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2011年5月

2011年5月30日 (月)

「上方講談を聞く会 ワッハ亭」(5/26)、「南湖だんご」(5/28)

ワッハ上方四階 小演芸場へ。

五月二十六日(木)

  • 旭堂南斗/後藤又兵衛の入城
  • 旭堂南湖/楠木の泣き男
  • 旭堂南海/南総里見八犬伝
  • 旭堂南左衛門/水戸黄門漫遊記 長屋の出世

五月二十八日(土)

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こちらは旭堂南湖さんのひとり舞台(勉強会)。

  • 講釈師銘々伝・桃川実
  • 大石内蔵助5 山科閑居(赤穂義士伝・本伝)
  • 楠木の泣き男
  • 長短槍試合

また上方講釈師の歴史についても語られた。

講釈は明治時代に最盛期を向かえ、講釈場(専門の常設小屋)が三、四十件あったこと。しかし基本的に落語の寄席と違い一人で長時間語るものなので、講釈師そのものも四十人程度だったと推測されると。

日本人のライフスタイルの変化により明治後期から急速に衰退した講釈は第二次世界大戦後、南湖さんの師匠・(三代目)旭堂南稜ただ一人っきりという時代が暫くあった。現在は十五人くらいまで増えている。考え方の相違から上方講談協会と大阪講談協会に分裂したが、お互いに競争し好敵手として切磋琢磨すればいいのであって、「みんな仲良く」する必要はないのではないか?とのこと。なるほど。

新シリーズ「講釈師銘々伝」の今後の展開に期待する。その生態に興味津々。

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2011年5月28日 (土)

文我「狼講釈」・宗助「釜猫」/玉造・猫間川寄席 (第65回)

5月25日、サンクスホールへ。

Bun1

Bun2

猫間川寄席は過去のネタと一切重複しないという方針で運営されている。だから珍品ぞろい。

  • 笑福亭生寿/狸の鯉
  • 桂 紅雀/孝行糖
  • 桂 文我/藁人形
  • 桂 宗助/釜猫
  • 桂 文我/狼講釈

生寿さんの「狸の鯉」を聴くのは3回目くらいだが、以前よりくすぐり(ギャグ)が増えている!

紅雀さんは、あるお寺の境内で落語会があり、先輩が「らくだ」をかけている最中にだんじりが大音量で横を通り過ぎたことや、「替わり目」を演じていると何度も同じオバチャンが携帯電話を鳴らして往生した爆笑エピソードをマクラに。

文我さんは三重県松坂市出身。幼い頃はまだ土葬の習慣が残っていて、人魂を見たことがあるそう。また木挽きの作業を見ているとき、鋸が何かに当り、「また呪い釘か」と。つまり藁人形を五寸釘で木に打ち付けると、藁は自然に落ちて、釘だけが残るというわけ。

釜猫」は「桂米朝/珍品集」CDに収録されており、いまは宗助さんくらいしか演じ手がいない。奇想天外・陽気なネタで、途中ハメモノ(お囃子)も入り、すこぶる面白かった。

狼講釈」は泥丹坊堅丸(どろたんぼうかたまる)という落語家が登場する。彼が出てくる噺は他に「べかこ」「深山がくれ」があり、これで全て聴いたことになる。五代目・笑福亭松鶴(編)「上方はなし」では噺家が主人公になっているが、さらに遡り江戸時代に花枝房圓馬(はなしぼう えんば)が残した「絵本千里藪」 (落噺千里薮、おとしばなしせんりのやぶ)では道楽息子が主人公になっているとか。今回は上方版による口演だったが、この翌日に京都では江戸版を演じられたらしい。文我さんの表現を借りるなら「ひっちゃかめっちゃか」な噺で、後半は「五目講釈」みたいな味付けに。

また文我さんはマクラで故・枝雀師匠の稽古の仕方を紹介された。機嫌がいいときは対面でニコニコ聴いていて、時に大笑いをされる。しかしそうでないときは演者の周囲をぐるぐる廻り、ふっと稽古場からいなくなったりする。暫くして戻ってくると一言、「このネタは、やらん方がよろしいな」

さらに巨漢で「ゴジラ」の愛称で親しまれた桂文團治が若い頃、霊狐術(れいこじゅつ、怪しげな超能力を装った手品)をしていたというエピソードも。

貴重なお話も聴け、有意義な会だった。

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2011年5月24日 (火)

フランス産アニメーション映画「イリュージョニスト」

評価:C+

Lillusionniste

映画公式サイトはこちら

フランスのアニメーション「ベルヴィル・ランデブー」で気を吐いたシルヴァン・ショメ監督の最新作。2作品ともアカデミー長編アニメーション賞にノミネートされた。

前作に続き極端に会話が少なく、音楽が付いた(劇判)サイレント映画のような雰囲気。

ショメ監督初期の短編アニメ「老婦人とハト」(アカデミー短編アニメーション賞ノミネート)や「ベルヴィル・ランデブー」は大好きな作品だ。独特のタッチの絵がいいし、ブラック・ユーモアのセンスも○。ただ「イリュージョニスト」はジャック・タチが執筆した脚本を元に製作されているので、ショメ特有の”毒”が薄まり、魅力が半減したような気がする。

「老婦人とハト」や「ベルヴィル・ランデブー」はパワフルなところが持ち味なので、「イリュージョニスト」に漂う孤独・哀感は何だか似合わない。

いや、確かに絵の魅力はあるし、アニメーションとしてのクオリティは決して低くないんだけどね。

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2011年5月23日 (月)

ミッキーのショスタコーヴィチ!~PAC定期

兵庫県立芸術文化センターへ。

Mickey

兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)定期演奏会を聴く。

かつて「日本ショスタコーヴィチ協会」会長を務めたこともある”ミッキー”によるオール・タコ・プログラム。エッ?井上道義なら愛称は”ミッチー”じゃないかって?ご本人の弁を聞いてみて→こちら

  • ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲 第1番
  • ショスタコーヴィチ/交響曲 第1番
  • ショスタコーヴィチ/交響曲 第10番 第2楽章 アンコール

ヴァイオリン独奏はボリス・ベルキン。作曲家が存命中にソヴィエトで音楽を学び、1974年に亡命。7歳の時にキリル・コンドラシンの指揮のもとデビューした。「初めて会ったときは狼みたいな奴だった」とはミッキー談。

「ジダーノフ批判」で攻撃され、脱稿されてから7年間封印されていたヴァイオリン協奏曲 第1番。楽譜の初出時は99という作品番号が付けられたが、現在は作曲時に戻した77に変更されている。ミッキーによると第3楽章「パッサカリア」は”ソヴィエト連邦の葬式”という意図で書かれており、「もしそれがバレていたら、(ショスタコは)処刑されてたでしょう」と。

第1楽章「夜想曲」から苦渋に満ちている。近年、ビリオド(ノン・ヴィブラート)奏法はドヴォルザークやマーラーの交響曲まで浸透しつつあるが、僕はショスタコーヴィチに関する限りヴィブラートはかけるべきだと想う。なぜなら「音の揺らぎ」がある方が不安感が増し、曲想に相応しいからだ。第2楽章「スケルツォ」は狂騒的。妄執・強迫観念がそこにはある。第3楽章「パッサカリア」はロシアの哀歌。悲痛な叫びが音楽の底から湧き上がってくる。僕はイコンを連想した。東方教会(正教会)における聖像のことである(英語ではアイコン)。

Icon

第4楽章はフェデリコ・フェリーニ監督の映画(「甘い生活」「8 1/2」)を彷彿とさせるサーカス的、アクロバティックな音楽。そこに滲み出す道化師の哀しみ。ミッキーがドライブするオーケストラが攻撃的に煽ると、対するヴァイオリンがその挑発に乗り、両者のせめぎあいがスリリングだった。

プログラム後半の交響曲 第1番は18歳の時に書かれた作品。第1楽章の軽み、そして勢いある第2楽章の滑稽なおどけ。一転して第3楽章で聴衆は「暗い森」を彷徨うことになるが、そこに後年の特徴となる「苦悩」「鬱屈」「アイロニー」はない。希望に溢れる青年作曲家が佇んでいるだけだ。第4楽章でミッキーは戦闘態勢に入り、ティンパニ・ソロで譜面台を拳骨で叩くパフォーマンスを披露。そして最後は永遠のミステリー・ピースを想わせる雰囲気で締め括られた。

盛大な拍手の中、ミッキーはショスタコ19歳の写真を示し、また「昨日佐渡くんがベルリン・フィル・デビューを飾りました。彼もショスタコーヴィチの交響曲 第5番を演りました」と。そしてアンコールとしてソヴィエト共産党にようやく認められ、ヴァイオリン協奏曲を世に送り出す契機となった交響曲 第10番をアンコールで演奏すると宣言。「痺れまっせ!」

ここで指揮台のミッキーはまるで獲物を狙うライオンのように睨みを利かせ、連続パンチを繰り広げるボクサーの姿勢に。雄叫びを上げる激烈なショスタコーヴィチ!圧巻だった。

ミッキーが東京でやったみたいなショスタコ交響曲全曲演奏プロジェクトを是非、関西でもやって欲しいな。

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2011年5月21日 (土)

波多野睦美(歌)つのだたかし(リュート/ギター) 「美しい島」

ザ・フェニックスホールへ。

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本来はロベルタ・マメリ(イタリアのソプラノ)来日公演「ラクリメ・アモローゼ」に行く予定だったのが、福島原発事故のせいで中止となり、その振り替え公演として開催されたもの。入場料4,500円の収益は被災地支援の義援金となった。

波多野睦美さんはロンドンのトリニティ音楽大学声楽科卒業。古楽の領域で活躍するメゾソプラノ。つのだたかしさんはドイツの国立ケルン音楽大学リュート科卒業。古楽バンド《タブラトゥーラ》主宰。

  •   《ジョン・ダウランドのリュートソング》
    甘い愛が呼んでいる/彼の金髪を/彼女は言いわけできようか
  •   《イギリスのフォークソング》
    スカボローフェア/サリーガーデン/恋人の黒髪
  •   《リュート・ソロ》
    私の窓からお帰り、恋人よ
  •   《イタリア・バロックのマドリガル》
    この胸の苦しみが(モンテヴェルディ)/恋するヘラクレイトス(ストロッツィ)
  •   《ヘンリー・パーセルの歌曲》
    美しい島/僕よりも幸せなものは/孤独
        ー休憩ー
  •   《ギター・ソロ》
    鳥の歌
  •   《フランツ・シューベルトの歌曲》
    野ばら/夜の歌
  •   《フェルナンド・ソルのセギディーリャ》
    娘と羞恥心/女とギターの弦は
  •   《20世紀の愛の歌》
    愛の小経(プーランク)/アルフォンシーナと海(ラミレス)/オブリヴィオン(ピアソラ)

アンコールは、

  • 江間章子(詞)團伊玖磨(曲)/花の街
  • アイルランド民謡/庭の千草夏の名残のバラ

プログラム前半のリュートはシェイクスピアの時代、16世紀の楽器で19弦ある。また後半で使用されたギターはヨハン・ゲオルク・シュタウファー(1778-1853)製作のオリジナル楽器で、これはシューベルトの遺品にもあったものだそう。

波多野さんの歌声はヴィブラートを抑えたもので、心地よく耳にすっと馴染む。

シェイクスピアの時代の作曲家ダウランドの歌はとっても素敵だし、イギリスのフォークソングも胸に滲みる。ストロッツィは女性作曲家だそうで、激しい感情の吐露がまるでイタリア・オペラみたい。波多野さんがパーセルの歌の中で一番好きと言う「孤独」も気に入った。

カタロニア民謡「鳥の歌」はカザルスのチェロでお馴染みだが、ギターで聴くのは初めて。

プーランクの「愛の小経」は僕が大好きなシャンソン。「アルフォンシーナと海」(1969年、アルゼンチン)は寂しくて印象的な曲だった。ピアソラのCDは我が家に50枚くらいあって、本人のバンドネオンで「オブリヴィオン(忘却)」は何種類も聴いたが、オリジナルが歌だったというのは知らなかった。やはり歌詞付きの方がはるかに素晴らしかった!驚いた。こんな名曲だったとは……。

アンコールを含め、心に残る演奏会だった。予定変更となっても、キャンセルしなくて本当に良かった。

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2011年5月20日 (金)

プロコフィエフの映画音楽「アレクサンドル・ネフスキー」!~リープライヒ/大フィル 定期

5月19日ザ・シンフォニーホールへ。

Dai

アレクサンダー・リープライヒ/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を聴く。リープライヒは1968年レーゲンスブルク(ドイツ)生まれ。2008年の大フィル定期に登場した時の感想は下記。

今回のプログラムは、

  • プロコフィエフ/古典交響曲
  • モーツァルト/ピアノ協奏曲 第20番
  • プロコフィエフ/カンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」
    (アルト:小山由美)

ピアノ独奏はピョートル・アンデルシェフスキ。1969年ワルシャワ生まれでポーランド人とハンガリー人の両親を持つ。

オケは(古典的)対向配置ではなく通常の配置(第一ヴァイオリンとヴィオラが指揮台を挟み向かい合う)。

プログラム・ノートには、20世紀に作曲された古典交響曲が18世紀の衣装で踊る仮面舞踏会であると書かれており、成る程と首肯した。たしかにプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」を彷彿とさせるようなバレエ音楽の趣がある(「ロミジュリ」にも仮面舞踏会のシーンが登場)。

リープライヒの指揮はテンポが速く軽妙で、音尻は短くスッと減衰する。水捌けがよい。アクセントを強調し、第1楽章 第2主題はノン・ヴィブラートでピリオド奏法を意識したものとなっている。第2楽章は歯切れよく、第3楽章はスマート。そして第4楽章は機知に富む。爽快!

続くモーツァルトアンデルシェフスキのピアノは繊細でありながら、同時に力強さも兼ね備える。第2楽章は跳ねるような弾き方が印象的。オーケストラは細かいニュアンスを大切にし、小気味いい。

ソリストのアンコールは、

  • J.S.バッハ/フランス組曲 第5番より「サラバンド」

虚心坦懐、純粋無垢なバッハ。その透明感が素敵だった。

プログラム後半はエイゼンシュテイン監督の映画「アレクサンドル・ネフスキー」(1938)の為に書かれた作品。ここで大阪フィルハーモニー合唱団ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団が加わった。

ド迫力!これぞ音で描く大伽藍。しかしリープライヒの紡ぐ音楽はあくまでも明晰。ロシアへ侵略するドイツ騎士団を描く第3曲は阿鼻叫喚の地獄絵図。第5曲「氷上の激戦」前半は氷の摩擦がヒリヒリと伝わり、後半はパンチがあって、疾走感に溢れる。第6曲「死せる野」は凍てつく寒さが身に滲みる。小山さんのアルトは深い感情がこもった見事な歌唱だった。そして祝祭感に満ちた終曲。極めて充実した内容だった。

ただ、「アレクサンドル・ネフスキー」で”大フィルのアキレス腱”=トランペット・セクションがミスを連発したのはいただけない。お粗末。頼むからこれ以上、優秀な弦の足を引っ張らないで欲しい。

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2011年5月17日 (火)

キッズ・オールライト

評価:B

原題は"THE KIDS ARE ALL RIGHT"。映画公式サイトはこちら

Thekidsareallright

アカデミー賞で作品賞・オリジナル脚本賞・主演女優賞(アネット・ベニング)・助演男優賞の4部門にノミネート。ゴールデン・グローブ賞では《ミュージカル/コメディ部門》の作品賞および主演女優賞を受賞した。

子供が2人、母親も2人。同性のカップルである。そこへ子供が連絡を取った精子提供者が現れて……。

「へぇ、世の中にはこのような『家族』の形もあるんだ」と新鮮な面白さがあった。例えば精子提供をすれば現在の相場なら80ドル貰えるとか、女性の同性愛者は家庭で男性のゲイビデオを観るとか、驚くような情報がいっぱいあった。

考えてみるとゲイ映画というのは今まで沢山あったが、女性同士のケースは極めて希。僕が記憶にあるのは「バウンド」くらい。それは恐らく、世の中の映画監督の大半が男性であることと無関係ではないのだろう。

脚本・監督のリサ・チョロデンコ(女性)も同性パートナーがいて、精子ドナーを利用し息子を産んでいる。女優ジュディ・フォスターも確かそうだった。

映画「バグジー」や「アメリカン・プレジデント」など、若い頃のアネット・ベニングは余り好きな女優ではなかった。でも何だか最近、彼女はどんどん良くなってきた気がする。素敵な年のとり方をしているなぁ。

それから18歳の娘ジョニを演じたミア・ワシコウスカ(「アリス・イン・ワンダーランド」)がとっても可愛かった。

映画を観れば観るほど、どんどん未知の世界、見聞が広がってゆく。だからやっぱり、やめられない!

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マーラー 君に捧げるアダージョ

評価:C-

Mahleraufdercouch

映画公式サイトはこちら

一言、詰まらない。

  • マーラーは幼い娘を病気で亡くし、その頃から妻アルマとの関係もギクシャクしだした。
  • アルマ・マーラーは若い男と浮気した。
  • 晩年のマーラーはアルマとの関係修復を望んでフロイトの診察を受けた。

これらの事実を並べたからといって「映画」にはならない。そういうことだ。

パーシー・アドロン監督は代表作「バグダッド・カフェ」でも感じたことだが、映像の美しさとか、何となくお洒落な雰囲気は確かにあるのだが、中身は空っぽという気がする。人間が描けていない。

マーラーの音楽の本質を知るには、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」('71)やケン・ラッセル監督の「マーラー」('74)を観た方が有意義な時間を過ごせるだろう。

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ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路

評価:D

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フランス映画。公式サイトはこちら

まずザルツブルク(オーストリア)出身のモーツァルト一家がフランス語で会話するのに違和感を感じた。

ナンネルを演じたマリー・フェレはルネ・フェレ監督の娘。無理矢理にでも彼女を主演させるため、フランス語にする必要があったのだろう。

フランス王ルイ15世の娘ルイーズ・ド・フランスを演じたリザ・フェレはマリー・フェレの妹。だから二人が会話する場面で、「何でアマデウスの姉と王太子の妹の顔がそっくりなんだよ!?」とツッコミを入れながら観た。

ナンネル・モーツァルトに豊かな作曲の才能があった(しかし女だから闇に葬られた)という設定も説得力に欠けるなぁ。彼女の曲が現存しないので俄には信じられない。ちなみに映画では最後に自ら全ての楽譜を焼き捨てることになっている。

結論。「ゴットファーザー PART III」で降板したウィノナ・ライダーの代役として愛娘ソフィアを起用したフランシス・フォード・コッポラの親ばか同様、映画の私物化はろくなことにならないという典型例である。

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2011年5月16日 (月)

安蘭けい(主演)ミュージカル「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」プレビュー公演

オーストリアと日本の文化交流の歴史について紐解いてみよう。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が初めての来日公演を行ったのが1956年。そしてこれまでに28回の日本への演奏旅行で257回のコンサートを行ってきた。共に来日した大指揮者カール・ベームは日本の聴衆の礼儀正しさと熱心さを、他のどの国よりも愛した。現コンサートマスターのライナー・キュッヒルをはじめ、日本人と結婚した楽員も数多い。小澤征爾が東洋人として初めてウィーン・フィル・ニューイヤーコンサートの指揮台に立ったのが2002年。その年から2010年まで、彼はウィーン国立歌劇場の音楽監督も務めた。

一方、アン・デア・ウィーン劇場でミュージカル「エリザベート」が初演されたのが1992年。小池修一郎の演出で宝塚歌劇団(雪組)がこのミュージカルを上演したのが1996年。それ以降、組を替えながら、また東宝でも別バージョン(やはり演出は小池)が繰り返し再演されている。ウィーン版「エリザベート」の引越し公演も実現した。またクンツ(詞)リーヴァイ(曲)のコンビによる他のウィーン産ミュージカル「モーツァルト!」や「レベッカ」等も次々と日本で上演され、ヒットした。このコンビが手がけた東宝製作のミュージカル「マリー・アントワネット」(2006年初演)は逆輸入され、ドイツ・ブレーメンで上演された(栗山民也 演出)。

次に日本のエース小池修一郎とブロードウェイの作曲家フランク・ワイルドホーンの友情の物語を見ていこう。小池の作・演出でワイルドホーンが音楽を手がけた「NEVER SAY GOODBYE」が宝塚宙組で上演されたのが2006年。ワイルドホーンのブロードウェイ・ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」も小池演出で2008年に宝塚星組が上演し、第16回読売演劇大賞優秀作品賞および、第34回菊田一夫演劇大賞を受賞した。この時主演したのが安蘭けいであり、新曲「ひとかけらの勇気」も書き下ろされた。

その安蘭けい小池修一郎、およびブランク・ワイルドホーンが再びタッグを組むのが世界初演となるミュージカル「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」である。梅田芸術劇場で、そのプレビュー公演を鑑賞した。

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1893年、オーストリア=ハンガリー帝国の駐日大使として東京に駐在していたハインリッヒ・クーデンホーフ=カレルギーと日本初の国際結婚をした光子(旧名:青山みつ)と、その次男で「EUの父」と呼ばれ、汎ヨーロッパ主義を唱えたリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーの人生に焦点を当てる。この作品が生まれるまでの経緯は過去の記事に書いた。

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とにかく話が面白い。実話でありながら光子の人生は劇的だし、スカーレット・オハラみたいな強い意志を持つ魅力的ヒロインである。そして彼女が今日の日本-オーストリアの交流を切り開いたと言っても過言ではないだろう。息子のリヒャルトが提唱したパン・ヨーロッパ構想も欧州連合(EU)の精神、ユーロ通貨を含め、今日まで脈々と受け継がれている。つまりこのミュージカルで語られる物語は決して過去のものではない。テーマが素晴らしいし、これは映画化も出来る題材なのではなかろうか?

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M4

ハインリッヒを演じるマテ・カマラスはウィーン版「エリザベート」でトート(死神)を演じていた役者。日本への来日も多く、今回は日本語で歌い切った。

青年リヒャルト役の辛源(シン ゲン)は些か音程が危なっかしかったが、何とか最後までこなした。

リヒャルトと恋に落ちる女優イダを演じたAKANE LIV(岡本 茜)は元・宝塚男役。ポーランド系スウェーデン人の父と韓国系日本人の母の間に生まれた。凄い美人で、歌もとても上手い。

タイトルロールの安蘭けいは宝塚時代から歌唱力と演技力に定評があり、彼女が悪かろう筈がない。

演出は六面体のスクリーンも駆使してこなれたもの。小池修一郎 作・演出のミュージカルは初期の「ヴァレンチノ」「蒼いくちずけ」から「グレート・ギャツビー」を経て近作「アデュー・マルセイユ」「カサブランカ」まで10作品以上僕は観ているが、今回の台本はその中でもずば抜けた傑作と断言しよう。これは小池作品の集大成である。ロンドン・ミュージカル「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」、パリの「ロミオとジュリエット」そしてウィーンの「エリザベート」と比較しても遜色はない。日本のミュージカルも遂にこの高みにまで到達したかと感慨深い。

光子は7人の子供を生んだ。劇中、水兵服を着た子供たちが歌う場面がある。また舞台はオーストリア。そしてナチス・ドイツのオーストリア併合で、リヒャルトはイダとアメリカに亡命する・・・これらの設定に僕は既視感(デジャ・ビュ)を覚えた。そう、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」にそっくりなのである!また劇中、「神様はドアを閉められたとき、窓を開けておいて下さる」という台詞が繰り返し登場するが、これは映画「サウンド・オブ・ミュージック」で修道院長が言う"When the Lord closes a door, somewhere he opens a window. "そのままである。

小池さんは映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観てミュージカル演出家を志されたという。そしてジュリー・アンドリュース・ファンクラブの会長を務め、彼女が来日した時インタビューもされている。筋金入りである。僕は中学生の時「サウンド・オブ・ミュージック」を観てミュージカルの魅力に目覚めた。そして大学の卒業旅行で映画のロケ地ザルツブルクを訪ねた。つまり小池さんと僕は同士であり、彼が「MITSUKO」に賭けた想いが直截にビビっと伝わって来たのである。

そして何と言っても「MITSUKO」を成功に導いた真の立役者はやはり、フランク・ワイルドホーンの音楽だろう。彼のブロードウェイ作品「スカーレット・ピンパーネル」に匹敵するくらい出来がいい。プレビューなのでフランクも来日しており、梅芸の1階席中央で聴いていた。幕が降り、彼が立ち上がると観客が一斉に惜しみない拍手で彼を見送った。ありがとうフランク、最高の仕事だったよ!

M5

会場にはプロ野球解説者で世界の盗塁王・福本豊さんから胡蝶蘭が届いていた。福本さんが以前語ったことによると、監督やコーチとして球界へ復帰するという意思はまったくないという。曰く「しんどい。それに宝塚を観られなくなるから」と。福本さんは宝塚大劇場はもちろん、宝塚バウホール、東京公演、名古屋・中日劇場、福岡・ 博多座などの地方公演、ディナーショーにも行くそう。「どの組もまんべんなく、1公演を6回から8回は観てます」

M6

また、現・星組トップの柚希礼音からも花が届いていた。中には蛙の意匠も。

ミュージカル「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」は日本とオーストリアの交流の歴史を伝えるヴィヴィッドな作品であり、いま絶対観ておくべき逸品である。

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2011年5月14日 (土)

本多俊之at ロイヤルホース

大阪・梅田のライブハウス・ロイヤルホースへ。

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サックス奏者で、映画「マルサの女」「メトロポリス」「茄子 アンダルシアの夏」などの作曲家としても知られる本多俊之さんのライヴを聴く。ロイヤルホース初登場だそうだ。

他のメンバーは竹下清志(P)、荒玉哲郎(B)、東原力哉(Ds)。

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第1部、第2部に分かれ、演奏された曲目は、

  • チック・コリア/500マイルズ・ハイ
  • 本多俊之/ドリーム・カムズ・トゥルー(1983)
  • D. エリントン/ソフィスティケイティッド・レディ
  • 本多俊之/たちまち(アルバム「SMILE !」より)
  • 本多俊之/シンクロナイズド・カルテット(「スーパー・カルテット」より)
  • 本多俊之/マルサの女
  • チック・コリア/キャプテン・セニョール・マウス
    (リターン・トゥ・フォーエヴァーのアルバム「第7銀河の讃歌」より)
  • バート・バカラック/小さな願い "I Say a Little Prayer"

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本多さんは陽気な人だった。節電の東京と比べ「こちらは明るくていいです」と。

彼のサックスは高らかに歌い、豪快なブローがたまらない。スタイリッシュで都会的な音。

自作「たちまち」はアップテンポでノリのいい曲。

また「マルサの女」は元々4拍子で作曲されたが、伊丹十三監督から登場人物”権藤”のイメージで「足を引きずる感じが欲しい」とリクエストされ、5拍子に書き換えられたというエピソードを披露された。

今回特にチック・コリアの「キャプテン・セニョール・マウス」が気に入った。

また、バカラックは勢いがあり、凛々しく、格好よかった。

手ごたえのあるライブだった。本多さん、また大阪に是非いらしてください!

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2011年5月13日 (金)

柚希礼音(主演)宝塚星組「ノバ・ボサ・ノバ」「めぐり会いは再び」

宝塚大劇場へ。

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宝塚星組ノバ・ボサ・ノバ」「めぐり会いは再び」を鑑賞。

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出演は柚希礼音、夢咲ねね ほか。

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ロビーには被災者へのメッセージも。

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初舞台生の口上もあったのだが、今年は34名と少なめ。94期生とか44名もいたのに。

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ノバ・ボサ・ノバ」は故・鴨川清作が作った伝説的ショーで1971年初演。僕は99年の月組再演(真琴つばさ、檀れい、紫吹淳、大和悠河 ら)を観ている。この時の構成・演出は草野旦。

今回の演出は藤井大介。没後35年を迎えた鴨川のオリジナルを忠実に再現することを目指したという。幕開きの音楽が前回と違うようが気がした。これは新演出なのか、それとも99年版がオリジナルと異なっていたのかは不明。

99年版と比較して舞台装置の色彩がおとなしくなり、衣装も洗練されたように感じたが、むしろノバという作品はもっとギラギラして、どぎつい色彩の方が合っているのではないかと想った。

それでもこの作品が不朽の名作であることは間違いない。僕はパリ、ブロードウェイ、ラスベガスなどで様々なショー(レビュー)を観てきたが、ノバを越える作品は世界に存在しないのではないかと考えている。

何といっても群舞が圧巻。宝塚歌劇の人海戦術、恐るべし。これだけの人数が登場する舞台は他にそうあるものではない。

中央で物語が進行する一方で、舞台奥でダンサーが横切ったり、端っこでも別の動きがあったり、どこで何が起こるか片時も目が離せない。オペラ・グラスを使う余裕などない。

そして躍動するラテンのリズム!清々しい。音楽がいい。ダイナミックなダンスも勿論いい。

正直言ってトップ・スターの柚希礼音は歌が上手いわけではない。でも彼女には人を笑顔にさせる太陽のような明るさがある。これぞオーラであろう。ある意味、元星組トップの湖月わたるに繋がる資質をそこに感じる。屑拾いの場面で彼女が関西弁を連発し、上手いなぁと想って調べてみると、案の定、大阪市出身だった。

また夢咲ねねの輝く美貌、そして並外れたダンサーとしての資質も特筆に価する。よくあれだけ背中を反らすことが出来るものだと感心することしきり。

今回ノバを観ながら「人生何度でもやり直せる。生きているって本当に素晴らしい」と感じた。だから東日本大震災、それに続く福島原発事故で凹んでいる今の日本人にこそ必要な作品なのではないだろうか?

めぐり会いは再び」は脚本、演出の小柳奈穂子の大劇場デビュー作。フランスが舞台の他愛もない話しであるが、ブルギニョン役の紅ゆずるが見事なコメディエンヌぶりを発揮し、十分愉しめた。しかし《一旦幕を下ろす→幕前での芝居&その裏で舞台転換→幕を上げる》の繰り返しの演出は単調でいただけない。「お前は植田紳爾(「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」)か!?」と思わず突っ込みを入れたくなった。また、ミュージカルとして歌が少ないのも気になる(台詞で説明し過ぎ)。

それから最後、初舞台生のロケット(ラインダンス)で星印をあしらった黄色い衣装が酷かった。ダサい、悪趣味!演出家はもっとセンスを磨くべし。但し、その後の大階段の衣装は品があって○。

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2011年5月11日 (水)

え、ミャスコフスキー?誰、それ?? 児玉宏/大阪交響楽団 定期

ザ・シンフォニーホールへ。

Osaka

児玉宏/大阪交響楽団の定期演奏会。「忘れられた作曲家”ミャスコフスキー”」と副題が付いている。

  • R. シュトラウス(クラウス 編)/交響的断片「ダナエの愛」
  • R. シュトラウス/交響詩「死と浄化(変容)」
  • ミャスコフスキー/交響曲 第24番
    「ウラジーミル・デルジャノフスキーの思い出に」
    (日本初演) 

以前にも書いたが、児玉宏さんを三ツ星レストランの料理長に喩えることが出来るだろう。「エッ、こんな料理見たことも聞いたこともない!」というメニューが毎回提供されるが、客は黙って児玉シェフの「おまかせコース」を味わえばいい。そこには間違いなく極上の味わいと、感動が待ち受けているのだから。

それにしても何というマニアックな選曲であろう。R. シュトラウスに「ダナエの愛」というオペラがあることも、ミャスコフスキーに至っては、そんな名前の作曲家がいたことすら知らなかった。通常は会場が8割くらい埋まる大響定期だが、さすがに今回の入りは6,7割といったところだろうか。

ダナエの愛」はオペラを初演した指揮者クレメンス・クラウスの手で演奏会用管弦楽小品として編曲されたもの。冒頭で咆哮する金管、そして切れのあるリズム。その中から旋律線がクリアに浮かび上がってくる。

死と浄化」も透明度・解像度が高く、曲の構造が明確に見通せる。児玉さん、見事な手綱さばき。そういえば数年前から僕は彼のことを「日本のカルロス・クライバー」と評していたことを想い出した。クライバーはR. シュトラウスの「ばらの騎士」を十八番にしていた。

プログラム後半はいよいよお待ちかね、ミャスコフスキーの登場である。

ニコライ・ミャスコフスキー(1881-1950)はロシアの作曲家。なんと生涯で27もの交響曲を書いた。ペテルブルグ音楽院で学び、そこでプロコフィエフと同級となり生涯にわたり交流を結んだ。そして1921年よりモスクワ音楽院作曲家教授に就任、亡くなるまで30年間教鞭をとった。

その交響曲を聴いてみると、アイロニーに満ちたショスタコーヴィチや、知性の迸るプロコフィエフとは異なり、音楽はもっとロマンティックで、むしろチャイコフスキーに近い印象を受けた。またファゴットやバス・クラリネットなど木管の低音楽器の使い方はシベリウスの音楽を彷彿とさせるものがある。

第1楽章はホルンと、それに続くトランペット&トロンボーンのファンファーレで開始される。曲はリズミカルに進行し、やがてロシアの大地に根ざした旋律が現れる。ほの暗い、極北の響き。

第2楽章は哀愁が漂い、果てしなく続く凍てついた氷原が描かれる。僕はそこに、ノーベル文学賞を受賞したパステルナークの小説「ドクトル・ジバゴ」と共通する世界が見えた。

ボリス・パステルナーク(1890-1960)はモスクワに生まれた。母はピアニストで、若い頃の彼は作曲家を志し、スクリャービンに師事した(絶対音感がなかったため断念)。つまりパステルナークとミャスコフスキーは9歳違いで、同時期にモスクワに住んでいたのである。僕の連想(奇想?)もまんざら見当違いでもないだろう。

さて最終の第3楽章。音楽はフーガの様相を呈し、厳しさを増す。途中にはロシア民謡風の旋律が挿入され、美しく歌われる。そして最後は静かに、静かに、あたかも音が夜空に吸い込まれるかのように消える。

タクトを下ろした児玉シェフは満足そうにコンサートマスターの森下さんの目を見て、頷いた。会心の出来。ブラビッシモ!これぞ知られざる作曲家の知られざる名曲。- Discover classical music - 児玉さんのおかげで、また新たな扉が開かれた心地がした。

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桂吉弥「ちりとてちん」/繁昌亭ゴールデンウィーク特別興行 5月4日第1回(朝席)

5月4日繁昌亭へ。朝11時開演。

Hanjo

  • 桂 鯛蔵/動物園
  • 桂 吉弥/ちりとてちん
  • 桂 三風/農といえる日本(三風 作)
  • 笑福亭智之介/マジック
  • 桂 文太/火焔太鼓
  • 内海英華/女道楽
  • 桂 文喬/研修医 山田一郎(文喬 作)
  • 月亭八方/猿後家

吉弥さんは自身が出演した「ちりとてちん」から「てっぱん」に至る朝の連続テレビ小説に触れてから本編へ。演り慣れた鉄板ネタ。僕は「繁昌亭らいぶシリーズ」DVDや実演も何度か聴いているが、工夫が凝らされどんどん面白くなっている。茶碗蒸しの具にまつわる件から海老蔵の話題となり、「真っ赤だから酔ってるな」と。このあたりのくすぐりが上手いねぇ。酒と肴に舌鼓を打ち、口笛をヒューとやるところが本当に美味しそうで、僕は好きだな。文句なしの一席。

三風さんの新作に感心したことは余りないのだが、今回は世相を反映していて割りと良かった。ただしサゲはいまいち。

文太さんは「落語を楽しむためのあいうえお」をマクラに。飄々とした名人芸を堪能。

英華さんは今までひとりしかいなかった女道楽に喜味家たまごさんが加わったことを歓び、是非コラボもしたいと。

八方さんで「猿後家」は初めて。女性の描き方が品があっていい。

豪華メンバーだけに、満足度が高い会だった。

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2011年5月10日 (火)

フルート三変化&ギター/西洋古楽器による小演奏会

南森町にあるギャラリースペース 草片へ。

Fl2

森本英希(フルート)、亀井貴幸(テオルボ&クラシック・ギター)の演奏を聴く。

  • ランベール/宮廷歌謡集より三曲
  • C.P.E.バッハ/ソナタ ト長調”ハンブルガー・ソナタ”
  • ベートーヴェン(ディアベッリ 編)/”ポプリ”(音楽の花束)
  • シューベルト/アルペジオーネ・ソナタ
  • カステルヌーヴォ=テデスコ/フルートとギターのためのソナチネ
  • イベール/間奏曲 アンコール

森本さんは元・大阪シンフォニカー交響楽団のフルート奏者で、現在はテレマン室内オーケストラのメンバー。

Fl1

ランベールは18世紀初頭に製作されたフラウト・トラヴェルソ(バロック・フルート)「トーマ・ロット」が使用された。伴奏は17世紀のティオルボ。特に"Vos mépris chaque jour "という歌が気に入った。ピッチはA=415Hz.

C.P.E.バッハは清々しい響き。この時代のフルートはリコーダーに近い、朴訥な音色がする。

ディアベッリでは19世紀初頭の楽器に持ち帰られA=440Hz.に。本来はもっと音程は低いのだがモダン・ピッチのギターに合わせて。これは様々なベートーヴェンの楽曲が花束のように繋ぎ合わされている。具体的には以下の通り。

  • 交響曲第4番 冒頭
  • ピアノソナタ Op.28
  • ヴァイオリン・ソナタ Op.24 ロンド
  • 交響曲 第2番 スケルツォ
  • ピアノ三重奏Op.1-3 終楽章
  • 交響曲第4番 第1楽章 終結部

当時のサロンの雰囲気が偲ばれ、なかなか面白い。

プログラム後半はモダン・フルート。シューベルトは今は滅んでしまった楽器・アルペジオーネのために書かれたもの。一度このオリジナル楽器で聴いてみたいものだ。稀代のメロディーメーカー=シューベルトの世界を堪能。

20世紀の作曲家テデスコはイタリア系ユダヤ人。スペインのギタリスト、セゴビアとの出会いからギター作品を書くようになった。第1楽章では陽光が燦々と降り注ぎ、第2楽章は光と影。色彩感がある。第3楽章はタンゴ!いいねぇ。

アンコールのイベールはエキゾチックで旅愁を感じさせる。彼は海軍士官として地中海を航海し、寄港した際に様々な異国の風物に接した。その体験が音楽に活かされている。

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延原武春&日本テレマン協会/東日本大震災追悼コンサート~2つの鎮魂歌

5月3日カトリック夙川教会へ。

T1

日本テレマン協会の《教会音楽シリーズ》。当初はヘンデルのオラトリオ「エジプトのイスラエル人」が予定されていたが、大震災によりプログラムが変更となった。

  • モーツァルト/レクイエム
  • フォーレ/レクイエム

ギュウギュウの満席。モーツァルトが終了し、後ろを振り返ると立ち見の人々が沢山いてびっくりした。

亡くなられた方を想い、静かに祈るひととき。念のため書いておくが、僕はキリスト教徒ではない。落語を聴きにお寺でも神社でも行く人間である。

演奏は延原武春/テレマン室内オーケストラ&合唱団。モダン楽器でティンパニのみクラシカル楽器を使用。ピリオド(ノン・ヴィブラート)奏法。

フルート、オーボエ、クラリネットはなし。帰宅して調べてみると、どうやら今回フォーレに関しては小編成用の第2稿の楽譜が使用されたようだ。第3稿になるとフルートやクラリネットが加わるが、これは作曲家自身によるオーケストレーションかどうか疑問視されており、第2稿がフォーレが意図したオリジナルに最も近いと言われている。

モーツァルトは冒頭から速いテンポで劇的な展開。

一方のフォーレは清浄で天国的な美しさ!「ピエ・イェズ」はソプラノの澄み渡る歌声が胸に滲みた。「リベラ・メ」は厚みのある合唱に魅了される。

はやり教会で聴く宗教音楽というのは格別なものがあるなと感慨に浸りつつ、帰途に就いた。

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2011年5月 9日 (月)

映画「阪急電車 -片道15分の奇跡- 」

評価:B

Hankyu

映画公式サイトはこちら

原作は有川 浩(ありかわ ひろ)。彼女は高知県出身だが、現在は兵庫県宝塚市に住む。

舞台となるのは阪急宝塚駅から西宮北口を結ぶ阪急今津線。僕は宝塚大劇場に足を運ぶため梅田-宝塚線を利用するし、佐渡 裕さんが芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターへもよく行くので梅田-西宮北口の路線も馴染み深い。しかし今津線には縁がない。

監督はこれが劇場用映画デビューとなる三宅喜重(関西テレビ制作部ディレクター)。この新人監督、選ぶ女優の趣味がいい。

戸田恵梨香は神戸市灘区出身。彼女は幼い頃に阪神淡路大震災を経験している。南 果歩は兵庫県尼崎市、谷村美月は大阪府堺市、芦田愛菜は兵庫県西宮市、友情出演の相武紗季は宝塚市出身(母も姉もタカラジェンヌ)。メイン・キャストの過半数に及ぶ10人が関西出身者で固められ、気合が感じられる。

冒頭、中谷美紀ら三人の男女のチグハグした会話からテンポよく、軽妙。素直な気持ちで全編愉しめた。

また勝地 涼演じる大学生が軍オタ(=軍事オタク)という設定で、電車の窓から自衛隊のヘリが編隊を組んで飛んでいるのを目撃し狂喜する場面があるのだが、さすが有川 浩、「図書館戦争」の作家らしいアイディアだなとニヤリとした。

阪急電車、そして関西への愛がいっぱい詰まった佳作。まもなく大阪を舞台とする「プリンセス トヨトミ」も公開されるし、映画の中でもいま関西は元気だ。

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トリは桂よね吉〜動楽亭昼席(5/1)

5月1日、動楽亭へ。

4月に導入されたという、座椅子は初体験。

D1

ふかふかで座り心地が大変いい。席亭のざこばさん、太っ腹!高座から見下ろすと「観光バスで喋っているみたい」と感想を述べる噺家さんも。

  • 鞠輔/子ほめ(開演前勉強中)
  • 鯛蔵/動物園
  • まん我/始末の極意
  • あさ吉/軽業
  • 米輔/植木屋娘
    ー仲入りー
  • ざこば/強情
  • よね吉/住吉駕篭(駕籠)

初めて聴いた鞠輔さん、勉強中だから言い間違いが多いけれど、声はよく出ている。

鯛蔵さんはスピード感があり、熱演。

「ぼんやりと聴いてください」というまん我さんに共感。もし電気の供給がなくなり真っ暗になっても出来る落語という芸能は「災難に強い」とも。上手いこと言うなぁ。これがちゃんと本編へのしこみ(伏線)になっている。

またあさ吉さんはマクラで米團治さんの一番弟子・米市さんが行方知れずだと。「連絡が取れないんです。入門して二年半、もうすぐ年季明けだったのですが・・・どなたかご存知ありませんか?」帰宅して調べてみると既に米朝事務所や上方落語協会の名鑑から名前が削除されており、師匠のブログによると廃業だそうである。彼の初高座を聴いていたことを想い出した。

よね吉さんの「住吉駕籠」は初めて聴いた。酔っ払いの登場で切られることが多いが、マクラで「雲駕籠(=雲助)」の説明をしてからきっちり最後まで。彼の芝居噺はパーフェクトなのだが、このネタは泥酔の表現力に些か難を感じた。まぁ未だ若いし、これからだね!

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2011年5月 8日 (日)

デュメイ音楽監督就任記念/関西フィル定期 「私の人生にとって、最大の挑戦が始まる…」

4月29日(祝)ザ・シンフォニーホールへ。

フランス、パリ生まれの著名なヴァイオリニストで最近では指揮者としても活躍するオーギュスタン・デュメイ関西フィルハーモニー管弦楽団・音楽監督就任記念演奏会。

T1

デュメイと意気投合し、1990年頃よりコンビを組むピアニスト、マリア・ジョアン・ピリスが当初は出演し、ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番などを弾く予定だったが、福島原発事故の影響で来日を断念。急遽ピンチヒッターとして児玉 桃さんがピアノを弾くことに。チェリストのパヴェル・ゴムツィアコフは予定通り。なおデュメイとピリスはパリで直接話し、今回の決定を下したという。

  • ベートーヴェン/「ロマンス」 第1番
  • モーツァルト/ヴァイオリンと管弦楽のための「アダージョ」 K.261
  • モーツァルト/交響曲 第29番
  • ベートーヴェン/ピアノ、ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための三重協奏曲
  • ブラームス/ピアノ三重奏曲 第2番 第2楽章 アンコール

僕はS席7,000円のチケットを購入していたが、代役のため5,000円に値下げされ、会場でキャッシュ・バックを受け取った。

出演者・内容の変更など直前にドタバタしたが、それでも満席。大したものだ。

最初の「ロマンス」と「アダージョ」はデュメイによるヴァイオリン独奏のとろけるような音色に魅了された。洗練された美しさ。エスプリ。

そして関西フィルの奏でる、まろやかな響きにもびっくりした。いつものこのオケと全然違う!「本気」を感じる。ヴァイオリンの名手が指導すると、ここまで弦が豹変するものか・・・。

モーツァルトのシンフォニーではデュメイの指揮がエレガント。見ていて愉しい。音楽に弾力があり、ニュアンスに富む。非凡なセンスがあるなぁ。

プログラム後半のトリプル・コンチェルトは生命力を感じさせる演奏。「これでどうだ!」「こっちも負けないぞ!」というソリスト同士のせめぎ合いがそこにはある。「協奏曲」とはまさに「競争曲」でもあるのだなと納得した。

そして嗚呼、アンコール!このメンツでブラームスのピアノ・トリオ!なんと贅沢な、至福のとき。

デュメイ/関西フィルの動向に、目が離せない。

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2011年5月 7日 (土)

米朝一門チャリティ落語会

4月27日(水)サンケイホール・ブリーゼへ。

東日本大震災を受け、米朝事務所からの申し出により急遽開催されることになった落語会。出演者全員がノーギャラ、必要経費を差し引いた収益が被災地へ義援金として送られる。

プログラムには桂ざこばさんの言葉が印刷されていた。

日本人の強さは団結心と道徳心、そしてどんな逆境にも負けない努力だと思います。微力ですが少しでも被災された方々のお力になれれば

夜の部・18時開演。

  • 桂雀五郎/手水廻し
  • 桂宗助/狸の賽
  • 桂千朝/本能寺
  • 桂雀松/マキシム・ド・ゼンザイ(小佐田定雄 作)
  • 桂雀三郎/野崎詣り
    《仲入り》
  • リレー落語「七度狐」(吉弥、よね吉、しん吉、吉坊、佐ん吉、吉の丞)
  • 漫才(吉弥、紅雀)
  • 珍芸(雀々)
  • マジック(ざこば、ちょうば、小鯛)
  • お囃子あれこれ(米左、あさ吉、吉の丞、司会=米平)
  • チャリティオークション(特別出演:桂米朝)

いつも無表情な雀五郎さん、しばらく見ないうちに味が出てきた。間が良くなった。

宗助さんはマクラで博打にちなんだ小噺二つを披露。歯切れよく、明るく華やか。

雀松さんは、おねぇ言葉のマクラから本編へ。

雀三郎さんは陽気で愉しく。

リレー落語は吉坊さんが赤いバトンを手に登場。これを次々と後続に手渡していくのかな?と見せかけて、実はフェイクだった!まんまと騙された。さすが吉朝一門、油断ならない。吉坊さんの口演中、まずしん吉さんが狐の格好をしてバトンを奪い、去っていく(後半で返却)。佐ん吉吉の丞コンビは骸骨の服装でガチャガチャと相撲を取る。そして「子連れ狼」の主題歌が流れる中、白装束のよね吉さんが乳母車を押して登場。その中には赤ん坊の格好をした吉弥さん。「俺の出番はこれだけか」と一言。場内爆笑。サゲは百姓が狐の尻尾を引っ張ると、それが抜けて実は大根…ではなく、バトンだったというもの。上手い!この時の楽屋での貴重な写真を吉坊さんが掲載されている→こちら

吉弥紅雀の漫才は二人とも眼鏡をかけて登場。吉弥さんは19時半に楽屋入りしたことを問い質されると、「だって(毎日放送)『ちちんぷいぷい』の収録があったから」「そりゃ、あんたは売れてるよ!」と怒り出す紅雀さん。このコンビ、M-1に出演し第1回戦は勝ち進んだが第2回戦で敗退。ゆる~い感じだけれど、落語家の余芸としてはなかなか面白かった。

雀々さんはコート・掃除機靴べら耳あてをそれぞれ使っての瞬間芸の数々。「勢いだけです」と。雀々版「地獄八景亡者戯」に採用されている耳あてがやはり秀逸。

マジックは小鯛くんを段ボール箱に封印し、ざこばさんが次々と剣を刺していくというもの。見ていてハラハラした。

お囃子コーナーでは1.石段 2.朝丸→ざこばの出囃子(お手々つないで、猫じゃ猫じゃ、御船) 3.米朝の出囃子(鞨鼓) 4.効果音・ハメモノ(雨、雪、波、風) 5.飲んで騒ぐ(まけない節)

オークションは米朝一門のサイン寄せ書きが5万5千円で落札。ここで桂米朝さんが車椅子で登場され、場内からどよめきの声。人間国宝からの出品は九谷焼の湯呑(文化勲章受賞を記念したもの)+単独のサイン+浴衣(生地)+手ぬぐいのセット。この落札額が8万円!ありがたいご尊顔を拝めて、寿命が七十五日延びた気がした。

昼・夜公演合わせて今回の収益は500万円に上ったという。

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2011年5月 6日 (金)

待望のアルヴァマー序曲登場!~なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2011 

ザ・シンフォニーホールへ。

Now1

東西のプロ・オーケストラ団員が年に一度集結し、吹奏楽の祭典を繰り広げるなにわ《オーケストラル》ウィンズ(NOW)を聴く。レギュラーの大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部・丸谷明夫先生(丸ちゃん)に加え、今年は客演指揮者として千葉・習志野高校吹奏楽部の石津谷治法(いしづや はるのり)先生が加わられた。

石津谷先生は2003年の第1回NOWで指揮されたので、これが2回目、8年ぶりの登場となる。今まで先生は音楽の先生だと想っていたのだが、プロフィールに社会科(世界史)の先生だと書かれていて驚いた。ちなみに丸ちゃんは電気科の先生である。

大阪公演は発売30分で完売した。恐るべき人気である。

メイン・プログラムは下記。各々の指揮者は(M)=丸谷、( I )=石津谷、(なし)=指揮者なしを示す。

  • スパーク/陽はまた昇る(なし)
  • マー/ヘイ!( I )
  • ジェイガー/シンフォニア・ノビリッシマ(M)
  • 新実徳英/シャコンヌS
    (課題曲 III)( I )
  • 渡口公康/南風のマーチ
    (課題曲 IV)(M)
  • 佐藤博昭/天国の島
    (課題曲 II)( I )
  • ブロッセ/7インチ・フレーム(M)
  • マクベス/マスク( I )
    《休憩》
  • あいさつの魔法。(なし)
  • バーンズ/アルヴァマー序曲(M)
  • 堀田庸元/マーチ「ライヴリー・アヴェニュー」
    (課題曲 I)(M)
  • 山口哲人/「薔薇戦争」より戦場にて
    (課題曲 V)( I )
  • バッハ(ライゼン 編-NOW補筆)/トッカータとフーガ(M)
  • ヘス/組曲「東海岸の風景画」( I )

開演30分前にロビー・コンサートあり。まずファゴット3重奏で「ジャズ・チャイコフスキー」(金平糖の踊り、4羽の白鳥の踊り など)そしてホルン5本+打楽器で「パイレーツ・オブ・カビリアン」から”彼こそが海賊”が演奏された。

そしてステージへ。奏者全員、腕に緑のバンドをして登場。

スパークの作品は3月の東日本代震災の被災者に捧げる曲で、印税は全て日本緊急救援基金に寄付される。元々金管バンド用に作曲したものを吹奏楽用にアレンジ。優しい音でハーモニーの美しさが際立っていた。

マーは明るく、金管の響きが輝かしい。途中、奏者が手拍子を打ったりするところも。

シンフォニア・ノビリッシマ」の序奏はゆったりとしているが、主部に入ると音楽は勢いを増し、引き締まってスピード感溢れる展開に。

今年の吹奏楽コンクール課題曲は例年通りマーチを丸ちゃんが振り、その他を客演指揮者が担当。「南風のマーチ」は可愛らしく軽快、メリハリがある。マーチ「ライヴリー・アヴェニュー」は小気味よく爽やか。「シャコンヌS」はゆっくりした曲で、奏者一人一人の力量が問われそう。「天国の島」は和の響きがして歯切れいい。でも曲の醸しだすイメージは”天国の島”というよりは”佐渡島”といった感じかな?例年、課題曲Vはけったいな作品が多いのだが、「薔薇戦争」は変拍子があるものの、わりと”ふつーの曲”で面白かった。

恒例の実験はまず「南風のマーチ」で各パートが指揮台を中心に放射状、に並ぶ「エグザイル配置」。「ライヴリー・アヴェニュー」では《陽の当たらない楽器篇》と称し、B管なし、フルートなしで、Esクラ・Altoクラ・オーボエ(3人)・ファゴット(3人)・ホルン(4番だけ1人)・コントラバス(2人)など計13人による演奏。

丸ちゃんがコンクールで演奏する予定があるかどうか客席に質問すると、「天国の島」はたった1人、「薔薇戦争」は7人(早稲田摂陵高等学校)しかいなかった。

ブロッセはフランダース国際映画祭のオープニングを飾った「知られざる名曲(丸ちゃん談)」。格好いいファンファーレで始まり、フルートやオーボエ、イングリッシュホルンのソロが美しい。途中ホルンが映画「大いなる西部」みたいな旋律を吹く箇所も。

マクベスの「マスク」は石津谷先生の強い希望で取り上げられた。激しく猛り狂う導入部。それとは対照的に静寂の中間部。コラール風の和音が荘厳に響く。まるでブルックナーのシンフォニーのよう。圧巻の名演。

また休憩中はロビーで義援金バザールが開催され(50万円集まったそう)、ステージでは予告なくサキソフォン四重奏で「涙(なだ)そうそう」。どこで何が起こるか、油断ならない。

プログラム後半はいよいよ待望の「アルヴァマー序曲」登場である。

この曲に関して僕は2009年に次のような記事を書いているし、

さらに「待ってました!なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2010」にはこうある。

最後にNOW代表、金井さんに伏してお願いする。来年こそは是非とも丸ちゃんの指揮でジェイムズ・バーンズ/アルヴァマー序曲の決定版を!

その夢が実現するときが遂に来た。

プログラム・ノートには20年ほど前に作曲者が「日本のバンドは私の曲を何故あんなに速いテンポで演奏するんだ!」と憤っていたというエピソードが紹介されている。「アルヴァマー序曲」は1981年にアメリカで初演され、日本で初めて紹介されたのが「吹奏楽コンクール自由曲集’82」というレコード。汐澤安彦/東京佼成ウインドオーケストラの演奏だった。このときのテンポが =160位だったのだが、スコアの指定は =132だったのである。でもスピード感溢れる汐澤版が格好よかったので、多くのバンドがそれを真似るようになった。

僕も高校一年生の時、コンクール自由曲でこの曲を吹いた。やはりテンポは最終的に汐澤/東京佼成くらいまで上げていったと記憶している。

という訳で、今回NOWは作曲家の本来の意図に寄り添い、堅固なリズム感で本来のテンポによる演奏。その分、爽快感は減少したが、力強さが印象的だった。

実は「アルヴァマー序曲」にも実験があって、小編成(フルート、サックス、ホルンが1人ずつ、計14人)でコンクール用にカットし、テンポもコンクール向きに速くという趣向でもう一度演奏された。今度はすっきり、スマート。

トッカータとフーガ」は以前丸ちゃん/淀工が吹奏楽コンクールで挑戦した曲でもある。途中、丸ちゃんの唸り声が聴こえるなど、入魂の指揮ぶり。作品の厳しい側面が際立ち、重厚な音の大伽藍が構築された。

組曲「東海岸の風景画(イーストコーストとの風景)」 I.シェルター島は克明な細密画。II.キャッツキルズはトランペット・ソロが孤高の響きで、目の前に雄大な自然が広がる。III.ニューヨークは都会の生命力を活写し、躍動するリズムが心地いい。

アンコールは、

  • 岩井直溥/ポップス・マーチ「すてきな日々」( I )
  • J. Hanssen/Vardres(M)
  • 天野正道/ジャパニーズ・グラフティ VII 〜キャンディーズ・メドレー〜(なし)

石津谷先生は「昔のコンクール課題曲です。(丸谷/)淀工の名演が頭から離れません」と「すてきな日々」を暗譜で振られた。要所要所で加速する快感。

続く丸ちゃんは「珍しいノルウェーのマーチです」と。のどかで牧歌的。気持ちいい。

16時開演で終わってみると19時28分。3時間半の長丁場。指揮者の先生方、奏者の皆さん、おつかれさまでした!そして毎回素晴らしい演奏をありがとう。また来年、聴きに行きます。

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2011年5月 4日 (水)

いずみホール ディレクターズ・セレクション 《1》 佐藤俊介/無伴奏ヴァイオリンの世界

いずみホールへ。ここの音楽ディレクター・磯山 雅さんによるセレクションの第1弾。

1984年生まれのヴァイオリニスト・佐藤俊介(26)を聴く。

S1

彼はまだ若いが、既に古楽器奏法を身につけ、バロックとモダン楽器の二刀流である。2010年ヨハン・ゼバスティアン・バッハ国際コンクールにおいて、第2位と聴衆賞を併せて受賞した。

  • J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番
  • J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番
  • イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番
  • パガニーニ/24のカプリースから4、14、24番

ガット弦、バロック弓によるノン・ヴィヴラートのバッハは澄み切った音色(pura tone)。虚心坦懐、青空のバッハ。バロック音楽の真髄を聴く想いがした。

パルティータも贅肉をそぎ落とし、しなやかな佇まい。跳躍する音楽が小気味いい。

休憩を挟みイザイは1920年代に発表された曲。バッハのパルティータ第3番の引用があるが、激しく攻撃的で如何にも現代の様相を呈している。ここでも佐藤はガット弦を使用し、ヴィブラートも全体の1/3以下に極力抑えた演奏。知的で怜悧な印象だった。

24のカプリースも同様の趣向でヴィブラートが抑制され、客観的でありながら超絶技巧を堪能した。スマートなパガニーニ。

僕は今までサイモン・スタンデイジ、 ジュリアーノ・カルミニョーラ、寺神戸亮などバロック・ヴァイオリンの名手を沢山ライヴで聴いてきたが、実は佐藤俊介が一番上手いんじゃないかとさえ感じられた。恐るべき才能。彼はいま絶対聴いておくべき旬の、時代の最先端を走る音楽家であると言い切れるだろう。

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2011年5月 2日 (月)

映画「SOMEWHERE」

評価:D

Somewhere

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ソフィア・コッポラは元々嫌いだ。そもそも彼女のイメージを悪くしたのが、女優として出演したパパ監督の映画「ゴッドファーザー PART III」。精神的問題で急遽降板したあのウィノナ・ライダーの代役だぜ、信じられる!?ゴールデン・ラズベリー賞でワースト助演女優賞とワースト新人賞を受賞したのもむべなるかな。映画自体どうしようもない駄作だが、ソフィアの容姿・演技は正に悪夢であり、僕のトラウマとなった。

彼女が脚本・監督し、アカデミー脚本賞を受賞した「ロスト・イン・トランスレーション」も実に退屈な映画であった。

で、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞した「SOMEWHERE」である。この時の審査委員長はクエンティン・タランティーノ。はっきり言う。タラちゃん、アホちゃう?いくら監督が元恋人のソフィアだからといって、こんなあからさまな身贔屓はないでしょう。

救いようがないくらい退屈な映画。雰囲気(何となくお洒落なムード)はあるが、中身は空っぽ。皆無である。そもそも異国で感じるアメリカ人の孤独感がテーマって、「ロスト・イン・トランスレーション」の焼き直しじゃない?実に下らない。エル・ファニング(ダコタの妹)が可愛かったのが唯一の救いだった。

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映画「八日目の蝉」

評価:A+

Semi

角田光代が書き直木賞を受賞した「対岸の彼女」が僕はとても好きで、彼女の小説「八日目の蝉」も最後は涙を流しながら読んだ。壇れい&北乃きい主演で放送されたNHKドラマ版も観た。だからこの物語はよく咀嚼しているつもりだが、それでも映画の感動が損なわれることは全くなかった。

公式サイトはこちら

魂が震えるような体験だった。永作博美が一世一代の名演技。彼女はこの役を演じるために生まれてきたと断じても過言ではない。

冒頭は裁判シーンで、生後6ヶ月の赤ん坊を誘拐された母親の証言から始まる。これには意表を突かれた。そして犯人の永作博美が正面を向いて語りかけてくる。実に映画的な導入部。

誘拐する場面は激しく雨が降り、また少女が無事帰宅してからも雪が降ったりと天候がすぐれない。しかし主人公が瀬戸内海を渡り、小豆島にたどり着くと、やがて空が晴れてくる。見事な演出設計だ。

ラストシーンも原作とは異なる。でも映画はこれで良かったと想った。現像された写真から次第に浮かび上がってくる、かりそめの「母」と「娘」。切実な哀しみ。映像の力をまざまざと見せつけ、強烈な説得力があった。

井上真央が好演。背中を丸めておどおどした演技を披露した小池栄子も中々いい。

2011年日本映画を代表する、まごうことなき傑作。これを観ずに死ねるか!

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2011年5月 1日 (日)

大植英次/大フィルが大阪市庁舎をジャック!〜ジャズ・ピアニスト 小曽根真も登場「被災地支援コンサート」

4月28日(金)、大阪市役所へ。

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ここで大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団のメンバーによる「被災地支援コンサート」が開催された。

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第1公演は大阪市会議場で大植英次さんと小曽根真さんのピアノ・デュオ。

開演前に大植さんが登場し、ピアノを弾き始める。

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さわりが演奏されたのは、

  • フォーレ/パヴァーヌ
  • マーラー/交響曲第5番から第4楽章 アダージェット
  • マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
  • ショパン/「別れの曲」
  • バーンスタイン/トゥナイト

ここで平松市長が登場し、大植さんと談笑。また聴衆中には大阪市会議長の姿も。

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開演時間となり、小曽根さんが登場。大植さんからの紹介の後、小曽根さんからは「人のために、何かしたくて仕方ない大植さんです!」とエールの交換。

「東京は節電で暗くなっています。僕は品川駅をよく利用するのですが明るさは半分くらいかな。でもそういう東京も素敵だと想うんです。光があれば影も出来る。ミラノとかパリの夜もそんな感じ。今回大阪駅に到着したら眩しかったです」という小曽根さんの話に会場から笑いが起こる。小曽根さんは神戸市出身。阪神・淡路大震災も経験されたという。「幼い頃からJAZZばっかりやっていて最近クラシック音楽を始めたんですけれど、どちらも素晴らしい。今は両者の『共存』が僕のテーマです」

彼のソロは、

  • ショパン/マズルカ 第13番
  • モーツァルト/ピアノ・ソナタ
  • バーンスタイン/トゥナイト
  • 小曽根真/信じて走れ(「組曲虐殺」より)

勿論、クラシックの曲も即興演奏(アドリブ)が加味された。

「蟹工船」で有名な小林多喜二を主人公にした舞台「組曲虐殺」の音楽を作曲された小曽根さんは、井上ひさしが書いた詩を朗読された。

愛の綱を肩に希望を目指して走る人よ
いつも駆け足で森を駆け抜けて
山を駆け登り、崖を駆け降りて
海を掻き分けて、雲にしがみつき
後に続く者を信じて走れ

続いて小曽根さんと大植さんのデュオでJAZZのスタンダード・ナンバー2曲。

  • 身も心も(Body and Soul )
  • Tenderly

大植さん単独で、

  • ーシュウィン/3つの前奏曲から第2曲

大植さんは小曽根さんが演奏するショパンをポーランドの人が聴いて涙したエピソードを披露。また音楽家(ピアニスト)から首相になった世界で唯一の例、パデレフスキ(ポーランド、1860-1941)の話題も。話している途中にふと、「いまは昭和何年ですか?」と大植さん。聴衆から返答。「えっ、平成?そうですか……???」僕の隣に座っていたおばちゃんが笑いながら「大植さん、宇宙人だから」とぽつり。

最後は大植さんから小曽根さんへのリクエストで

  • ショパン/ノクターン 第2番

華麗でロマンティックだった。

 関連記事

お昼をアイリッシュカレーで食べて第4公演@7階市会第6委員会室へ。

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上の写真、大植さんが手に持っているのは大阪のペットボトル入り水道水「ほんまや」。この水は被災地にも随分送られているようだ(報道発表資料はこちら)。「別に市長や市の職員から頼まれたわけではありません!」と自主的に宣伝していることをアピール。

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ヴァイオリン:橋本安弘、ヴィオラ:小野眞優美、コントラバス:松村洋介で、

  • ディッタースドルフ/ヴィオラとコントラバスのソナタ
    より第1,2,5楽章
     
  • バッハ/トリオ・ソナタ 第2番
  • ペツォールト(伝 J.S.バッハ←誤りと判明)/メヌエット ト長調
    アンコール

松村さんの解説によるとディッタースドルフは「分かりやすいけれど、中だるみする曲」とのことで途中の楽章をカット。

バッハトリオ・ソナタは元々オルガンのために書かれたもの。左右の手、ペダルをそれぞれ3つの楽器に分けられると一層対位法がくっきりと浮かび上がり、「均衡の美」は些かも損なわれなかった。やっぱりバッハはいい。

メヌエットは「ソードレミファソドド」の音型で有名。ポップ・ソング「ラヴァーズ・コンチェルト」の原曲にもなっている。

大阪市会議場に戻り第6公演

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クラリネット:ブルックス・トーン、チェロ:庄司 拓 、ピアノ:鷲見真里で、

  • モリコーネ/ニュー・シネマ・パラダイス
  • ベートーヴェン/ピアノ三重奏 第4番「街の歌」
  • 星に願いを アンコール

映画「ニュー・シネマ・パラダイス」はブルックスが10回以上観て10回以上泣いたそう。原語のイタリア語で鑑賞したとか。

もう最初のピアノによる柔らかく優しい旋律を聴いただけで背中がゾクゾクッとした。泣きたくなるような美しさ!

庄司さんは仙台フィルに友人がいて、電話で話しをすると今でも服を着たまま寝ているという。「いつ余震があっても直ぐ逃げられるように」と。そして夜、仮設トイレに並んでいると、周りの人とは「星って綺麗だね」それしか話すことがないという。そういう訳でアンコールは「星に願いを」。

第8公演は屋上(P1)会議室。

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ヴァイオリン:田中美奈、三瀬麻起子、チェロ:近藤浩志、コントラバス:新 真二で、

  • ロッシーニ/弦楽のためのソナタ 第1番
  • ロッシーニ/弦楽のためのソナタ 第2番
  • 玉木宏樹/Fiddle Faddle(二人のフィドラー) アンコール

第1と第2ヴァイオリンが左右両端で「今日は大植監督の大好きな対向配置です」と近藤さん。曲目を解説していると新さんから「まき」が入り、「話が長いのは大植さんのがうつってきちゃった」と。観客大受け。

ロッシーニの曲は向かい合うヴァイオリンの掛け合いが面白く、チェロは雄弁。コントラバスのソロもある。ソナタ 第1番の第1楽章、新さんが途中どこを弾いているか分からなくなり近藤さんに「今どこ?」と言い、近藤さんが弾きながら「138(小節目)」と答え、「怒ってる?」と訊ねる一幕も。こういうハプニングも愉しい。1楽章が終わるとやんやの喝采。「拍手なんかしなくていいです」と近藤さん。新さんに向かって「今度は落ちないように」

ここで大植さん登場。またまた「ほんまや」を持ち出し、近藤さんに飲んでもらう「美味い!」

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写真上が大植さん手作りの巨大な募金箱。中がよく見え、硬貨だと音がするので、紙幣しか入れにくい仕様になっている。

ソナタ3番は第1楽章の旋律がオペラのアリアみたいで、第2楽章はドキッとするくらい暗く、作曲家の心の深淵を覗き込むかのような音楽だった。

第10公演は大阪市会議場。

トランペット:秋月孝之、篠﨑 孝、橋爪伴之、松原健二、ホルン:村上 哲、トロンボーン:安藤正行、磯貝富治男、ロイド・タカモト、今田孝一、テューバ:川浪浩一で金管十重奏。

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  • デュカス/「ラ・ペリ」よりファンファーレ
  • グリーン・スリーブス
  • ロジャース/サウンド・オブ。ミュージック・メドレー
  • ヘイゼル/三匹の猫
  • ヘイゼル/もう一匹の猫 アンコール

ヘイゼルはイギリスの作曲家・編曲者。長年フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルのアルバム・プロデューサーを務め、「猫」シリーズも彼らのために書かれた。最初はなんだかカーペンターズの楽曲を彷彿とさせるような1970年代ポップス調で、第3曲はJAZZ。ユーモラスで愉快な曲だった。

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またまた大植さんが登場し、「ほんまや」を奏者全員に配ったところ。

また今回初めて知ったのが、市役所には屋上庭園があり、そこからの見晴らしがいい。

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みおくつしの鐘。市民は自由に出入り出来るそうだ。

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大植さんはこの翌日、遅咲きの造幣局の桜と市民が寄せ書きした沢山のノートを携えて、被災地に旅立たれた。3日間岩手県釜石市などの避難所を廻り、被災者の話を聴いたり一緒に歌を歌ったりして過ごされるそうだ。

最後に「星空コンサート」「阪急クラシック」「大阪市役所一日ジャック」を通じ、大植さんが連呼されていた自作の句をご紹介して締めくくろう。

桜の葉 お札に見える 造幣局 みんなで集めて 被災地へ

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