scene d'amour"(愛の場面)が丸まる転用されていたこと。この曲大好きなんだ!!
しかし「めまい」(1958)でヒロインを務めたキム・ノヴァク(78歳)は次のような驚くべき声明を業界紙Varietyに発表した。
「これはレイプにほかなりません。私の身体、少なくとも女優としての身体が、『アーティスト』という映画によって暴行された気持ちです」
「注目を集めるために、有名な作品の一部を乱用し、その作品が意図する以上に、新しい作品でより多くの喝采を浴びようとすることは、この業界に身を置く芸術家としてモラルに反することです。観客の感情を盛り上げるために『めまい』の愛のテーマを、『アーティスト』のクライマックスに使用したことは間違いありません。“死人に口なし”でヒッチコック監督や(主演男優の)ジェームズ・スチュアートは何も言えませんが、私が代わりに言います。恥を知りなさい!」
これに対し、レイプ被害者やその保護団体は次のように反撃した。
「この事態をレイプにたとえるのは極端すぎるし、適切ではない」
「本当にレイプされたのではないのにレイプという言葉が軽々しく使用されると、実際に苦しんでいる何千万人の被害者の苦しみが軽んじられることになる」
まさに場外乱闘。対岸の火事は大きいほど面白い。しかし世の中、色々な考え方の人がいるもんだ。
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コメント
うーむ。雅哉さんはこの批判どう思いました? そりゃキム・ノヴァクはいろいろ言う権利はあるでしょうけど。
投稿: S | 2012年4月24日 (火) 20時16分
そりゃ当然、キム・ノヴァクの非難は見当外れです。「めまい」の音楽の使用は過去の作品への敬意の表明ですし、盗作ではなくちゃんと権利料を支払い、正規の手続きを踏んでいるのですから。
でも「めまい」は彼女の出演作の中で唯一後世に残る永遠の傑作ですし、その自分の大切な想い出が汚されたように感じる気持ちは分からないではありません。
投稿: 雅哉 | 2012年4月25日 (水) 07時31分