大植英次/大フィル「大地礼賛」定期!
ザ・シンフォニーホールへ。
大植英次 音楽監督、最後の大阪フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会。補助席までギッシリ満席。
- ベートーヴェン/交響曲 第6番「田園」
- ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
今回は「大地礼賛」がテーマであるといっても過言ではないだろう。「田園」で描かれるのは穏やかな自然。そして大地への生贄を捧げる「春の祭典」は荒ぶる自然を鎮める儀式(舞踏)が行われる(「人柱」もこれに近い)。またこの両者はどちらも、ディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」で使用された楽曲であることも注目すべき点である。これは嘗て大植さんがミネソタ交響楽団との来日公演のために計画したプログラムだったが、2001年の同時多発テロのため中止となったものだそう。
「田園」は第1ヴァイオリンと第2Vn.が指揮台を挟んで向かい合う対向配置。ハルサイは通常配置(第1Vn.の向かいはヴィオラ)。大植さんは「田園」を指揮棒なしで、ハルサイは短い指揮棒で振られた。すべて暗譜。
変拍子が錯綜する「春の祭典」は指揮者泣かせだ。ゲオルク・ショルティが改訂者のクラフトに、どうして繰り返し改訂されてきたのか、どの版を使えばいいのか尋ねたところ「変拍子をストラヴィンスキー自身が指揮出来なかったため」と返答があったという。岩城宏之も暗譜指揮に挑戦して失敗、中断したことがある(著書「楽譜の風景」より)。
また歴史に名高い初演時の混乱については下記映画が見事に描いているので、是非ご覧になることをお勧めする。
さて、定期の話に戻ろう。「田園」は自然の息吹が感じられ、共感に溢れた演奏。ニュアンスに富む豊かな歌、柔らかく多彩な音のパレット。僕は宮崎アニメ「魔女の宅急便」にも使用されたユーミンの歌「やさしさに包まれたなら」という言葉を想い出した。舞曲の第3楽章は力強く前進し、第4楽章の「嵐」はパンチが効いている。そして第5楽章で漲るのは包容力と開放感!これは”地球賛歌”である。テンポを落とした終結部はあたかも祈りの音楽のよう。日が沈む。そして人々は祈る。「明日もまた、平穏な一日でありますように」
「春の祭典」は鋭い弦の切り込み、金管の唸りと咆哮、鮮烈な打楽器の強打が印象的だった。人間の本能を覚醒する原始的なリズム!揺れる大地、噴出すマグマ。音楽が沸騰する。しかしその解釈は”バーバリズム(野性味)”とか”爆演”とかとは無縁。終始冷静な眼差しで、知的にカッチリ制御されている。ある意味、ピエール・ブーレーズに近い名演だと感じた。
割れんばかりの喝采の中、大植さんは楽員にその短いタクトを託した。そして客席最前列の人々全員と握手していく。万感の想いが込められた一夜の情景だった。
余談だが「春の祭典」を聴くと、アフリカのリズムやインドネシアのガムラン(民族音楽)が感じ取れる。そこで調べてみたのだが、ストラヴィンスキーは少なくとも1962年にアフリカに旅行していることが判明した。関心を持っていたことは確かだ。問題はハルサイが初演された1913年に彼がアフリカ音楽を知っていたかどうか。実に興味深い音楽史のミステリーである。
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コメント
雅哉さん、こんばんは。
記事興味深く拝見しました。二日目を聴かれたのでしょうか?
むしろ私は、この「ハルサイ」、泥臭い演奏として聴きました。帰ってきて、ミネソタ時代の演奏も聴きましたが、ミネソタとの演奏の方がずっと垢ぬけて聴こえましたね。これは、やっぱり、大フィルのせいなんでしょうか?(笑)。
でも、腹に堪える、良い「ハルサイ」でしたね。
投稿: ぐすたふ | 2012年2月21日 (火) 00時38分
ぐすたふさん、コメントありがとうございます。
仰るように明るい、垢抜けたミネソタ交響楽団のサンドに比べると、大阪フィルのそれは如何にも野暮ったく、田舎臭いですね。多分それはベートーヴェン、ブルックナーを得意とした朝比奈時代から続く、ドイツ的響きなのでしょう。17〜18世紀、洗練された音楽の先進国といえばイタリア、フランスであり、ドイツは田舎でしたから。
考えてみるとブーレーズは旧盤も新盤も「ハルサイ」をクリーブランド管弦楽団と録音しており、アメリカ的明晰な音を求めたのかも知れませんね。
ナチス・ドイツ、ホロコーストの影響もあり、ヨーロッパからアメリカに移住した音楽家は非ドイツ系が多いと思われます。
投稿: 雅哉 | 2012年2月22日 (水) 00時37分