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2012年3月 2日 (金)

ロイド=ウェバー作曲/ミュージカル「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」(「オペラ座の怪人」続編)鑑賞記

アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲した「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」(Love Never Dies)を日本語字幕付きブルーレイで観た。オーストラリア・メルボルン公演版である。

Love1

「オペラ座の怪人」続編計画は20世紀終わりごろからあった。1998年にロイヤル・アルバート・ホールで開催されたロイド=ウェバー生誕50年を祝うコンサートでは「オペラ座の怪人2」に使用する予定のソロ曲がキリ・テ・カナワにより歌われた。

しかし、作曲家からの依頼でフレデリック・フォーサイス(「ジャッカルの日」「オデッサ・ファイル」)が執筆した小説「マンハッタンの怪人」が1999年に出版されるも、非常に出来が悪く、この計画は一旦頓挫する。そしてキリ・テ・カナワが歌った曲は2000年にロンドンで初演された新作ミュージカル"The Beautiful Game"に流用された。

「オペラ座の怪人」続編計画が持ち上がった時から、ファンの間では「ロイド=ウェバーも、とち狂ったか?」「馬鹿なことはよせ」「名作を汚すな」と批判的意見が大勢を占めていたので、これでさすがに作曲家も諦めたかに思われた……しかしそうではなかった。

Loveneverdies

問題作「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」は2010年3月9日にロンドンで初日を迎え、2011年8月27日に千秋楽となった。約1年半という短命であり、どの程度の出来か推察出来るだろう。ちなみに他のウェバー作品のロンドンにおけるロングラン記録を列挙してみよう。

ジーザス・クライスト・スーパースター」 6年
エビータ」 7年半
キャッツ」 21年
スターライト・エクスプレス」 18年
オペラ座の怪人」 昨年25周年を迎え、現在も続演中。
アスペクツ・オブ・ラブ」 3年
サンセット大通り」 3年半

今回物語は大きく見直されたが、パリ・オペラ座の事件から10年後、ニューヨークのコニー・アイランドに舞台を移すという設定は「マンハッタンの怪人」からそのまま踏襲されている。

メルボルン公演は2011年5月より始まり、現在はシドニーで続演中。公式サイトはこちら。ブロードウェイと日本での上演は決まっていない。むしろその可能性が低いからこそ、プロモーションの意味をかねてこの早い時期にDVDとブルーレイがリリースされたのだろう。オーストラリア版では台本に手が加えられ、新演出かつ衣装もセットも一新された。

いや~それにしても爆笑した。「作曲家自身の手で、世紀の傑作『オペラ座の怪人』をここまで貶めることができるのか!」と始終笑いっぱなし。むしろ別人が手がけていたら腹が立つだけで、これだけ楽しめはしなかっただろう。このディスクを買って良かったと心から想う。

とにかく突っ込みどころ満載。「オペラ座の怪人」の出来を満点の10とするなら、「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」の音楽的完成度は5~6、台本はといったところだろうか。

まず「オペラ座の怪人」で貴公子だったラウルは借金まみれで落ちぶれ、アルコール漬けの毎日を送っている。こんなラウルは見たくなかった……。

「オペラ座の怪人」でパリ・オペラ座バレエ団の団員だったメグ・ジリーは、しがないサーカス団の一員に身を落としている。こんなメグは見たくなかった……。

メグの母親マダム・ジリーも登場するのだが、彼女の告白には仰天させられ、あんぐり口をあけた。そ、そ、そんな事実があったのか!!

「オペラ座の怪人」の魅力のひとつはミステリアスなところで、例えばファントムとクリスティーヌには性的関係があったのか?つまり「やったか、やらないか」をはっきりさせず、観客の想像力に任せていることにあると想う。長年ファンの間でも熱い議論が交わされたものだ。しかし「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」は有無を言わさずあっさり答えを提示してしまう。身も蓋もない。ファントムの登場場面も多すぎ。神秘性もへったくれもない。

つまり前作にあった格調の高さがこの続編には欠如しており、薄っぺらくて安っぽい昼メロ(soap opera)に成り下がっている。

ファントム、クリスティーヌ、ラウルの三角関係は前作の繰り返し。観ていて既視感(デジャヴ)に囚われた。

そして物語の終盤、ピストルで自殺しようとするメグ・ジリーを「思い直せ!」とファントムが説得する場面で、僕は思わず「あんさん、以前はそういうキャラと違いましたやん!」と画面に突っ込みを入れた。

音楽の方はゆったりしたバラード系の曲が多く、(「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」の)プッチーニ的カンタービレ、甘美さはあるのだけれど、前作の持つ緊迫感に欠ける。なんか全体に緩いんだよね。ただクリスティーヌが歌うソロ"Love Never Dies"はとても美しい曲なので、これだけは唯一、後世に残るかも知れない。

時々「オペラ座の怪人」の旋律が蘇る場面があるのだが、その都度「若い頃はこんなに才能ある音楽を書いてたんだ!」と、ハッとさせられた。しかし、今となっては昔のこと。歳月は残酷である。

このように台本と音楽は三流だが、ファンタスティックで豪華な美術装置と衣装は素晴らしい。クリスティーヌを演じる女優さんは綺麗だし、役者も一流。だから退屈はしない(ただしミュージカルとして、台本と音楽だけが駄目ってどうよ!?という気もするのだが)。

「オペラ座の怪人」におけるファントムは作曲者自身の、そしてクリスティーヌはサラ・ブライトマンのメタファーである。サラは「キャッツ」のジェミマ役として初演オーディションに合格し、ロイド=ウェバーの目に留まった。ふたりは1984年に結婚、サラのためにウェバーは「オペラ座の怪人」を作曲し、86年に初演。さらにロンドンのオリジナル・キャストだけにとどまらず、ブロードウェイでも俳優協会の反発を押し切って彼女をクリスティーヌ役に起用した。しかし1990年、ふたりは離婚した。今回「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」を観て分かったのは、ウェバーは未だにサラに未練があり、戻ってきて欲しいんだなということ。その気持ちだけは痛いほど伝わってきた。まこと哀れな男である。

さて、本作がブロードウェイや日本に上陸する日は果たして来るのだろうか!?見ものだね。

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コメント

うわ!これこわいもん見たさで観たい感じ(笑)
>ピストルで自殺しようとするメグ・ジリーを「思い直せ!」とファントムが説得する場面で・・・
笑ってしまう~ファントムの眼中にはメグ・ジリーは存在しませんもんね。

それにしてもあの25周年アニバーサリーに特別出演してくれたサラの声量が哀れでした。

投稿: jupiter_mimi | 2012年3月 4日 (日) 22時59分

でしょ?第一作ではファントムにとってメグ・ジリーなんて(生きようが死のうが)どうでも良かった筈なんですよ。彼にはクリスティーヌしか見えてなかった。

こんな具合で全編、爆笑につぐ爆笑。息つく暇もありません。是非ご覧あれ!

コメントありがとうございました。

投稿: 雅哉 | 2012年3月 7日 (水) 07時41分

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