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2012年2月

2012年2月28日 (火)

ハリウッド・メジャー会社の衰退/アカデミー賞授賞式雑感

オスカー・ナイトが終わった。

僕の予想の的中は作品・監督・主演男優・助演女優・助演男優・脚本・脚色・美術・衣装・メイクアップ・作曲・歌曲・録音・音響編集・外国語映画・長編アニメ・短編アニメ・短編ドキュメンタリー賞の計18部門。まぁ、例年並といったところか。

それにしてもメリル・ストリープ3度目の受賞には驚いた!いや、もうだれもがメリルを大女優だと認めているし、いまさら感が強いので、票は集まらないだろうと分析していたのだが……。しかしここまできたら、4回受賞したキャサリン・ヘップバーンの記録に是非挑んでもらいたい。

ビリー・クリスタル、久しぶりの司会はとても愉しかった。作品賞にノミネートされた9作を歌って紹介してくれるショーマンシップが嬉しい。オクタヴィア・スペンサーが助演女優賞を受賞した後で「感動的なスピーチでした。僕も近くにいる黒人女性を抱きしめたくなった。でもビバリーヒルズにはひとりも住んでいなかった」というエッジが効いたジョークも冴えてるね!

シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマンスもダイナミックで圧巻だった。ただ一人だけ、着地に失敗していたのは不問に付す。

さて、ハリウッドのメジャー・スタジオの衰退、企画力のなさは目を覆いたくなるような現状である。

過去10年間のアカデミー作品賞を受賞した映画を見てみよう。

ロード・オブ・ザ・キング/王の帰還」はニュージーランド出身の監督がニュージーランドで撮った作品。

スラムドッグ$ミリオネア」「英国王のスピーチ」はイギリス映画。

アーティスト」はフランス映画。

クラッシュ」「ノーカントリー」「ハートロッカー」は独立系(インディーズ)映画。

つまり10作品中、メジャー系は「シカゴ」(ミラマックス)「ミリーンダラー・ベイビー」「ディパーテッド」(ワーナー・ブラザーズ)の3作品だけなのである。しかも「ディパーテッド」は香港映画「インファナル・アフェア」のリメイクである。

続編(シリーズもの)やリメイクの乱発、冒険心のなさ。ただこれはアメリカのショービジネス全体に言えることで、例えばブロードウェイ・ミュージカルも映画の焼き直しであったり、「マンマ・ミーア!」みたいに過去のヒット曲を集めたジュークボックス・ミュージカルを量産したりしている。

最早映画も、ミュージカルもアメリカの独占市場ではなく、真の国際化時代が到来したということなのだろう。

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2012年2月27日 (月)

歌舞伎を初体験!

大阪松竹座へ。

Kabu

二月花形歌舞伎、夜の部を観劇。16時半開演、約30分の休憩を挟み終演が20時。

Kabu2

演目は、

「義経千本桜」より”すし屋”
いがみの権太:片岡愛之助 弥助/平維盛:市川染五郎 梶原景時:中村獅童

「研辰の討たれ」(とぎたつのうたれ)
守山辰次:染五郎 平井九市郎:愛之助 平井才次郎:獅童

歌舞伎は初体験だったので、イヤホンガイドを借りた。しかし結論としては不要だった。ライヴの音がステレオで聞こえないし、イヤホンから聞こえる舞台音声(台詞、お囃子)が生音とコンマ数秒ズレて、かえって邪魔。物語は事前に予習していたので、内容が分からないということも皆無だった。

とにかく「研辰の討たれ」が面白かった!大正14年(1925)に初演されたものだそう。仇討ちもので、最後に主人公は斬られるわけだが、これが結構笑えるのだ。悲劇と喜劇は表裏一体だということを改めて感じさせられた。ベースには封建制度、身分制度への批判があり、しかしそれを笑い飛ばしてしまう庶民のバイタリティに溢れている。小市民的で狡賢い主人公の人物造詣が秀逸。また空中戦あり、水の中に派手に飛び込む場面あり、階段落ちあり。「これはスーパー歌舞伎か!?」というエンターテイメント作品。獅童さんの喉の調子が悪く、「落ち着いて話せ」とか「水でも飲むか?」とか沢山アドリブが飛び交ったもの愉快だった。是非、野田版「研辰の討たれ」も観てみたい。

市川染五郎さんがコミカルに好演。また「義経千本桜」における中村獅童さんの隈取は、まるで東洲斎写楽の浮世絵から飛び出してきたのではないかという位インパクトがあった。

Kabu3

幕間には劇場近くの「はり重」で洋風弁当を購入。2,100円也。ステーキ、ローストビーフの肉が柔らかく、ミンチカツも美味しい。大満足。

観客の8-9割が女性。ひとり客が多い。

僕は今までクラシック・コンサート、落語、狂言、能、文楽、ストレート・プレイ、ミュージカル、シルク・ドゥ・ソレイユなど舞台芸術を色々観て来たが、歌舞伎の客が一番マナーが悪かった。上演中に平気で連れと喋る、ビニール袋のカサカサ音があちらこちらから聞こえる、同じ着メロの携帯電話が5回連続で鳴る……。最低である。松竹芸能もちょっと啓蒙活動を考えるべきではないだろうか。

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2012年2月26日 (日)

2012年アカデミー賞大予想!

毎年恒例となった僕の予想を発表する。

作品賞:アーティスト
監督賞:ミシェル・アザナビシウス
    「
アーティスト
主演女優賞:ビオラ・デイビス
   「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー

主演男優賞:ジャン・デュジャルダン
   「
アーティスト 
助演女優賞:オクタヴィア・スペンサー
   「
ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜
助演男優賞:クリストファー・プラマー
   「人生はビギナーズ
脚本賞(オリジナル): 「ミッドナイト・イン・パリ」
脚色賞(原作あり):「ファミリー・ツリー」
撮影賞:「ツリー・オブ・ライフ
編集賞:アーティスト
美術賞:「ヒューゴの不思議な発明」
衣装デザイン賞:アーティスト
メイクアップ賞:「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」
作曲賞:「アーティスト」
歌曲賞:「ザ・マペッツ 」から
   "Man or Muppet
"
録音賞(Sound Mixing):ヒューゴの不思議な発明」 
音響編集賞(Sound Editing):ヒューゴの不思議な発明 
視覚効果賞:猿の惑星:創世記(ジェネシス)
外国語映画賞:「別離」(イラン)
長編アニメーション映画賞:「ランゴ」
短編アニメーション賞:" Flying Books"
長編ドキュメンタリー賞:"Paradise Lost 3: Purgatory"
短編実写賞:"Tuba Atlantic"
短編ドキュメンタリー:"Saving Face"

作品賞、監督賞、演技賞の主要6部門は殆ど波乱がないと考える。もし僕の予想が外れるとしたら考えうるのは主演男優賞のみ。ジョージ・クルーニーはアカデミー会員から愛されているので侮れない。

結局「アーティスト」が最多部門を制し、”フランス映画が席巻したオスカー・ナイト”と呼ばれることになるだろう。ちなみにフランス映画が作品賞を受賞するのは今回が初となる。昨年はイギリス映画「英国王のスピーチ」だったし、ハリウッドの衰退は覆い隠せない状況である。

「ツリー・オブ・ライフの撮影監督エマニュエル・ルベツキ(メキシコ出身)の映像は「リトル・プリンセス」(1995)の頃から大好きだったので、今年は何が何でも受賞して欲しい!

作曲賞については本当はジョン・ウィリアムズに久しぶりに受賞してもらいたいのだが、今回は残念ながら無理だろう。だって「戦火の馬」と「タンタンの冒険」2作品もノミネートされてしまったから。票が割れることは必定。イギリス・テイスト満載の「戦火の馬」の音楽は本当に素晴らしいのだけれど……。

今年の的中目標は20部門としておく。

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2012年2月25日 (土)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会 2012!

2月21日(火)ザ・シンフォニーホールへ。大阪桐蔭高校吹奏楽部の定期演奏会。

入場料は1,000円(一律)。ちなみに同ホールでの大阪府立淀川工科高等学校のグリーンコンサートは2,000円。ザ・シンフォニーホールを1晩借りると150万円かかるそうだ(東京のサントリーホールは250万円)。座席数は1,704なので、1人1,000円だと収益は170万円。人件費や光熱費、プログラム費(オール・カラー)、楽器の運搬費などを加えると赤字になるのではないだろうか?

Toin

ここの詳しいプロフィールについては昨年の記事に詳しく書いたので、そちらをお読み下さい。指揮はすべて総監督の梅田隆司 先生。つい先日、還暦を迎えられたそうだ。

第1部

  • ヴェルディ/歌劇「アイーダ」第2幕より凱旋行進曲(合唱付き)
  • ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」より
  • ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲より
    夜明け~パントマイム~全員の踊り

アイーダ」は100名に及ぶ力強い混声合唱が迫力満点だった。またホールに設置されたパイプオルガンの横に8名のアイーダ・トランペットがずらりと並んだ。

イギリスにおける調査で、カーステレオで聴いていて(興奮して)一番事故を起こしやすい曲と認定された「ワルキューレ」。2011年の全日本吹奏楽コンクールで桐蔭が金賞を受賞した自由曲である。昨年5月から練習を積み重ねてきたそう。速いテンポ、強弱のメリハリがしっかりついていて演奏に切れがある。チューバ4名、ユーフォニアム2名、トロンボーン4名、ホルン6名と低音が充実。

ダフクロは部員全員、174名による演奏。ステージはギュウギュウ詰め。トランペット25名、トロンボーン18名、チューバ14名と実に壮観だった。考えてみたらダフクロをオーケストラで演奏する時もこの人数の半分だよね。しかしこれだけの大所帯でも曖昧さはなく、透明感があり見通しが良い。パントマイムは軽やかで繊細ささえ感じられた。

第2部

  • 建部知弘/ダンス・セレブレーション
  • B.ケンプフェルト/L-O-V-E
  • 多保孝一/愛をこめて花束を(歌あり)
  • L.シフリン、M.ノーマン/スパイムービー・テーマ セレクション
    スパイ大作戦~ジェームズ・ボンド~ミッション:インポッシブル
  • 古松隆/NHK大河ドラマ「平清盛」テーマ曲(歌あり)
  • 北川悠仁(作詞・作曲)/栄光の架け橋(歌あり)
  • E.ジョン、H.ジマー/「ライオン・キング」ハイライト
    サークル・オブ・ライフ~早く王様になりたい~準備をしておけ~ハクナ・マタタ~愛を感じて~キング・オブ・ブライドロック

第2部最初の3曲は梅田先生がノート・パソコンを操作して、背景のスクリーンに写し出される映像(動画&静止画)付き。野球部の試合の応援の様子や、他の部活紹介など。また合間に、関西マーチングコンテスト(9/23)での特別演奏(熊蜂の飛行~花のワルツ)も上映された。今年度桐蔭は「3出休み」なのに、そのパフォーマンスが進化していたので驚いた!来年度マーチングコンテストの全国大会金賞は固そうだ。

ダンス・セレブレーション」は夢のあるいい曲。ナット・キング・コールの歌声で有名な「L-O-V-E」はJazzyな雰囲気があって粋だね!時々静止ポーズをとる梅田先生の指揮もノリノリ!

スパイムービー・テーマ」は影絵劇付き。2週間前に専門家を招いて、指導を受けたそう。平清盛や厳島神社を素材に物語は生徒が考えたと。

平清盛」テーマは”遊びをせんとや うまれけむ”という平安時代の歌も生徒により歌われた。

栄光の架け橋」はスクリーンに、この定演で卒業する三年生がひとりひとり名前付きで映し出された。

また梅田先生から、来年度は吹奏楽コンクールの方が「3出休み」となるので、7月にウイーン国立歌劇場での演奏を計画していると驚きの発表もあり。

そしてアンコール。

  • 風になりたい(宮沢和史、THE BOOM)(歌あり)
  • サーカス・ビー(Circus Bee)
  • 銀河鉄道999(樽屋雅徳 編)(歌あり)
  • 星に願いを(ディズニー映画「ピノキオ」より)

風になりたい」はサンバのリズムで元気が出る曲。今年桐蔭はアンサンブル・コンテストでも全国大会出場が決まったそうで、そのメンバー8人をフィーチャーして超高速で目まぐるしい「サーカス・ビー」を披露。圧巻のパフォーマンス。

いやー凄かった。昨年も感じたことだが、ここの定期演奏会は最新のテクノロジーや知恵を絞った極上のエンターテイメントである。ディズニー・ランドやラスベガスのショーも真っ青。観ていてワクワクしたし、是非また来年も足を運びたい。

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2012年2月23日 (木)

オッコ・カムのシベリウス/PAC定期

兵庫県立芸術文化センターへ。

Cam

フィンランド、ヘルシンキ出身の指揮者オッコ・カム/兵庫芸術文化センター管弦楽団 定期演奏会。オール・シベリウス・プログラム。

  • 組曲「カレリア」
  • 交響曲 第7番
  • 交響曲 第2番

カムは1969年に第1回カラヤン指揮者コンクールに優勝、そのアシスタントを務めた。翌年に彼が第1番から3番までを、カラヤンが第4番から7番までを指揮したベルリン・フィルによるシベリウス交響曲全集がドイツ・グラモフォンから発売され、今でも名盤の誉れが高い。現在はフィンランド、ラハティ交響楽団のシェフである。

「カレリア」組曲のI. 間奏曲は重い足取りでゆっくりと立ち上がる。II. バラードになると物憂げで、北欧独特の節回しが胸に沁みる。そしてIII. 行進曲風に は快活で生き生きと弾むよう。プログラム・ノートに民族叙事詩「カレワラ」の源泉となったカレリア地方は”魂の井戸”のような場所だと書かれていて、成る程と想った。

シベリウスの交響曲第7番で想い出すのは、僕が大好きな作家・福永武彦の「死の島」である。この小説でモティーフのように繰り返し語られるのがベックリンの絵画「死の島」であり、シベリウスの交響曲第4番や第7番だった。

交響曲第7番で描かれるのはフィンランドの自然そのものである。そこに人間の姿は見出せない。冒頭、霧の闇の中に辺りが沈んでいる。演奏開始5分後くらいに登場するトロンボーン・ソロが「太陽の主題」を奏でる。日の出の陽光を浴びて次第に霧が晴れ渡り、湖が広がる情景が目の前に広がっていく。そして曲の最後、ヴァイオリン群によって奏でられる2音を聴いて、今回僕は初めて悟った。「嗚呼、フィンランドの森が深呼吸している!」と。

休憩を挟み、第2番。このシンフォニーを書き上げる前、シベリウスは家族を伴いイタリアに4ヶ月の旅をした。その体験がこの作品に反映されていると考えられる。

押しては引く波のように開始される第1楽章。ホルンがイタリアの陽光を指し示す。オッコ・カムの指揮は躍動感に溢れている。

そして間髪を容れずアタッカで第2楽章に突入したので驚いた!

「どうしてなのだろう?」と考えながら聴いているうちに、はたと気が付いた。この交響曲は次のような構成になっている。

第1楽章:ソナタ形式
第2楽章:A-B-A-B-コーダ
第3楽章:A-B-A-B-コーダ
第4楽章:ソナタ形式

お分かり頂けるだろうか?つまり1,4楽章と2,3楽章が対の関係で、まるで鏡面構造のようになっているのだ。だから3,4楽章は休みなく繋がっていくので1,2楽章も同様にしたのではないか(2部構成)というのが僕の推測である。

さて、第2楽章。コンサートマスター豊嶋泰嗣さんが率いる弦楽セクションが粘っこく歌う。音に陰影、深みがある。

第3楽章には切れ。妖精が飛び回るスケルツォは、まるでメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」みたいだ。

そして終楽章。音楽は力強く、決然と進む。大河のような堂々とした風格。

そしてアンコールはやはりシベリウスの悲しきワルツ。静と動の対比が鮮やか。そこから死と生のせめぎ合いが浮かび上がってくる。

なる程、これがお国芸の力かと感心しつつ、帰途についた。

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2012年2月20日 (月)

ハリウッド映画版「ドラゴン・タトゥーの女」

評価:A

Dragontattoo

映画公式サイトはこちら

原作の「ミレニアム」三部作(全六冊)は読破した。大変面白いミステリー小説である。

三部作はすべて原作者の母国スウェーデンで映画化されている。今回はそのリメイク。「ぼくのエリ 200歳の少女」(スウェーデン)→「モールス(LET ME IN)」(ハリウッド版)みたいに、舞台をアメリカに置き換えるのかと思いきや、スウェーデンのままだったので驚いた!ほぼ原作に忠実な展開で、あれだけ膨大なボリュームを、よくここまでコンパクトにまとめたなと舌を巻いた。脚色は「シンドラーのリスト」「マネーボール」のスティーヴン・ザイリアン

デヴィッド・フィンチャー監督は確固たるスタイルを持った映像作家である。「ドラゴン・タトゥーの女」でも卓越した仕事をした。青色など寒色系を主体とした映像はこの物語に相応しい(過去は赤みを帯びた暖色系になる)。セックスや残酷描写は容赦ないが、ちゃんと品格を保っているのもさすがだ(R-15+指定、つまり15歳未満禁止)。考えてみたら猟奇的連続殺人を素材に、現代社会の闇を描くという点では「セブン」(1995)「ゾディアック」(2007)などで彼が追求してきたテーマであり、一貫した姿勢をそこに感じる。それにしてもボカシの入った映画って久しぶりに観たな。2008年の「ラスト、コーション」以来かも?

ソーシャル・ネットワーク」からフィンチャーとコンビを組むトレント・レズナーアッティカス・ロスのノイズを取り入れた音楽も素晴らしい!文句をはさむ余地なし。

主演はジェームズ・ボンド役でお馴染みのダニエル・クレイグルーニー・マーラ。マーラは「ソーシャル・ネットワーク」で演じた女学生とは完全に別人。本作でアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたのも納得できる体当たりの熱演であった。

シリーズの続きも是非、フィンチャーにメガホンを取ってもらいたいものである。

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2012年2月18日 (土)

霧矢大夢 主演/宝塚月組「エドワード8世 -王冠を賭けた恋-」「Misty Station -霧の終着駅-」

宝塚大劇場へ。

Edo

宝塚月組のトップ・スター・霧矢大夢蒼乃夕妃さんのさよなら公演を観劇。

大野拓史(作・演出)「エドワード8世 -王冠を賭けた恋-」と、斎藤吉正(作・演出)のショー「Misty Station -霧の終着駅-」の二本立て。

きりやん(霧矢)を初めて意識して観劇したのは2002年の月組「ガイズ&ドールズ」のアデレイド(女役)。明るい笑顔とずば抜けた歌唱力が魅力の男役だった。

大野は源氏物語を題材にした「夢の浮橋」など和物で実力を遺憾なく発揮する演出家だが、正直今回観て洋物は駄目だなと想った。そもそも題材そのものが宝塚に合っていない。産業革命で成功したイギリスだが文化的にはヨーロッパでは二流じゃないかな?料理で誇れるものはフィッシュ&チップスとローストビーフしかないし(つまり食文化が貧しい。だって日本で「イギリス料理店」なんて皆無に等しいでしょ?)、ファッションはイタリアやフランスには敵わない。美術や建築も駄目。音楽もイタリア、フランス、ドイツが中心地だった。結局残るのは文学と演劇だけ。要するに地味なんだ。華やかさがない。だから場所はロンドンなのにコール・ポーター作曲のブロードウェイのナンバーを使ったりして、苦心の跡が痛ましかった。身勝手な主人公にも共感出来ない。アカデミー作品賞を受賞した「英国王のスピーチ」(吃音の弟が主役)の方が断然面白い。

ショーもいまいち。きりやんのサヨナラだからって、無理矢理「霧」をテーマにしなくてもいいんじゃない?斎藤作品はショー「BLUE・MOON・BLUE―月明かりの赤い花―」やバウホールの「カラマーゾフの兄弟」が好きだったから、期待していたのだけれど……スカ。

まぁ、SS席5列目で、きりやん蒼乃さんに(タカラジェンヌとしての)お別れが出来たので、よしとしようか。

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大植英次/大フィル「大地礼賛」定期!

ザ・シンフォニーホールへ。

大植英次 音楽監督、最後の大阪フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会。補助席までギッシリ満席。

Oue12

  • ベートーヴェン/交響曲 第6番「田園」
  • ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」

今回は「大地礼賛」がテーマであるといっても過言ではないだろう。「田園」で描かれるのは穏やかな自然。そして大地への生贄を捧げる「春の祭典」は荒ぶる自然を鎮める儀式(舞踏)が行われる(「人柱」もこれに近い)。またこの両者はどちらも、ディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」で使用された楽曲であることも注目すべき点である。これは嘗て大植さんがミネソタ交響楽団との来日公演のために計画したプログラムだったが、2001年の同時多発テロのため中止となったものだそう。

「田園」は第1ヴァイオリンと第2Vn.が指揮台を挟んで向かい合う対向配置。ハルサイは通常配置(第1Vn.の向かいはヴィオラ)。大植さんは「田園」を指揮棒なしで、ハルサイは短い指揮棒で振られた。すべて暗譜。

変拍子が錯綜する「春の祭典」は指揮者泣かせだ。ゲオルク・ショルティが改訂者のクラフトに、どうして繰り返し改訂されてきたのか、どの版を使えばいいのか尋ねたところ「変拍子をストラヴィンスキー自身が指揮出来なかったため」と返答があったという。岩城宏之も暗譜指揮に挑戦して失敗、中断したことがある(著書「楽譜の風景」より)。

また歴史に名高い初演時の混乱については下記映画が見事に描いているので、是非ご覧になることをお勧めする。

さて、定期の話に戻ろう。「田園」は自然の息吹が感じられ、共感に溢れた演奏。ニュアンスに富む豊かな歌、柔らかく多彩な音のパレット。僕は宮崎アニメ「魔女の宅急便」にも使用されたユーミンの歌「やさしさに包まれたなら」という言葉を想い出した。舞曲の第3楽章は力強く前進し、第4楽章の「嵐」はパンチが効いている。そして第5楽章で漲るのは包容力と開放感!これは”地球賛歌”である。テンポを落とした終結部はあたかも祈りの音楽のよう。日が沈む。そして人々は祈る。「明日もまた、平穏な一日でありますように」

春の祭典」は鋭い弦の切り込み、金管の唸りと咆哮、鮮烈な打楽器の強打が印象的だった。人間の本能を覚醒する原始的なリズム!揺れる大地、噴出すマグマ。音楽が沸騰する。しかしその解釈は”バーバリズム(野性味)”とか”爆演”とかとは無縁。終始冷静な眼差しで、知的にカッチリ制御されている。ある意味、ピエール・ブーレーズに近い名演だと感じた。

割れんばかりの喝采の中、大植さんは楽員にその短いタクトを託した。そして客席最前列の人々全員と握手していく。万感の想いが込められた一夜の情景だった。

余談だが「春の祭典」を聴くと、アフリカのリズムやインドネシアのガムラン(民族音楽)が感じ取れる。そこで調べてみたのだが、ストラヴィンスキーは少なくとも1962年にアフリカに旅行していることが判明した。関心を持っていたことは確かだ。問題はハルサイが初演された1913年に彼がアフリカ音楽を知っていたかどうか。実に興味深い音楽史のミステリーである。

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2012年2月14日 (火)

ミュージカル CHESS in Concert (オマケ付き)

2月10日(金)梅田芸術劇場へ。

Chess

ミュージカル"CHESS"はABBAのメンバーだったベニー・アンダーソンビョルン・ウルヴァースがグループの活動休止後に作曲 、原案・作詞は「ライオンキング」のティム・ライスが担当した。

まず1984年にコンセプト・アルバムがリリースされ、1986年イギリスのウエストエンドで初演され3年間のロングラン上演となった。この経過はやはりティム・ライスがロイド=ウェバーと組んだ「ジーザス・クライスト・スーパースター」(1971)や「エビータ」(1978)の手法に似ている。ブロードウェイ上演は2ヶ月という短命に終わり、今回が日本初演。演出・訳詩は元・宝塚歌劇団の荻田浩一

ティム・ライスのプロフィールには必ずこのミュージカルが言及されるので、名前だけは知っていた。でも世界チェス選手権の話だとか、東西冷戦を背景にしているとかといった予備知識は全くないまま観劇。

とにかく音楽が充実しているので驚いた。印象に残るナンバーが多数あり。ロック・ミュージカルとして有名なのは「ヘアー」「ジーザス・クライスト・スーパースター」「トミー」「ロッキー・ホラー・ショー」などあるが、この「チェス」の楽曲も遜色ない。

ただ物語としては弱いので、日本で今まで上演されなかったのもむべなるかなという気がした。チェス盤をシンボリックにデザインしたシンプルな舞台装置と衣装を着た役者でコンサート形式の上演だったが、本作にはこのスタイルが相応しいと感じられた。

出演は安蘭けい石井一孝浦井健治中川晃教AKANE LIVら。歌唱力のある実力派揃いなので聴き応え抜群。クラシカルな歌唱でじっくりと歌い上げる石井さん、それに対してロック魂剥き出しでシャウトする中川くんの鮮やかなコントラストが良かった。日本演劇界のミュージカルの実力は、最早ブロードウェイやウエストエンドに匹敵するレベルに到達しているのではないだろうか?(念のため言っておくが、僕は両者での観劇歴あり)

初日だったのでオープニングナイトスペシャルイベントあり。なんとABBAのヒット曲が2曲歌われた。

まずAKANE LIVで、"Gimme Gimme GImme"(オリジナル・アレンジ)。そして出演者全員で「ダンシング・クイーン」。これは観客も立ち上がり、手拍子を打ちながら一緒に歌った。ミュージカル「マンマ・ミーア!」を想い出したことは言うまでもない。ただし、劇団四季の「マンマ・ミーア!」大阪公演はカラオケ上演だった(生演奏ではなかった)ので、本当に腹が立った!たいがいにせい、と言いたい。

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市村正親、鹿賀丈史/ラ・カージュ・オ・フォール

2月3日(金)梅田芸術劇場へ。ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」を観劇。

Cage

作品の詳細については3年前のレビューに書いたのでそちらをご参照あれ(かなり掘り下げたつもり)。今回が4回目となる。

市村正親さんと鹿賀丈史さんは共に劇団四季出身。やはりふたりの人生と物語を重ねて観てしまうので、感慨深い。これは年老いたゲイの話なので、市村さんは年を重ねるごとに益々味が出て、演技に深みを増した。脇を固める香寿たつき森公美子今井清隆らも好演。アンヌ役は今まで風花舞、森奈みはる、島谷ひとみで観たが、今回は2010年に宝塚を退団した愛原実花。バレエが上手く、クルクル舞う。

そしてなによりジェリー・ハーマンの音楽がしみじみいい。

カーテンコールは当たり前のように(3階席まで)観客総立ちで、スタンディング・オベーションとなった。言い知れぬ幸福感に包まれて帰途に着いた。また何度でも観たい作品である。

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2012年2月13日 (月)

2012年も柳家喬太郎 三昧@大阪

2月4日(土)柳亭市馬・柳家喬太郎二人会@トリイホール

  • 桂鯛蔵/代脈
  • 柳亭市馬/普段の袴
  • 柳家喬太郎/任侠流山動物園三遊亭白鳥 作)
  • 柳家喬太郎/寿限無
  • 柳亭市馬/うどんや

市馬さんの高座は正攻法で意外性はなく、ぶっちゃけ面白みに欠けるのだが、この人の魅力はそこから滲み出してくる人柄のよさ、誠実さだと想う。凛とした佇まいも素敵だ。「うどんや」は上方の「かぜうどん」を江戸に移植したものだが、はっきり言って元ネタの方が断然完成度が高いね。

任侠流山動物園」は牛、豚、鶏、トラ、パンダ、象が喋る!物語は「清水次郎長伝」のパロディであり、途中、上方落語「動物園」のエッセンスも登場。ハチャメチャでクレイジー、最高に可笑しかった。これは大傑作。また喬太郎さんはフェイスブックやツィッターなどアクチュアル(時事的)な話題も投入。才気迸る。

寿限無」はオーソドックスな形で始まるのだけれど、それだけで終わらないのが喬太郎の喬太郎たる所以。アッと驚く後日談に舌を巻いた。

翌5日(日)は高槻市にある割烹旅館「亀屋」へ。柳家喬太郎ひとり舞台。

Kyon

喬太郎さんは女性ファンが多い。この会でも最前列6席中、女性が5人を占めた。

  • 松竹梅
  • 午後の保健室(喬太郎 作)
  • 転宅

結婚式で司会をした時のこと、北海道の倶知安(くっちゃん)町や鹿児島県種子島へ東京から日帰りしたエピソードなどをマクラで披露。また幼稚園で落語を演じたときの子供とお母さんたちの反応の違いなども面白おかしく語られた。

午後の保健室」は、例えば桂枝雀における「代書」のような、喬太郎さんの鉄板ネタ。当然ながらYou Tubeとかで動画を見てはいたけれど、やはり生の方が断然いい!ミステリー小説で言えば叙述トリックが仕掛けられている、恐るべき名作。大学卒業後は書店員を務めたこともある喬太郎さんの面目躍如。抱腹絶倒、笑い死ぬかと想った。

仲入りを挟み後半。落語で決して客から苦情が出ない「さんぼう」ーすなわち、どろぼう、けちんぼう、つんぼうの話から泥棒噺「転宅」へ。この盗人がなんとも可愛らしいんだ。

結論。判ってはいたことだけれど、柳家喬太郎はやっぱり天才だった。

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2012年2月10日 (金)

松田理奈/クライスラーへのオマージュ(クライスラー没後50周年)

2月2日(木)大阪倶楽部へ。松田理奈さんのヴァイオリン・リサイタル(ピアノ:川田健太郎)。

松田さんは可憐な若手ヴァイオリニストである。今回の演奏会は全席自由。だから開場前に並んだ客の先頭12人が全員男。そしてサロンの最前列19席中、18席を男性が占めた。

  • ルクレール/ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 op.9-3
  • ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調
  • クライスラー/プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
  • クライスラー/ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
  • クライスラー/フランクールの様式によるシチリアーノのリゴードン
  • フランク/ヴァイオリン・ソナタ イ長調

フランス・バロック期の作曲家ルクレールはヴィブラート控えめで、瑞々しい美音で奏でられた。なんともいえない気品がある。

ブラームスは凛として張りがある。太く、深い音色。

休憩を挟みプログラム後半のクライスラー前奏曲とアレグロは力強く誇り高い。毅然として、激しい感情表現がある。一転してロンディーノは優美で香り立つ抒情に包まれる。

フランクは憂い。沈丁花の甘い香り。終楽章は春の爽やかな微風。雄弁な演奏であった。

アンコールはまず、意表を突いて息の長いJ.S.バッハの(G線上の)アリアを無伴奏で。続いてバッハのパルティータの仮面を被って開始されるイザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番。トリッキーな選曲。イザイは松田さんの十八番であり、そのCDが「レコード芸術」誌で特選盤になっている。透明感があり、研ぎ澄まされた表現力が感じられた。

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2012年2月 7日 (火)

「震災音楽」の衝撃!/いずみシンフォニエッタ大阪 定期

1月28日(土)いずみホールへ。

飯森範親/いずみシンフォニエッタ大阪 定期演奏会。

開演30分前、恒例のロビー・コンサートを担当されたのはマリンバ奏者の沓野勢津子さん(彼女のブログは→こちら)。

  • エリック・サミュ(アストル・ピアソラ原曲)/リベルタンゴ
  • エカルド・コペツキ/割れた鏡の上でのダンス
  • クロード・ドビュッシー/ゴリウォーグのケークウォーク

開演15分前、飯森さんと企画・監修の西村朗さん(作曲家)によるプレ・トークを経て、今回のプログラムのテーマは「抑圧からの挑戦!」

Izu

  • ヴァスクス/カンタービレ
  • デニソフ/室内交響曲 第2番
  • 新実徳英/室内協奏曲 第2番 TERRA(世界初演)
  • ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲 第1番

ラトヴィア(バルト三国の一つ)のヴァスクスが作曲したカンタービレは弦楽合奏のみ。ドレミファソラシの白鍵のみを使用し川、森、鳥の声など自然を描く静謐で美しい楽曲。しかしちゃんと20世紀的和声もあり、エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトに近いなと感じた。

エディソン・デニソフはシベリアの放射線物理学者の家庭に生まれ、数学を専攻していたという変り種。編成にピアノやハープも取り入れた室内交響曲はいかにも現代音楽。

初演となる新実徳英/室内協奏曲 第2番 TERRAは、「震災音楽」とも呼べるような内容。これは21世紀の日本を代表する大傑作だと想った。ちなみにTERRAとは地球とか大地といった意味で、室内協奏曲 第1番はAQUA(水)だそう。

作曲家でいずみシンフォニエッタ大阪プログラム・アドヴァイザーの川島素晴さんはプログラム・ノートにこう書かれている。

作曲家の世界では、これまでいわゆる「昭和一桁世代」の充実ぶりが指摘されてきた。戦争体験を持つか否かという線引きによって、確かに、その創作に見られる根源的な力の相違を見せつけられてきた。しかし、筆者は思う。今を生きる日本の作曲家は、否が応でも、再び「3.11を知る世代」として線が引かれることであろう。

新実さんは「その時」、東京・水道橋駅の電車の中にいたという。そして帰宅後、テレビで信じられないような映像を見ながら書きかけだった弦楽四重奏曲の第2、第3楽章を仕上げていった。

作曲家の言葉を引用すると、今回の新作は「荒ぶる神と鎮める神」(Storming God, Calming God)への捧げものだそう。「この齢になってかくも情けない日本を見なければならないとは想像すらしなかった。その自分にも責任があると思うとき、心は折れ曲がりそうになる。が、こんな時こそ音楽は『力』を持たなければならない」これには作品番号AE.10が付いており、AEとはAfter Earthquakeの意味だそう。つまり東日本大震災以降、10作目となる。

楽譜を読んだ飯森さんは被災地に近い山形交響楽団の音楽監督を務めているだけに、「(魂に)来たっ!」と感じたそう。

第1楽章は大地の蠢き、押し寄せる津波が描かれる。叫びと怒り。空恐ろしい音楽。第2楽章は福島原発事故を想起させる黙示録。闇を劈くサイレンの音、凍りつく恐怖。そして鐘が響く第3楽章は祈りと鎮魂歌。

僕はこれを聴きながら伊福部昭の「ゴジラ」を連想した。広島への原爆投下やその後の水爆実験が「ゴジラ」を生み、東日本大震災と福島原発事故が新実のTERRA を生んだ。TERRAを聴きながら「すごくいい」と感じたのは、曲に込められた大自然への畏怖、愚かしい人災へのやり場のない怒り、叫び、悲しみといった作曲家のもろもろの感情に共感できたことにある。これは「僕たちの音楽」だ。今後、海外でも繰り返し演奏されるだろう。

ショスタコーヴィチの独奏は金子三勇士(ピアノ)、菊本和昭(トランペット)。

ショスタコは20歳の時にショパン国際ピアノコンクールに出場し落選。またこの曲が書かれた1933年には軽音楽に関するレニングラード市の委員会(ソヴィエト・ジャズ委員会)の委員になっている。

ベートーヴェン「熱情」ソナタや「失われた(なくした)小銭への怒り」、ハイドンのニ長調ソナタHob.XVI-37、オーストリア民謡「愛しいアウグスティン」、イギリス民謡「泣きじゃくるジェニー」などの引用があり、一種のパロディ音楽とも言える。

シニカルでアイロニカル。一筋縄ではいかない、屈折した音楽。しかし川島さんがプログラムに書かれているように「笑うことは強さ」だ。独自の魅力を発散する作品である。

冷たい鉄の感触。研ぎ澄まされた刃物のような演奏で、達者なピアニズムを堪能した。菊本さんもべらぼうに上手かった。

この演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定(日時は未定)。

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2012年2月 5日 (日)

アイリッシュ・フルート&ハープ、チェンバロ/ドーヴァー海峡の向こう側

1月29日(日)大阪府豊中市にあるノワ・アコルデ音楽アートサロンへ。

守安 功(アイリッシュ・フルート、ホイッスル、リコーダー)、守安雅子(アイリッシュ・ハープ、コンサーティーナ、バゥロン)、平井み帆(チェンバロ)で、

  • 3つのホーンパイプ(イングランドの伝承音楽)
  • エリザベス・ヌージェント - エレナー・ブランケット - ブリジット・クルーズ
    (ターロック・オキャロラン)
  • アン・ドロ(ブルターニュの伝承音楽)- クーリーさんのリール
    - アールズさんの椅子(アイルランドの伝承音楽)
  • カリオペ・ハウス(デイヴ・リチャードソン)
  • 「組曲第4番」よりエア - サラバンド - ジグ(マシュー・ロック)
  • 私は眠っている(アイルランドの伝承音楽)
  • 壁の穴(ヘンリー・パーセル)
  • 長老派のホーンパイプ(作者不詳)- 愛のグラウンド(ゴッドフリー・フィンガー)
  • フィーナ湖のほとり(作者不詳)
  • サリー・ガーデンズ(アイルランドの伝承音楽)
  • カンタービレ(テレマン)-フェルストンベール(ミッシェル・コレット)
    - 褐色の髪の女(ボアモルティエ)
  • 森を抜けて - キャサリン・オギー(フランチェスコ・バルサンティ)
  • ミッキー・フィンのラメンテーション(ビル・フィン)
  • チャッコーナ(ベネデット・マルチェッロ)
  • 泉の館(作者不詳)
  • あなたは私のペギーを見ていない(アンドリュー・アダム)
  • 夏の終わり(フィル・カニンガム)

ほか。

守安夫妻の演奏を聴くのは3回目。楽器の説明や写真は過去の記事に上げているので、そちらをご覧あれ。

アイルランド最後の吟遊詩人と呼ばれるオキャロランは18歳で天然痘に罹り失明したという。

フランスのブルターニュ地方はケルト民族系のブルトン人が住んでいるそう。だから曲調がどことなくアイルランドと似ている。

マシュー・ロックは17世紀に生きたイングランド初期バロック音楽の作曲家。その組曲はリコーダーとチェンバロによる演奏。

壁の穴」はダンス音楽(ホーンパイプ)をパーセルが編曲したもの。

フィーナ湖のほとり」はスコットランドの音楽で、なんと平井み帆さんがインターネットから見つけてこられたとか!

サリー・ガーデンズ」はホイッスルによる演奏で歌付き。

フェルストンベール」はイギリスの曲。また守安さんによると18世紀フランスの作曲家ボアモルティエは(王や貴族に仕えたりすることなく)世界で最初のフリーランス音楽家だったそう。優美な音楽。どちらも気に入った。

フランチェスコ・バルサンティ(1690-1772)はイタリア出身。ロンドンで活躍し、後にスコットランドの女性と結婚してスコットランドに移住した。「キャサリン・オギー」はスコットランド民謡だが、チェンバロの華麗な伴奏はイタリア的。守安さんの解説によると、(1717年テムズ川でのイギリス王の舟遊びで演奏された)ヘンデル「水上の音楽」は当時ロンドンにいたイタリア人作曲家たちの影響を受けているのではないかとのこと。成る程、興味深い。

ビル・フィンは存命でアイルランド銀行頭取だった人。息子がアル中になり30代で死去。それを悲しんだ曲がラメンテーション

チャッコーナ」はベネチアで1712年に出版されたそう。つまり丁度それから300年ということに。これも素敵な楽曲。

あなたは私のペギーを見ていない」はスコットランドの曲。

またイタリアではリコーダーのことをフラウトと呼び、フルートはそれを横向きにして吹くのでトラヴェルソ(=英語ではtransverse)になったというお話も面白かった。

世界は広い、そして音楽の歴史は奥深いと感じ入った2時間だった。

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2012年2月 4日 (土)

さばのゆ温泉こけらおとし落語会/笑福亭鶴笑の自伝エッセイ出版記念落語会

1月26日(木)大阪・福島にオープンした「さばのゆ温泉」(福島万博2F)へ。

Saba

その1Fにある 般°若(パンニャ)は松尾貴史さんがオーナーのカレー屋。

Saba2

開店当日に行ったら、松尾さんご自身が給仕をして下さったのでびっくりした。メニューはチキン、キーマ、カツカレーの3種類。ルーはさらさら。スパイスが効いて香ばしいが、中辛くらい。東京本店にはチキンとキーマのハーフ&ハーフがあるが、大阪店では未だそれは出来ないそう。今後の進化に期待する。

般°若で腹ごしらえして階段を上る。畳敷きで民家にお邪魔したような雰囲気。

Kaku

客の入りは13人。

イラクの難民キャンプでもパペット落語をやった笑福亭鶴笑さんは自らのことを「放浪落語家」と。

  • しょうもないもん屋(鶴笑 作)
  • 鶴笑・遊方/対談
  • あたま山(さくらんぼ)

しょうもないもん屋」は今まで使用されず、押入れに眠っていた小道具が次々と登場。「ジャンピング・コアラ」「ニワトリ」「手乗りパイプオルガン」「びっくりチョンマゲ」「一本箸」そして紙切り芸など。すこぶる愉しい。

遊びに来ていた月亭遊方さんとの対談もあり。

ふたりは昔、桂あやめさん、林家染二(当時・染吉)さんらと共に天王寺にある新宿ごちそうビルで新作落語会を開催していた。オウム大喜利やSM大喜利などもやったそう。答えが面白くないと膝の上にブロックを置く過酷なルールだったらしい。また会社(吉本)からの仕事でギャラが800円だったとか、「ごちそう倶楽部」の東京公演でアンケートに「ただ喧しいだけ」「”ひきの芸”をおぼえて下さい」と書かれたという爆笑エピソードも。

実は鶴笑さんがTwitterで何をしようか迷っていると書かれていたので、「あたま山」は僕がリクエスト。それに応えて下さってとても嬉しかった。まずざっと概要を落語として通し、その後は音楽を入れパペットでパントマイムとして演じられた。「頭山」はSF的シュールな落語であり、これを人形でどう表現するのか注目されたが「アッ!」というアイディアで、ものの見事に難題をクリア。圧巻のパフォーマンスに感動した。これは必見!

最後は著書「世界は広くてせまくて、やっぱり広い! ~お笑い海外武者修行記~」のサイン会となり、お開き。鶴笑ワールドを満喫し、帰途に就いた。

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2012年2月 1日 (水)

DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら夢を見る(デジタル上映)

昨年公開された「AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう」は2010年の彼女たちを追ったドキュメンタリー映画だった。監督は寒竹ゆり。製作総指揮をAKB48のミュージック・ビデオ(MV)「桜の栞」を撮った岩井俊二(「LOVE LETTER」「花とアリス」)が担当した。総選挙で上位になったメンバーへのインタビューを中心に、「ふんわり」した雰囲気を大切にした、今考えるとある意味微温的な、ゆるい作品だった(評価:C)。

そして2011年、彼女たちの1年間(「レコード大賞」受賞、「紅白歌合戦」まで)を描く第2弾が「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら夢を見る」である。公式サイトはこちら

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評価:A+

高橋栄樹 監督は岩手県出身。「夕陽を見ているか?」「10年桜」「言い訳Maybe」「RIVER」「ポニーテールとシュシュ」「上からマリコ」などAKB48のMVを10作品以上撮っている。お互い気心が知れているので、彼女たちもインタビューで胸襟を開いて話している印象を受けた。

映画は3月11日の東日本大震災に始まり、被災地の光景で終わる。監督の故郷への強い想いが感じられる。そして「こんな時に、自分たちはアイドルとして何が出来るのか?」をAKBのメンバー各自が自問し、「誰かのために」行動していく姿が丹念に描かれる。

5月22日岩手県・大槌町から始まったAKB48の被災地訪問は、12月25日の福島県・南相馬市まで計8回に及ぶ(それぞれ6名ずつ)。そして11月に岩手県陸前高田市を訪問した研究生の岩田華怜(13)は地元の仙台市で被災し、その後最終オーディションを経て合格した経歴を持つ。彼女の家族へ宛てた手紙、その決意が胸を打つ。

大槌町のミニコンサートで、ステージにかじりつくように見ている幼い少女が「ポニーテールとシュシュ」を一緒に大声を出して歌っている姿が映る。また岩手県・宮古市では女の子が峯岸みなみに野に咲く花を手渡す。そのプレゼントをステージ上からではなく、ちゃんと下に降りて受け取るべきだったと後で後悔し、涙を流す峯岸。僕も思わずもらい泣きしてしまった。大島優子が「今回の体験で歌が持つ力を実感した」と語る言葉には重みがある。

昨年1位だった大島が今年の「総選挙」で2位になった時、スポットライトを浴びた場所では気丈に振舞っていたのに、舞台裏に戻ると篠田麻里子の胸に飛び込み号泣する姿には驚かされた。それほど悔しい想いを胸に抱いていたのか……

そして7月22日から24日の3日間、西武ドームにて開催されたコンサート。2日目のリハーサル中に前田敦子が過換気症候群で倒れた。本番までになんとか復帰したものの、公演中にまた過換気の発作に襲われる。次の曲は総選挙であっちゃんが1位=センターに選ばれた「フライングゲット」。果たして間に合うのか!?手に汗握る瞬間・・・(結果がどうなったかは映画館で目撃して下さい)。ここでは大島も過換気症候群になる様子が描かれており、また舞台裏(室温40℃)で柏木由紀がぐったりと床に横たわっていたり、氷でクーリングする子、酸素吸入するメンバーなどの姿も克明に記録されている。その過酷さは想像を絶するものがある。華やかなステージとの落差、光と影のコントラスト。もの凄いものを見た!という衝撃。これぞプロフェッショナルの仕事、正に"The Show Must Go On"である。

またこの西武ドームのライヴは臨場感溢れる音響設計(サラウンド効果)が素晴らしいことも特筆に価する。

あと面白かったのは「チーム4」誕生のエピソード(それまでは「チームA」「チームK」「チームB」の3つだった)。公演初日を前にキャプテン・大場美奈のスキャンダルが発覚し、謹慎となる。その代行に選ばれたのが島田晴香。同期でチームメイト山内鈴蘭の証言「島田は当初、みんなを引っ張っていこう、キャプテンになりたい!という気持ちがあったはず」しかし、皮肉なことに彼女が与えられた役割は大場が戻ってくるまでの「つなぎ」でしかなく、「一体自分の存在意義はどこにあるのだろう?」という複雑な想いを抱いたまま、苦悩することになる。そういう女の子の”リアル”な気持ちをカメラは赤裸々なまでに捉える。そして大場の復帰。島田は素直に笑顔で迎えられなかったことを泣きながら謝り、大場も「辛い想いをさせてごめん」とそれを受け入れる。サブタイトルにある「少女たちは傷つきながら夢を見る」を実感させる、感動的なシーンである。

なお、総合プロデューサーの秋元康(やすす)は1月30日付のgoogle+で、次のように書いている。「AKBのドキュメンタリー映画に出てくるチーム4島田の正直さが好きだ。不器用さが好きだ。正解なんてないんだ。自由にやれ!」いい言葉だ。

上映時間121分。エンド・クレジット共に流れる主題歌「ファースト・ラビット」を聴きながら僕は、「もっと、もっと観続けていたい!」という衝動に駆られた。

この映画にはキラキラと眩いばかりに輝く、青春群像が極めて魅力的に描かれている。夢に向かって走り続ける彼女たちを観客は目撃し、声援を送りつつ、思わず自分たちも一緒に駆け出したくなってしまう、そんな作品である。

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