大植英次/大フィル、爆演の「チャイコフスキー・セレクション」!
7月20日、ザ・シンフォニーホールへ。
大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、オール・チャイコフスキー・プログラム。
- 歌劇「オプリチニク(親衛隊)」より第4幕"ダンス"
(ミステリーピース) - ピアノ協奏曲 第1番
- 交響曲 第4番
ミステリーピースは農民舞曲風。チャイコフスキーにこんな愛らしい曲があるとは知らなかった。曲名当てはクイズになっており、7月28日にHPで正解が発表された。
ピアノ協奏曲 第1番の独奏はドイツ生まれのマキシム・ベッケルマン、22歳。ハノーファー音楽演劇大学で大植さんに指揮法を学んでいる。時折ミス・タッチがあり荒削りなところもあるが、豪腕の持ち主で、リヒテル、ベルマン、ブロンフマンらロシアのピアニストの流れを汲む剛直なダイナミズムを感じた。
第1楽章はピアノとオケの息がぴったり。丁々発止で力強い演奏が展開された。抒情的な第2楽章は繊細でニュアンス豊か。また速い中間部は爽快なドライブ感が魅力的。第3楽章では大植さんが指揮台で踊り、時々身を乗り出して鍵盤を覗き込む。今まで聴いたことがないくらいのスピード感で、またテンポをどんどん動かす。
そして交響曲 第4番はとんでもないチャイコフスキーが待ち受けていた。
第1楽章冒頭から大植さんは唸り声を上げ、音楽は引きずるように進行する。そしてその後、加速したり急激に減速したりしながらテンポは目まぐるしく変化する。奇っ怪で濃厚な解釈。定期演奏会でのマーラー/交響曲 第5番を想い出した。
チャイコフスキーは躁鬱病だった。例えばパトロンであるフォン・メック夫人に当てた手紙「人生は憂鬱な現実と、儚い夢の交替に過ぎない」という言葉からもそれが伺われる(往復書簡は13年間で1200通に及んだ)。作曲家の極端な気分の変化が今回、白日の元に晒されるかのように感じられた。そしてその性向はマーラーにも共通するものである。
第3楽章スケルツォは軽快。管楽器だけのトリオは「突然酔っぱらいの農夫が現れ、街の歌が聞こえる。遠くで軍楽隊が通り過ぎる」(by チャイコフスキー)という情景が描かれているが、その金管アンサンブルは滑稽で切れがある。その後に再現される弦のピチカートでは大植さんは手を振らず、首だけで指示を飛ばす。しかし大フィルの弦楽セクションは一矢乱れぬアンサンブルでそれに応える。
そして爆走する第4楽章!「これはロシアのオケか?」と錯覚するくらいのド迫力。ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの「ルスランのリュドミラ」序曲を思い出したくらい。途中、やはりテンポは変幻自在で大植さんはやりたい放題。錯綜する感情。ブルックナー張りのゲネラル・パウゼ(全休止)ではたっぷりの間。チャイコフスキーに対してこれだけ自由になれるって凄いわ。
いやぁ、痛快!(いい意味で)ストコフスキーもびっくりの怪演。僕はゲラゲラ笑いながらこのコンビに対し、やんや、やんやの大喝采を送った。
僕は2006年9月3日に神戸国際会館でこのコンビによるチャイコフスキー/交響曲 第4番を聴いている。その時はイン・テンポで比較的オーソドックスな演奏だった(正直、それほど面白くはなかった)。しかし、それから5年後の今回は同じ演奏家とは到底信じられないくらいの変貌ぶり。それはフェスティバルホールで聴いたマーラーの5番と定期のそれが全く別物だったのに似ている。大植英次、予断を許さない男である。
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コメント
あのゲネラル・パウゼには、びっくりしました。
冒頭のホルンがちょっとふらつきましたが、全体として迫力ある金管だったですよね。
これからのシリーズ2.3も楽しみです。
投稿: jupiter | 2011年7月24日 (日) 02時30分
jupiterさん、コメントありがとうございます。
金管について言えば、ピアノ協奏曲 第1楽章 序奏終盤(第1主題登場直前、90小節目付近)のトランペットの音が汚かったですね!何とかしてもらいたいものです。
投稿: 雅哉 | 2011年7月24日 (日) 19時39分
私もこんなチャイ4が聞けて大満足でした。
ずっとCD化を待ち続けているのに一向に出てこないのが残念です。
投稿: | 2017年9月16日 (土) 19時40分