4月20日(金)ザ・シンフォニーホールへ。
作曲家・大栗裕(1918-1982)は大阪船場の小間物屋問屋に生まれた。天商に入学しその音楽部(天商バンド)でホルンを始めた。朝比奈隆に請われ関西交響楽団(現・大阪フィルハーモニー交響楽団)のホルン奏者として活躍。作曲は独学。吹奏楽曲も多数書いた。
なおピアノが弾けなかった大栗はハーモニカを吹いて作曲をしたという。
さて今回は出演者だけで総勢400人にも及ぶ大規模なもの。19時開演で終演は21時40分に及んだ。プログラム順に曲を列記する。
○ 特別編成100人のホルン・オーケストラ
- 2つのファンファーレ
- 交響管弦楽のための組曲「雲水讃」第1楽章より
- ベートーヴェン/自然における神の栄光(大栗 編)
○ 大阪音楽大学OBホルン・アンサンブル
○ 関西学院大学マンドリンクラブ(指揮:岡本一郎)
○ 大阪市音楽団
- 吹奏楽のための小狂詩曲
- 吹奏楽のための神話~天の岩屋戸の物語による
○ 大阪フィルハーモニー交響楽団
- 琴と管弦楽による六段の調 (八橋検校 作/大栗 編)
with 中島警子+桐絃社 (箏)
- ファンファーレ 大阪における医学総会のために
- 日本万国博覧会 EXPO'70讃歌
- 交声曲「大阪証券市場100年」より記念歌
- ヴァイオリン協奏曲より第3楽章
with 長原幸太(Vn.)
- 大阪俗謡による幻想曲
(初演版、スコアには「大阪の祭囃子による幻想曲」と記載)
指揮は手塚幸紀さんと泉庄右衛門さん。
冒頭のホルン・アンサンブルはのどかで、広大な風景や山彦(やまびこ)を連想させた。
「馬子唄」はチャイコフスキーの交響曲第4・5番、ティルオイレンシュピーゲルの愉快ないたずら、新世界から、ニュルンベルクのマイスタージンガー、中央アジアの草原にて、火の鳥、木星、英雄の生涯、「軽騎兵」序曲などからの引用あり(ホルンが活躍する部分)。また出演者が「馬子」と「馬の足」に扮しての小芝居も。だから「変奏」ではなく「変装曲」。初演時は大栗自ら「馬子」を演じたとか。
マンドリンによる「舞踏詩」は物悲しく始まり、ロシア的。途中クラリネットやフルートも参加。後半は明るくなって踊り出す。
「小狂詩曲」は1966年全日本吹奏楽コンクール課題曲(日本吹奏楽連盟からの委嘱作品)。伊福部昭(ゴジラ)を彷彿とさせるオスティナート(執拗反復)あり、「祭だ、祭だ、ワッショイ、ワッショイ!」あり、わらべ歌的要素あり。これぞ大栗節。
「吹奏楽のための神話」は以前、丸谷明夫/大阪府立淀川工科高等学校(淀工)が吹奏楽コンクールで自由曲として演奏し、金賞を受賞している。バーバリズムと変拍子が特徴的。呪術的で異教の儀式を連想させる。そういう意味ではストラヴィンスキーの「春の祭典」に近い。なお、会場で丸谷先生をお見かけした。
休憩を挟み後半。15人の箏の演奏は日本情緒溢れていた。
「医学総会」のための曲は華やか。
「Expo '70」は無邪気な曲。未だ日本人が明るい未来(鉄腕アトムの世界)を信じることが出来た、幸福な時代の産物という気がした。
「大阪証券市場100年」はR.シュトラウスばりにホルンが大活躍。
ヴァイオリン協奏曲は土俗的で粘っこい。今年3月まで大フィルのコンサートマスターを務めた、長原さんが好演。これは終楽章だけではなく、全曲を聴きたい!
「大阪俗謡による幻想曲」についての詳細は下記に詳しく述べた。
僕がこれまで生で聴いたことがある「大阪俗謡」は次の4つのバージョンである。
- 1970年改訂 管弦楽版
- 吹奏楽 全曲版(演奏時間12分)
- 吹奏楽 淀工版(演奏時間8分)
- 吹奏楽 辻井清幸による校訂版(演奏時間8分)
ところが今回はな、な、なんと!ベルリン・フィルのアーカイブ(資料室)に保管されていたという、1956年の管弦楽初演版(大阪の祭囃子による幻想曲)が演奏されたのでびっくりした。
1970年管弦楽改訂版を聴くと、「大阪俗謡」はむしろストラヴィンスキー「春の祭典」に近いと感じていたのだが、初演版はもっと泥臭く、粗野で、荒々しい印象だった。成る程、これならば当時ベルリンの新聞に「東洋のバルトーク」と評されたことが理解出来ると初めて腑に落ちた。つまり1970年の時点で作曲家としての経験を積んだ大栗のオーケストレーションは磨きがかけられ、洗練されてきたということなのだろう。僕は例えば上方の落語家・六代目 笑福亭松鶴のだみ声を連想させるような、原典版の方が好きだな。
NAXOSから発売されている「大阪俗謡」は70年改訂版なので、大阪フィルは是非原典版の方も録音し、世に問うべきだと僕は考える。それが使命ではないだろうか?
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