アンドリュー・ロイド=ウェバー《最後の》傑作ミュージカル「サンセット大通り」日本上演をめぐって
アンドリュー・ロイド=ウェバーが作曲したミュージカル「サンセット大通り」の日本初演がようやく決まった。主な出演者は安蘭けい、田代万里生、鈴木綜馬ら。詳細はこちら。
21歳の時に作曲した「ジーザス・クライスト=スーパースター」をはじめ、「エビータ」「キャッツ」「オペラ座の怪人」など若い頃のロイド=ウェバーは確かに天才だった。しかし才能は枯渇することもある。例えば小室哲哉。ビートルズ解散後のレノンやマッカートニーもそう。そして彼らと同じく今のロイド=ウェバーは生きる屍と表現しても過言ではない(「オペラ座の怪人」の続編「ラヴ・ネバー・ダイズ」については後日詳しく語ろう。既にメルボルン公演版をブルーレイで鑑賞済み)。そのウェバーが最後に書いた傑作が「サンセット大通り」である。彼がこの作品の後、すぐ死ぬか引退して(ロッシーニやシベリウスみたいに筆を折り、悠々自適の生活を送って)いれば、人々からその才能を惜しまれたことだろう。世界の人々から「20世紀のモーツァルト!」と賞賛された栄光の日々も、今は昔。
「サンセット大通り」はブロードウェイでの上演に際し、トニー賞の最優秀ミュージカル作品賞や楽曲賞など7部門を受賞した。
本作はビリー・ワイルダー監督の同名映画(1950)を原作としている。サイレント(無声)時代にハリウッドの大女優だったという設定の主人公ノーマ・デズモンド(物語の時点では既にトーキーに移行)を演じたグロリア・スワンソンは撮影当時51歳。当初ワイルダーは引退していたグレタ・ガルボ(当時44歳)を希望したが、断られたそう。
ロイド=ウェバーのミュージカル「サンセット大通り」がロンドンのウエスト・エンドで初演されたのが1993年。その時主演したパティ・ルポンは44歳。またバーブラ・ストライザンドはこの年に発表したアルバム「バック・トゥ・ブロードウェイ」の中で、このミュージカルのナンバー"As If We Never Said Goodbye"を歌った。
(ロサンゼルスのプレミアを経て)ブロードウェイで初演されたのが1994年。グレン・クローズはトニー賞で主演女優賞を受賞した。47歳だった。当初ブロードウェイでも主演する契約をしていたパティ・ルポンはウェバーを訴え、100万ドルを勝ち取った。またグレン・クローズの後、ロサンゼルス公演に主演予定だったフェイ・ダナウェイ(53)は歌が水準にまで達していないと作曲家に判断され解雇となり、こちらも訴訟に発展した。大仕掛けの豪華なセットや度重なる訴訟により、このプロダクションは結局赤字に終わった。
日本では1996年ごろからロイド=ウェバーたっての要望で劇団四季での上演計画があった。ノーマ役は「キャッツ」ロングラン・キャスト版CDでグリザベラを歌っている志村幸美に白羽の矢が当たったが、志村はその直後に肺がんを罹患し闘病生活の末98年に死去。享年39歳だった。そして計画自体も立ち消えになった。
恐らく上演が頓挫した代償の意味もあったのだろう、98年に開催された長野オリンピックのオープニングで総合演出を担当した劇団四季の浅利慶太はウェバーのミュージカル"WHISTLE DOWN THE WIND"から2曲を使用し、森山良子が歌った(「明日こそ、子供たちが…」)。
映画化の話も何度か浮上したが実現には至っていない。「ディパーテッド」「ヒューゴの不思議な発明」のマーティン・スコセッシ監督が一時期、食指を動かしたと聞いている。現時点でノーマの(名前が挙がった)有力候補はライザ・ミネリと、舞台でも演じたグレン・クローズである。またノーマに雇われる脚本家ジョー・ギリス役は是非、ヒュー・ジャックマンに演ってもらいたいと僕は想っている。ちなみに彼はミュージカル「サンセット大通り」オーストラリア公演で同役を演じた(その動画は→こちら)。
そして月日は流れ、21世紀になった。2006年にサッカーを題材にしたロイド=ウェバーの「ビューティフル・ゲーム」が四季以外で初めて上演された(詳細は→こちら)。2007年にはホリプロが笹本玲奈主演でミステリー・ミュージカル「ウーマン・イン・ホワイト」を上演。僕は遂に「サンセット」への道が開かれたと感じた。
- 笹本玲奈/ミュージカル「ウーマン・イン・ホワイト」千秋楽
(2010年の再演)
以前テレビで、鳳蘭さんと麻美れいさんが「サンセットのノーマを是非、演じてみたい」と異口同音に熱く語るのを見たことがある。日本初演で抜擢された宝塚男役出身の安蘭けいさんは41歳。今回のニュースを聞いて「若過ぎるんじゃないか、ちょっと荷が重いのでは?」と感じた。しかし彼女は優れた歌唱力と演技力の持ち主だから、期待したい。また今後、再演を重ねることで他のノーマも是非観たい。なにしろ沢山の大女優たちが演じたいと希う垂涎の役なのだから。
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コメント
はじめまして。よろしくお願いします。
安蘭けいで上演されるのですか。以前ロンドンで観ました。
95年にエリザベートをウィーンで観たときはまさか宝塚で上演するとは思ってもみませんでした。私もファントム、エリザベート、レ・ミゼなどミュージカルが大好きです。
先日ウィーンミュージカルコンサートに行ってきました。
日本人キャストもうまい人ばかりですが本場の人が来ると、おしゃるようにサッカーのような力の差を思い知らされてしまいます。
投稿: hitomi | 2012年3月20日 (火) 19時36分
hitomiさん、コメントありがとうございます。
日本人キャストの実力アップは目覚しいものがあります。僕が高校生の頃に観た劇団四季「ウエストサイド物語」とか、大学生で観た東宝「レ・ミゼラブル」のパフォーマンスと比べると隔世の感があります。
「サンセット大通り」の安蘭さんは若すぎるとは思いますが、実力派キャストを揃えているので、期待したいですね。
それではこれからも、どうぞよろしくお願いします。
投稿: 雅哉 | 2012年3月21日 (水) 08時56分