柳家さん喬「芝浜」「雪の瀬川」、柳家三三×北村薫「空飛ぶ馬」~師走に江戸落語を堪能
12月16日(金)大阪市こども文化センターへ。東西の噺家二人会。
- 笑福亭右喬/米揚げ笊(いかき)
- 柳家さん喬/徳ちゃん
- 笑福亭松喬/佐々木裁き
- 笑福亭松喬/借金撃退法(掛け取り)
- 柳家さん喬/芝浜
右喬さんはどうしようもなくテンポが悪い。
さん喬さんはマクラで、大阪の座布団は四方に房(ふさ)があるが、東京の高座ではない。座布団返しや名ビラめくりをするお茶子もいないと。また先日亡くなった立川談志さんの想い出も。異論に強く、正論に弱い人だった。噺を「変えたい」という意識が強かった。古今亭志ん朝は空気を明るく変える人だったが、談志は泥臭く、突っ張っていた。そして廓噺「徳ちゃん」へ。吉原へ繰り出す場面ではハメモノ(お囃子)も。
松喬さんも談志さんの想い出を。「二流の噺家は一流になれない」が持論だった。「オレは二流の上。(故)桂枝雀は襲名後、一旦三流になった。そこから一気に一流に登りつめた」と語っておられたそう。「佐々木裁き」は子供が生き生きしていた。「借金撃退法」は”柄の悪い大阪のおっちゃん”の描き方が秀逸。
「芝浜」は冬の早朝の寒さ、潮の香りを実感し、水平線の彼方からお天道さんが昇ってくる情景が目に見えるような高座。また三年後、夫婦に子供が生まれているのには驚かされた。これは独自の工夫なのだろうか?酒に溺れる「業(ごう)」を克服し、生まれ変わった主人公の象徴として赤子の存在はまことに相応しい。
僕は枝雀さんの映像をDVDで観ていると「落語はJAZZだ!」と感じるのだが、今回のさん喬さんから「落語とは絵だ」ということに気付かされた(三代目・桂三木助も同様のことを言っていたという)。これだけの描写力、造形力を持った噺家は残念ながら関西にはいない。
12月18日(日)昼は兵庫県立芸術文化センターへ。午後2時開演。
柳家三三で、北村薫 著《円紫さんと私》シリーズより、
- 空飛ぶ馬(前半)+三味線栗毛
仲入り - 空飛ぶ馬(後半)
- アフタートーク(柳家三三、戸塚成)
《円紫さんと私》シリーズは日常の謎を解く推理小説である。五代目・春桜亭円紫は落語家でありホームズ役、ワトソン役の「私」は女子大生。シリーズの「夜の蝉」で日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。そして北村薫は「鷺と雪」(ベッキーさんシリーズ)で直木賞を受賞した。僕の大好きな作家であり、三島由紀夫と並びその文章は日本語の美しさで満ちている。
三三さんはスーツ姿で舞台下手に立ち、語り始めた。「私」とその友達が喫茶店に入る場面で高座に腰掛ける。やがて「私」が寄席に行き、円紫さんが登場すると舞台は暗転。今度は着物姿に着替え、高座に上がった。出囃子は「外記猿」。
「三味線栗毛」は初めて聴いたが、大半は柳家喬太郎さん演じる「錦木検校」(最近は笑福亭鶴瓶さんも手掛ける)と同じ。「錦木検校」で錦木は殿様と再会した時に死ぬが、「三味線栗毛」では死なない。ちなみに通常、三三さんがこのネタを掛けるバージョンでは錦木は殿様に面会出来ずに死に、真夏にその家臣が墓参りする場面で終わるとか。
「空飛ぶ馬」は師走の渋谷を舞台に展開され「三味線栗毛」も冬。この季節に相応しい。やがて雪が降り始め、主人公最後の独白、
今夜は丁寧に髪を洗おう。
いよいよ数を増す白銀の天の使いに、私はそっと呼び掛けた。
――それまでは、雪よ、私の髪を飾れ。
がしんしんと胸に染み入った。
戸塚プロデューサーとのトークで三三さんは、「寄席に初めて行ったのが中学校一年生の時。この原作を読んだのも中学生。本の第2版を持っていた。円紫さんは僕にとって理想の落語家。それまでストーリーの展開、仕組みに落語の面白さを感じていたのだが、『空飛ぶ馬』を読んで、登場人物の気持ちや演者の言い方に醍醐味があるのだということが分かった」と語った。また「三味線栗毛」は普段やらない(苦労する割に儲からない)ネタで、噺家になって実演を初めて聴いた。だからこの噺を知ったのも「空飛ぶ馬」だったと。
戸塚プロデューサーが「原作を読んだことあるという方、挙手をお願いします」と会場に呼びかけると、何と約半数の手が挙がった(勿論僕も)。
次回は来年3月11日(大震災からちょうど1年)、「砂糖合戦~『空飛ぶ馬』より」+「強情灸」。今度は北村薫さんご本人も登場!チケットは発売中。
落語の新しい可能性に眼を開かせてもらったような想いを抱きつつ、兵庫芸文を後にして大阪府高槻市の割烹旅館「亀屋」へ。
柳家さん喬ひとり舞台。開演6時半。
- 時そば
- 妾馬(めかうま、別題「八五郎出世」)
- 雪の瀬川
弟子・喬太郎さんの会に比べ、男性客多し。平均年齢も高い。
「亀屋」の女将さんから「ようやくこの時が来ました」と挨拶の後、さん喬さんが高座へ。
前座噺→武家・滑稽噺→廓・人情噺 という構成。
「時そば」は上方の「時うどん」が江戸に移植されたもの。「時うどん」は喜六、清八の二人組みだが「時うどん」は一人バージョン。これを聴きながら気が付いたのは、桂吉朝一門の「時うどん」は「時そば」の逆輸入だったんだ!ということ。
またマクラで、五代目・柳家小さんが寄席で「時そば」を掛けた後は近所の蕎麦屋がいっぱいになり、八代目・桂文楽が「明烏」を掛けた時は売店の甘納豆(噺に登場)が飛ぶように売れたというエピソードを披露。
「雪の瀬川」はしっとりとして、艶のある語り口。雪が舞い落ちる江戸の情景が目の前にさあっと広がっていくかのよう。僕は確かに戸口から家の中に吹き込む雪の寒さを感じた。
後で聞いたところによると今回演じられたのは噺の後半部だそう。いつの日かまた亀屋で、前半・後半通しで聴きたいと希う、今日この頃でございます(最後は枝雀風に)。
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