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2011年2月10日 (木)

あの「幻の定期」から4年!〜遂に実現した大植英次のブラームス/交響曲 第4番

ザ・シンフォニーホールへ。

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大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、

  • ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための協奏曲
  • ブラームス/交響曲 第4番

ヴァイオリン:竹澤恭子、チェロ:ダーヴィド・ゲリンガス

大植さんのブラームス第4番は2007年6月の大フィル定期演奏会で披露される予定だったが、幻に終わった。当日僕もその現場に居合わせたが、新聞報道もされる大変な事件だった。

あれから4年。ようやく聴くことが叶った。それは演奏者たちにとっても同じ気持ちであったろう。

まずドッペル・コンチェルト(二重協奏曲)の感想から。第1楽章 第1主題からソリスト2人が雄弁な表現力で、強い意志に満ちた音楽が展開された。一転して第2主題はしなやか。この曲は2009年に神尾真由子さんで聴いているが、火の玉のように燃える若い神尾さんに対して、竹澤さんのヴァイオリンはしっとりした潤いがあり、大人の演奏だった。ゲリンガスさんのチェロも良く鳴り、素晴らしい!第2楽章は濃厚なエスプレッソの味わい。第3楽章は弾力に富み、丁々発止のやりとりがスリリング。

演奏が終わり、ブラボーが飛び交う。ゲリンガスさんが大植さんにフィナーレをもう一度やろうと耳打ちする。驚く大植さん。竹澤さんに目を向けると、「もちろん、いいですよ」と頷く。そして大植さんがオケに「第3楽章を!」と呼びかけ、慌てて閉じていた楽譜を開く楽員たち。こうして前代未聞のアンコールが実現した。それだけリハーサルの時から奏者たちが意気投合し、乗っていたということなのだろう。音楽の愉しさを実感した一時であった。

さていよいよ後半のシンフォニー。以前から僕が書いてきたように、大植さんが描くのは「新古典派」としてではなく、あくまで「ロマン派の作曲家」ブラームスの肖像である。

僕は今までこの交響曲第4番を諦念とメランコリーに満ちた音楽だと理解してきたが、大植さんの解釈はひと味違った。

第1楽章は流れるように始まり、決然としている。展開部では次第に熱を帯び、生命の輝きを感じさせる。第2楽章は慰め。第3楽章は躍動感に満ち、魂の鼓動が聞こえてくる。それは力強い地球讃歌だ。そして第4楽章パッサカリア(ブラームスは「シャコンヌ」という呼び方を好んだ)。深い弦の音が聴く者の魂を揺さぶる。音楽は厳しい表情で、次第に激しさを増す。そして終盤は指揮者と楽員の万感の思いが込められ、大いに盛り上がる。曲が終わると、大植さんは長距離を完走したマラソン選手のように息をハーハーしていた。まさにこれぞ一音入魂の演奏であった。

4年前と比べると(ダイエットで)すっかり痩せ、元気溌剌、パワー全開、むしろ若返った大植さんの姿がそこにはあった。その至福をホールに集った人々全てが噛みしめ、そして祝福した。

鳴りやまぬ拍手の中、日本に恐らく1つしかないというブラームスの自筆楽譜を持って再登場した大植さん。実は初演の後、旧友のヴァイオリニスト、J・ヨアヒムから「いきなり冒頭から第1主題が登場するよりも、序奏があった方がいい」と助言され、ブラームスが付け加えたという「幻の4小節」が余白に書かれているという。それをなんとアンコールの代わりとして実演してくれた。はっきり言って僕は蛇足(本当は「足」じゃなく「頭」だけれど)だとしか思えず、聴きながら笑ってしまったが、とても貴重な体験で有り難かった(ちなみに帰宅し調べてみると、この異稿は2001年に曽我大介/大阪シンフォニカー交響楽団が定期演奏会で取り上げているようである→こちら)。

さらに大植さん一人を残し楽員全員が舞台袖に引っ込んでから、ピアノが登場。ブラームスはどうして交響曲を4曲しか書かなかったのか?その謎の答えがシューマンとモーツァルトのシンフォニーに隠されていることを大植さんは詳しくレクチャーして下さった。まさに目から鱗のすこぶる面白いお話だったのだが、それはまた、別の話。……というか「このことはブログに書かないで!」と釘を刺されたので、仁義を守る。

そうそう大植さん、予定されながらやはり実現しなかった定期プログラム、マーラー/交響曲 第9番もいつかきっと演って下さいね!

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コメント

雅哉さん、こんばんは。

良い演奏会を、ご一緒出来てうれしい限りです。

こんな経験をさせてもらえるのも、大植英次ならでは、と思うと、あと残りの時間が本当に愛おしく思えてきます。

大阪の聴衆とともに、幸せな時間、大切にしたいものです。

投稿: ぐすたふ | 2011年2月10日 (木) 23時24分

ぐすたふさん、コメントありがとうございます。

残りの時間といっても2012年度以降、大植さんは「桂冠指揮者」になるわけですから、年に一回は大フィルを振ってくれるんじゃないでしょうか?丁度、現在のシャルル・デュトワとN響の関係みたいになるんじゃないかと僕は想像しています。

投稿: 雅哉 | 2011年2月11日 (金) 00時22分

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