在阪オケ問題を考える 2012年版
2007年7月に僕は次のような記事を書いた。
あれから5年経た現在の問題提起をしたい。だからその前提として、予め上記をお読み下さい。なお橋下徹 氏が大阪府知事になったのは、この記事の翌年であるということにご注目頂きたい。
さて、2008年1月に当選した橋下さんは知事時代に大阪(現・日本)センチュリー交響楽団への府の補助金約4億円を廃止した(2011年度より)。センチュリー響は民営化に向けスポンサー探しをしているが、未だに見つかっていない。また大阪フィルハーモニー交響楽団に対して1億2300万円あった府の補助金と貸付金は2009年度以降、廃止された。
そして2011年12月、橋本さんは大阪市長になった。ここで浮上してきたのが市から大フィルへの補助金1億1000万円をどうするかということ。これは楽団の年間予算の1割を超える。
2012年4月12日付け読売新聞からの抜粋
大阪市の橋下徹市長は10日の大阪府・市統合本部会議で、在阪の交響楽団などが1億円の公的支援を競うコンテスト案を提示した。
補助金見直しを進める市の改革プロジェクトチームは大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)への年1億1000万円の補助金の25%カット案を打ち出している。橋下市長は「補助金をもらうのが当たり前になっている。賞金1億円のコンテストを開き、楽団同士で競わせてはどうか」と提案。音楽イベントの開催など優勝楽団への特典にも言及した。
この市長案には賛成しかねる。大阪には4つのプロ・オーケストラがある。大フィル、センチュリー、大阪交響楽団、そして関西フィルである。仮にこの4つが公的支援を競ったとする。今年は1億円を勝ち取ったとしても、来年は負けて貰えないかも知れない。これでは収入が安定しない。楽団運営はギャンブルではないのだ。
5年前の「在阪オケ問題を考える」でも語ったように、僕は大阪府に4つもオーケストラは必要ないと思っている。それほどの需要はクラシック音楽界にない。不経済だ。一方で奈良県や和歌山県、三重県、滋賀県にはプロ・オーケストラがない。偏り過ぎだろう。
僕は在阪オケを統廃合し、2つか3つに絞るべきだと考える。ただし関西フィルと大阪交響楽団はいままで公的支援なしで頑張ってきた楽団なので、焦点となるのはセンチュリーと大フィルである。この2つが合併するのが現時点で一番の合理的解決策ではないだろうか?
日本センチュリー交響楽団は大阪府豊中市にある服部緑地公園(公益法人・大阪府公園協会管轄)内に練習場を所有したまま、財団の基本財産20億円のうち2011年度は約2億6000万円を取り崩し、再生の道を探っている。つまり、このままいくと2018年には運営資金が底をつく計算になる。
大フィルとセンチュリーが合併した場合、まず公的資金投入を一本化できるというメリットが生まれる。また両楽団内オーディションを行うことで、実力向上が期待できる。大フィルの弦楽器群は非常に優秀であり、関西一の実力であることは誰も異論ないだろう。しかし如何せん弱いのが管楽器、特に(ピッチが合わない)ホルンと(しばしば音を外す)トランペットである。このセクションは明らかに京都市交響楽団や大阪市音楽団の方が断然上手い。弦高管低のアンバランス。これが大フィル一番の問題点である。関西の誇りとなるためにはオーケストラを強化する必要がある。そして合併することでそこに生存競争が生じれば、「既得権益」ではなくなる。
オーケストラの合併は決して珍しいことではない。2001年には東京フィルハーモニー交響楽団が新星日本交響楽団を吸収合併した。
またニューヨーク・フィルは1921年にナショナル交響楽団、'23年にニューヨーク・シティ交響楽団、'28年にはニューヨーク交響楽団を吸収している。
オーケストラの解散とか統合という話になると、必ず「伝統を尊重せよ!」「オーケストラ文化の灯を消すな!」といった反論が出てくる。しかしここで議論する必要があるのはあくまでお金の問題であって、音楽の文化的意義とは関係がない。そこを勘違いされませんように。
ABC朝日放送がザ・シンフォニーホールを二束三文で売却することを決めたニュースが象徴するように、関西の企業は既に4つのプロ・オーケストラを支援する経済的余力がない。そして地方自治体もしかり。それでもどのオケも潰すなと主張するのであれば、
- 大阪に絶対に4つのプロ・オーケストラを残さないといけない必然性
- ではそれを維持するための資金はどうするのか?
以上の2点につき、明確な説明をするべきだろう。
冷静にこの問題を考え、現実的な議論をしようではありませんか。
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