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2011年9月

2011年9月30日 (金)

やっぱり児玉宏のブルックナーはどえらいわ!/大阪交響楽団 定期

9月28日(水)、ザ・シンフォニーホールへ。

Kodama

児玉 宏/大阪交響楽団で、

  • モーツァルト/交響曲 第39番
  • ブルックナー/交響曲 第4番「ロマンティック」
    第二稿(ノヴァーク1878/80)

贅肉をそぎ落とし、引き締まったモーツァルト。音尻はスッと減衰し、清々しい。

児玉さん得意のブルックナーは推進力に満ち、動的。第1楽章の弦のトレモロ(ブルックナー開始)では繊細な音が奏でられ、ホルン・ソロはゆったりとしたテンポ。しかしトゥッティ(tutti、総奏・全合奏)に至ると一転、スピード・アップ!実にスリリング。第2楽章アンダンテでも決して遅過ぎず、第3楽章「狩の情景」ではあたかも鹿がしなやかに跳ねるが如し。そして決然として厳粛な第4楽章。低い重心の音のピラミッド。天を衝く金管が圧巻であった。

余談だが、児玉シェフが解説(→こちら!)に書いている、第1楽章冒頭のホルンによる第1主題は、

Ich komme hin, wo Du nun bist !
( 私は行きます、貴方のいらっしゃるところへ!)

と本当にそう聴こえた!これは新鮮な発見であった。

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2011年9月28日 (水)

アカデミー外国語映画賞・日本代表作「一枚のハガキ」

評価:A

Hagaki2

映画公式サイトはこちら

新藤兼人 監督98歳。映画を観る限り、全く老いを感じさせない、軽やかで瑞々しい作品。

新藤兼人さんは脚本家としてキャリアをスタートさせた。僕が好きな本は「安城家の舞踏会」(1947)「偽れる盛装」(1951)「けんかえれじい」(1966)あたり。

安城家の舞踏会」は戦争直後の日本に、まるでルキノ・ビスコンティ映画のような、華やかでありながら黄昏を感じさせる華族の世界を出現させた。

偽れる盛装」は京都を旧弊な閉鎖された時空として捉え、そこからの脱出を試みたヒロインは結局街に絡みとられ、押し戻されてしまう。これほど古都の本質を捉えた作品は稀である。

けんかえれじい」は腕白な少年たちの喧嘩が次第にエスカレートし、やがて大人たちの戦争(二・二六事件)へと雪崩れ込んでいくという、ミクロからマクロへの転換が鮮やかだった。

僕は当初、新藤監督の新作「一枚のハガキ」に食指が動かなかった。”反戦映画”という宣伝文句を聞いていたからである。

はっきり言う。いわゆる”反戦映画”には食傷気味だ。もう飽きた。何故なら彼らの主張はいつも「戦争はいけない。人を殺すことは罪深い」というワン・パターンだからである。そんなの当たり前でしょ?誰だって知っている。問題の本質は、「それなのにどうして人間は繰り返し戦争をするのか?」という、メカニズムを解明することにあるのではないだろうか?その疑問に答えてくれる作品には滅多にお目にかかれない。手塚治虫の漫画「アドルフに告ぐ」と、今年公開されたデンマーク映画「未来を生きる君たちへ」くらいかな。あと「戦争は麻薬だ」という新しい観点から捉えた「ハート・ロッカー」(アカデミー作品賞・監督賞受賞)も傑作だった。

しかし、本作がアカデミー外国語映画賞の日本代表に選出されたと聞いて重い腰を上げた。だって同じ日本人として未見だなんて恥ずかしいじゃない?

観て驚いた。飄々としてユーモアがあって、笑える場面が結構ある。大杉漣や柄本明、津川雅彦ら脇役が好演。大竹しのぶや豊川悦司も勿論いい。登場人物たちがそれぞれ人間味があって、いとおしい。

戦争で死んだ者と生き残った者の差を「くじ運」として捉える視点が新しかった。希望の光が射す最後も爽やか。必見。

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2011年9月26日 (月)

さん喬ひとり舞台@亀屋寄席

9月25日(日)、大阪府高槻市にある割烹旅館・亀屋へ。柳家さん喬を聴く。

Kame1

落語会の前に寄席弁当(2,000円)をいただく。

Kame2

丁寧な仕事振りで、特に山椒がピリリと効いた、じゃこご飯が美味しかった!

はじめに女将の挨拶「やっとこの日が参りました」と。過去に喬太郎さんとの親子会はあったけれど、正に待望のひとり会。びっしり満席。

  • 初天神
  • 笠碁
    (仲入)
  • 文七元結

さん喬さんは亀屋寄席を「しっとりとした雰囲気」と表現し、江戸落語の七割は上方から来ていると紹介して「初天神」へ。飴や、みたらし団子を頬張る時の口芸が面白い。最弱音(pp)から最強音(ff)まで声のダイナミックスの変化が圧巻。喋るテンポや姿勢(背中の曲げ・伸ばし)を巧みにコントロールしながら躍動感溢れる高座。それでいて全体の印象としては、はんなり上品。これぞ名人芸。

さん喬さんの落語を聴いていて強く感じるのは「人間という存在の可笑しさ、愛おしさ」である。

笠碁」は前半のしとしと雨が降り、物憂くゆっくりと流れる時間から一転、後半で登場人物が外出してからの快活な足取りとの対比が鮮やか。

人情噺「文七元結」は《泣かせ》に走る演出とは一線を画し、むしろ爽やかな一陣の風が吹き抜けるような軽やかさが魅力的であった。

十分間の仲入を挟み、濃密な二時間半をたっぷり堪能した。

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2011年9月24日 (土)

オーケストラ・アンサンブル金沢×西村雅彦/ヘンデル祭り!@大阪

ザ・シンフォニーホールへ。

Nishi

ロルフ・ベック/オーケストラ・アンサンブル金沢OEK)  シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団で、オール・ヘンデル・プログラム。

  • オラトリオ「エジプトのイスラエル人」より
    主は雨に変えて、雹を降らせ
    主が葦の海を叱りて、海は干上がりたもう
  • オラトリオ「メサイア」より
    ハレルヤ
    御子が我らに生まれたもうた
    田園交響曲
    羊飼いが夜野宿しながら
    いと高きところに、栄光が神にあるように
  • オラトリオ「ユダス・マカベウス」より
    序曲
    御身の敵はかく倒れる
    カファルサラマより
    見よ、勇者は帰る
    行進曲
    主をほめ歌えよ
  • オラトリオ「ソロモン」より
    シバの女王の入城
    さあ、別の調子を試みよう~堂を震わし天を突け
    速やかに立ち去れ怒りより~流せ涙を、かいなき愛に
    竪琴と歌を用いて、神をほめたたえよ
  • 「水上の音楽」組曲 第1番より
    序曲、アダージョ・エ・スタッカート、アレグロ
  • 「王宮の花火の音楽」より
    序曲、歓喜
  • オラトリオ「イェフタ」より
    ああ、主よ、御身の御意思は何と測りしれぬことか!
  • オラトリオ「メサイア」より
    アーメン

また、ナビゲーター(?)として衣装とかつらに身を包み、ロマン・ロラン役:西村雅彦、ヘンデル役:井上道義OEK音楽監督)の出演もあった。

オーケストラは対向配置、バロック(クラシカル)・ティンパニを使用し、弦はノン・ヴィブラート(ピリオド)奏法。

瑞々しい演奏。すっきり晴れやか、透明感あるヘンデルを堪能。「水上の音楽」など、生き生きとした魅力に溢れていた。また合唱の雄弁さ、精度の高さも特筆に価する。

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南湖だんご(9/16)

ワッハ上方「上方亭」へ。

N1

講談師・旭堂南湖さん(公式サイトはこちら)の話術研究会。

  • 笹野名槍伝・海賊退治
  • 講釈師銘々伝・旭堂南北 血染めの太鼓
  • 大石内蔵助6 南部坂雪の別れ
  • 源頼朝の夜這い

客の入りは11人。

講釈師銘々伝の「旭堂南北」とは、南湖さんの兄弟子。広島商業高校時代に応援団に所属し、野球部と共に甲子園へ。その時、名キャッチャー達川光男(後に広島カープ監督)と「怪物くん」と呼ばれた江川卓投手を擁する作新学院との名勝負が展開され、手に汗握るクライマックスとなる。これには意表を突かれ、面白かった。

また南湖さんによると、先日トリイ・ホールで「祝島 原発反対三十年」という所要時間50分の新作を披露し好評を博した。そのネタをさらに1時間10分くらいに改良し、11月26日に動楽亭で再演する予定だと。題材となった瀬戸内海に浮かぶ小さな島(山口県)にはまだ行ったことがないが、近々取材に訪れる予定だとも。

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2011年9月21日 (水)

アカデミー外国語映画賞受賞/「未来を生きる君たちへ」@デンマーク

評価:A

アカデミー賞とゴールデングローブ賞の外国語映画賞をW受賞。原題は"HÆVNEN"、デンマーク語で「復讐」「報復」といった意味。英題は"In a Better World"

監督はスサンネ・ビア。「ハートロッカー」のキャスリン・ビグロー(アカデミー監督賞受賞)といい、「ディア・ドクター」の西川美和(キネマ旬報ベスト・テン 日本映画1位)といい、近年女性監督の成果は目覚しい。

Better

映画公式サイトはこちら

原題が直截示唆する通り、この映画のテーマは「暴力を振るわれた時、報復をするべきか、否か?」ということに集約されるだろう。それはエリアス少年が学校で受けるいじめという、ミクロな問題から出発し、彼の父で医師のアントンが医療に従事しているアフリカ難民キャンプで目の当たりにする過酷な現実へと発展する。そしてさらに問題提起は国家間の「戦争」にまでマクロに広がって行く。その掘り下げ方、スケールがすごい。無骨でありながら観ている者の脳天にガツンと来る。

確かな手ごたえを感じる傑作。必見。

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下野竜也/大フィルのブルックナー交響曲 第2番

ザ・シンフォニーホールへ。

Shimo

下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)の定期演奏会第1日目を聴く。

  • J.S.バッハ=ベリオ編/「フーガの技法」より コントラプンクトゥスX IX
  • ボッケリーニ=ベリオ編/「マドリードの夜の帰営ラッパ」の4つの版
  • ブルックナー/交響曲 第2番(1872年/キャラガン版)

未完の「フーガの技法」は大バッハの絶筆。B-A-C-Hの主題(バッハの署名)が登場することでも知られている(後にリスト「バッハの名による幻想曲とフーガ」、プーランク「バッハの名による即興ワルツ」、ニーノ・ロータ「バッハの名による変奏曲とフーガ」等も作曲された)。ベリオの編曲は、サキソフォンが使用されているのも面白いし、楽譜が途切れる箇所では不協和音を重ねて、いかにも20世紀らしい仕上がりになっている。また弦がノン・ヴィブラートで演奏することで、無機質な肌触りが印象的だった。

一転してボッケリーニではヴィブラートを効かせ、イタリアの作曲家らしく明るく愉しげ。好対照だった。原曲は弦楽五重奏の長短2つの版、ギター五重奏、ピアノ五重奏の4つのバージョンがあるそうで、それを同時に演奏してしまうというアイディアが斬新。

ブルックナーは(長年の研究を重ね)1872年の初稿版を限りなく再現したキャラガン版。2005年に刊行されたもの。曲目解説によると交響曲第5番を書いた直後に作曲家自身が大幅な改訂をし、第2、第3楽章を入れ替え、第4楽章を中心にカットしたそうである。ちなみに僕が所有するショルティ/シカゴ交響楽団のCD(ノヴァーク版)は所要時間55分。今回のキャラガン版は67分だった。

キャラガン版は第2楽章がスケルツォなのだが、曲想が交響曲第9番 第2楽章に似ているので、全く違和感はない。第8番も第2楽章がスケルツォなわけで、ブルックナーは初期からこういう構想があったのだなと新鮮だった。

大フィルの弦は厚みがあり、さすが故・朝比奈隆から長年薫陶を受けてきたオーケストラだなと改めて感嘆した。ビロードのような美しさ。これぞブルックナー・サウンド!

下野さんの指揮は速めのテンポで推進力があり、パワフル。そのピンと張り詰めた緊張の糸は終楽章最後の音符まで途切れることはなかった。第2楽章スケルツォはパンチが効き、気迫が感じられた。しかしこの作曲家の特徴である全休止(ゲネラルパウゼ)ではたっぷり間を取り、第3楽章ではじっくりと歌うことも忘れない。祈りに満ちた深い音が響く。そして終楽章は猛獣の雄叫び!切れがある。全身全霊を込めた圧巻の名演だった。

ただ大変残念だったのは先日のチャイコフスキー・セレクション以来、ホルンの池田さんが不調を引きずっていた事。ロングトーンも安定せず、お粗末だった。

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2011年9月20日 (火)

ノルウェイのピアニスト・アンスネス来日と村上春樹

兵庫県立芸術文化センターへ。

An

ノルウェイのピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネスを聴く。実は彼のことを初めて知ったのは村上春樹さん のエッセイにおいてだった。「意味がなければスイングはない」(文春文庫)で村上さんはシューベルト/ピアノソナタ第17番を取り上げ、所有する15種類の演奏(LP,CD)を 比較し、アンスネスを第一に推した。

考えてみたら「ノルウェイの森」の作者が、ノルウェイのピアニストを推すというのも面白い。このエッセイを読んでアンスネスが弾くシューベルトのCDを購入したが、静謐な叙情をたたえた目の醒めるような演奏だった。テクニックも的確。

今回のプログラムは、

  • ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第21番「ワルトシュタイン」
  • ブラームス/4つのバラード
  • ショパン/バラード 第3番
  • ショパン/ワルツ 第13番、第7番、第11番、第5番
  • ショパン/夜想曲 第17番
  • ショパン/バラード 第1番

正確無比。そのタッチは瑞々しく、水面を跳ねる飛魚を連想させる。活きがいい。曖昧さは皆無で、透明感が感じられた。ショパンは華麗というより精緻。また最弱音(pp)の美しさが際立つ。逆に、「ワルトシュタイン」の第3楽章には男性的でパワフルだった。

シューマンがライン川に投身自殺を図った年に書かれたブラームスの「バラード」第1曲はまるで弔いの鐘のような響きがする。第2曲には憧憬、思慕の念が感じられる。それはクララ・シューマンへの想いだろうか?第3曲「間奏曲」は激情が走り、苦悩に満ちている。一転して中間部では天国的な美しさ!第4曲はシューマンを連想させる浪漫的曲想に始まり、中間部ではブラームスらしい内省的音楽に。中々渋い、いい曲だった。

アンコールは、

  • ショパン/前奏曲 op. 28-17

聴いた瞬間、「これでは絶対に終わらない!」と確信した。だってアンスネスはノルウェイのピアニストだから。

そして案の定、続けて2曲を演奏してくれた。

  • グリーグ/ノルウェイの農民行進曲(「抒情小曲集」より)
  • グリーグ/春に寄す(「抒情小曲集」より)

農民行進曲は左手の担当するリズムが堅固で力強い。そして待ちわびた春への憧れに満ちた美しい楽曲へ。陶酔した。ピバ!北欧。

41歳の若き巨匠アンスネス、また聴きたいピアニストである。次回は是非、グリーグ中心で。

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2011年9月17日 (土)

延原武春/大フィルの「軍隊」「運命」《ウィーン古典派シリーズ V 》

9月15日(木)いずみホールへ。

バロック音楽の専門家・延原武春が指揮する大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:崔 文洙)を聴く。

  • ハイドン/交響曲 第100番「軍隊」
  • モーツァルト/クラリネット協奏曲
  • ベートーヴェン/交響曲 第5番

クラリネット独奏は大フィル首席奏者ブルックス・トーン

第1・第2ヴァイオリンが指揮台をはさみ向かい合う、対向配置。ノン・ヴィブラートのピリオド・アプローチ。バロック(クラシカル)・ティンパニを使用し、その強烈な響きが劇的効果を上げる。

特にモーツァルトは弦が6-6-4-3-2という小編成ですっきりした響き。ベートーヴェンでも第1ヴァイオリンが10人。

軍隊」は軽快なフットワークで機動力ある演奏。トルコの軍楽隊が登場する場面では爽やかで瑞々しい。清明なハイドンだった。

モーツァルトはあくまで美しい。天国的響き。古典に新たな生命が吹き込まれた。

ベートーヴェンは切れがありスタイリッシュ。スコアに記されたメトロノーム記号に忠実な速いテンポなので、第2楽章も動的でリズミカル。第3楽章は疾走するフーガ。そして第4楽章は推進力がありパンチが効いている。これが勝利への力強い行進曲なのだということを改めて感じさせた。

交響曲第5番には「苦悩を超えて歓喜に至る」という基本コンセプトがあるが、これは後世の多くの作曲家に踏襲されている。例えばブラームス/交響曲 第1番、チャイコフスキーの5番、マーラーの5番、そしてショスタコーヴィチの5番。こうしてみるとやっぱり凄い曲だね。

アンコールは毎回、バッハ/管弦楽組曲 第3番からアリア

音楽評論家・澤谷夏樹さんによると、延原さんは「アリアはモダン奏法でスタートして回を追うごとに古楽寄りにしてまんねん」と語られていたそうだ。

シリーズ当初は慣れないノン・ヴィブラートに戸惑いがあったのか、無意識に左指を動かして(揺らして)いる弦楽奏者が散見されたが、現在ではそういうこともなくなった。各自がピリオド・アプローチを十分咀嚼し、自分のものにした印象を強く受けた。オーケストラは確実に進化している。今後の展開が楽しみだ。是非このコンビでベートーヴェン交響曲全集のレコーディングを!

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2011年9月16日 (金)

「大阪クラシック2011」最終日/トリプティーク/遂に実現!大植英次の「大阪俗謡による幻想曲」

9月10日(土)早朝、「大阪クラシック」最終公演の整理券を確保すべく大阪市役所前へ。

Osaka5

午前6時の段階で既に100人並んでいた。6時20分、列は200人を超える。7時10分、座席指定券600枚は既に超過し、ブロック指定立見券200枚へ突入。

Osaka6

こうして、整理券が配布される8時30分の時点では、とっくに予定枚数を終了していた。

【第77公演】@大阪市中央公会堂 大集会室

Osaka7

大阪フィルハーモニー交響楽団弦楽セクション(コンサートマスター:長原幸太)で、

  • モーツァルト/ディヴェルティメント ニ長調 K.136
  • 芥川也寸志/トリプティーク

O3

芥川は生前、中国から若い奏者を日本に招待し、自分が音楽監督をしていた仙台フィルに入団させていたそう。そのひとりが現在、大フィルのヴィオラ奏者である周 平さんであると紹介された。

トリプティーク」第1楽章(アレグロ)は全弦楽器のユニゾンで開始される。これが鮮烈な印象を与える。民族的(アジア的)で激しい。第2楽章(アンダンテ)は「子守唄」。日本的叙情溢れる音楽。チェロとヴィオラにノック・ザ・ボディー(楽器の胴体を拳で叩く)という珍しい奏法が登場し、生命感がある。第3楽章(プレスト)は祭囃子。リズミカルで心地いい。

さすが世界に誇る大フィルの弦楽セクション。文句があろう筈がない。滅多に聴けない貴重な体験だった。

アンコールはディベルティメントの第3楽章(プレスト)をさらに速く!スリリングで面白かった。

【第80公演】@ANAクラウンプラザホテル大阪 1Fロビー

O4

クラリネット:金井信之 ピアノ:城 沙織 で、

  • ヒンデミット/クラリネット・ソナタ
  • テンプルトン/ポケット・サイズ・ソナタ 第2番

ヒンデミットは1939年初演。「暑苦しい曲ですみません」と金井さん。

アレック・テンプルトン(1909/10-1963)はイギリス生まれ。アメリカに渡りジャズ・ピアニストとして活躍、ベニー・グッドマンに楽曲を提供したという。第1楽章は都会の夜の雰囲気。第2楽章はガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を彷彿とさせる。第3楽章は軽妙洒脱。素敵な音楽を聴かせてもらった。

【第83(最終)公演】@三菱東京UFJ銀行 大阪東銀ビル

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、

  • リスト/交響詩「レ・プレリュード」(前奏曲)
  • 大栗裕/大阪俗謡による幻想曲
  • レスピーギ/交響詩「ローマの松」

大植さんは「大阪クラシックは今年で6年目。夫婦でいえば鉄婚式です!」と。

平松市長によると、「大阪クラシック2011」の来場者はのべ4万8千5百人に達したそう。「この場に立って思うのは、市長になって良かったなぁ」としみじみ。客席からはやんややんやの大喝采。

大植さんから市長に大阪フィル野球チーム「背番号18」のユニフォームをプレゼント。平松さんは第18代大阪市長にあたるのだそう。そして「来年以降も大阪クラシックを続けて行きます!」と力強く宣言。

リストの「レ・プレリュード」はアドルフ・ヒトラー(←大植さんは「ある方」と表現)率いるナチス・ドイツが自分たちのテーマ曲のように使用したために、8年前に大植さんが取り上げるまで、戦後ドイツでは一切演奏されることがなかったという。

しかし、カラヤン/ベルリン・フィルは同曲のステレオ録音を残している。疑問に思って帰宅後調査してみると、驚くべき事実が判明した!彼らは戦後レコーディング・セッションのみで、実際の演奏会で取り上げたのは1939年と42年だけだったのだ(参考資料は→こちら)。

フランスの詩人ラマルティーヌの「詩的瞑想録」の一節が楽譜に引用されており、大植さんがそれを読み上げた。

我々の一生はその厳粛な第1音から死への前奏曲にほかならない。愛はすべての生の輝かしい夜明けである。しかし嵐が吹き荒び、青春の幻想と希望を打ちのめさない運命がどこにあろう?人はそのこのように傷つけられた心と平和に安穏とすることが出来ない。そんな中、戦いを告げるラッパが鳴り響くとき、その理由がなんであれ、我々は我が身を戦列に加えるのだ。

重々しく力強い序盤。半ばに登場する叙情的主題の清らかさ!そこでは真・善・美が一体となっていた。

大阪俗謡による幻想曲」成立のエピソードは下記記事に詳しく書いた。

「朝比奈先生がベルリン・フィルで大阪俗謡を指揮したのは1956年。この年に僕も誕生しました」と大植さん。「随分前からこの曲を振って欲しいという要望があったのですが、引用されている大阪の祭囃子(天神祭と生國魂神社の獅子舞)を知ってからでないとと、機会をうかがっていました」

ベルリン・フィルのアーカイブにはこの曲の原典版スコアが保管されている(現在演奏されているものは作者が記憶だけで書き起こした70年改訂版)。大植さんはベルリンでその原典版を見てきたという。

また冒頭のラ・レの音は日本的雰囲気を醸し出しており、中盤オーボエ・ソロに伴う弦のピッチカートは三味線を模しているとの解説も。

速めのテンポで開始され、土俗的な踊りへ。弦の刻むリズムが生き生きとしている。そして終結部の加速が凄い。鮮やか!

ローマの松」は華やかなサウンド。ナイチンゲールが鳴く所では陶酔的な美しさ!息の長い節回し。そして最後の「アッピア街道の松」は大植さんが好きな言葉”心音”そのもの。生命の鼓動が感じられた。勝利に向かっての確信に満ちた行進がそこにはあった。

アンコールは夕やけ小やけ/七つの子/ふるさと。そして八木節

阪神タイガースのはっぴを着て、腰を振る大植さん。チェロの近藤さんが、広島出身でカープ・ファンの長原コンマスを見やり、ニヤニヤする。

O5

長原さんは「大植さんも広島生まれの癖に、しょーがないなぁ。このお調子者め!」と言いたげな苦笑いを浮かべながら、ヴァイオリンを弾いていた。

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こうしてたのしい愉しい、夢のような一週間は瞬く間に終わりを告げた。ありがとう大植さん、そして大フィルの仲間たち。また来年!

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2011年9月13日 (火)

「大阪クラシック2011」6日目/ニーノ・ロータの九重奏曲

9月9日(金)大阪市中央公会堂 中集会室へ。

【第67公演】平日17時開演だが、満席で立ち見もいる大盛況。

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フルート:井上登紀 オーボエ:大森悠 クラリネット:田本摂理 ファゴット:宇賀神広宣 ホルン:藤原雄一 ヴァイオリン:佐久間聡一 ヴィオラ:吉田陽子 チェロ:織田啓嗣 コントラバス:松村洋介 で、

  • ニ-ノ・ロータ/九重奏曲

「太陽がいっぱい」「ロミオとジュリエット」「ゴッドファーザー」などの映画音楽で知られるニーノ・ロータ。映画「道」「カビリアの夜」「甘い生活」「8 1/2」など多くの作品で組んだ朋友フェデリコ・フェリーニ監督は「ニーノ・ロータは天使のような人だった」と回顧している。今年は彼の生誕100年にあたる。

CDで九重奏曲を聴いたヴィオラの吉田さんは、今年の「大阪クラシック」で是非演奏したいと考えた。しかし、日本にこの曲の楽譜は1セットしか存在せず、しかもレンタル楽譜。期間中に調達出来ないことが判明した。そこで何とイタリアからわざわざ取り寄せたそうである!彼女の並々ならぬ熱意がこの公演を可能にした。

基本的に親しみやすい調性音楽であるが、時に調子外れになるところがロータらしい。

第1楽章アレグロは軽やか。フェリーニの映画に登場するサーカスの道化師を連想させる。またヴァイオリンが哀愁漂う旋律を奏でる。第2楽章アンダンテはオーボエが「ゴッドファーザー」的。ハーモニーが美しい。第3楽章はフェリーニの「オーケストラ・リハーサル」を連想させ、第4楽章(カンツォーネと変奏)はゴンドラに揺られている雰囲気の歌と、多彩なアレンジが愉しい。そして何かに駆り立てられるような第5楽章はタランテラ(ナポリの舞曲。蜘蛛のタランチュラに噛まれると、その毒を抜くために踊りつづけなけれならないとするエピソードから名付けられた)。ロッシーニから脈々と続くイタリアの伝統を感じさせた。

まるで「天使の悪戯」みたいな愛すべき傑作。これが生で聴けて本当に嬉しかった。吉田さん、ありがとう!是非またどこかで演奏してください。必ず聴きに行きます。

【第68公演】@相愛学園本町講堂

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ピアノ:岡田敦子 ヴァイオリン:橋本安弘、中西朋子 ヴィオラ:西内泉 チェロ:松隈千代恵 で、

  • ブラームス/ピアノ五重奏曲 ヘ短調 Op.34

演奏時間40分を要する大作。この曲はもともと弦楽五重奏曲として書かれ、後にブラームスとクララ・シューマンが連弾出来るよう2台のピアノのために編曲され、最終的に現在の形になったそう。

第1楽章は憂いに彩られ、暗い情念を感じさせる。それはクララへの想い(叶わぬ憧れ)。第3楽章から第4楽章にかけ気迫に満ちた演奏で、聴き応えがあった。

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2011年9月12日 (月)

「大阪クラシック2011」5日目/大植英次 特別企画「名曲の隠された事実」

9月8日(木)、本願寺津村別院(北御堂)へ。

Osaka2

【第50公演】ヴァイオリン:小林亜希子 ヴィオラ:川元靖子 チェロ:庄司拓 ピアノ:藤井快哉 で、

  • フォーレ/ピアノ四重奏曲 第1番 ハ短調 Op.15

優しい気持ちになれる音楽。音がキラキラしていて、その水に反射する光の煌めきは、後のドビュッシー(海)やラヴェル(水の戯れ)に繋がっている。気品、そして匂い立つもの。

【第51公演】@大阪ガスビル 1Fフラムテラス

ヴァイオリン:佐久間聡一 チェロ:織田啓嗣 で、

  • タルティーニ/ヴァイオリン・ソナタ ト短調 「悪魔のトリル」
  • ヘンデル/ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ
  • ロンドンデリーの歌(アンコール)

入魂の演奏。気迫と覇気があった。さすが佐久間くん!

【第53公演】@本願寺津村別院(北御堂)

ピアノ:水垣直子 ヴァイオリン:鈴木玲子、浅井ゆきこ ヴィオラ:松本浩子 チェロ:松隈千代恵 で、

  • シューマン/ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44

美しいものへの憧憬を感じさせる音楽。そこには当然、愛妻クララへの想いもあるだろう。

そして夜が訪れた。ザ・シンフォニーホールへ。

Osaka1

【第59公演】大植英次 特別企画「名曲の隠された事実」

まず大植さん指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団によりマーラー/交響曲 第3番(1897年初演)第1楽章 冒頭部が演奏された。続いてブラームス/交響曲 第1番(1876年初演)第4楽章の旋律。大植さんの指摘どおり、そっくりである。

次にマーラー/交響曲 第6番 第1楽章のティンパニの連打。作曲家が「死の舞踏へのリズム」と表現した箇所。それが引用しているのはベートーヴェン/交響曲 第3番「英雄」 第2楽章のコントラバス。同じリズムはマーラー6番 第4楽章にも登場。

エルガー/エニグマ(謎の)変奏曲。このテーマは1899年の初演以来今まで、オリジナルが何に由来するか分からなかった。しかし大植さんはそれを発見したと。ただし他言無用とのことにて、ここには残念ながら書けない。

続いてスコットランド民謡「久しき昔(蛍の光)」。そして「ルール・ブリタニア」の旋律を比較。

エニグマ変奏曲に戻り「ニムロッド」。これはモーツァルト/交響曲 第38番「プラハ」第2楽章を基にしているという。ここで「ニムロッド」を通して。大植さんはアメリカ時代、2001年9月11日同時多発テロの翌日、犠牲者を悼みこの曲を振ったという。非常にゆったりとした心を込めた演奏。大植さんの師レナード・バーンスタインがBBC交響楽団を指揮した録音を想い出させた。

モーツァルトが8歳の時に作曲したという交響曲 第1番から第2楽章。何とここには交響曲 第41番「ジュピター」 第4楽章の動機「ド・レ・ファ・ミ」が既に登場しているではないか!生き生きした演奏。また大植さんによると、ヴァイオリンソナタ 第41番 K.481にもこのジュピター音形が登場するそうだ。

続いてオーケストラがベートーヴェン「英雄」第2楽章を演奏。このホルンに旋律になんと交響曲第5番 第1楽章 第1主題「ジャジャジャジャーン」が既に登場していた!なお、日本で初めて「運命」というタイトルで演奏されたのは1928年。でも命名者は分からないそう(欧米では表題なし)。

モーツァルト/交響曲 第40番 第1楽章(全曲演奏)とベートーヴェン/交響曲 第8番 第2楽章との類似。後者は初めてメトロノーム記号が記されたシンフォニーで、番→分音符=88と指定されていると。へぇ〜、面白い。

ビゼー/「カルメン」第1幕への前奏曲から「運命の動機」。チャイコフスキーは1876年1月にパリで「カルメン」を鑑賞し、感激して泣いた。そして自作の交響曲 第4番 第1楽章冒頭にそれを引用した。そして同第1主題も「カルメン」の”アラゴネーズ”(第4幕への間奏曲)に類似している。さらにベートーヴェン「運命の動機」も登場。

最後はR.シュトラウス/交響詩「死と変容」終結部が演奏された。これがなんとJ.ウィリアムズ/映画「スーパーマン」愛のテーマに生まれ変わったという!そして「スーパーマン」メインテーマを演奏。今まで聴いたことがない速いテンポ。驀進するスーパーマンだった。以前、大植/大フィルの演奏でこれを聴いたときは肝心のところでトランペットが音をはずし頭を抱えたが、今回はノーミス。鮮やかだった。

アンコールはイスラエル国家希望(ハティクヴァ)」の旋律がスメタナの「モルダウ」に似ているという話。これについての詳細を知りたい方は→こちら。「モルダウ」は中程の「農民の踊り」(結婚式の場面)などをカットした短縮版の演奏。まるでNHK「名曲アルバム」みたい。

オーケストラの楽員が去った後、最後に大植さんがピアノでサン=サーンスの「ブルターニュの歌による3つのラプソディ」(3 Rhapsodies sur des cantiques Bretons)Op.7を弾いてくれるサーヴィスも。えっ、どうしてこの曲かって?聴けば分かる。試聴は→こちら

なお、「交響曲」という日本語訳は森鴎外によるものだとのお話も。非常に分かりやすく、ユニークでエキサイティングなレクチャー・コンサートだった。

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2011年9月 9日 (金)

「大阪クラシック2011」4日目/調理場のレビュー

9月7日(水)、相愛学園本町講堂へ。

「大阪クラシック」第45公演。

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出演はヴァイオリン:三瀬麻起子 チェロ:近藤浩志 オーボエ:大森悠 クラリネット:ブルックス・トーン ファゴット:宇賀神広宣 トランペット:秋月孝之 ピアノ:仲香織 

曲目は、

  • ハイドン/シンフォニー・コンチェルタンテ(協奏交響曲)
  • マルティヌー/調理場のレビュー

ハイドンの協奏交響曲は元々オーケストラ伴奏なのを、今回はピアノ版で。ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴット、ピアノという編成。

続くマルティヌーは20世紀チェコの作曲家。「調理場のレビュー」は1927年パリ時代に、寸劇のために書かれた作品だそう。調理器具たちが主人公で、鍋と蓋が喧嘩して、最後には仲直り……といった物語だとか。

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コスプレによる演奏というのが「大阪クラシック」ならではの愉しさ。

大森さんの解説によると、大阪クラシックでは比較的マルティヌーが取り上げられる機会が多く、その理由として次の2点が挙げられると。

  1. 作品数が沢山あり、編成も色々ある。どうせアンサンブルするなら気の合った仲間としたいから、楽器の変則的組み合わせというニーズに応えてくれる。
  2. メジャーな作曲家ではないので、有料公演でプログラムに取り入れても、お客さんにアピールしにくい。その点無料公演の「大阪クラシック」ではやり易い。

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I プロローグ(行進曲風に) II タンゴ III チャールストン IV フィナーレ という構成。

楽器編成はヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ファゴット、トランペット、ピアノ。

親しみ易く、陽気で愉快な曲。タンゴなんかは滑稽なおかしみもある。珍しいものが聴けてとても良かった。

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2011年9月 7日 (水)

音楽の神様は舞い降りた! 「大阪クラシック2011」3日目〜大植英次/大フィルの尾高尚忠とショスタコーヴィチ

9月5日(火)ザ・シンフォニーホールへ。

Osaka

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、

  • 尾高尚忠/フルート協奏曲
  • ショスタコーヴィチ/交響曲 第5番

フルート独奏は大フィル首席奏者の野津臣貴博(みきひろ)さん。

尾高尚忠(おたかひさただ)は39歳の若さで亡くなった。ベルリン・フィルの指揮台に立ったこともあるそうで、名指揮者・尾高忠明はその次男。

フルート協奏曲(小編成版)は1948年9月3日に初演された。そしてなんと、会場に来られていた平松・大阪市長の誕生年でもあるそうだ。今回演奏されたのは作曲家の死後、弟子の林光が改訂した大編成版。金管はトランペットやホルンはあるが、トロンボーンなし。「日本のやさしさ、自然の厳しさがこの曲にはあります」と大植さん。

大植さんが1972年に桐朋学園に入学した当時、指揮者でフルート奏者としても活躍、そしてこの曲の依頼者でもある森正が教鞭を執っており、最初にレッスンを受けたそう。大植さんはなんと暗譜で指揮された。

僕は今回初めて聴いたのだが、第1楽章からメロディアスで叙情的。涙が出そうなくらい美しい!第2楽章はピアノが登場。チェロが弓で弦を叩く奏法もあったりしてエキゾチック。そして無窮動、変拍子の第3楽章で華やかに終わる。

「市長!いい曲だったでしょう」という大植さんの呼びかけに対し、客席からステージに駆け上がった市長は大阪の水道水をペットボトル(500ml)に詰めた商品「ほんまや」(モンドセレクション金賞)を差し出して答える。「大阪市民は市長を愛しています!」と大植さんは言い、尾高尚忠を振った指揮棒をプレゼントした。

ショスタコーヴィチ/交響曲第5番は1937年に初演された。大植さんによると、その年に御堂筋が完成したそうである。さらに同年、大阪市立電気科学館(現:大阪市立科学館)に日本で初めてのプラネタリウムが設置されたという。

曲の内容についてのレクチャーもあって、すごくエキサイティングだったのだが「インターネットには書かないで」とのことなので詳細をお伝え出来ないのが残念。さわりだけ述べると、ドミトリー・ショスタコーヴィチ(Dmitri Schostakowitsch)が(バッハB-A-C-Hのひそみに倣い)ドイツ語における自分のイニシャル(D-S-C-H)を交響曲第10番の中に密かに刻印(署名)したことは有名だが、実は第5番でも……という内容だった(こうした手法をモノグラムという)。

この曲に篭められた真意を理解するには作曲家とソヴィエト共産党、特に独裁者スターリンとの確執を知っておく必要があるだろう。第1楽章は威圧的で強烈なユニゾンが印象的。おどけたマリオネットを連想させる第2楽章はアクセントを強調し、弾力がある。途中、極端にテンポを落としたり、突如暴力的になったりもする。悲痛な第3楽章は暗い深淵を覗き込むよう。寂寞としたフルート・ソロは虚無を感じさせる。そして重々しいティンパニが炸裂する第4楽章は作曲家が自分の運命に抗うかのよう。この音楽は当時の政治当局をきっぱりと否定し、最後は俺(ショスタコ)が勝つのだと高らかに宣言している、ということを今回の演奏を通じて理解することが出来た。2007年4月同曲を大フル定期で聴いた時より20%増し、今年一番、桁外れの名演!僕は今宵、音楽の神様がザ・シンフォニーホールに間違いなく舞い降りたのだと確信した。

アンコールはユーマンス(ショスタコーヴィチ 編)/タヒチ=トロット(二人でお茶を) 作品16。これは作曲家が指揮者ニコライ・マルコの自宅で「二人でお茶を」のレコードを1回だけ聴かされ、「1時間以内に編曲出来るか100ルーブル賭けよう」と提案され、45分でオーケストレーションを仕上げて勝ったという逸話が残っている。自作ではないにもかかわらず、作品番号付きで発表し、後にバレエ音楽「黄金時代」の間奏曲としても使用した。大植さんによると今でも楽譜は手書きのままなのだそう。ウィットに富んだ洒落た曲だった。

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2011年9月 6日 (火)

日本テレマン協会マンスリーコンサート「宮廷の楽しみ」バロックヴァイオリンの名手、ドイツより来日

9月5日(月)、大阪倶楽部へ。

ドイツ・ハノーファー在住バロック・ヴァイオリンの名手ウッラ・ブンディース(Ulla Bundies)が登場。2002年よりシュトゥットガルト・バロック管弦楽団のコンサートミストレスを務めている。

彼女は以前にも日本テレマン協会のマンスリーコンサートに出演し、クリスティーネ・ショルンスハイムのチェンバロでバッハを聴かせてくれた。

今回はテレマン・アンサンブル(弦5部、リュート、オーボエ、ファゴット、チェンバロ)との共演で、

  • ヘンデル/合奏協奏曲 ロ短調 作品6-12
  • ゼレンカ/ヒポコンドリア イ長調 ZWV187
  • テレマン/組曲 ハ短調 TWV55:c1
  • J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲 ト短調 BWV1056R
  • ヴェントゥリーニ/序曲 ホ短調 作品1-1
  • J.Ch.F.バッハ/シンフォニア ニ短調 HW1/3

ブンディースはコンサートミストレスという立場もあるだろうが、動きがダイナミック。その豪胆な腕が奏でる音楽には漲る気迫が感じられる。

大バッハのヴァイオリン協奏曲は後に作曲者自身が移調・編曲し、有名なチェンバロ協奏曲 第5番に生まれ変わった。この第2楽章ラルゴはジョージ・ロイ・ヒル監督の映画「スローターハウス5」でも使用されている(グレン・グールドのピアノ演奏)。ブンディースのバロック・ヴァイオリンには瞬発力があった。

J.Ch.F. ヨーハン・クリストフ・フリードリヒ(1732-95)は大バッハの5男だそう。モーツァルト(1756-91)に近い時代の作曲家だ。この曲が疾風怒濤の激しさがあってとても気に入った(ヴェントゥリーニも良かった)。鋭い切り込みで決然とした演奏。ブラビッシモ!

アンコールはアゴスティーノ・ステッファーニが作曲した宮廷音楽であった。この人はイタリア出身でハノーファーの宮廷楽長を務めたという。

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2011年9月 5日 (月)

PARTYが始まるよ/大植英次プロデュース「大阪クラシック」2011初日!

9月4日(日)、早朝から大阪市役所に並び(朝7時半の段階で200人以上いた)入場整理券を確保し、三菱東京UFJ銀行 大阪東銀ビルへ。

「大阪クラシック」は今年で6年目を迎えた。これから一週間、御堂筋を中心に全83公演が開催される。大植さんら出演者たちは皆ノーギャラだそうだ。

午前11時からの第1公演は大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団のメンバーおよび、大阪音楽大学相愛学園合同オーケストラの演奏(コンサートマスター:長原幸太)で、

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  • ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」より第1楽章
  • スメタナ/交響詩「わが祖国」より“モルダウ”
  • ブラームス/大学祝典序曲
  • エルガー/威風堂々 第1番(アンコール)

「運命」は提示部の繰り返しあり。

大植さんは4月末に大阪市役所で東日本大震災チャリティー・コンサートを開催。その翌日に被災地・岩手県大槌町を訪ね、避難所で生活を送る2400人の一人一人から話を聞かれたことなどを語られた。

モルダウ」については「フナが泳ぐ美しい淀川を想像しながら聴いて下さい!」と。ゆったりしたテンポで開始され、次第に速く。踊りの場面で音楽は弾むように。月光の下、川が流れる場面では目の前に幻想的情景が広がった。

rival(ライバル)の語源はriverだという話も(ラテン語の「小川」を意味する rivus の派生語rivalis、つまり 「同じ川を巡って争う人々」という意味)。

平松・大阪市長が登場し、大植さんから恒例のプレゼント。(民主党)ビル・クリントン大統領が共和党候補ボブ・ドールとの討論会で身につけていたというネクタイ。大植さんはこれをヒラリー・クリントンから貰ったそう。「じゃあ私もこれで(橋下知事との)討論会に臨みましょうか」と平松市長。会場から笑いが零れる。

また平松市長は来年以降も「大阪クラシック」を続けたいとの意向を表明。大植さんは3月で大フィルの音楽監督を勇退するが、桂冠指揮者になってからも全面的に協力したいと。後は11月の選挙で決まる新市長次第だな。

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大学祝典序曲」は大植さんが音楽監督就任直後、大阪音楽大学に招聘され、学生たちを初めて指導した想い出の曲だそう。

アンコールは「威風堂々 第1番」。聴衆は起立し、手拍子を打つ。

僕は2006年の第1回「大阪クラシック」から会場に駆けつけているが、その記念すべき第1公演は相愛学園本町講堂で開催された。大植さん指揮/大阪フィルの金管奏者および相愛学園学生オーケストラの演奏で、

  • コープランド/市民のためのファンファーレ
  • エルガー/威風堂々 第1番

というプログラムだった。

続いて第3公演@相愛学園本町講堂へ。

ヴァイオリン:小林亜希子 ピアノ:藤井快哉で、

  • フォーレ/ヴァイオリンソナタ 第1番
  • フォーレ/子守唄(アンコール)

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フランスの作曲家フォーレの音楽には夢見るような叙情がある。しかしショパンとは違い、甘くない。凛としている。そこには気品、エスプリが感じられる。ドビュッシーもラヴェルも元を辿ればフォーレに行き着くのだなということを再認識した。

余談だが、フォーレとドビュッシーの関係については当時パリ社交界で人気を博したエンマ・バルダックという女性(およびその娘ドリー)をめぐる興味深いエピソードがあるのだが、詳しいことはこちらをご覧あれ。

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2011年9月 3日 (土)

三枝・染丸・鶴笑・文三/東日本復興を祈る特別公演「ささえよう日本」

8月30日(火)、繁昌亭へ。

被災地の修学旅行生を招待する落語会で、一般客は35人限定だった(2階席サイドのみ)。

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  • 林家染丸・染左・愛染・はやしや絹代/お囃子紹介・落語教室
  • 桂文三/動物園
  • 林家染丸・染左・愛染/人形噺〜踊り「富士の裾野」
  • 笑福亭鶴笑/パペット落語「立体西遊記」
  • ナオユキ/漫談
  • 桂三枝/宿題(三枝 作)

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いわき市立植田中学校は震災でグラウンドが地割れし、体育館は損壊して使えない。福島第一原発から約60キロ、放射線量を心配しながらの学校生活が続いている。 震災で4月から延期されていた関西への修学旅行がこの度ようやく実現した。

お囃子紹介では大太鼓と締太鼓、能管と篠笛の違いなど。また春團治師匠の「野崎」や小枝さんの昔の出囃子「ミッキーマウス・マーチ」(昨年からキダ・タロー作曲「小枝ブルース」を使用)などを演奏。

続いて立候補した男子生徒ふたりが高座に上がり、楽屋で浴衣に着替え、一人は染丸師匠の指導で幽霊を演じ、もう片方が太鼓を叩いた。客席が沸く(浴衣はプレゼントされた)。

文三さんの「動物園」には長谷川園長が登場。これは師匠・文枝の本名、長谷川多持(はせがわたもつ)に由来する。太陽のようにカラッと明るい高座。

人形噺は珍芸で、三人で演じる文楽の人形にヒントを得て、染丸師匠の右手、左手をそれぞれ弟子が担当するという趣向。詳しくは→こちら(写真あり)!これはいいものを見せてもらった。子どもたちも愉しんだことだろう。

ナオユキさん(Stand-up comedy)は得意とする酒に酔ったネタを封印し、自分が子どもだった頃の母親との会話、学校の先生とのエピソードなどに絞って。

全体に質の高い会であったが、一番会場の笑いが多く盛り上がったのは鶴笑さんのパペット落語。さすが「国境なき芸能団」としてイラク難民キャンプの子どもたち等を相手に、活躍されているだけのことはある。

終演後、出演者と子どもたちによる記念写真が三枝さんのブログに掲載されている→こちら

繁昌亭は5年前に開場し、途中から「神聖な高座に素人を上げてはならない」というルールが出来たと聞く。だから今回は特別な配慮だったのだろう。

温かい心配り、そしてプロの矜持を大いに見せてもらった会だった。

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桂雀三郎の「G&G」落語と映画の会

8月28日繁昌亭へ。

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  • 桂 雀太/道具屋
  • 林家染二/井戸の茶碗
  • 桂雀三郎/G&G(小佐田定雄作)
    仲入り
  • 映画「G&G」上映
  • トークショー(小佐田、雀三郎、染二、雀喜、松井公一 監督)

雀太くんはそつなく。

染二さんは軽妙でからっとした高座。

雀三郎さんは開口一番「本職は歌手です」と。小佐田さんの新作は中の下くらいの出来。でも途中、ギター片手に雀さんが数曲歌ってくれて、それがすこぶる愉しい。

短編デジタルシネマは殆ど「G&G」が原作とは言えない、しょーもない人情噺。主演・雀三郎さんの役柄は飲んだくれの売れない噺家。最後は周りの人たちの努力で独演会が実現するのだが、その会場の外観が繁昌亭(216席)で、中身が縦長の「雀のおやど」(収容人数50~60人くらい)。「キャパが全然違うやん!」と突っ込みを入れた。ヒロイン(重定礼子も)も魅力なし。似たようなプロットなら、桂あやめ監督「あなたのためならどこまでも」の方が、断然センスがあると想った。

なお小佐田さん談によると雀三郎さんの役名「舌切亭雀右衛門」は明治期まであった亭号だそうである。その弟子(雀喜)の名前が「 舌切亭すぱ郎」というのが洒落ている(小佐田さん命名)。

染二さんはオカマ役が意外と(?)似合っていた。座談会で雀三郎さんが染二さんに「お前のラインが気に入った!」と言うと、すかさず「ゲイではなく芸を褒めて欲しい」と切り返し、場内は爆笑に(映画よりこちらの方が面白かった)。

また野本有流さん(歌)と土井淳さん(アコーディオン)による主題歌の生演奏もあった。

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大植英次「青少年のためのコンサート」2011! ~大地への讃歌~

9月1日(木)、NHK大阪ホールへ。

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大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団による「青少年のためのコンサート」。会場は中高生でいっぱい。今回は3・11の東日本大震災を受け、~大地への讃歌~という副題が付いている。

  • シベリウス/交響詩「フィンランディア」
  • グローフェ/組曲「グランド・キャニオン」より”山道を行く”
  • ラヴェル/ツィガーヌ
    (休憩)
  • ラヴェル/「ダフニスとクロエ」第2組曲
    (質問コーナー)
  • ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」より第2楽章”小川のほとり”
  • ドヴォルザーク/序曲「謝肉祭」
  • アンコール「大地讃頌」(大木惇夫 詞/佐藤眞 曲)

震災の直後、大植さんはドイツや日本でチャリティー・コンサートを開催し、4月末には被災地の大槌町や釜石市などを訪ねて現地の音楽家や学生たちとミニ・コンサートを開いたり、避難所の方々一人一人から話を聞かれたことなどを語られた。

フィンランディア」はフィンランドがロシアの支配に苦しむ序盤、重々しい足取りで開始される。やがて愛国心の高まりとともに輝かしい響きに変貌し、リズムにアクセントが効く。後に「フィンランディア賛歌」という合唱曲にもなった中間部の旋律は大フィル自慢の弦楽器の音色が美しい。

グランド・キャニオン」ではロバの足音をココナツの殻を台に叩きつける”ココナッツシェル”が使用された。この打楽器は楽譜に指定されているそうで、初めて見た。大植さんは途中からカウボーイ・ハットを被りスカーフを巻き、ノリノリで指揮。

ツィガーヌ」とはロマ(昔は”ジプシー”と呼ばれていた)のこと。ヴァイオリン独奏は石上真由子さん。「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ」のコンサートミストレスとして活躍し、現在は京都府立医大に在学中という面白い経歴の女性。

ダフニスとクロエ」は繊細な音による情景描写で始まる。終曲「全員の踊り」では音楽が勢いを増すが、そのサウンドはあくまで軟らかい。これは今から39年前、大植さんが初めてオーケストラを指揮した想い出の曲だそう。

質問コーナーでは大植さんが客席に降り、「あの楽器はなんですか?」「指揮は難しいですか?」などの疑問に答えた。「大植さんの好きな楽器はどれですか?」に対しては「大阪フィルハーモニー交響楽団です!」と。また「今日は何人くらいの楽員がステージに乗っているのですか?」に対して「96人です(ダフニスとクロエ)」とのこと。

穏やかな「田園」を経て、「謝肉祭」は快速球。開放感があった。大植さんがこの曲のタイトルを「動物の謝肉祭」と連呼していて、横で長原コンサートマスターが笑っていた。あのMC、NHKテレビで放送時にはどうするんだろう??

事前に歌詞付きの楽譜が配布されており、最後は客席全員が起立し「大地讃頌」を歌った。爽やかな秋風の吹く夜のひと時であった。

大植さんが「青少年のためのコンサート」を指揮をされるのは多分、今回が最後。僕がこれを聴くのは4回目くらいかな?今宵のことはしっかり胸に刻んでおこう!

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