ヒューゴの不思議な発明(3D)
評価:A
アカデミー作品賞、監督賞などにノミネート。撮影賞、美術賞、視覚効果賞、録音賞、音響効果賞の5部門を受賞した。映画公式サイトはこちら。
原題はシンプルに"HUGO"であり、この邦題には嘘がある。だって発明をしたのはヒューゴではないからだ。
マーティン・スコセッシ監督が心優しい3Dのファンタジー映画を撮ったと聞いた時は、すごく違和感があった。何故なら「タクシー・ドライバー」(カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞)「グッドフェローズ」「ディパーテッド」(アカデミー作品賞・監督賞受賞)などスコセッシといえば”暴力映画”というイメージだから。しかし本編を観てその疑問は氷解した。
「ヒューゴの不思議な発明」には世界最初の映画であるリュミエール兄弟の「(ラ・シオタ駅への)列車の到着」「工場の出口」(1895)や、エジソン「アーウィンとライスの接吻」(1896)、ジョルジュ・メリエス「月世界旅行」(1902)、D・W・グリフィス「イントレランス」('16)、チャールズ・チャップリン「キッド」('21)、ハロルド・ロイド「要心無用(ロイドの時計台)」('23)、バスター・キートン「The General(キートン将軍)」('27)などサイレントの映像が引用されている。ロイドの「要心無用」は本編の伏線にもなっている。
スコセッシは古いフィルムの修復・保存を目的とする組織「ワールド・シネマ・ファンデーション」のチェアマンを務めており、彼の尽力により「赤い靴」('48)、「アラビアのロレンス」('62)など過去の名作が鮮やかな画面で蘇った。つまり本作は映画(それも初期サイレント)への熱いオマージュになっているのである。スコセッシ版「ニュー・シネマ・パラダイス」と言ってもいい。
ならば3Dである必然性も理解出来る。「飛び出す映像」は魔術師でもあったジョルジュ・メリエスへの敬意の表明であり、そこには21世紀の「見世物小屋」としてのワクワク感がある。駅で脱線する蒸気機関車など効果抜群であった。
ただ僕は上記サイレント作品を殆ど観ているのでスコセッシの意図に甚く共鳴したが、映画史に全く興味のない人が本作を観て、果たして面白いと感じるかどうかは正直良く分からない。
パリの街を見下ろす映像から始まってどんどんカメラが突き進み、モンパルナス駅構内にワン・カットで入ってしまう冒頭のシーンが素晴らしい。往年のヒッチコック映画を髣髴とさせた(スコセッシは「タクシー・ドライバー」の音楽をヒッチコック映画で名高いバーナード・ハーマンに依頼した。それがハーマンの遺作となった)。主人公の少年が駅の時計台に住んでいるという設定は、まるで「オペラ座の怪人」か「ノートルダムのせむし男」みたいで愉しい(どちらもパリが舞台)。またヒロインのクロエ・グレース・モレッツちゃんは文学少女という設定で、少年と蒸気が噴出す地下通路?を駆け抜ける場面で興奮気味に「ジャン・バルジャンになったみたい!」と叫ぶところは爆笑した(ミュージカル「レ・ミゼラブル」を観れば分かります。現在その映画版が撮影中)。
また「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で2度アカデミー作曲賞を受賞したハワード・ショアが本作の為に書いた音楽を僕は死ぬほど好きだ!!と最後に強調しておく。惜しくも今回、アカデミー賞はノミネートに留まったが、受賞しても良かったんじゃないかな。
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