「震災音楽」の衝撃!/いずみシンフォニエッタ大阪 定期
1月28日(土)いずみホールへ。
飯森範親/いずみシンフォニエッタ大阪 定期演奏会。
開演30分前、恒例のロビー・コンサートを担当されたのはマリンバ奏者の沓野勢津子さん(彼女のブログは→こちら)。
- エリック・サミュ(アストル・ピアソラ原曲)/リベルタンゴ
- エカルド・コペツキ/割れた鏡の上でのダンス
- クロード・ドビュッシー/ゴリウォーグのケークウォーク
開演15分前、飯森さんと企画・監修の西村朗さん(作曲家)によるプレ・トークを経て、今回のプログラムのテーマは「抑圧からの挑戦!」
- ヴァスクス/カンタービレ
- デニソフ/室内交響曲 第2番
- 新実徳英/室内協奏曲 第2番 TERRA(世界初演)
- ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲 第1番
ラトヴィア(バルト三国の一つ)のヴァスクスが作曲したカンタービレは弦楽合奏のみ。ドレミファソラシの白鍵のみを使用し川、森、鳥の声など自然を描く静謐で美しい楽曲。しかしちゃんと20世紀的和声もあり、エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトに近いなと感じた。
エディソン・デニソフはシベリアの放射線物理学者の家庭に生まれ、数学を専攻していたという変り種。編成にピアノやハープも取り入れた室内交響曲はいかにも現代音楽。
初演となる新実徳英/室内協奏曲 第2番 TERRAは、「震災音楽」とも呼べるような内容。これは21世紀の日本を代表する大傑作だと想った。ちなみにTERRAとは地球とか大地といった意味で、室内協奏曲 第1番はAQUA(水)だそう。
作曲家でいずみシンフォニエッタ大阪プログラム・アドヴァイザーの川島素晴さんはプログラム・ノートにこう書かれている。
作曲家の世界では、これまでいわゆる「昭和一桁世代」の充実ぶりが指摘されてきた。戦争体験を持つか否かという線引きによって、確かに、その創作に見られる根源的な力の相違を見せつけられてきた。しかし、筆者は思う。今を生きる日本の作曲家は、否が応でも、再び「3.11を知る世代」として線が引かれることであろう。
新実さんは「その時」、東京・水道橋駅の電車の中にいたという。そして帰宅後、テレビで信じられないような映像を見ながら書きかけだった弦楽四重奏曲の第2、第3楽章を仕上げていった。
作曲家の言葉を引用すると、今回の新作は「荒ぶる神と鎮める神」(Storming God, Calming God)への捧げものだそう。「この齢になってかくも情けない日本を見なければならないとは想像すらしなかった。その自分にも責任があると思うとき、心は折れ曲がりそうになる。が、こんな時こそ音楽は『力』を持たなければならない」これには作品番号AE.10が付いており、AEとはAfter Earthquakeの意味だそう。つまり東日本大震災以降、10作目となる。
楽譜を読んだ飯森さんは被災地に近い山形交響楽団の音楽監督を務めているだけに、「(魂に)来たっ!」と感じたそう。
第1楽章は大地の蠢き、押し寄せる津波が描かれる。叫びと怒り。空恐ろしい音楽。第2楽章は福島原発事故を想起させる黙示録。闇を劈くサイレンの音、凍りつく恐怖。そして鐘が響く第3楽章は祈りと鎮魂歌。
僕はこれを聴きながら伊福部昭の「ゴジラ」を連想した。広島への原爆投下やその後の水爆実験が「ゴジラ」を生み、東日本大震災と福島原発事故が新実のTERRA を生んだ。TERRAを聴きながら「すごくいい」と感じたのは、曲に込められた大自然への畏怖、愚かしい人災へのやり場のない怒り、叫び、悲しみといった作曲家のもろもろの感情に共感できたことにある。これは「僕たちの音楽」だ。今後、海外でも繰り返し演奏されるだろう。
ショスタコーヴィチの独奏は金子三勇士(ピアノ)、菊本和昭(トランペット)。
ショスタコは20歳の時にショパン国際ピアノコンクールに出場し落選。またこの曲が書かれた1933年には軽音楽に関するレニングラード市の委員会(ソヴィエト・ジャズ委員会)の委員になっている。
ベートーヴェン「熱情」ソナタや「失われた(なくした)小銭への怒り」、ハイドンのニ長調ソナタHob.XVI-37、オーストリア民謡「愛しいアウグスティン」、イギリス民謡「泣きじゃくるジェニー」などの引用があり、一種のパロディ音楽とも言える。
シニカルでアイロニカル。一筋縄ではいかない、屈折した音楽。しかし川島さんがプログラムに書かれているように「笑うことは強さ」だ。独自の魅力を発散する作品である。
冷たい鉄の感触。研ぎ澄まされた刃物のような演奏で、達者なピアニズムを堪能した。菊本さんもべらぼうに上手かった。
この演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定(日時は未定)。
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