アカデミー外国語映画賞・日本代表作「一枚のハガキ」
評価:A
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新藤兼人 監督98歳。映画を観る限り、全く老いを感じさせない、軽やかで瑞々しい作品。
新藤兼人さんは脚本家としてキャリアをスタートさせた。僕が好きな本は「安城家の舞踏会」(1947)「偽れる盛装」(1951)「けんかえれじい」(1966)あたり。
「安城家の舞踏会」は戦争直後の日本に、まるでルキノ・ビスコンティ映画のような、華やかでありながら黄昏を感じさせる華族の世界を出現させた。
「偽れる盛装」は京都を旧弊な閉鎖された時空として捉え、そこからの脱出を試みたヒロインは結局街に絡みとられ、押し戻されてしまう。これほど古都の本質を捉えた作品は稀である。
「けんかえれじい」は腕白な少年たちの喧嘩が次第にエスカレートし、やがて大人たちの戦争(二・二六事件)へと雪崩れ込んでいくという、ミクロからマクロへの転換が鮮やかだった。
僕は当初、新藤監督の新作「一枚のハガキ」に食指が動かなかった。”反戦映画”という宣伝文句を聞いていたからである。
はっきり言う。いわゆる”反戦映画”には食傷気味だ。もう飽きた。何故なら彼らの主張はいつも「戦争はいけない。人を殺すことは罪深い」というワン・パターンだからである。そんなの当たり前でしょ?誰だって知っている。問題の本質は、「それなのにどうして人間は繰り返し戦争をするのか?」という、メカニズムを解明することにあるのではないだろうか?その疑問に答えてくれる作品には滅多にお目にかかれない。手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」と、今年公開されたデンマーク映画「未来を生きる君たちへ」くらいかな。あと「戦争は麻薬だ」という新しい観点から捉えた「ハート・ロッカー」(アカデミー作品賞・監督賞受賞)も傑作だった。
しかし、本作がアカデミー外国語映画賞の日本代表に選出されたと聞いて重い腰を上げた。だって同じ日本人として未見だなんて恥ずかしいじゃない?
観て驚いた。飄々としてユーモアがあって、笑える場面が結構ある。大杉漣や柄本明、津川雅彦ら脇役が好演。大竹しのぶや豊川悦司も勿論いい。登場人物たちがそれぞれ人間味があって、いとおしい。
戦争で死んだ者と生き残った者の差を「くじ運」として捉える視点が新しかった。希望の光が射す最後も爽やか。必見。
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