野田総理と三谷幸喜 脚本・監督「ステキな金縛り」
野田佳彦総理が「官邸かわら版」で、特に自分の人生に影響を与えた映画として、ジェームズ・ステュアート主演の「スミス都へ行く」(1939)を挙げている(→こちら!)。1939年は「風と共に去りぬ」がアカデミー賞を席巻した年だが、「スミス都へ行く」も作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞など計11部門でノミネートされ、原案賞を受賞している。ちなみにNHKの取材に答えた、新橋の路地裏にある野田総理行きつけの飲み屋夫婦の証言によれば、総理が一番好きなハリウッド女優はヴィヴィアン・リーだそうである。閑話休題。
さて、三谷幸喜脚本・監督の「ステキな金縛り」は何の予備知識なしでも、いっぱい笑って最後は泣ける、とびきりの大傑作。でも、事前にフランク・キャプラ監督のハリウッド映画「スミス都へ行く」と「素晴らしき哉、人生!」を観ておけば、さらに2倍愉しめるだろう。深津絵里演じるヒロインの亡くなった父親(草なぎ剛)が「スミス都へ行く」が大好きで、向こうの世界から落ち武者の幽霊を連れ戻しにやってくる男(小日向文世)が「素晴らしき哉、人生!」をこよなく愛しているという設定。
評価:A+
映画公式サイトはこちら。
本作で西田敏行が演じる幽霊は「素晴らしき哉、人生!」に登場する、翼をまだ持っていない二級天使と似た役回りと言える。「素晴らしき…」でベルは天使が翼を貰った合図。そのガジェットを、「ステカナ」ではハーモニカが担う。
「素晴らしき哉、人生!」で自殺しようとしたジェームズ・ステュアートは、自分が多くの人たちから愛され、必要とされる存在であることを二級天使から教えられる。一方、「ステカナ」の深津絵里は落ち武者の幽霊から、自分が死者たちからしっかり見守られていることを学ぶ。どちらも心温まる、感動的なラストである。
また市村正親、篠原涼子、生瀬勝久、深田恭子、浅野和之、戸田恵子、佐藤浩市、梶原善、唐沢寿明ら、多彩なゲスト出演陣も賑やかで愉しい。極上のエンターテイメントと言えるだろう。
深津、西田が歌う主題歌"ONCE IN A BLUE MOON"は本当にチャーミングな曲だ。これを聴きながら、「オケピ!」以来ご無沙汰している三谷さんのミュージカルを久しぶりに観たいと想った。是非、次作はミュージカル映画を!
三谷さんとクドカン(宮藤官九郎)はどちらも小劇場(「東京サンシャインボーイズ」と「大人計画」)出身であり、テレビや映画に進出したコメディ作家ということで共通点が多く、本人が好むと好まざるとに関わらずライバルと見做されてきた。2002年の第25回日本アカデミー賞ではクドカンが映画「GO」で最優秀脚本賞を受賞し、「みんなのいえ」の三谷さんを破った。そして今、三谷さんが幽霊を扱う「ステキな金縛り」を世に問い、クドカンもやはり幽霊のストリッパー(広末涼子)が登場する「11人もいる!」をテレビで放送中。何だか面白い。兎に角このふたりが牽引し、互いに切磋琢磨することで日本のコメディの質がどんどん向上し、洗練されてきていることは誠に喜ばしい限りである。
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