「砂糖合戦」「強情灸」/柳家三三で北村薫。
3月11日兵庫県立芸術文化センターへ。柳家三三さんのひとり舞台。
東日本大震災から丁度一年という特別な日だからか、開演前の会場にはJ.S.バッハ/G線上のアリアや、ゴルトベルク変奏曲が静かに流れていた。
- 《円紫さんと私》シリーズより 「砂糖合戦」
仲入り - 強情灸(古典落語)
- 柳家三三×北村薫/対談(司会:戸塚成)
このシリーズは前回も聴いた。北村薫や《円紫さんと私》のことはそちらで詳しく語ったので、下記をお読み下さい。
観客のうち女性率は7~8割。戸塚プロデューサーが挙手を求めたところ、既に原作を読んでる人が8割。三三さんが「away感があります」とポツリ。なお彼が原作を読んだのは中学生の時で、それからのファンだという。
「砂糖合戦」では紅茶がロココ的でコーヒーはバロックを連想させるという話題が登場する。成る程と想った。紅茶を飲んでいるのは貴族的雰囲気があるし、一方バロックの巨匠J.S.バッハは「コーヒー・カンタータ」を作曲している。またシェイクスピアの「マクベス」に登場する3人の魔女の台詞「きれはきたない、きたないはきれい」が引用されており、これは下記記事で論じた内容のヒントとなった。
「強情灸」は頑固な主人公がいかにも江戸っ子で、気風がいい。
対談では江戸の火消しには「いろは四十八組」あったが「へ」「ひ」「ら」「ん」組はなかったという話題が。「へ」は屁、「ひ」は火を想起させ、「ん」は語呂が悪いといった具合。その代わりに「百」「千」「万」「本」が使われたという。
三三版「砂糖合戦」が初演されたのは2011年3月26日、東京。東日本大震災の直後だった。会の後に北村薫さんのサイン会があり、福島県から来たというお客さんも。「地震の後は本が読めなくなった。でもここで描かれている日常に救われた」と語ったという。それを聞いた北村さんも勇気をもらったと。また三三さんは「真摯に、一生懸命生きる。それが生き残ったものの使命です」と力強く宣言された。
北村さんは最初、この企画が持ち上がった時に、「和服を着て座布団に正座して演じるのかな?」と思われたそう。しかし三三さんはスーツを着て立って登場、やがて高座に腰掛けるというスタイルにされた。その理由について「落語というのは本来、演者がナレーションをしたり、会話で進めていきます。しかしこの小説はひとり語りであり、視点が『私の目』に固定されている。だから(落語と)違うものとして、あの形がやり易かったんです」と解説された。
「三三」(さんざ)と命名された理由について、小三治師匠が「耳でスッと聞けて、漢字を見て『エッ?』と目立つように」と付けたという。ただこれを寄席文字で書くとパッとしないのが難点だとか。
色々面白いエピソードも聴けて、有意義な会だった。
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