ザ・シンフォニーホールへ。
ダニエル・ハーディング/マーラー・チェンバー・オーケストラでオール・ブラームス・プログラム。
第一日目
- 交響曲 第3番
- 交響曲 第1番
- (アンコール)交響曲 第2番 第3楽章
第二日目
- 交響曲 第2番
- 交響曲 第4番
- (アンコール)交響曲 第3番 第3楽章
ハーディングはイギリス・オックスフォード生まれの35歳、イケメン。16歳でサイモン・ラトルと出会いそのアシスタントとなり、ベルリン・フィルを初めて指揮したのが21歳。ウィーン・フィル定期演奏会にデビューしたのが弱冠29歳というスーパー・エリートである。
僕は彼がドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンとレコーディングしたブラームス3、4番のCDを持っているが、クラシカル・ティンパニを使用し、ノン・ヴィブラート奏法による驚天動地の演奏だった。今回はインタビューで「それとはまったく違ったものになるだろう」と語っていたので期待して臨んだ。
通常のモダン・ティンパニを使用。第1と第2ヴァイオリンが指揮台をはさみ向かい合う対向配置。ハーディングは全曲、暗譜で振った。
交響曲 第3番が始まる。普通にヴィブラートを掛けている。引き締まった第1主題、ふわっとして、揺りかごのような第2主題。ハーディングの手綱捌きはcatch and releaseが実に巧みだなと感じた。第2、第3楽章はアタッカで演奏された。第3楽章には寂寞とした叙情があり、第4楽章は鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた解釈。決して熱くはならない、怜悧な目がそこにはあった。
交響曲 第1番 第1楽章序奏や、主部に入ってからも弱音はほとんどノン・ヴィブラート。音尻は短く、ピリオド奏法のエッセンスが盛り込まれる。一転して第2、3楽章ではヴィブラートを効かせてロマンティックに甘美な歌を歌う。第4楽章は厳しい表情で開始されるが、ホルンが”クララ(・シューマン)の主題”を奏でると穏やかで愛情に満ちた雰囲気となり、そしてベートーヴェン第九に基づく”歓喜の主題”へ。このシンフォニーにはベートーヴェンを敬愛する新古典派としてのブラームスと、ロマン派としての側面が渾然一体となっている。その多面性をハーディングは巧みに表現した。またホルン・ソロが素晴らしかったことも特記に値する。オーボエ首席奏者・吉井瑞穂さんもお見事!
交響曲 第2番 第1楽章は押しては返す波のようなリズムが心地いい。第2楽章は雄弁でよく歌い、第3楽章は軽妙で繊細なニュアンスに富む。第4楽章はクールなスポーツカーのアクセルを踏み込み、海岸をドライヴしているような爽快感!ハーディングは切れのいいハンドリングで聴衆を圧倒した。これはかのカルロス・クライバー/ウィーン・フィルの名演を凌駕する内容だった。
交響曲 第4番 第1楽章は虚無感に支配された第1主題から開始されるが、次第に激情が交じり合ってゆく。第2楽章でフリギア旋法を活かし、第4楽章はバッハの主題に基づくパッサカリア(シャコンヌ)であるなどバロック的古典性を打ち出しながらも、ブラームスはあくまでロマン派の作曲家であった。ハーディングはスコアを深く読み解き、そんな古典派とロマン派が拮抗する音楽世界を明晰に、色鮮やかに我々聴衆に提示してくれた。
コンサートの休憩時間にハーディングは募金箱を持ち、ロビーに登場。
気取らず、爽やかな好青年である。
福島原発事故で日本がこんな状況の中、敢えて来日してくれた彼やマーラー・チェンバーO.の楽員たちに、心から感謝したい。
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