延原武春/大阪フィル「ウィーン古典派シリーズIV」
いずみホールへ。
延原武春/大阪フィルハーモニー交響楽団で、
- ハイドン/交響曲 第83番「めんどり」
- モーツァルト/フルート協奏曲 第1番
- ベートーヴェン/交響曲 第3番「英雄」
第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが指揮台をはさみ向かい合う古典的対向配置。ベートーヴェンではクラシカル・ティンパニを使用(ハイドンとモーツァルトの編成はティンパニなし)。弦は基本的にヴィブラートを抑えたピリオド・アプローチ。
ハイドンは歯切れよく弾むよう。第3楽章メヌエットのトリオでは弦楽器の各パートをソロにした工夫も愉しい。踊りの雰囲気が出ていて新鮮だった。
モーツァルトのフルート独奏は大フィル首席の野津臣貴博(のづみきひろ)さん。使用楽器は1871年製ルイ・ロット(工房は1855年から始まり、1951年に幕を閉じた)。野津さんの奏法もピリオド・アプローチを意識したもので、音尻は短く、タンギング・イントネーションが明瞭。ヴィブラートは控えめ。朝の光を浴びたような、清涼感溢れる演奏だった。
休憩を挟みベートーヴェンの「英雄」。
朝比奈隆、カラヤン、バーンスタインらが活躍した20世紀、僕はこのシンフォニーを聴く度に、重々しい第1、2楽章と軽い第3、4楽章との落差に違和感を抱いた。しかしノン・ヴィヴラートでスコアのメトロノーム記号に則した延原/大フィルの演奏にはそんな居心地の悪さがなかった。
第1楽章から疾風怒濤の如し。颯爽として動きのある解釈。第2楽章はクラシカル・ティンパニが絶大な効果をあげた。足取り軽やかな葬送行進曲。劇的な第3楽章を経て、第4楽章からは生命の鼓動が聴こえてきた。活き活きした「英雄」。そこに僕は馬に乗って駆ける若々しいナポレオンの姿を幻視した(このシンフォニーが完成当時、ナポレオンは34歳だった)。
清新な魅力に満ちたこのシリーズ、今後の展開に期待したい。
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コメント
演奏者によってノンビブラートを強く意識されてる方と、結構癖が出てる方・・・レガートする部分やピチカートなどで臨機応変に使い分けておられるのかなと思いました。
それでもバロックティンパニは、やはり絶大な効果が出ますね!新鮮で心地よかったです。
そうそう、去年のSalonenの記事に対してですが、大フィルの橋爪さんが直接コメント下さいました。
またBLOG覗いて下さい。
投稿: jupiter | 2011年6月25日 (土) 13時29分
雅哉さんイチ押しの延原さん&大フィルのウィーン古典派シリーズを、今回初めて聴くことが出来ました。
3年ほど前、P.ヤルヴィ&ドイツ・カンマー・フィルの演奏をNHK芸術劇場で聴いて衝撃を受けましたが、大フィルと延原さんと、関西の叡智を結集してこんな演奏が出来るのかと、たいへん感動しました。
葬送行進曲は、こんな演奏は生では初めて聴いたので、まだ戸惑っていますが、感情移入や演奏者の思い入れを排して、徹底的に客体化した演奏のように思えました。確かに仰る通り4楽章のストーリーとしてはこちらの方が筋が通っている気がします。
投稿: ヒロノミンV | 2011年6月26日 (日) 22時48分
jupiterさん、コメントありがとうございます。
ノン・ヴィブラートが徹底的に実行出来る人と、どうしても幼少期からの癖で無意識に指が動いてしまう人と色々ですね。
橋爪さんのコメント拝見しました。大フィルのトランペット奏者の中で、唯一信頼出来る方です。
投稿: 雅哉 | 2011年6月26日 (日) 23時33分
ヒロノミンVさんコメントありがとうございます。
20世紀のベートーヴェン演奏はロマン派的解釈に基づく、感情多寡のものでした。そしてそれが間違いであったことが、21世紀の音楽家たちの手で次第に明らかにされつつあります。延原さんの客観的解釈からは虚像を剥いだ、清々しいベートーヴェン像が浮かび上がってきますね。
投稿: 雅哉 | 2011年6月26日 (日) 23時38分