待望のアルヴァマー序曲登場!~なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2011
ザ・シンフォニーホールへ。
東西のプロ・オーケストラ団員が年に一度集結し、吹奏楽の祭典を繰り広げるなにわ《オーケストラル》ウィンズ(NOW)を聴く。レギュラーの大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部・丸谷明夫先生(丸ちゃん)に加え、今年は客演指揮者として千葉・習志野高校吹奏楽部の石津谷治法(いしづや はるのり)先生が加わられた。
石津谷先生は2003年の第1回NOWで指揮されたので、これが2回目、8年ぶりの登場となる。今まで先生は音楽の先生だと想っていたのだが、プロフィールに社会科(世界史)の先生だと書かれていて驚いた。ちなみに丸ちゃんは電気科の先生である。
大阪公演は発売30分で完売した。恐るべき人気である。
メイン・プログラムは下記。各々の指揮者は(M)=丸谷、( I )=石津谷、(なし)=指揮者なしを示す。
- スパーク/陽はまた昇る(なし)
- マー/ヘイ!( I )
- ジェイガー/シンフォニア・ノビリッシマ(M)
- 新実徳英/シャコンヌS
(課題曲 III)( I ) - 渡口公康/南風のマーチ
(課題曲 IV)(M) - 佐藤博昭/天国の島
(課題曲 II)( I ) - ブロッセ/7インチ・フレーム(M)
- マクベス/マスク( I )
《休憩》 - あいさつの魔法。(なし)
- バーンズ/アルヴァマー序曲(M)
- 堀田庸元/マーチ「ライヴリー・アヴェニュー」
(課題曲 I)(M) - 山口哲人/「薔薇戦争」より戦場にて
(課題曲 V)( I ) - バッハ(ライゼン 編-NOW補筆)/トッカータとフーガ(M)
- ヘス/組曲「東海岸の風景画」( I )
開演30分前にロビー・コンサートあり。まずファゴット3重奏で「ジャズ・チャイコフスキー」(金平糖の踊り、4羽の白鳥の踊り など)そしてホルン5本+打楽器で「パイレーツ・オブ・カビリアン」から”彼こそが海賊”が演奏された。
そしてステージへ。奏者全員、腕に緑のバンドをして登場。
スパークの作品は3月の東日本代震災の被災者に捧げる曲で、印税は全て日本緊急救援基金に寄付される。元々金管バンド用に作曲したものを吹奏楽用にアレンジ。優しい音でハーモニーの美しさが際立っていた。
マーは明るく、金管の響きが輝かしい。途中、奏者が手拍子を打ったりするところも。
「シンフォニア・ノビリッシマ」の序奏はゆったりとしているが、主部に入ると音楽は勢いを増し、引き締まってスピード感溢れる展開に。
今年の吹奏楽コンクール課題曲は例年通りマーチを丸ちゃんが振り、その他を客演指揮者が担当。「南風のマーチ」は可愛らしく軽快、メリハリがある。マーチ「ライヴリー・アヴェニュー」は小気味よく爽やか。「シャコンヌS」はゆっくりした曲で、奏者一人一人の力量が問われそう。「天国の島」は和の響きがして歯切れいい。でも曲の醸しだすイメージは”天国の島”というよりは”佐渡島”といった感じかな?例年、課題曲Vはけったいな作品が多いのだが、「薔薇戦争」は変拍子があるものの、わりと”ふつーの曲”で面白かった。
恒例の実験はまず「南風のマーチ」で各パートが指揮台を中心に放射状、縦に並ぶ「エグザイル配置」。「ライヴリー・アヴェニュー」では《陽の当たらない楽器篇》と称し、B管なし、フルートなしで、Esクラ・Altoクラ・オーボエ(3人)・ファゴット(3人)・ホルン(4番だけ1人)・コントラバス(2人)など計13人による演奏。
丸ちゃんがコンクールで演奏する予定があるかどうか客席に質問すると、「天国の島」はたった1人、「薔薇戦争」は7人(早稲田摂陵高等学校)しかいなかった。
ブロッセはフランダース国際映画祭のオープニングを飾った「知られざる名曲(丸ちゃん談)」。格好いいファンファーレで始まり、フルートやオーボエ、イングリッシュホルンのソロが美しい。途中ホルンが映画「大いなる西部」みたいな旋律を吹く箇所も。
マクベスの「マスク」は石津谷先生の強い希望で取り上げられた。激しく猛り狂う導入部。それとは対照的に静寂の中間部。コラール風の和音が荘厳に響く。まるでブルックナーのシンフォニーのよう。圧巻の名演。
また休憩中はロビーで義援金バザールが開催され(50万円集まったそう)、ステージでは予告なくサキソフォン四重奏で「涙(なだ)そうそう」。どこで何が起こるか、油断ならない。
プログラム後半はいよいよ待望の「アルヴァマー序曲」登場である。
この曲に関して僕は2009年に次のような記事を書いているし、
さらに「待ってました!なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2010」にはこうある。
最後にNOW代表、金井さんに伏してお願いする。来年こそは是非とも丸ちゃんの指揮でジェイムズ・バーンズ/アルヴァマー序曲の決定版を!
その夢が実現するときが遂に来た。
プログラム・ノートには20年ほど前に作曲者が「日本のバンドは私の曲を何故あんなに速いテンポで演奏するんだ!」と憤っていたというエピソードが紹介されている。「アルヴァマー序曲」は1981年にアメリカで初演され、日本で初めて紹介されたのが「吹奏楽コンクール自由曲集’82」というレコード。汐澤安彦/東京佼成ウインドオーケストラの演奏だった。このときのテンポが♩ =160位だったのだが、スコアの指定は♩ =132だったのである。でもスピード感溢れる汐澤版が格好よかったので、多くのバンドがそれを真似るようになった。
僕も高校一年生の時、コンクール自由曲でこの曲を吹いた。やはりテンポは最終的に汐澤/東京佼成くらいまで上げていったと記憶している。
という訳で、今回NOWは作曲家の本来の意図に寄り添い、堅固なリズム感で本来のテンポによる演奏。その分、爽快感は減少したが、力強さが印象的だった。
実は「アルヴァマー序曲」にも実験があって、小編成(フルート、サックス、ホルンが1人ずつ、計14人)でコンクール用にカットし、テンポもコンクール向きに速くという趣向でもう一度演奏された。今度はすっきり、スマート。
「トッカータとフーガ」は以前丸ちゃん/淀工が吹奏楽コンクールで挑戦した曲でもある。途中、丸ちゃんの唸り声が聴こえるなど、入魂の指揮ぶり。作品の厳しい側面が際立ち、重厚な音の大伽藍が構築された。
組曲「東海岸の風景画(イーストコーストとの風景)」 I.シェルター島は克明な細密画。II.キャッツキルズはトランペット・ソロが孤高の響きで、目の前に雄大な自然が広がる。III.ニューヨークは都会の生命力を活写し、躍動するリズムが心地いい。
アンコールは、
- 岩井直溥/ポップス・マーチ「すてきな日々」( I )
- J. Hanssen/Vardres(M)
- 天野正道/ジャパニーズ・グラフティ VII 〜キャンディーズ・メドレー〜(なし)
石津谷先生は「昔のコンクール課題曲です。(丸谷/)淀工の名演が頭から離れません」と「すてきな日々」を暗譜で振られた。要所要所で加速する快感。
続く丸ちゃんは「珍しいノルウェーのマーチです」と。のどかで牧歌的。気持ちいい。
16時開演で終わってみると19時28分。3時間半の長丁場。指揮者の先生方、奏者の皆さん、おつかれさまでした!そして毎回素晴らしい演奏をありがとう。また来年、聴きに行きます。
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コメント
たまたま吹奏楽で検索していて見つけました。今年のなにわは、アルヴァマー序曲を演奏して下さるというので、とても楽しみにしていました。今まで佼成ウインドの速い演奏しか聴いた事がなかったので、本来のテンポでの演奏は圧巻の一言でした。雅哉さんがリクエストして下さったおかげでしょうか。コンサートの内容も事細かく書かれていて、またあの感動が蘇って来て余韻に浸る事ができました。ありがとうございました。
投稿: まあちゃん | 2011年5月 7日 (土) 01時51分
コメントありがとうございます。今回嬉しかったのはアルヴァマー序曲を2種類の異なる形(テンポ、編成)で聴けたことです。発売されるCDにどちらのバージョンも収録されるといいですね!
投稿: 雅哉 | 2011年5月12日 (木) 01時02分
両方のバージョン、収録されていましたね。
ぽぽぽぽ〜ん♪が入ってなかったのが、心から残念です。w
投稿: ふーじー | 2011年6月 1日 (水) 00時47分
ふーじーさん、お久しぶりです!
今年出演されなかったふーじーさんが1階中央の招待席に、クラの原田さんらと座っていらっしゃるのを、お見かけしました。
CDにアルヴァマーが2種類収録されているのはとても嬉しいです。
投稿: 雅哉 | 2011年6月 2日 (木) 03時00分