桂九雀/噺劇一座「星野屋」「文七元結」
道頓堀ZAZAへ。
噺劇(はなしげき)を観る。これは落語家・桂九雀さんの創作で、以前は噺劇(しんげき)と呼ばれていたが、今回から読み方が変わった。僕は前の響きの方が好き。
過去に観た噺劇の感想は下記。
今回の演目(10月10日 16時の部)は、
- 青野敏行、戸田都康/前説
- 噺劇「星野屋」
- 桂 九雀/落語「親子酒」
(仲入り) - 桂 九雀/解説
- 噺劇「文七元結」
- 総おどり
九雀さんの解説によると「星野屋」は江戸にも上方にも噺が残っているが、江戸版は母親が手元に残すのが三両で、上方は五両。「上方の方がケチなんです」と。なるほど。昔は「五両残し」という(ネタ帳に噺家が記載するための)演題だったが、それでは事前に「ネタ出し」する会ではサゲ(落ち)が客にばれてしまうので、近年「星野屋」と呼ばれるようになったそう。
落語一席については九雀さんが「ツイッター上でリクエストしてもかまわない」とつぶやいておられたので、そうしてみた。僕が希望したのは今まで聴いたことがない超古典落語「これこれ賭博」「おろち山」、あるいは考古学落語「縄文さん」「埴輪盗人」、そして小佐田定雄さんの新作「A型盗人」。しかしマニアックなものを狙ってしまい、落語ファンが少ない(演劇関係者が多い)この会には相応しくないと判断されたのか、不採用だった。残念だが、こればかりは仕方ない。
「親子酒」に登場する親子の苗字が「前田さん」。これは九雀さんの師匠・桂枝雀(本名:前田達)のことを示しているのだろう。オーソドックスな演出。この日、12時開演の公演では意外なサゲの「抜け雀」をされたそうで、そちらの方が聴きたかったな。
以前観た噺劇と比べると、今回は黒子(黒衣)が殆ど登場せず、歌舞伎的様式美が薄まって、その分大衆演劇に近づいた印象。それにしても九雀さんが脚色した台本は相変わらず上手く、特に「文七元結」はこんなに面白い話だったっけ?というくらい何度も笑った。役者がいいし、下座の鳴り物(笛・太鼓・三味線)も実に効果的。落語をこうした形式で改めてみるととても新鮮。是非また観たい。でも、黒子はもっと活用した方がいいと想います。
また今回、芝居という形で「文七元結」を観て初めて気が付いたことがある。この人情噺は三遊亭圓朝の創作。「芝浜」も圓朝作と言われているが、この二作品は一対の物語になっているのである。「芝浜」では大酒飲みの主人公がある日、魚河岸で財布を拾うところから物語が始まる。中に入っていたのは五十両(演者により金額が異なる場合あり)。「文七元結」の場合は逆パターンで、主人公が橋で身投げしようとした若い男に五十両入った財布を(名乗らずに)与えてしまう。そしてどちらの噺もそれから色々あって、最終的に主人公は自分の業(酒/博打)を克服するのである。何と鮮やかなシンメトリーだろう!
この発見に僕を導いてくれた九雀さんに心から感謝したい。
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