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三谷幸喜(作・演出)「90ミニッツ」と「笑の大学」

シアター・ドラマシティへ。

90

三谷幸喜の新作「90ミニッツ」を観劇。西村雅彦と近藤芳正の二人芝居。この組み合わせとくれば、誰しも「笑の大学」を想い出すだろう。1996年初演、98年再演。読売演劇大賞・最優秀作品賞を受賞。僕は初演の岡山公演を観たが、今でも三谷さんの最高傑作のひとつであると確信している。これはロシアおよびベラルーシでロシア語公演があり、2007年はカナダでフランス語公演、2008年はイギリスのウエスト・エンドでも「The Last Laugh」というタイトルで英語版が上演された。また同年韓国で、2009年には香港でも上演された。今や日本演劇界を代表する作品である。

「笑の大学」舞台版の演出は山田和也。2004年、役所広司、稲垣吾郎の主演、星護 監督で映画化されたが、こちらは凡作。元は二人芝居なのだからいくらなんでも無理があった。

「笑の大学」は開戦直前の昭和15年を舞台に、一度も笑ったことのない検閲官と喜劇を上演している劇団の座付き作家の攻防の物語。ふたりは取調室の机を挟み台本をめぐって議論を交わすが、いつしかそれは台本作りの「共犯関係」へと変貌してゆく。

「90ミニッツ」はとある総合病院の整形外科医と、交通事故で息子が救急車で搬送された父親との会話。90分以内に手術をしないと生命が危険であると医師は説得するが、父親は地域信仰(風習)上の理由から(どうやら宗教ではないらしい)輸血を拒否する。

医師が言うことも尤もだし、父の主張にも一理ある。Aが正しいか?それともBなのか?観客の共感は左右に大きく振幅することになる。攻める側と防戦する側は目まぐるしく入れ替わる。一種のディベート劇である。

緊迫してシリアスな設定にもかかわらず、時折「緊張の緩和」から笑いも生まれる。巧みな作劇術である。

劇団「東京サンシャインボーイズ」時代の三谷さんの代表作「12人の優しい日本人」は最後にバラバラだった陪審員たちの意見が全員一致する。「笑の大学」もどちらに正義があるかははっきりしているので、最終的にAとBのベクトルは同じ方向に向き、共犯者となる。

しかし「90ミニッツ」に予定調和はない。意見は噛み合わず、ベクトルは交差したまま。三谷幸喜の新基軸である。だって地球のあり方って本来、そうじゃない?いろんな意見があり、みんなバラバラ。だから人間は面白い。愛しい。僕は作家としての深化をそこに見た。

天井から床に一筋の水が流れ続けるという演出が冴えていた。それは病院の「清潔感」を象徴し、タイムリミットを示す「砂時計」のメタファー(暗喩)でもある。また子供の「生命線」とも言えるし、多重の意味を内包している。

そして最後にJ.S.バッハのカンタータ106番「神の時こそいとよき時」が流れるのも感動的だった。

休憩なしのアンストッパブル。役者たちも丁々発止の白熱した演技を展開して見応えあり。

三谷さんが敬愛してやまない脚本家兼、映画監督ビリー・ワイルダーは映画「お熱いのがお好き」(Some Like It Hot)の台詞をこう締め括った。「完璧な人間なんていないさ(Nobody's perfect.)」これは「90ミニッツ」のテーマでもある。

なお、余談であるが落語家の桂吉弥さんが小学生の息子さんを連れ、観劇されていた。考えてみれば吉弥さんは役者として三谷幸喜(作)の大河ドラマ「新選組!」に出演されていたもんなぁ。

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コメント

 同じ舞台を観劇しました。私は、生誕50年祭のラストがこれ!?という気がしました。 笑いの大学も舞台より映画のほうが好きなせいかもしれません。笑いの大学の映画だけを観ているときは、これ舞台だともっと面白いだろうなと思っていたのですが。
 記事を読ませていただいて、自分は本当に観る目が幼稚というか、浅いと感じました。勉強になります。
 

投稿: ディズニーラブ | 2012年1月21日 (土) 03時18分

ディズニーラブさん、コメントありがとうございます。「笑の大学」舞台版はDVDをご覧になったのでしょうか?映画公開後にオリジナル・キャストによる再演はなかったはずなので。

やはり芝居は生が一番です。映像だと印象がずいぶん違ってくる気がします。

投稿: 雅哉 | 2012年1月31日 (火) 07時35分

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