エリシュカ/大フィルの「我が祖国」
ザ・シンフォニーホールへ。
チェコの「遅れてきた巨匠」、ラドミル・エリシュカ/大阪フィルハーモニー交響楽団 定期を聴く。
- スメタナ/交響詩「我が祖国」
エリシュカは80歳なので、カール・ベームの最晩年みたいにヨボヨボのおじいさんが遅いテンポで振るのかなと予想していた。ところがしっかりした足取りで登場し、背筋を伸ばして暗譜で指揮。
第1曲「ヴィシェフラド」冒頭のハープから驚かされる。勢いがあって力強い。燃え上がるハートを感じさせる演奏。むしろテンポは速め。しかし歌うべきところでは豊かに歌う。
第2曲「モルダウ」はこんこんと水が湧く。そして川は決然と流れだす。アクセントが効いてリズムは明確。夜に妖精が舞う場面では月の光が冴え渡る。急流を経て大河に至るクライマックスでは疾風怒濤の音楽が展開される。
第3曲「シャールカ」は獰猛で血腥い。
第4曲「ボヘミアの森と草原から」は熱い鼓動が聴かれる。
第5曲「ターボル」は激しい闘争と、平穏な祈りが交互に繰り返される。強烈なトゥッティ(tutti,全奏)は身を引き裂くよう。
第6曲「ブラニーク」には鬼気迫る緊張感があり、輝かしいフィナーレでは民族の誇りが高らかに歌われた。
僕は今回の演奏を通して、チェコという国家は宗教戦争と民族独立運動の血で血を洗う闘いの歴史だったのだということをリアルに理解した。
以前、大フィル定期で聴いたコバケンこと小林研一郎の「わが祖国」は草食系。今回のエリシュカは肉食系。これは農耕民族と狩猟民族との決定的な“血“の違いだと、肌で感じ取った。
今後、これ以上の「わが祖国」に出会うことは一生ないだろう。”一期一会”という言葉を噛み締めながら帰途に就いた。
なお余談だが、スメタナの愛国心を江戸幕末の志士たちに喩えた曲目解説はいただけなかった。開国か攘夷かの対立は政争、権力闘争であり、民族の独立運動でもなければ宗教戦争でもない。スメタナが聴覚を失ったことに言及しながら、その原因が梅毒であることを伏せる姿勢にも疑問を感じる。作曲家を美化することに何か意義があるのだろうか?
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コメント
雅哉さんこんばんは。良い演奏でしたね。
モルダウ、良かったですね。こんな演奏もあるんだ、と思いながら聴いてました。
エリシュカさん、また来てほしいですが、どうでしょうかねえ。
投稿: ぐすたふ | 2011年10月 8日 (土) 23時20分
ぐすたふさん、コメントありがとうございます。
勢いのあるモルダウでした。ヤナーチェク、スメタナときて、次は是非ドヴォルザークが聴きたいですね。交響曲第6番とか、スラヴ舞曲、交響詩集とかのプログラムはどうでしょう。
投稿: 雅哉 | 2011年10月26日 (水) 07時41分