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2011年4月

2011年4月28日 (木)

大植英次プロデュース「阪急クラシック」チャリティコンサート!

4月26日(火)に大植英次プロデュース「阪急クラシック」チャリティーコンサートが丸一日かけて阪急電鉄沿線で開催された。

朝11時からは宝塚バウホールで宝塚宙組の北翔海莉、愛花ちさき、すみれ乃麗、七瀬りりこらが大植さんと共演。1914年に宝塚少女歌劇の第1回公演として上演された「ドンブラコ(桃太郎)」が演奏され、さらに「ベルサイユのばら」主題歌”愛あればこそ”や「風と共に去りぬ」レット・バトラーのナンバー”さよならは夕映えの中で”が歌われたたという。

また宝塚駅今津線ホームでは阪急電車の留置車両内に赤い毛氈をひき、グランドピアノを持ち込んで演奏。このときの様子はこちらに詳しい→ブログ「やくぺん先生うわの空」

逸翁美術館マグノリアホールでは阪急電鉄の社長夫妻が来られ、角社長が宝塚歌劇トップ・スターだった春野寿美礼の為に作詞・作曲した“こんなにも愛されて”などが演奏された。そして最後は社長自ら募金箱を持って立たれたそう。今回集まったお金は東日本代震災・津波遺児への支援活動を行う「あしなが育英会」に寄付される。

僕は最終公演を聴くために梅田阪急ビル オフィスタワー15階スカイロビーへ。19時開演ということだったが、実際にはリハーサルが押して大植さんのお話が始まったのが15分過ぎくらい。

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「尊い命を突然奪われた方々を想い、黙祷しましょう」との大植さんの呼びかけで、全員起立し黙祷。着席すると大植さんがピアノでベートーヴェン/ピアノソナタ 第14番「月光」を静かに弾き始める。大植さんはこの前日、仙台フィルが設立した「音楽の力による復興センター」を支援するためのチャリティ・コンサートを静岡で開催し、福島県郡山市からの被災者も聴きに来られていたとか。

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「本当はチャリティなんかやりたくないんです。でもやらなければならない」「音楽はUniversal Languageです。国境も宗教も人種も関係ない」「今回は未曾有の天災に人災が加わった。外国の友人から言われました。これは東北だけじゃない、日本の悲劇、いや世界の悲劇だと」「僕は広島市に生まれました。叔父が原爆の犠牲となり、祖父が(遺体を)探しに一ヶ月出かけていたこともありました。原爆が投下されちょうど40年経った1985年にはバーンスタイン先生と広島平和コンサートに出演しました」「ガリレオは言いました。英雄を必要とする国は不幸な国だと」「バーンスタイン先生が仰っていたのですが、最高のオーケストラは一部のスター・プレイヤーがいるところではない。奏者全員が素晴らしいんだと」「明後日(28日)は市庁舎をぶん取ってまたチャリティやります!」饒舌に語る大植さん。ここで19時30分を超過し、大フィルのスタッフから「まき」が入る。

まずプログラム最初は昨年、「青少年のためのコンサート」に出演した高校生・山本愛沙子さんのホルン演奏。彼女は大阪フィルハーモニー交響楽団の主席ホルン奏者・村上哲さんの愛弟子である。

村上さんは開口一番「皆様、長らくお待たせして済みません」ここで会場から笑い。曲は「魔法使いの弟子」で有名なデュカス/ホルンとピアノのためのヴィラネル(田園詩)。若々しく真っ直ぐ伸びやか。気持ちいい演奏。大植さんがピアノ伴奏で村上さんが譜めくり。「結構ピアノのミスをしましたが、一音間違えるごとに千円寄付します!」という大植さんに村上さんが何やらボソボソ。「えっ、15回?じゃぁ1万5千円ですねっ」

次に弦楽合奏が登場。大阪音楽大学・京都市芸術大学の在校生および卒業生による約25人の合同演奏。兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)のチェリストも1名参加した。コンサートミストレスは井前慶子さん(井前さんのブログはこちら)。彼女は山口県岩国市や広島市で開催された大植英次チャリティーコンサート(3日間で全9公演)にも参加されたとか。

(以下の写真はリハーサル風景。デジタル・カメラを使用し、シャッター音は消してある)

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モーツァルト/ディヴェルティメント K.136で大植さんはピアノの周りを絶え間なく動きながら踊るように指揮された。躍動感溢れる演奏。曰く「この曲を是非、僕の葬式で演奏して下さい、第1楽章だけでいいですから!」・・・大植さんは以前、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」も葬式に希望されていたので、続けて演奏ということですね?

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次に震災の犠牲者に捧げるチャイコフスキー/弦楽セレナーデ 第3楽章 エレジー(哀歌)。「僕は楽譜のおたまじゃくしがハートに見えるんです」と大植さん(サイン会で「心音」と書かれることがある)。一音一音噛み締めるように奏でられ、途中大植さんの感情が昂ぶり、唸り声をあげる場面も。

そして第4楽章 フィナーレ。終結部で第1楽章の序奏主題が堂々と再現される箇所、大植さんはリハーサルで「ここは目の前のお客様に向けて演奏するのではなく、東北の被災者の方々に届けるように!」と。

続いて弾き振りでベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番 第2楽章。解説によると冒頭、弦のユニゾンが力強く奏でるフレーズは「何やってんだ!」という神の怒りだそう。それに対してピアノが弱音で瞑想的に歌うところ、リハーサルで大植さんは「I'm sorry. 僕が悪かった」と台詞を喋りながら弾かれていた。

アンコールは弦楽セレナーデに戻り、第2楽章 ワルツ。「最後は愉しい気分で」と。リハーサルで大植さんは「あま~い音で」「ここは蝶々が舞うように!」とジェスチャーを交えながら指導されていた。

募金については「桜の葉 お札に見える 造幣局 みんなで集めて 被災地へ!」と一句詠まれ、大植さんがピアノを弾き、皆で「ふるさと」を歌って〆。

後で知ったのだが丁度この頃、東京・サントリーホールではコバケン/日本フィルが「ふるさと」を演奏し、客席も一緒に歌ったそう。日本人の心がひとつになった瞬間だった。

なお大植さんは4月29日に単身盛岡空港に飛び、釜石や気仙沼など被災地を3日間廻る計画があるそう。「向こうでこのような演奏会をするつもりはありません。現地の方々がどれくらい大変な経験をされたのか、今どんな想いを抱いておられるのか、しっかりと聞いてきたい。そしてもし、その気になられたら一緒に歌でも歌いたいと考えています」と。またドイツに戻ってからも世界でチャリティ・コンサートを45-6回する予定になっているとの話もあった。つくづく凄い人だ。

最後に余談だが、リハーサルと本番を通し腕章を付けたカメラマンが最初から最後までず〜っとシャッターを切り続け、その音がとても気になった。音楽を愉しんでいる人の邪魔をしてまで、何百枚も写真を撮る必要が本当にあるのだろうか?報道のあり方に疑問を感じた。

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2011年4月26日 (火)

春のフランス便り~大阪交響楽団 定期

4月22日(金)、ザ・シンフォニーホールへ。

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矢崎彦太郎/大阪交響楽団による定期演奏会。矢崎さんはパリ在住。フランス音楽のスペシャリストで今回もフランス尽し。

  • フォーレ(ラボー 編)/組曲「ドリー」
  • ダンディ/フランスの山人の歌による交響曲
    (ピアノ独奏:相沢吏江子)
  • ドビュッシー(カプレ 編)/バレエ音楽「おもちゃ箱」
    (ナレーション:中井美穂)

「ドリー」と「おもちゃ箱」の数奇な関係については谷戸基岩さんの解説が興味深い。→こちら

へぇ、「知られざる作品を広める会」っていうのがあるんだ。面白いなぁ。

ドリー」はフルートとオーボエのソロが魅力的。I. 《子守歌》は優しく夢見るよう。 II. 《ミ=ア=ウ》 は愛らしく、柔らかい音色。III. 《ドリーの庭》はウィットに富む。 IV. 《キティ=ヴァルス》は優雅なワルツ。 V. 《優しさ》は弦の馥郁たる魅力。 VI. 《スペインの踊り》は一転して鮮やかな色彩感。

ダンディは粗っぽく野性味がある。デュカス「魔法使いの弟子」と似た雰囲気。ピアノに芯がなく力強さが不足していたのが残念だが、オケの方は生き生きとした表現力でスカッとした。

ドビュッシーはユーモアがあって上品。洗練されている。ナレーション台本は矢崎さんによるもので、何が飛び出してくるか分からないワクワク感があった。

小粋で素敵な演奏会だった。

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2011年4月25日 (月)

大植英次/大フィルの「星空コンサート 2011」!

大阪城西の丸庭園へ。

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大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の「星空コンサート」は今年で6回目。僕は毎回、皆勤である。

第1、2回目の「星空コンサート」入場料は500円だった。入場者数は第2回の1万4千人でピークに達し、1,000円に値上がりした第3回で8千人と減少。

今年は当初4月23日(土)に予定されていたが、雨のため順延。翌24日(日)に開催の運びとなった。

東日本代震災をうけてプログラムは一部変更となり、まず最初はエルガー/「エニグマ変奏曲」より”ニムロッド”。「尊い命を失くされた方々、今も現地で苦しんでおられる被災者を想い、祈りましょう」と大植さん。ゆったりと、ため息をつくような演奏。しかし曲の後半では雄々しくなり、強い意志を示すかのように盛り上がる。聴衆は黙してそれを見守り、大植さんの指揮棒がゆっくり下ろされるまで拍手は控えられた。

続くドヴォルザーク/スラヴ舞曲 第8番は気を取り直し、勢いのある快速球。大植さんは元気よく指揮台でジャンプ!

J.コリー/「想い出のサンフランシスコ」で大植さんは「私の心はいつも大阪にあります」と。サンフランシスコと大阪は1957年に姉妹都市になったとのこと。甘美でノスタルジック。

ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 第3楽章でソロを弾いたのは林 周雅(しゅうが)くん。13歳で中学校2年生だそうだ。

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オーケストラとの共演は2何回目。「最初はどこと共演したんですか?」という大植さんの質問に対して「忘れました」の答え。会場から笑いがこぼれる。なおブラームスはドイツ・ハンブルク生まれ。ハンブルクも大阪と姉妹都市だそう。

お次はJ.ウィリアムズ/映画「スーパーマン」テーマ。「スーパーマン II 冒険編」(1981)の冒頭、エッフェル塔が核爆弾を持ったテロリストによって占拠されてしまう。パリ滅亡の危機。それを知ったスーパーマンは水爆を奪い、宇宙空間で爆発させる。

「nuclearやradiationのない未来を。たとえ夜が暗くなろうと、みなさんの”目”で明るくしましょう。平和への願いを込めて」と大植さん。「星空コンサート」は関西電力協賛で、会場には役員も来ているのに何と大胆な!いやぁ、素晴らしい。

なお大植さんは広島市生まれ。1985年8月6日(原爆投下40周年)、「広島平和コンサート」にレナード・バーンスタインと共に出演し、糀場富美子/「広島レクイエム」を初演している。

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上の写真は赤いマントを着て、お腹に《S》マークを貼り付けた大植さん。力強い演奏だった。

大植/大フィルは2006年「青少年のためのコンサート」でもこの「スーパーマン」を取り上げている。その時は冒頭のファンファーレで肝心のトランペットがコケて、まことにお粗末だった。しかし今回、目立ったミスはなくホッとした。

ここで平松・大阪市長が登場。コープランド/リンカーンの肖像のナレーションを担当された。この組み合わせでリンカーンの肖像を聴くのは3回目。

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確信に満ち、説得力のあるパフォーマンスであった。やっぱりコープランドは格調高くていい。大植/大フィルで「アパラチアの春」「ロデオ」も聴きたいなぁ。

プログラム最後は恒例のチャイコフスキー/序曲「1812年」。バンダ(金管別働隊)は大阪府立淀川工科高等学校・箕面自由学園高等学校・明浄学院高等学校・近畿大学の各吹奏楽部が合同で演奏。そちらの指揮は淀工の丸谷明夫 先生(丸ちゃん)が担当。

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上の写真左が丸ちゃん、右が大植さん。ふたりの指揮がシンクロし、壮大なサウンドが迫る!

アンコールはまず、スーザ/星条旗よ永遠なれ

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ステージ上に立つ淀工のピッコロ軍団。

続いて「上を向いて歩こう」「ふるさと」が演奏され、観客も歌った。「上を」=UEOの順番を入れ替えるとOUE=「大植」になるという話も。

そして〆はロッシーニ/「ウィリアム・テル」序曲大植/大フィルによるこの曲を聴くと、反射的にレナード・.バーンスタインが1960年代初頭にCBSテレビでやっていた「青少年コンサート」(Young People's Concert)のことを想い出す。指揮後レニーが客席の子供達に振り返り、「この曲名が分かるかな?」と尋ねると、一斉に「ローン・レンジャー!」の答え。そうした記憶が大植さんの心にも去来したのではなかろうか?

会場出口付近では「1812年」に出演した高校生たちが被災地支援のための募金箱を持って、協力を呼びかけていた。

本当は今回どうしようかと迷ったのだけれど、行ってみるとやっぱり愉しかった。春の夜は寒かったが、温かい気持ちで満たされ帰途に就いた。

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下野竜也/京都市交響楽団のリスト(with 金子三勇士)とマーラー

4月24日(日)、ザ・シンフォニーホールへ。

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下野竜也/京都市交響楽団の大阪特別公演。

ピアノ独奏に金子三勇士(かねこ みゆじ)を迎えて、

  • リスト/ピアノ協奏曲 第1番
  • マーラー/交響曲 第5番

金子さんは日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳で単身ハンガリーに渡り、11歳の時、飛び級で国立リスト音楽院大学ピアノ科に入学した経歴を持つ。

フランツ・リストはハンガリーに生まれた。だから金子さんにピッタリ。演奏を聴いていて「ハンガリーの血」をひしひしと感じた。

下野さんがドライブする京響は雄弁でドラマティック。金子さんのピアノは鋼(はがね)のような芯の強さがあり、猛々しい。繊細とは対極の無骨な表現で、ドビュッシーやラヴェルなどフランス物には合わないが、リストならこのスタイルが相応しいと想った。アンコールは「愛の夢 第3番」。

マーラーはとにかく京響の金管がよく鳴る。大阪フィルハーモニー交響楽団の場合はいつも「トランペットがこけるんじゃないか、ホルンのピッチ(音程)が合わないんじゃないか」とハラハラして聴いているのだが、京響は安心して音楽に身を任すことが出来る。その咆哮が実に気持ちいい!トランペット首席のハラルド・ナエス、ホルン首席の垣本昌芳さん、お見事!文句なし。

オーケストラの実力診断をすると大フィルの弦は100点、管が60点。一方の京響は弦が80点、管が90点といったところか。京響は両者のバランスがいい。

第1楽章では音の波が客席に押し寄せ、激しくうねる。第2楽章は内燃するエネルギーがマグマのように熱い。第3楽章スケルツォはリズミカルに舞い、躍動する。第4楽章はあっさりとして透明感がある。音楽はまどろみ、夢見るよう。第5楽章ロンドは生き生きした表情が魅力的で、金管の響きが輝かしい。

下野さんのマーラーはパンチが効いてメリハリがあった。胸のすくような快演だった。Bravissimo(no) !

この後、大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の「星空コンサート」へ向かうのだが、それはまた、別の話。

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2011年4月23日 (土)

林家和女/お囃子30周年・誕生50周年祝賀会

4月21日、繁昌亭へ。

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落語家・桂あやめさんの姉で、お囃子をされている林家和女さんが主役の落語会。4月21日は和女さんの誕生日であると共に、エリザベス女王の誕生日でもあるそう。だからチラシに、ふたりを合成した写真が。

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  • 桂あやめ/ご挨拶
  • 笑福亭たま/和女ショート落語
  • 桂あさ吉/軽業
  • 林家染雀/蛸芝居
  • 桂 三金/バルーン
  • 笑福亭福笑/繁昌亭ラブソング(福笑 作)
  • 桂春團治/親子茶屋
    (仲入り)
  • 和女・あやめ・遊方・三金・たま/写真展&トーク
  • 林家染雀/ご祝儀舞
  • お囃子バンド(三味線・胡弓:和女、ギター:遊方、ピアノ:染雀、
    笛:あさ吉、鳴り物:三金・たま、歌:あやめ)

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あやめさんは姉の和女さんについて、結構ミーハーなところがあり、高校生の頃は漫才コンビ、オール阪神・巨人の阪神の大ファンで、泉大津の自宅まで誕生日プレゼントを持っていったというエピソードを暴露。その頃姉妹は都都逸が好きで、地元神戸で「都都逸教室」を探したが中々見つからず、とりあえず三味線の稽古を始めたとか。その後ある落語会が切っ掛けで勝正子さんにスカウトされた件は下記に既に書いた。

たまさんは「林家和女は究極の落語ファン」というお題で、ショート落語を三つ披露。面白い!

あさ吉さんはいつも思うのだが、観客と決して目を合わそうとしない。対人恐怖症なのかなぁ。笛は上手いんだけれど。

染雀さんの「蛸芝居」は最初に長唄「操り三番叟」が登場する珍しい型。これは和女さんの師匠・小林政子からの直伝で、他に唄えるお囃子さんがいないとか。染雀さんは座布団を一切使用せず、終始踊りまくっての大熱演。

三金さんは風船でらくだ・くま・剣呑みを。お囃子は「奴(やっこ)さん」「かっぽれ」など。

福笑さんの新作「繁昌亭ラブソング」は「月の法善寺横町」「フニクリ・フニクラ」「山の音楽家」「漕げよマイケル(ゴスペル)」などの替え歌が次々に歌われ、賑やかで愉しい。今回は噺の中にあやめさんが登場するスペシャル・バージョン。

春團治さんはハメモノがふんだんに入った噺ということで「親子茶屋」。(「代書屋」「祝いのし」の遭遇率が高く)滅多に聴けないネタだけに嬉しかった。

こうして前半は和女さんをこき使って終了。

トークでは姉妹の幼い頃の写真などがスライドで写された。和女さんは昔から「緑」が好きということで、出演者も何がしか緑のものを身につけて。

染雀さんの舞は「六歌仙」。

お囃子バンドの曲目は「月光価千金(エノケンバージョン)」「蘇州夜曲」「オクラホマミキサー ~あんまり落語が好きなので~」。「月光価千金」は舞台「上海バンスキング」でも歌われた曲。「オクラホマミキサー」はなんと、桂あやめ監督による映像付き!和女さんが主演でお囃子さんの一日を面白おかしく描き、途中カツラを被った桂雀三郎さんが特別出演したりと場内は大爆笑。いや~、あやめさん、やっぱり映像センスあるわ。彦八まつりのために製作された映画「あなたのためならどこまでも」も傑作だったし。

そして最後は「しころ打ち」で〆。内容がてんこ盛りで満足度の高い会だった。

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2011年4月22日 (金)

高田泰治 モーツァルト/ピアノ協奏曲大全 Vol.3

大阪倶楽部へ。

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フォルテピアノでモーツァルトのピアノ協奏曲を全曲、作曲順に演奏していくプロジェクト。本邦初の試みで、今回が3回目(第1回目の感想はこちら)。

  • アダージョ ロ短調 Kv540(独奏)
  • ピアノ協奏曲 第13番 Kv415
  • ピアノ協奏曲 第14番 Kv449
  • ピアノ協奏曲 第15番 Kv450

フォルテピアノ:高田泰治、そして延原武春/テレマン室内オーケストラ(クラシカル楽器)による演奏。使用されたフォルテピアノはモーツァルトが活躍した時代のA.ヴァルター(レプリカ)。

最初のアダージョは東日本大震災の犠牲者を追悼するための特別プログラム。哀しみを湛え、静かに呟くように語りかけてくる。最後の数小節で長調に転調し、希望の光が差し込む。

コンチェルトの13番は軽やかで気品がある。

13-14番の管楽器はオーボエ、ファゴット、ホルンだけだが、15番になるとそれにフルート(3楽章のみ)が加わり、次第に管の表現力が増し音楽が色彩豊かになってゆく。

15番はまことに美しい。Bellissimo !フォルテピアノ特有の、控えめで鄙びた響きの魅力が炸裂。

次回は9月30日(金)19時開演が予定されている。

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2011年4月20日 (水)

午前十時の映画祭/「追憶」とアーサー・ローレンツ

バーブラ・ストライザンド、ロバート・レッドフォード主演、シドニー・ポラック監督の映画「追憶」 ("The Way We Were" ,1973)を初めて観たのは多分、僕が大学生か社会人になったばかりの頃だろう。バーブラが歌いアカデミー歌曲賞・作曲賞を受賞したマーヴィン・ハムリッシュ(「コーラスライン」)の音楽(試聴はこちら!)は印象に残ったが、はっきり言ってかったるい恋愛映画で、全然面白いと想わなかった。

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それから歳月が流れた。僕がもう一度この作品に興味を抱いたのはアメリカの連続テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」が切っ掛けである。あるエピソードで4人がレストランで会食中に「追憶」のラストシーンが話題となり、キャリーとシャーロット、ミランダが「あの映画、私大好き!」と盛り上がる。観ていないと言ったサマンサはミランダから「あなたエイリアンじゃないの?」とバカにされ、目の前で主題歌を歌いだした3人に呆れ返るというもの。

それほどまでにアメリカの女性たちはこの映画のことを愛し、今でも語り草になっているのかと強い印象を受けた。

さらにこの度「午前十時の映画祭」でも”何度見てもすごい50本”に選ばれたので、久しぶりに観直してみようかという気になった次第である。

そして今回は感想が全く、180度と言っていい位、変化したので驚いた。やはり映画には観る「適齢期」というのがあるのだろう。フェデリコ・フェリーニ監督の「甘い生活」や「8 1/2」だって、高校生の時は上映中退屈で、苦行でしかなかったけれど、今ならすこぶるエキサイティングで、その真の価値が手に取るように分かる。

以前「追憶」を観た時は、この作品で話題となる「ハリウッドに魂を売った作家」スコット・フィッツジェラルドのことや、スペイン内戦(ヘミングウェイが参戦)、赤狩り(マッカーシズム)、ハリウッド・テンなどについてよく理解していなかった。でも今なら多少の知識はある。ニューヨーク(東海岸)とハリウッド=ロサンゼルス(西海岸)がどれくらい離れているかも実感できる。それだけ僕も人生経験を積んで来たということなのだろう。

バーブラ・ストライザンド演じる”ケイティ”とロバート・レッドフォード演じる”ハベル”は大学の同級生だが、ふたりの社会階級が全く違うという設定があることも今回初めて気が付いた。”ハベル”は裕福な家庭に育ったおぼっちゃまで、”ケイティ”は貧しいユダヤ人の家庭に育った娘(恐らく出身はブルックリンかブロンクスあたり)。映画「ソーシャル・ネットワーク」で喩えれば”ハベル”は大学の社交クラブに入る資格を有しているが、”ケイティ”なら審査で落とされるといったところだろう。アメリカが格差社会であるという事実も最近になって知ったことだ。

”ケイティ”の育ちの悪さを示すために、彼女のワイングラスの持ち方はぞんざいで品がなく、ビールやワインは「音を立てて飲む」。そういう風にちゃんと繊細な演出が施されているのだ。

それにしてもこの作品は「まるで(古い)少女漫画みたいだな」と感じた。例えば設定が「キャンディ・キャンディ」そっくりなのである。ドジで生き方が不器用で、決して美人とは言えないヒロイン(ケイティ)がある日突然、丘の上の王子様(ハベル)とめぐり逢う。そして王子様は「おチビちゃん、笑った顔の方がかわいいよ」と声を掛けてくれ、何故だか(理由は全く不明だが)ヒロインに好意を寄せる。

イケメンの王子様初登場は真っ白な軍服で座ったまま眠っている。それから様々の格好いい軍服やスポーツ・ウェアに着替えて、そのノリはまるでファッション・ショーか宝塚歌劇の如し。夜、彼が野外で花に囲まれて(背景に花を散らして)ひとりビールを飲む姿は完璧に少女漫画の世界だった。

そこで僕は考えた。「こんな風に女性観客の心を捉えて離さない物語を書いているのだから、この作者は女性に違いない」と。ところが調べてみると、オリジナル脚本を執筆したのがアーサー・ローレンツだったのだから驚いた。ミュージカル「ウエストサイド物語」や「ジプシー」の台本を書いた人である。「論理的にあり得ない。『追憶』の世界を男が描ける筈はない・・・」そこから導き出される結論は一つしかない。つまり、アーサー・ローレンツはゲイなのではないか?という仮説である。

僕はさらに調査を進めた。すると出てきた!ローレンツは1984年にゲイのカップルが主人公のミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」の演出でトニー賞を受賞していたのである。

さらにWikipediaによると、ローレンツは2000年に回想録を出版しており、その中で沢山のゲイの恋人たちの名を挙げ、とりわけ役者のトム・ハッチャーとは(ハッチャーの死まで)52年間、共に暮らしたと書かれている。

ならばローレンツがバイセクシャルのレナード・バーンスタインと「ウエストサイド物語」で共同作業を行った理由が納得出来るし、「追憶」でのバーブラ起用も頷ける(映画「イン&アウト」によると、ゲイはマイケル・ジャクソンやバーブラが好みだそうだ)。

こうして「追憶」との久々の邂逅は、作品に秘められた沢山の新事実を僕に教えてくれる豊穣な体験となった。

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2011年4月19日 (火)

福笑と異常な仲間たち vol.4 ~アブノーマル人物伝~

4月7日(木)繁昌亭へ。

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  • 笑福亭たま/プロレス(たま 作)
  • 笑福亭福笑/スパイス王国の反乱(福笑 作)
  • 橘 右佐喜/寄席文字
  • 笑福亭福笑/千早ふる

徹夜で新作の原稿を完成させたという福笑さんのエピソードを紹介し、「師匠は不死身だなと思います」とたまさん。

プロレス」のマクラで、プロレスラーは「相手の攻撃を全て受け入れる」という意味においてイエス・キリストみたいだと。上手い比喩。この新作を聴くのは2回目。サゲに意外性がないのが欠点だが、ギャグがいっぱい増えていてさらに面白くなっていた。

福笑さんの「スパイス王国の反乱」は日本にやってきたジンジャー王子が悪役ガーリックと戦い、サフラン姫を救出するというもの。正直、今ひとつかな。

江戸時代から続く寄席文字の世界で、女性は右佐喜さんが初とか。「そういう意味で私も”異常”なのかも」と本人の弁。実演を見るのは初めてで、大変興味深かった。

福笑版「千早ふる」は大胆なアレンジがさすがだった。本筋を押さえながらも、ここまで逸脱できるのかとびっくり。やっぱり”落語はJAZZ”だなと納得。

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2011年4月18日 (月)

寺神戸 亮 & 曽根麻矢子/デュオ・リサイタル

兵庫県立芸術文化センター・小ホールへ。

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かつてラ・プティット・バンドやバッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートマスターを務めたこともあるバロック・ヴァイオリンの名手・寺神戸 亮さんとチェンバロ奏者・曽根麻矢子さんとのコンサート。

寺神戸さんの演奏は、以前別の楽器で聴いた。

今回のプログラムは以下の通り。

  • デュフリ/序曲 ラ・ドゥ・メ ラ・マダン
       『ヴァイオリン助奏付きクラヴサン曲集』より
     ラ・フォルクレ メデー ラ・ドゥ・ヴォカンソン(チェンバロ独奏)
       『クラヴサン曲集』より
  • フランクール/ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 第6番
  • ルクレール/ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ 「トンボー」
  • テレマン/無伴奏ヴァイオリンのための幻想曲 第12番
  • J.S.バッハ/ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ 第3番

デュフリは軽やかで優雅。ベルサイユ宮廷の「穏やかな日常」を感じさせるもの。

チェンバロのソロは落ち着いた演奏だが、「切れ」が感じられない。僕は中野振一郎 先生の方が好きだな。

フランクールは毅然として誇り高い音楽。

バッハも勿論素晴らしいが、今回一番気に入った曲はルクレール。深い哀しみに満ち、秋の寂しさ、憂愁が感じられる。

秋の日の
ヴィオロンの
ためいきの
ひたぶるに
身にしみて
うら悲し。

というポール・ヴェルレーヌの詩を想い出した(ルクレールもヴェルレーヌもフランス人)。味わい深い逸品。

バッハは、これぞ調和(Harmonie)。整然とした「均衡の美」がそこにあった。

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寺神戸さんのバロック・ヴァイオリンは、少なくとも僕はサイモン・スタンデイジより好きだなぁ。日本人弦楽奏者の実力は世界トップレベルであることを再確認した午後のひとときであった。

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2011年4月16日 (土)

The Age of Eiji 「不安の時代」から始動!〜大植英次/大フィル定期

ザ・シンフォニーホールへ。

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会(二日目)を聴く。

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昨シーズンこのコンビはふたつの「第9シンフォニー」で有終の美を飾ったが、今シーズンはふたつの「第2シンフォニー」で幕開け。

  • バーンスタイン/交響曲 第2番「不安の時代」
  • シベリウス/交響曲 第2番

まず最初に大植さんがマイクを持って登場。東関東大震災の被災者を想い、賛美歌 320番「主よ、みもとに近づかん」(Nearer My God To Thee)が演奏された。これは99年前(1912年)にタイタニック号が沈没する際、最後まで船上で音楽家が弾き続けた曲(試聴はこちら!)。指揮なしで弦楽器のみ。コンサートマスター・長原幸太さんのソロで始まり、続いて2nd.Vn.主席の田中美奈さんが加わり、弦楽合奏へ。「(戦争や)災害があったとき、人々の心を助ける目的でバッハやラヴェル(←恐らく「クープランの墓」のこと)が作曲したという前例はありますが、音楽家が演奏したという記録はこれくらいしかないんです」と大植さん。

実は僕も先月の大フィル定期を聴きながらタイタニック号のことを連想し、奇しくもレビューでそのことに言及している。

正にシンクロニシティ。

ジャズ・ピアニスト小曽根真さんをソリストに迎えたバーンスタインは「夜のシンフォニー」。ニューヨーカーらしく都会的で雄弁。小曽根さんはスウィングしてノリノリ、大植さんのタクトは複雑なリズム処理が見事であった。第2部「挽歌」は厚みのある弦の響き、凄まじい管の咆哮が強烈。「仮面劇(マスク)」はJAZZ。大植さんが指揮台で軽快にステップを踏む。シンコペーションが小気味よく、ここで前に出てきた(コントラバス主席)新 真ニさんのピッツィカートが弾ける!「エピローグ」は朝の爽やかさ。そこには気だるい虚無感も漂う。しかし音楽は最終的に(「ウエストサイド物語」のように)浄化され、力強く「再生の願い」を込めて締めくくられる。大植さんも小曽根さんも満面の笑み。会心の出来だった。

このシンフォニーが発表されたのが1949年。赤狩り(マッカーシズム)がアメリカで吹き荒れ始めたのが48年、東西冷戦が深刻となりベルリン封鎖が行われたのも同年である。そうした空気が"The Age of Anxiety"の背景に流れており、それは福島原発事故に伴う放射能の恐怖に晒された今の日本とシンクロニシティがある。

大植さんはバーンスタインから直接「Eiji、この曲をお前にやる」と言われたそうだ。しかしクラシックの技法からジャズまで幅広くこなせるピアニストが中々見つからず、レニーの死後21年間、一度も演奏する機会がなかったという。まさに満を持しての内容だったというわけ。だからこそシーズン最初の曲がこれだったのだろう。

なお、通常暗譜で指揮する大植さんだが珍しく譜面台が置かれており、レニーのスコアが表紙を上にして置かれていた。しかし演奏中、それは一度も開かれることはなかった。最後に大植さんが楽譜を高く掲げて盛大な拍手を贈る聴衆にアピール。それにキスするパフォーマンスも。まこと愛すべき人だ。

小曽根さんのアンコールは「ウエストサイド・ストーリー」から"Tonight"。ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」風に優しく始まり、最後は"Cool"のメロディも加わってマイルス・デイビスの"So What"仕立てに。粋で素敵だった。なお、定期一日目のアンコールはやはり「ウエストサイド・ストーリー」の"Somewhere"だったそうだ。

プログラム後半のシベリウスは大きくうねり、振幅のある演奏。音楽の表情、テンポがクルクル目まぐるしく変化する。大植さんのチャイコフスキーの解釈に近い印象を受けた。故にシベリウスがチャイコフスキーから、いかに多大な影響を受けていたかを今回如実に感じることが出来た。大フィルの濃い陰影ある弦の響きが素晴らしく、フィンランドの深い森が幻視された。第2楽章には仄暗い情念がめらめらと熾火のようにくすぶる。第3楽章には木枯らしが吹き抜ける疾走感があり、レント・エ・スアーヴェ(ゆっくり、しなやかに)と指定されたトリオでは自然を謳歌するのびやかさがあった。そしてスケールの大きな第4楽章へと怒涛の如くなだれ込む。そこには氷河を押し分けて進む船の力強さ、頼もしい推進力があり、大植さんはさらに一層激しくテンポを動かした。有無を言わせぬ圧巻の名演!

The Age of Eiji はこうして輝かしく船出した。さぁこれから一年、どのような驚きがさらに僕たちを待ち受けているのだろうか?大植/大フィルの動向から片時も目が離せない。

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2011年4月15日 (金)

吉野にサクラサク

奈良・吉野山へ。

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大阪に住むようになって6年目の春。6回目の吉野である。

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以前に書いたエッセイ。

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新たな言葉を紡ぐ必要はないだろう。圧倒的な美。ゆるりと見て下さい。

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願わくば
花の下にて
春死なむ
その如月(きさらぎ)の
望月のころ

西行法師の詠んだ和歌である。

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河村尚子 ピアノ・リサイタル~フランツ・リスト生誕200年に寄せて

4月14日(木)ザ・フェニックスホールへ。

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神戸市出身のピアニスト・河村尚子を聴く。昨年聴いた彼女のシューマンには、本当に素晴らしかった。

今回のプログラムは、

  • シューマン=リスト/献呈
  • ワーグナー=リスト/イゾルデの愛の死
  • シューベルト=リスト/糸を紡ぐグレートヒェン
  • シューベルト=リスト/「美しい水車小屋の娘」から”水車屋と小川”
  • リスト/愛の夢 第3番
  • リスト/「巡礼の年 第2年 イタリア」から”ダンテを読んで”
  • ショパン/3つのマズルカ(第36-38番) 作品59
  • ショパン/ソナタ 第3番 作品58

彼女らしく、全身黒のシンプルなドレスで登場。

生誕200年を迎えたリストからまず歌曲のトランスクリプション(異なる楽器での演奏用に編曲すること)。初めて知ったのだが「愛の夢」も元々は歌曲だったとか!

シューマンは決してロマンティックな方向に走らず、きちっと楷書的な演奏(原曲は作曲家30歳の年、クララとの結婚式前日に捧げられたもの)。

糸を紡ぐグレートヒェン」は強靭なタッチ。

愛の夢」も奏者の感情ではなく、ピアノ自体に語らせる。一音一音クリアな響きで、そして正確に。

巡礼の年 イタリア」は切れがあってパワフル。あたかも鬼神の如し。

休憩を挟み後半のショパンは一切の感傷、不要なテンポ・ルバートを排した解釈。だからマズルカはこの作曲家特有の「甘さ」よりも、ポーランド民族舞曲としての特徴が浮き彫りにされた。

そして強烈なソナタ。第3楽章ラルゴは傷ついた人の心を慰め、癒す音楽の力を感じさせ、続く第4楽章では狂おしい左手、疾走する右手にただただ圧倒され、唖然とした。

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河村尚子は間違いなく現代の日本を代表するピアニストであり、今を時めく彼女を聴き逃すのは余りにも勿体ない、とここに断言しておく。

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2011年4月13日 (水)

円山公園の桜と広上淳一/京都市交響楽団「日本の映画音楽」

4月10日(日)京都へ。

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円山公園の桜はもう満開だった。

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有名な枝垂桜。

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20年くらい前の記憶と比較すると、ずいぶん枝振りが短くなった印象。

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お昼は京茶漬けで有名な丸太町 十二段屋へ。

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営業開始10分前の11時20分に到着すると、既に20数人並んでいた。食事にありつけたのはそれからなんと1時間半後!でも味には満足。京野菜やご飯が美味しかった。

続いて京都コンサートホールへ。

広上淳一/京都市交響楽団の演奏で、

  • 宮川 泰/交響組曲「宇宙戦艦ヤマト」~出発
  • 久石 譲(松園洋二 編)/「おくりびと」~memory
  • 千住 明/「砂の器」(TBS日曜劇場)~ピアノ協奏曲「宿命」
  • 早坂文雄(松本敏晃 編)/交響組曲「七人の侍」~怯える村・練達の士
  • 芥川也寸志(甲田潤 編)/映画音楽組曲「八つ墓村」
    ~青い鬼火の淵(道行のテーマ)
  • 武満 徹/「3つの映画音楽」~訓練と休憩の音楽(「ホゼー・トレス」)
    ・ワルツ(「他人の顔」)
  • 伊福部昭/SF交響ファンタジー第1番
  • 千住 明/NHK大河ドラマ「風林火山」(アンコール)

広上さんは開口一番、「大震災に続く原発事故・計画停電の影響で東京の演奏会はもうボロボロです」「東京に住むわたし達もへこんでいます。こういう時こそ関西の方々は普段どおり元気に生活して頂き、その活力を関東に送って欲しい」と。

なおこの公演の入場収入は全額、日本赤十字社を通じて被災者への寄付金に当てられると発表された。ナビゲーターを務める千住 明さんは「収益の一部ではありません」と強調。

宇宙戦艦ヤマト」は歯切れ良く勇ましい。

おくりびと」はチェリスト5人とピアノによる演奏(指揮者なし)。ソロは副首席奏者の中西雅音さん。雄弁なチェロの響きがホールに鳴り渡る。

千住さんの「宿命」は映画版(作曲・菅野光亮、音楽監督・芥川也寸志)にかなり近いイメージ。甘美でロマンティックな曲だった。事前に5つのテーマを書いてプロデューサーがそのうちの一つを選んだ。メロディは異なるがアフタクトの後、8つの8分音符が続くのは映画版に敬意を表したものだそう。演奏時間25分。「魂入れました」と千住さん。ピアノ独奏の高橋多佳子さんが暗譜で弾いたのには驚かされた。

大好きな早坂文雄の管弦楽曲を生で聴くのは初体験。嬉しかった。「七人の侍」冒頭では打楽器やコントラファゴットが活躍。土俗的雰囲気を醸し出す。サックスも取り入れられモダンでありながら、同時に民俗音楽のイディオム(語法)が魅力を放つ。

八つ墓村道行のテーマは切なくなるような優雅なワルツ。これが本当に聴きたかった!芥川らしいセンティメンタリズム、すごくいいねぇ。

武満の楽曲は死の前年、1995年に発表された。デビュー作「弦楽のためのレクイエム」同様、弦楽器のみ。それは原点回帰であり武満の本音だろう、と千住さん。「ホゼー・トレス」はJAZZのノリで軽快なフットワーク。的確なジャブが繰り広げられる。「他人の顔」はシャープで洗練されたワルツに魅了された。

「ゴジラ」のテーマも登場するSF交響ファンタジーはパンチが効いた熱い演奏。

アンコールの「風林火山」はパワフル。広上/京響の実力が遺憾なく発揮された、充実した2時間であった。

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2011年4月11日 (月)

林家染丸/上方寄席囃子の世界

繁昌亭へ。林家染丸(著)「上方落語 寄席囃子の世界」(CD4枚+譜面付き)出版を記念した落語会。

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  • 寄席囃子春夏秋冬
  • 姉様キングス(あやめ・染雀)/音曲漫才
  • 染丸・あやめ・染雀/お囃子夜話
  • お囃子連中名取お披露目
      (仲入り)
  • 林家染左/芝居噺「七段目」
  • 林家染丸/芝居噺「本能寺」
  • 林家染雀/踊り(後ろ面)「堺住吉」
  • 林家染丸/踊り「五段返し」
  • 染雀・染左・愛染/ご祝儀「松尽し」
  • 一同/バレ太鼓

入場を開始した時点で舞台上に鳴り物が置いてあり、やおら愛染くん(2009年6月入門)が一番太鼓を打つ。

しばらくして愛染くんが締め太鼓、染丸さんが大太鼓、染左さんが笛で二番太鼓を演奏。

次にお囃子さんが登場し舞台で三味線を(組み)立て、出囃子「あばれ」。

寄席囃子春夏秋冬」は三味線に加え、当り鉦(チャンチキ)、大太鼓、締め太鼓、鼓、木魚、鈴などを用いて、一月「正月娘」、二月「梅は咲いたか」、三月「春は嬉しや」、四月「藤娘」、五月「」、六月「いざや」、七月「獅子舞」、八月「盆踊り」、九月「たぬき」、十月「鞍馬」、十一月「祭り」、十二月「十二月(じゅうにつき)」が連続で演奏された。

染丸さんが「次に究極の色物を御覧頂きます。うちの一門からこういうのが出たんです」と林家染雀さんを紹介。バラライカを持った桂あやめさんと「姉様キングス」。欣来節(きんらいぶし)、都々逸(どどいつ)、松竹梅(米朝バージョン、海老蔵夫妻バージョン)、小芝居「金色夜叉」といった出し物を賑やかに愉しく。

続く対談で「姉様キングス」は結成11年で初舞台は彦八まつりのステージだったと。また染丸さんは自ら作成した「お囃子さん相関図(系図)」を指し示しながら解説。元祖は二代目・林家染丸&とみ夫妻だそう。さらに、あやめさんは姉(林家和女)と高校時代に神戸市で開催された落語会で下座の勝正子さんがジーパン姿で三味線を弾いているのを目撃。帰りの電車でたまたまその勝さんと一緒になり、話しかけるとスカウトされて、そのままお姉さんが入門したというエピソードを披露。

正本(しょうほん)芝居噺「本能寺」のマクラで染丸さんは上方四天王の形態模写を。各々の出囃子、文枝(=はんなりした芸で、”喜六”が絶品だったと)「廓丹前」、松鶴(=豪快)「舟行き」、米朝(=端正)「三下り羯鼓」、そして春団治(=華麗)「野崎」と共に。「米朝師匠の登場の仕方は、頭を下げたか下げんか分からんのが特徴です」といった解説付き。

さらにいろいろ踊りがあって、どんどん松の数が増えていくおめでたい「松尽し」も披露された。

そしてバレ太鼓(全ての出し物が終わりお客を見送る際に、「デテケ デテケ テンデンバラバラ」とリズムをつけて大太鼓を叩くこと)で〆。

あれやこれやとてんこ盛り!染丸さんの旺盛なサービス精神に感服した。

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2011年4月 8日 (金)

三谷幸喜(作)「国民の映画」

大阪城公園の桜は満開。

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公園を散策し、森ノ宮ピロティホールへ。三谷幸喜 作・演出「国民の映画」を観劇。

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ナチス・ドイツの宣伝大臣ゲッペルス(小日向文世)邸のパーティに集う人々の一夜を描く。親衛隊長官ヒムラー(段田安則)やゲーリング元帥(白井 晃)、「エミールと探偵たち」「飛ぶ教室」「ふたりのロッテ」で知られる作家エーリヒ・ケストナー(今井朋彦)、記録映画「意志の勝利」「民族の祭典」の監督として知られ、女優でもあるレニ・リーフェンシュタール(新妻聖子)、サイレント映画時代、第1回アカデミー主演男優賞を受賞するも、ひどいドイツ訛りのためトーキー時代となりドイツに帰国したエミール・ヤニングス(風間杜夫)等が登場。様々な人間模様が面白い。上演時間3時間。三谷さんらしく一切の場面転換はなく、ワン・シチュエーションで物語は進行する。

物語はゲッペルスが自宅で執事フリッツ(小林 隆)に映写機を操作させチャップリンの「黄金狂時代」を観ている場面から始まり、ベルリン生まれでハリウッドに渡ったエルンスト・ルビッチ監督の「君とひととき」をふたりが観ている場面で終わる(映像は登場しない)。会話の中でチャップリンの「独裁者」(1940)やルビッチの「生きるべきか死ぬべきか」(1942)などナチズムを題材にした映画についても言及される。なおチャップリンとヒトラーの生年月日は4日しか違わず、「ヒトラーは実際に『独裁者』を観た」という元秘書による証言が残っている。チャップリンはそれを聞いて、「なんとしても感想を聞きたいね」と答えたという。

三谷さんは今回の作劇で「生きるべきか死ぬべきか」を相当意識したのだろう(かつて立川談志さんとの対談で、三谷さんはルビッチ作品への思い入れを吐露している)。また執事が映画通というのは明らかにビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」へのオマージュである(ワイルダーはベルリンで新聞記者をした経歴があり、ユダヤ系だったので後にアメリカに亡命)。ちなみに「サンセット大通り」で執事を演じたのはオーストリア生まれの偉大な監督エリッヒ・フォン・シュトロンハイムであり、彼もユダヤ人であった

三谷さんが嘗て渡米しビリー・ワイルダーの仕事場を訪ねた時、"How would Lubitsch have done it?"(ルビッチならどうする?)という額が飾ってあり、帰国した三谷さんはそれに倣って「ワイルダーならどうする?」という額を自宅の壁に掛けたそうだ。

ゲッペルス夫人を演じた石田ゆり子が浮世離れして、ほんわかした雰囲気を醸し出し、秀逸。嘗ての三谷作品のヒロインでは酒井美紀とか堀内敬子に似た役回り。

ツァラ・レアンダー役のシルビア・グラブを中心に、ミュージカル界で活躍する新妻聖子と、「オケピ!」以来の三谷作品出演となる白井 晃ら三人が歌う場面が特に良かった。白井さんの歌を聴くのは本当に久しぶりだなぁ(ミュージカル「オケピ!」初演・再演で白井さんが演じた役は異なる)。

音楽および舞台上でのピアノ演奏も担当する荻野清子は今回、いい仕事をした。映画「ザ・マジックアワー」における彼女の音楽はどうしても好きになれなかったのだが。

戦争中、全体主義を爆走する国家において、芸術家がどのように「表現の自由」を守ろうとしたか?という本作のテーマは読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した三谷さんの「笑の大学」に共通するものがある。しかし、「笑の大学」は弾圧する検閲官と劇作家の間に次第に友情のようなものが芽生え、最終的にはある種の共犯関係を築くという意外な展開が待ち構えているのだが、その驚きが「国民の映画」には欠けている。三谷さんが最近好んで描いてきた《チームの崩壊》という結末は、単なる予定調和でしかない。コメディとしてもその場限りの《姑息な笑い》に終始している印象を受けた。

ゲッペルスは映画を愛しており、ヒムラーは虫が好き。それぞれが人間らしい側面を見せる。しかしそんなことは当たり前であって、21世紀の作家たちが取り組むべき課題は、そういった「普通の人々」が何故ユダヤ人のホロコーストという「狂気」に駆り立てられたのか、その心理的メカニズムを解明することにあるのではないだろうか?僕はそう考える。

だから三谷さんの「12人の優しい日本人」「彦馬がゆく」「笑の大学」「コンフィダント・絆」などをA級作品とするならば、「国民の映画」の出来はBクラスと言わざるを得ない。題材が消化不良、練りが中途半端なんだな。

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国民の映画」はどうしても「笑の大学」の二番煎じという印象を拭い去れないが、今回ナチス・ドイツをテーマにしたのは、海外で上演しやすい(オファーが来る)戯曲を書くという狙い(色気)があったのでは?と邪推する。ちなみに日本を舞台にした「笑の大学」は"The Last Laugh"というタイトルで、ロンドン・ウエストエンドでも上演された。

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2011年4月 6日 (水)

林家正雀、桂九雀/江戸っ子だってねぇ!Vol.4

繁昌亭へ。

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  • 正雀、九雀、由瓶/ご挨拶
  • 桂 福丸/金明竹
  • 笑福亭由瓶/千早ふる
  • 林家正雀/水神
  • 桂 九雀/らくだ

ご挨拶でお江戸からのゲスト・正雀さんは時々来阪し、桂文我さんが主任を務める「猫間川寄席」に出演させてもらっていると。「そうですか!あいつ(文我)は弟弟子ですが、僕は一度も呼んでもらったことがない」と九雀さん。また正雀さんは、計画停電のため東京のエスカレーターは止まっているが、大阪は乗り放題という話も。

福丸くんは一度も詰まることなく、パーフェクトな口演。瞬きの頻度を変えることによる演じ分け、緩急の変化もお見事!「憎たらしい」くらい上手い。2007年入門だが、一部に「初々しさがない」とぼやく落語ファンがいるのも分からなくはない。

由瓶さんは抑揚が乏しく、一本調子なのが気になる。愛すべきキャラクターなのだが、古典は向いてないみたい。「侍ジャイアンツ2010」とか「足袋と帯」など彼の個性を生かせる新作の方がいいな。

水神」は「君の名は」で一世を風靡した劇作家・菊田一夫が六代目・三遊亭円生のために書き下ろした新作落語(擬古典)。1963年11月15日に初演されている。笑えるところが少なく、はっきり言って詰まらない。出来の悪い「日本昔ばなし」といった風情。このネタを演じる噺家が現在は殆どいないというのも頷ける。滅んでも一向に構わない。初体験の正雀さんだったが、ネタのせいかその魅力が分からなかった。

九雀さんは「らくだ」のマクラで昔から自分のあだ名はいつも”ねずみ男”だったと。多分この噺は演じ慣れておられないのだろう、前半は珍しく噛むことが多かった。しかし全体としてはトントンと軽やか。死人に「かんかんのう」=看々踊(かんかんおどり)を踊らせる場面でハメモノ(お囃子)が入ったのにはびっくりした。帰宅し米朝さんと笑福亭松鶴演じる「らくだ」の映像を確認したが、やはりなかった。初めて「かんかんのう」がどんな曲か分かった。賑やかでいい。九雀さん独自の工夫に感謝。サゲもオジリナルで「人間の屑、担いでまんねん」。

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2011年4月 5日 (火)

文太の会@高津の富亭(4/3)

落語「高津の富」や「崇徳院」の舞台となった高津神社へ。

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既に桜は満開だった。

  • 桂 文太/代脈
  • 桂 文太/立ち切れ線香
  • 露の 雅/運廻し
  • 桂 文太/高倉狐(贋作)

名人・文太師ではあるが、「立ち切れ」はどうもニンに合っていない気がした。やはり飄々とした滑稽噺がいい。

高倉狐」は江戸で「王子の狐」と呼ばれている。初代・三遊亭圓右が上方噺を東京に移殖したもの。 上方では殆ど滅んでしまっていて、文太さんがさらに逆輸入したらしい。だから「贋作」。これはすごく良かった。今回のベスト。

高津神社の中、本殿のすぐ右側に高倉稲荷がまつられている。

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噺の舞台となった場所で聴く落語というのは、また格別の味わいがある。

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山本能楽堂/桜景色三色(能・文楽・落語)

山本能楽堂へ。

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を主題に能・文楽・落語を一気に味わおうという贅沢な企画。それらを旭堂南海さん(ナビゲーター)による講談で繋いでゆく。

  • 能「吉野天人」
  • 文楽「義経千本桜より道行初音の旅」
  • 落語「百年目」(桂 宗助)

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とても音響のよい能楽堂で、間近に観る日本の古典芸能はまた別格の味わい。

能や文楽は長時間だと退屈してしまうが、”いいとこ取り”で短く、その魅力・美がより鮮明になった。またテキストに原文が添えられているので内容が理解し易かった。何を喋っているのか分からないというのが鑑賞する上での大きな障害となっているので。

僕は狂言よりも能の方に惹かれるものがある。おそらく能には笛や太鼓が伴っているからだろう。空間(能舞台)と時間(音曲)。能は映画やオペラ、ミュージカルと同様、総合芸術である。

また「義経千本桜」を観て、落語「初音の鼓」がこれに由来することを今回初めて知った。

宗助さんは米朝師匠の芸風に最も近い噺家と言われている。物真似はそっくりだし、端正なところも共通している。ただ宗助さんは師匠よりも、もっと軽やかな印象だ。丁稚の可愛らしさも特筆すべき。「百年目」では桜ノ宮の花吹雪の情景が目の前に一斉に広がった。

今年もまた、吉野の桜を見に往きたくなった。

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2011年4月 2日 (土)

文我・宗助 二人会 (3/26)

梅田・太融寺へ。

Bunsou

  • 露の団姫/道灌
  • 桂 宗助/親子酒
  • 桂 文我/猫定
  • 文我&宗助/ネタあれこれ
  • 桂 文我/初音の鼓
  • 桂 宗助/卯の日詣り

団姫さんは露の五郎兵衛・大師匠の川柳

まだ枯れず まだ老いず まだ未熟者

などを披露。

親子酒」のマクラで宗助さんは米朝師匠から朝の6時半に電話で、酒の相手を仰せつかった思い出話を。「今夕6時に(米朝宅へ)来てくれ」……「皆さん、どう思われます?芸者じゃないんですから!」と。なお、このネタは九雀さんから教わったそう。変わった稽古で、芝居のエチュードみたいに父親役、息子の嫁さん役など、どんどん互いに役代わりしながら会話を交わしていった。「そういえば、うちの師匠(枝雀)もそんな稽古してましたわ」と文我さん(九雀・文我は兄弟弟子)。

怪奇談「猫定」は東京の噺で、三遊亭圓生→林家正雀→文我というルートで伝授されたようだ。

「ネタあれこれ」では文我さんが宗助さんに向かって開口一番「あなたを見るといつも『出前一丁』を思い出す。『あーらよ』みたいな顔」とからかい、落語家の稽古風景の話題へ。文我さんが春團治師匠から「お玉牛」の稽古を受けた時、「僕が牛になろう。さわってごらん」と演じてくれたエピソードを披露すると、宗助さんは米朝師匠の物まねをしながらよく稽古中に「そんなこと言うたかいな」とぼやかれたと。師匠は”いらち”で、昔はイライラし出すと煙管をポンポン叩いたという。

初音の鼓」のマクラで文我さんは自分の目の前で、骨董屋が電話一本で”井戸の茶碗”を一千万円で購入し、直ちに二千万円で売り捌くのを目撃したという話を。

卯の日詣り(背虫茶屋)」は「かったい」=癩(らい)病、「せむし」、「乞食」など放送禁止用語のオン・パレード。宗助さんは入門して7年目にこれを演じ、それから10年後にもう一度演じ、今回が3回目だとか。米朝師匠からは「機会があればやってみてくれ」と言われたそう。サゲは「あんたも早よぉ、背中の笊(いかき)出しなはらんか」これも中々残酷。でも、とても珍しいものが聴けて良かった。

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ザ・ファイター

評価:C

Thefighter

映画公式サイトはこちら。実話に基づく物語。

僕がボクシングを題材にした名作で直ちに想い出すのは……

「ロッキー(第一作)」「レイジング・ブル(実話)」「どついたるねん(実話)」「シンデレラマン(実話)」「ミリオンダラー・ベイビー」 etc.

上記作品群と比較し、「ザ・ファイター」に傑出したところがあるか?と問われたら、答えは否。皆無である。単なるサクセス・ストーリー、よくある話に過ぎず、本作がアカデミー作品賞・監督賞にノミネートされたのは過大評価と断じざるを得ない。

しかしながら、役作りのため頬がこけ、目が落ち窪むまで痩せ、髪のを抜き、歯並びまで変えたクリスチャン・ベール(アカデミー助演男優賞受賞)は本当にすごい。落ち着きがなく、薬中そのもの。鬼気迫るとは正にこのこと。あの格好いい「バットマン」と同じ役者には到底見えない。

また「ワルキューレ」みたいに戦闘的な娘7人を率いる”肝っ玉母さん”を演じたメリッサ・レオ(アカデミー助演女優賞受賞) がド迫力で圧巻。ちょっと太ってセクシー・ボディを惜しみなく見せるエイミー・アダムス(アカデミー助演女優賞ノミネート)もいい。ちなみに彼女は今度、新「スーパーマン」のヒロイン”ロイス・レイン”役に起用されることが決まった。

結局この映画は優れた役者たちによる”演技合戦”を愉しむという点ではお勧め出来るだろう。

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お家(うち)をさがそう

評価:B

Away_we_go

「アメリカン・ビューティー」「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」のサム・メンデス監督最新作。映画公式サイトはこちら

ロード・ムービーである。ただ従来とちょっと毛色が違うのは旅をするのが夫婦で、妻が妊娠中という設定。ヴェローナを演じるマーヤ・ルドルフはユダヤ人の父親とアフリカ系アメリカ人の母親を持つ。一方、夫を演じるジョン・クラシンスキーはポーランド系の父とアイルランド系の母のもとに生まれた。そういう人種の違いも本作のスパイスとなっている。ふたりが訪ねるのが北米の様々なカップルで、その旅を通して自分たちを見つめなおすことになる。

劇中に次のような台詞が登場する。

Verona: Are we fuck-ups?
Burt: No. What do you mean?
Verona: I mean, we’re 34.
Burt: 33.
Verona: We don’t even have this basic stuff figured out.

ヴェローナ「私達って、負け犬?」
バート「えっ、それってどういう意味?」
ヴェローナ「だってわたし達、もう34歳だよ」
バート「33だ」
ヴェローナ「それなのにまだ、生活の基盤も築けてない」

こういった会話が、切実なリアリティがあっていいんだな。

傑作とは言えないけれど佳作。愛すべき小品である。

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2011年4月 1日 (金)

カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞/ブンミおじさんの森

評価:B

Uncle_boonmee

カンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞したタイ映画。その時の審査委員長はティム・バートン。彼が絶賛したということで観る気になった。公式サイトはこちら

人間と死者、そして森の精霊が共存する摩訶不思議な世界。宮崎駿監督の「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」にも通じるファンタジー空間。たゆたう、穏やかな時間。

「分かり易い」とか、「面白い」とは言えないけれど、「観る価値のある」映画であった。

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わたしを離さないで

評価:A

Neverletmego

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原作はカズオ・イシグロ(日本語表記:石黒一雄)。長崎県に生まれ、現在国籍はイギリスでロンドン在住。両親は日本人だが幼年期に渡英しており、日本語はほとんど話せないという。1989年にイギリス最高の文学賞、ブッカー賞を「日の名残り」で受賞。同映画も格調高く、優れた作品であった。

小説「わたしを離さないで」は2005年に発表され、ブッカー賞最終候補となった。映画版でもカズオ・イシグロは製作総指揮として名を連ねている。

僕は原作を日本で出版された年に読んでいるが、寂しい物語であった。そしてその印象が全く変わらず映画の中に反映されていた。期待を裏切らない完成度。本作には大きな秘密があるが、それを知った上で観ても少しも興ざめではなかった。

一場面、一場面がまるで絵のような美しさ。それが登場人物たちの哀しみを一層深いものにしている。ヘールシャムの風景がまさに英国の寄宿学校そのものの雰囲気で、どこか懐かしく、素敵だ。

それから映画「17歳の肖像」で英アカデミー主演女優賞を受賞し、米アカデミー賞にもノミネートされたキャリー・マリガンが文句なく素晴らしい。彼女の流す涙がとても綺麗だ。またキーラ・ナイトレイ、アンドリュー・ガーフィールドらも好演。

美しく静謐なレイチェル・ポートマンの音楽も印象深い。

心に残る名作。必見。

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トゥルー・グリット

評価:B+

Truegrit

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僕が今まで観たジョエル&イーサン・コーエン兄弟の映画を列挙してみよう。

「ミラーズ・クロッシング」「バートン・フィンク」(カンヌ国際映画祭パルム・ドール&監督賞)「未来は今」「ファーゴ」(カンヌ国際映画祭監督賞)「オー・ブラザー!」「ノーカントリー」(アカデミー作品賞&監督賞)の6作品。

この中で「面白い」と思ったのは一本もない。しかし今回の新作は観ていて何とも心地よく、とても良かった。西部の町並み、ならず者、酔いどれの保安官、殺された父親の敵討ち。昔懐かしい”西部劇”の匂い。

いつか見た映画、いつか見た夢

その記憶が再び、映画として蘇った。終盤に保安官が少女を馬に乗せて駆ける場面はジョン・フォード監督の名作「捜索者」(The Searchers)を彷彿とさせる。

"true grit"とは「真の勇者」のこと。映画を観て帰宅してから知ったのだが、これはジョン・ウエインがアカデミー主演男優賞を受賞した「勇気ある追跡」(1969)のリメイクだそうだ。原題も同じ。

ただし単なるノスタルジーに終わらないのがコーエン兄弟らしいところ。

復讐を誓う14歳の少女マティ・ロス役を、本作が映画初出演となる新星ヘイリー・スタインフェルドが演じた。彼女の強い意志を持った真っ直ぐな眼差し、目力が素晴らしい。ジェフ・ブリッジスやマット・デイモンら他の役者陣も好演。

アカデミー作品賞、主演男優賞(ジェフ・ブリッジス)、助演女優賞(ヘイリー・スタインフェルド)、監督賞、脚色賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、録音賞(Sound Mixing)、音響編集賞(Sound Editing)の10部門にノミネートされた(受賞なし)。

必見。

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