ボリス・ベレゾフスキーの超絶技巧練習曲、そして爆演・怒涛のアンコール!
10月6日、いずみホールへ。
モスクワ生まれのピアニスト、ボリス・ベレゾフスキーを聴く。
- メトネル/おとぎ話
- ラフマニノフ/10の前奏曲
- リスト/超絶技巧練習曲(全曲)
ギレリス、リヒテル、ベルマン、ブロンフマン……。ロシアのピアニストには他には見られない共通の特徴があると僕は想う。それは強靭な打鍵である。特に左手から生み出されるリズムの力強さがロシアの広大な大地、厳しい自然を連想させる。繊細とは対極で、「魂込めたぜ!」という感じ。ボリス・ベレゾフスキーもそんなロシアのピアニズムを受け継ぐひとりである。
彼は1990年チャイコフスキー国際コンクールに優勝。その年にヴァイオリン部門で日本人初の1位に輝いたのが諏訪内晶子さんである。
メトレルはラフマニノフと同時代の作曲家・ピアニスト。ロシア革命で亡命した点でも共通している。初めて聴いたが、不協和音の連打など明らかに20世紀の響きを刻印しつつも、ロシア民謡風の旋律も登場し、また鐘が鳴るところはラフマニノフ同様に郷愁が感じられた。
ベレゾフスキーはメトレルのみ楽譜を見、ラフマニノフ以降は暗譜で弾いた。
ラフマニノフは24の調を網羅する24の前奏曲を書き、リストも練習曲を全ての調性で書く予定だったという。またショパン、スクリャービン、ショスタコーヴィチも全長短調を用いて24の前奏曲を書いている。これら作曲家がバッハの「平均律クラヴィーア曲集」を意識していたことは間違いない(後世の多くのシンフォニストたちが強くベートーヴェンを意識し、マーラーが第9番という数を恐れたことと似ている)。またリストに「バッハの名による幻想曲とフーガ」という作品があることも見逃せない。このB-A-C-H主題は大バッハの遺作「フーガの技法」へのオマージュである。音楽史は繋がっている。
ベレゾフスキーの「超絶技巧練習曲」は豪快であるが、荒くはない。ミス・タッチも皆無。嵐のような始まり方。時にピアノの鍵盤を引っかくような仕草をしたり、バネで勢いつけたみたいに手を上に跳ね上げたりもする。鍵盤の上でアクロバットを披露するサーカスを連想した。畳み掛けるドライブ感。巧みなハンドリングで、コーナーの切れは抜群。
そしてアンコールは怒涛の7曲!
- アルベニス/「スペイン組曲」より”アストゥーリアス”(伝説)
- サン=サーンス(ゴドフスキー 編)/白鳥
- ガーシュウィン/3つの前奏曲(全曲!)
- モートン・グールド/ブギウギ
- ガーシュウィン/ラプソディー・イン・ブルー(抄)
「こんなの軽いものさ。まだ聴きたいのかい?いいぜ、いくらでも弾いてやるよ」みたいなノリ。特に前代未聞の速いテンポによるガーシュウィンは爆演で、ひっくり返った。このピアニストは正に「現代のジョルジュ・シフラ」なんだなと理解した。
もの凄いものを聴いたという興奮と共に帰途に就いた。
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