立川談春 独演会/子別れ(上・中・下)通し
堺市民会館(大阪)へ。立川談春さんの文字通り、ひとり舞台。The One And Only.満席。
「ラブ・サウンズコンサートシリーズ2010」のトリということで、「興奮しています。爆発しそうです。放水してもらおう」と。このシリーズに登場した加山雄三さんについては「立川談志と同い年なんですよ。信じられます?加山さんまだまだお元気ですよね。うちの師匠(談志)はもう駄目です」
東日本大震災について触れ、東京のある噺家がしみじみと「オレ達はこういう時に無力だね。何の手助けも出来ない」と言ったことに対して、「何を今更そんなこと言っているんだぃ。そもそも落語家てぇのは生産性を拒否した人間じゃねぇのか?」と。
「落語は弱い芸です。こういう非常事態には時間が必要。いま被災者の方々にはエンターテイメントも、『頑張れ』という励ましの言葉も要らない。むしろ人の話よりも、自分の話を聞いて欲しいのではないか?」「本当に辛い時は助けられない。見守るしかない」「我々がお役に立てるのはもっと先の話」理性的で重みのある言葉だ。
テレビにおける東電・保安員・菅首相の会見については「皆、日本語が不自由ですね」「スピーチが上手いのは枝野さんだけ。さすが元・弁護士。ブレスの使い方がいい。大したこと言ってなくても説得力がある」と話芸のプロらしい観察眼。
今回のネタは
- 粗忽の使者
- 子別れ(上・中・下)
「子別れ」上は「強飯の女郎買い」、下は「子は鎹」の名で呼ばれることがある。中は副題なし。上方に伝わった「子は鎹」は三遊亭圓朝が改作した別バージョン(「女の子別れ」)。中と下の間で仲入りがあった。
かつて談志師匠は「子別れ」の上と中しか演じなかったそうだ。下を高座に掛けるようになったのはいまから10年くらい前。40年かかっているから弟子は誰も手を出さなかった。しかしある時、家元と談春さんが差しで話をする機会があった。その時、「(オレの「子別れ」を)やってくれ」と言われた。そして談春さんも高座に掛け、絶賛された。
そんなある時、弟弟子の志らくさんから電話。嬉しそうな声で「兄さん、家元の『子別れ』をパクったんだって?家元が怒っていて『もうあいつは破門だ!』って言ってるよ」
「こんな酷い話ないと思いません?」と談春さん。「伝統芸ですよ。弟子が師匠を『パクった』となじられるなんて!米朝師匠なら絶対そんなこと言わない筈です」ここで場内爆笑。「これが立川流なんです」
結局その後、談志師匠から電話があり「談春、悪かった。オレ、思い出した。お前に『やってくれ』って言ったよな」こうして破門騒動は収束した。
談春さんの「子別れ」は”物語る力”を感じさせる傑出したもの。シリアスな場面と、”緊張の緩和”=笑いを誘う場面の配分、匙加減が絶妙。談春(談志)版の亀ちゃんは絵を描くのが大好きで、お父っつぁんから五十銭を貰った時、「これで青鉛筆を買う」と言う。画用紙一杯に空を描きたいと語るのだ。実はそれが、父親との想い出に繋がっていることが最後の最後になって判る仕掛け。色彩感があり、晴れ渡る空のように爽やかな高座であった。
午後2時開演で終演が4時45分。休憩時間を除いてもたっぷり2時間半。びっしり中身が詰まった、深い余韻が尾を引く口演だった。
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