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2011年2月

2011年2月28日 (月)

丸谷明夫×下野竜也/吹奏楽とオーケストラの邂逅、そして大フィル待望の「大阪俗謡による幻想曲」!

兵庫県立芸術文化センターへ。

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下野竜也/大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏、監修・司会が大阪府立淀川工科高等学校(淀工)吹奏楽部の丸谷明夫 先生(丸ちゃん)で、オーケストラと吹奏楽が出会う祭典。客席の約半数は中高生が占めた。

この企画は3回目。以前の様子は下記に書いた。

今回のゲストはジャズ・トロンボーン奏者の中川英二郎さん。

Shimono

曲目は、

  • フンパーディンク/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」より
    ”夕べの祈り” ”夢のパントマイム”
  • 大栗 裕/大阪俗謡による幻想曲
  • シャーマン兄弟(中川英二郎 編)/チム・チム・チェリー
  • モンティ(中川英二郎 編)/チャルダッシュ
  • 兼田 敏(中原達彦 編)/シンフォニック・バンドのためのパッサカリア(管弦楽版)
  • J.S.バッハ(ストコフスキー 編)/前奏曲 ロ短調
  • レスピーギ/バレエ組曲「シバの女王ベルキス」
  • ヴォーン・ウィリアムズ/イギリス民謡組曲(アンコール)

ヘンゼルとグレーテル」は大フィル自慢の弦を生かしたものに。柔らかく、厚みのある音色が魅力的。

大阪俗謡による幻想曲」の演奏史は下記記事で詳しく語った。

丸ちゃんは吹奏楽コンクールの自由曲として本作を演奏する際、演奏時間を12分から8分に短縮する許可を得るために作曲家を訪ねたエピソードを披露。「大栗先生の話はここでは言えない事ばかり」だそう。また下野さんは故・朝比奈隆に大栗はどういう人だったか訊いたところ、「あいつはちゃらんぽらんな男だった」と。

演奏は鋭く、バーバリズム(野性味)があり、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を彷彿とさせるものだった。各フレーズのイントネーションがくっきりし、終盤の加速がもの凄く、鬼神が下野さんに乗り移ったのではないかというくらいの入魂の指揮ぶり。2000年にNAXOSにレコーディングされた下野/大フィルの同曲は締まりのない凡演だったが、今回は見違えるようであった。

中川さんは6歳の時ベニー・グッドマンの「シング、シング、シング」を聴いてトロンボーンの魅力に目覚めたそうである。その頃は体が小さく、スライドを伸ばすと手が届かなかったとか。「チム・チム・チェリー」は静かに始まり、次第に盛り上がる。「チャルダッシュ」の前半はオリジナルに忠実でオーソドックスなアレンジだが、後半からJazzyでノリノリになり、雰囲気が一転。中川さんのプレイは音の大きさに圧倒される。アンコールは無伴奏で「アメイジング・グレイス」を。

兼田敏の「パッサカリア」は”吹奏楽の神様”こと屋比久勲 先生が十八番にしている曲。鹿児島情報高等学校に赴任された最初の年(2007年)にもコンクール自由曲でこれを取り上げている(九州大会・銀賞、翌年から全国大会へ)。

今回は管弦楽への編曲版で、弦が加わると古の響きがして印象がガラッと変わった。こういう企画も面白い。

ストコフスキー編曲のバッハは弦のみの演奏。静謐でビロードの肌触り。

プログラム最後はクラシック界では殆ど取り上げられず、吹奏楽で有名になった「ベルキス」。第1曲「ソロモンの夢」は幻夢的で真に美しい。主席チェロ奏者・近藤さんが弾くソロが雄弁だった。第3曲「戦いの踊り」は金管が重厚な響きを奏で、第4曲「狂宴の踊り」で音楽は猛り、熱狂は頂点に。

アンコールの「イギリス民謡組曲」は丸谷先生の指揮で。縦が引き締まった、気持ちのよい演奏であった。

また一年後の《スペシャルライブ》がとても愉しみである。

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英国王のスピーチ

評価:A+

King

米アカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞・オリジナル脚本賞を受賞。映画公式サイトはこちら

(ナチス・ドイツと対峙した)吃音の英国王ジョージ6世と、言語聴覚士ライオネル・ローグの友情の物語である。

ジョージ6世にとってラジオから国民に直接語りかけることこそ、彼にとっての「戦い」だったことが映画を観ているとよく分かる。脚本が素晴らしい(脚本家自身、幼い頃は吃音だったそうである)。感動的で、爽やかな「読後感」(←映画の場合、どう言うの?)が余韻として残る。

それにしても貧乏くじを引かされたジョージ6世は、本当に気の毒だなぁとつくづく同情する。しかし彼は運命に果敢に挑んでいった。その生き様に僕は勇気を貰った。

英国王を演じたコリン・ファースの演技はパーフェクト。文句なしのアカデミー賞受賞である。オーストラリア出身の名優ジェフリー・ラッシュ(相変わらず上手い)や、体重を増やして撮影に臨んだヘレナ・ボナム=カーターらがしっかり脇を固め、手堅いアンサンブルで愉しませてくれる。

トム・フーパー監督(1972年、ロンドン生まれ)はまだ若いが、その非凡な才能を存分に発揮した。人物の撮り方(カメラ・アングル)が独特、個性的だ。

アレクサンドル・デプラの音楽は地味ながら、ピアノを主体として密やかに、どんどん転調してゆく。真に美しい!好きだなぁ。

必見。

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2011年2月27日 (日)

第83回アカデミー賞大予想!

毎年恒例となった僕の予想を発表する。

作品賞:英国王のスピーチ
監督賞:デヴィッド・フィンチャー
    「
ソーシャル・ネットワーク
主演女優賞:ナタリー・ポートマン
   「
ブラック・スワン
主演男優賞:コリン・ファース
   「
英国王のスピーチ 
助演女優賞:メリッサ・レオ
   「ザ・ファイター」

助演男優賞:クリスチャン・ベール
   「ザ・ファイター
脚本賞(オリジナル):英国王のスピーチ
脚色賞(原作あり):ソーシャル・ネットワーク
撮影賞:「トゥルー・グリット
編集賞:「ソーシャル・ネットワーク
美術賞:「インセプション」
衣装デザイン賞:アリス・イン・ワンダーランド
メイクアップ賞:ウルフマン
作曲賞:「英国王のスピーチ」
歌曲賞:「トイ・ストーリー3 」から
   "We Belong Together"

録音賞(Sound Mixing):インセプション」 
音響編集賞(Sound Editing):インセプション 
視覚効果賞:インセプション
外国語映画賞:"In a Better World"(デンマーク)
長編アニメーション映画賞:「トイ・ストーリー3」
短編アニメーション賞:"Day & Night"
長編ドキュメンタリー賞:"Inside Job"
短編実写賞:"Wish 143"
短編ドキュメンタリー:"Strangers No More"

作品賞・監督賞は「英国王のスピーチ」か「ソーシャル・ネットワーク」以外あり得ない。しかしこの2作品から中々絞れない。そこで今回は分裂受賞という予想に落ち着いた。両者を観た上で、僕がアカデミー会員だったら作品賞は後味が爽やかな「英国王のスピーチ」に投票するな。しかしハリウッドの祭典なんだから監督賞はイギリス人(「英国王…」のトム・フーパー)よりアメリカ人に投票したいよね。それにデヴィッド・フィンチャーは「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」で惜しいところで落選し、同情票が今回集まるだろうという読みだ。

コリン・ファースの主演男優賞受賞は200%間違いなし。

撮影監督のロジャー・ディーキンズは「トゥルー・グリット」で何と9回目のノミネート(「ショーシャンクの空に」「ノーカントリー」「愛を読むひと」等)、しかも過去一度も受賞なし!もういい加減、彼にあげないと。

今回一番分からないのが作曲賞と外国語映画賞。

作曲賞は「ソーシャル・ネットワーク」が有利との下馬評なのだが、僕は全然良いとは想わない。確かにトレント・レズナーのインダストリアル・ノイズを使用した音は新鮮だ。でも心に残らない。だから自分が好きだという意味で「英国王のスピーチ」を推す。アレクサンドル・デプラの音楽は「真珠の耳飾りの少女」「ラスト、コーション」「ライラの冒険/黄金の羅針盤」など昔から愛聴している。

外国語映画賞で"In a Better World"を予想したのは大した根拠がないのだが、監督がスザンネ・ピアだから。昨年「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグローが受賞したように、今は女性監督が脚光を浴びているからね。

授賞式で注目すべきは歌う司会者アン・ハサウェイと、妊婦姿で受賞スピーチをするナタリー・ポートマン(夏に出産予定)。

さて昨年は18部門、一昨年は20部門を的中させた。果たして今年は?

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2011年2月25日 (金)

ヒア アフター

評価:B+

Hereafter

映画公式サイトはこちら

送られてきたオリジナル脚本を最初に読んだスティーヴン・スピルバーグは「これはクリントが監督するべきだ」とイーストウッドに連絡を取り、完成した作品。だから「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」同様、スピルバーグも製作総指揮で名を連ねている。

"hereafter"とは「来世」という意味。臨死体験がテーマであり、マット・デイモンは霊能力者の役。題材はいかにも胡散臭い。しかしそれを微塵にも感じさせず、格調高い映画に仕上げてくるところが現在のクリント・イーストウッドの凄さである。冒頭のCGを駆使した大津波の映像が迫力満点(アカデミー視覚効果賞ノミネート)。新しいことにどんどん挑む彼の若さには頭が下がる。もう80歳だぜ、信じられる!?

イーストウッド監督は朝鮮戦争のさなか1951年に召集され、陸軍に入隊。彼の乗っていた軍用機が海に墜落し、生死を彷徨ったことがあるという。「人生はギフト(贈り物)だ。人は与えられた生を精いっぱい謳歌すべきだ」「死は、単なる旅の一部に過ぎない」そういう彼の想いが映画に込められている。

本作を観た僕の感想は「今のクリントには何でも出来る。無敵だ」ということに尽きる。だからビヨンセ主演で現在企画が進行中の映画「スター誕生」リメイク(今度は何とミュージカル)も、彼の手に掛かればきっといいものに仕上がるだろう。クリント、是非ビヨンセにアカデミー主演女優賞を取らせてあげて!

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2011年2月23日 (水)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会 2011!@ザ・シンフォニーホール

ザ・シンフォニーホールへ。

T1

6年前に創部された大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の定期演奏会。

桐蔭は創部2年目で吹奏楽コンクール全国大会に出場し、銀賞を受賞。昨年度と今年度は全日本吹奏楽コンクール全日本マーチングコンテストで2年連続ダブル金賞に輝いた。

ここの吹奏学部はIII類(体育・芸術コース)の生徒のみで構成される。I・II類にも別に吹奏楽部があるが、そちらは週2日に活動が制限されている。III類の授業は6時限・15時30分まで、以後が部活動に当てられ、I・II類の授業は7時限・16時50分までとなっている。

生徒の殆どは楽器経験者で、2月の時点で既に来年度の新入部員が決まっている(61名だそうである)。当然のことだが女子が多い。

よって、やはり吹奏楽コンクール金賞常連校の大阪府立淀川工科高等学校(淀工)とは極めて対照的である。淀工は元々工業高校であり、そもそも音楽の授業がない。20年くらいまでは吹奏楽部の全員が男子生徒、その殆どが初心者であった。最近は女子が入学し、その分楽器経験者が増えたが、それでも半数に満たない。丸谷明夫先生はそのことを誇りにしていらっしゃる節がある(コンサートでよく新入部員に「高校から楽器を始めた者」の手を挙げさせる)。

では、そろそろ桐蔭定期の感想に移ろう。全て総監督の梅田隆司先生が指揮をされた。

第1部

  • ワーグナー/歌劇「タンホイザー」より”歌の殿堂を讃えよう”
  • ボロディン/歌劇「イーゴリー公」より”ダッタン人の踊り”
  • ヴェルディ/「レクイエム」より
    ”聖なるかな~くすしきラッパの音~憐れなる我~怒りの日~我を救い給え”

もう冒頭の「タンホイザー」から度胆を抜かれた。ステージ奥のパイプオルガン両サイドにアイーダ・トランペットが6人並び、さらになんと100名以上の生徒がドイツ語で大合唱。美しいハーモニー、そして人海戦術によるド迫力。梅田先生は大学時代、声楽を専攻されていたそうである。成る程。

ダッタン人の踊り」は部員全員(160余名)が舞台に所狭しと座った。ホルンが14-5名、トランペットおよびトロンボーンがそれぞれ20名以上。チューバ12名。視覚的にも壮観であった。

ヴェルディは2010年吹奏楽コンクールの自由曲。コンクール・メンバー55名での精緻な演奏。金管はチューバ以外全員女子というのが興味深い。磨き上げられ、抜けるような音が腹にズシリと来る。

休憩を挟み第2部。

  • スタイナー/映画「風と共に去りぬ」より”タラのテーマ”
  • VTR「2010マーチング」~「3年間のあゆみ」
    「アイーダ」(パンク・ロック)~NHK連続テレビ小説「ひまわり」~「ありがとう」
  • マンシーニ/シネマ・マンシーニ
    ムーン・リバー~シャレード~ピンク・パンサー~ひまわり~小象の行進(ハタリ!)~ピーター・ガン
  • 大河ドラマ(2005-2011)テーマ曲コレクション
    義経~功名が辻~風林火山~篤姫~天地人~龍馬伝~江 姫たちの戦国
  • 久石譲/NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」より"Stand Alone"
  • 小嶋登(詞)坂本浩美(曲)/旅立ちの日に

風と共に去りぬ」はゆったりしたテンポでスケールが大きい。

次に梅田先生がパソコンを操作して、ステージ背景に降りてきたスクリーンに全日本マーチングコンテストのパフォーマンス(動画)を映し出した。

シネマ・マンシーニ」の「ムーン・リバー」は息の長い演奏。歌心が素晴らしい。「ひまわり」の切ない旋律は胸に滲みる。一方、「シャレード」「ピンク・パンサー」「ピーター・ガン」はパンチの効いたJAZZYな演奏でノリがいい。

大河ドラマのテーマ曲は毎年桐蔭がどこよりもいち早く取り上げるそうなのだが、梅田先生によると「天地人」と「龍馬伝」は演奏が技術的に難しすぎて楽譜が売れなかったとか。「でも今年の『』は比較的簡単なので、お勧めです」と。「龍馬伝」にはハミングが、「」にはピアノがフィーチャーされた。

「坂の上の雲」は歌姫と男子生徒がデュエットを披露。この二人の歌声は以前にも聴いたことがある。

旅立ちの日に」は最初に卒業生が、途中から1,2年生も加わり歌った。そして何と背景のスクリーンには3年生ひとりひとりの名前と、彼らの映像が映し出される。すごいな〜。

そしてアンコール。

  • サーカス・ビー(Circus Bee)
  • 家族写真(森山良子)
  • 銀河鉄道999(樽屋雅徳 編)
  • 星に願いを(「ピノキオ」)

サーカス・ビー」は超高速で圧巻。十八番の「銀河鉄道999」は踊り(振付)もあって愉しい。淀工の「ザ・ヒットパレード」とか伊奈学園の「オーメンズ・オブ・ラブ」などの演出を徹底的に研究し、さらに洗練した感じ。桐蔭、恐るべし。

全体的な印象として、素朴で手作り感一杯な淀工「グリーンコンサート」に対し、大阪桐蔭の定期はショー・アップされ、まるでアカデミー賞授賞式とかトニー賞授賞式を観ているかのような極上のエンターテイメントであった。またマーチが得意な淀工・丸谷先生と、生徒に歌わせることを好む桐蔭・梅田先生との違いも鮮明だ。

どちらが良いというのではない。同じ高校でありながらタイプの全く異なる第一級の吹奏楽部が二校も聴けて、大阪は豊かな街であると感じた夜であった。

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2011年2月22日 (火)

一路真輝 主演/ミュージカル「アンナ・カレーニナ」

トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」は高校生の時に読んだ。息子がいる人妻・アンナと若き陸軍士官・ヴロンスキーとの恋(不倫)を軸に物語は展開していくが、実は影の主役としてレーヴィン(トルストイの分身)とキティの存在も忘れてはいけない。アンナとヴロンスキーは都会・社交界・退廃・の象徴であり、レーヴィン&キティは田舎・農業の営み・健全な魂・光の象徴である。2組のカップルが並行して均等に描かれており、どちらが欠けてもそれは「アンナ・カレーニナ」とは言えない。

しかしこれを2時間程度の映画とか芝居にしようと考えると、とうしてもレーヴィン&キティのエピソードをカットせざるを得ない。ヴィヴィアン・リー主演のイギリス映画「アンナ・カレーニナ」(1948)等が詰まらないのは、そこに原因がある。

兵庫県立芸術文化センターへ。

A1

公式サイトはこちら。ミュージカル「アンナ・カレーニナ」は1992年にブロードウェイで初演され、トニー賞で作曲賞・台本賞など4部門にノミネートされた。但し46回(6週間弱)しか上演されなかったそうで、興行的に成功したとは言えない。日本では2006年一路真輝/井上芳雄の主演で初演された。

脚本・作詞/Peter Kellogg (ピーター・ケロッグ)
音楽/Dan Levine (ダン・レヴィーン)
修辞・訳詞/小池修一郎
演出/鈴木裕美

このミュージカルは2組のカップルがバランスよく描かれ、台本が素晴らしい。トルストイが語ろうとしたテーマがしっかりと舞台に内包されている。音楽も良かった。特に気に入ったのがアンナとキティの2重唱。二人が全く逆の内容を歌っているのが面白い。

2007年度の菊田一夫演劇賞(「宝塚BOYS」と「ハレルヤ!」に対し)を受賞した鈴木裕美の演出は今回初体験。盆(回転舞台)を駆使したスピーディな展開で感心した。

主役は一路真輝と瀬奈じゅんのダブル・キャスト。瀬奈さんが以前演じたエリザベート(タイトル・ロール)の歌と所作が余りにも酷かったので、今回僕は一路さんを選んだ。

一路さんは「エリザベート」での共演がきっかけで内野聖陽と結婚、女児を出産した。夫の浮気騒動もあった。考えてみれば、「アンナ・カレーニナ」の逆パターン?そういう彼女の人生経験が、演技の深みを増しているように感じられた。実に見事であった。

伊礼彼方、葛山信吾、遠野あすか、春風ひとみ、山路和弘ら他のキャストも好演。充実した芝居を見せてくれた。また、「踊る指揮者」マエストロ・塩田明弘率いる楽団の演奏もブラヴォー!

第一幕の上演時間が95分で第二幕が85分だから合わせて丁度3時間。結構長い(「レ・ミゼラブル」並み)が、途中で飽きることは全くなかった。

名古屋公演を経て、3月2、3日は梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで大阪公演もある。必見!

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2011年2月21日 (月)

田辺寄席(桂こごろうの段)→笑福亭たま/ナイトヘッド (2/19)

田辺寄席(夜席)へ。

  • 桂佐ん吉/始末の極意
  • 桂こごろう/くやみ
  • 桂 文太/運廻し
  • 桂 九雀/神隠し(かみかくし)
  • 桂こごろう/高津の富

開口0番(文太の前ばなし)は「現代落語論」。天才・立川談志がなんと29歳の時に書いた名著である(1965年初版)。文太さんによると出版された当時、「なんば花月」の楽屋で仁鶴さんも読まれていたとか。本の中に登場する小噺もいくつか紹介された。

くやみ」ではここごうさんが顔のパーツ(目、鼻、口など)を「広げた笑顔」と「中央に寄せたくやみの表情」の対比が可笑しい。のろけだけ言って帰る弔問客の生き生きした描写もいいね。

文太さんの「運廻し」は途中から独自の味付けが。特に地下鉄・御堂筋線(ほまち→しさいばし→なば)から南海線に乗り換え(→しいまみや→てがちゃや→・・・)「林間田園都市(””が4つ)」駅に到着する展開には爆笑。ここで往復して””がさらに2倍になるのだが、「このギャグは(故)枝雀師匠も感心して下さいました」と。

文太さんも聴いたことがないという「神隠し」はもしかしたら小佐田定雄さんの新作かな?と思っていたのだが、九雀さんは眼鏡を外して登場。おっ、古典を演じるときの”クラシック型”だ!どうやら約300年前に滅んだ「超古典落語」(小佐田さん脚色)らしい。上方落語にしばしば登場する放蕩な若旦那が主人公で、サゲも上々。なななか面白かった。

田辺寄席を後にし、お次は繁昌亭レイトショーへ。

  • 笑福亭喬介/つる
  • 笑福亭たま/代書屋
  • 旭堂南海/山内一豊の妻、千代(講談)
  • 笑福亭たま/新作ショート落語+こうじゅん(たま 作)

喬介くんはアホなキャラクターが絶品!甲高い声で陽気な高座、実に愉快だった。

たまさんは高学歴で嫌味な代書屋と、学がなく無茶な依頼人とのコントラストが鮮明。上手い。

春蝶さんで落語版「山内一豊と千代」を聴いたことはあったけれど、オリジナルの講談は初。南海さんは心地よい語り口で、味わい深い一席。

たまさんの新作ショート落語は不発。「こうじゅん」は86歳の老婆がヒアルロン酸の原液を自己注射し、堀北真希みたいに若返って恋に落ちる噺。しかし薬の効果が次第に短くなってきて……。アイディアとしては面白いのだが、ギャグがくどく、些か冗長に感じられた。でもさらに手を入れれば、「伝説の組長」「憧れの人間国宝」みたいな鉄板ネタに成長する可能性も。

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2011年2月19日 (土)

マーラーの歌曲とベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲Ⅰ/大阪交響楽団 定期

ザ・シンフォニーホールへ。

寺岡清高/大阪交響楽団の定期演奏会。

Osaka

  • ベートーヴェン/劇付随音楽「シュテファン王」序曲
  • マーラー/「最後の7つの歌」“死んだ鼓手”
  • マーラー/さすらう若者の歌
  • ベートーヴェン/弦楽四重奏曲(弦楽合奏版)第12番

まずプログラム最後の曲目について大いに不満を述べたい。弦楽四重奏曲をオーケストラで演奏する意義がサッパリ分からない。例えばチャイコフスキー、ドヴォルザーク、エルガーにも弦楽セレナーデがあるし、ブリテンのシンプル・シンフォニーだってそうだ。しかしこれらには大人数で演奏するだけのスケール感がちゃんとあるが、ベートーヴェンは全く感じられなかった。こじんまりとまとまってしまっており、原曲の四重奏で十分。オケだと機動力に欠け、大味な印象。この企画は失敗と言わざるをえない。

「シュテファン王」序曲は滅多に演奏されないので聴けてよかったが、寺岡さんの解釈はあくまでオーソドックスであり、面白みに欠ける。

良かったのはマーラー。バリトン独唱は谷口 伸さん。ドイツ・ゲルリッツ市立劇場と専属契約を結び、ヨーロッパを中心に活躍している。

僕は今までの印象として日本のオペラ界はソプラノ(佐藤しのぶ、森麻季)やテノール(佐野成宏)など高音域において優れた歌手を輩出して来たが、アルト、バリトン、バスなど低音域は苦手(恐らく骨格など民族的DNAの問題)だと考えていたのだが、谷口さんを聴いてその考えを改めた。日本人も結構、やるじゃない!

谷口さんの声は滑らかく美しい。聴衆をやさしく包み込むような音色。オーケストラ伴奏を受け持った寺岡/大阪交響楽団も好演。青春の孤独と彷徨を歌うマーラーの音楽の魅力、世紀末の香りを堪能した。

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2011年2月18日 (金)

大植英次/大フィル ”宿命の第9シンフォニー”  

ザ・シンフォニーホールへ。

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会。

  • ショスタコーヴィチ/交響曲 第9番
  • ブルックナー/交響曲 第9番

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第二次世界大戦のさなかに交響曲 第7番、第8番の2作品を発表したショスタコーヴィチは、戦後に第9番を発表した。いわゆる「戦争3部作」最後の作品である。作曲者自身「祖国の勝利と国民の偉大さを讃える合唱交響曲を構想中である」という公式発言もしており、ソヴィエト共産党もベートーヴェンの第九のような壮大なシンフォニーを期待していた

ところが蓋を開けてみると、演奏時間25分弱の軽い「小交響曲」になっており、肩すかしをくらった政府当局は大いに失望、ショスタコーヴィチは非難囂々を浴びた。この事件はその後、ジダーノフ批判へ直接結びつき、彼は窮地に追い込まれてゆく。

一方、アントン・ブルックナーは1824年、ベートーヴェンが交響曲第9番を作曲した年に生まれた。そしてブルックナー最後の交響曲である第9番はニ短調。ベートーヴェンの第九と調性が同じである。これは単なる偶然ではあるまい。

このようにベートーヴェン以降、宿命の数字となった””に、その後の作曲家がどのように対峙していったのか?が今回のテーマである。

また、ブルックナー/交響曲第9番は1936年2月15日に東京音楽学校においてクラウス・プリングスハイムの指揮により日本初演が行われた。つまり今年はブルックナー演奏史75周年になるそうだ。大植さんが2月の定期にこの曲を選んだのには、こんな理由もあったというわけ。

さて、演奏の感想に移ろう。2曲とも第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが指揮台をはさんで向かい合う対向配置。コントラバス8台はオケ最後方に横一列に並ぶ。つまりウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートと同じ。

ショスタコーヴィチの第1楽章は穏やかで静かに始まる。しかし音楽は次第に暴力的になり、大植さんはアクセントやテヌートを強調、グロテスクな様相を呈してくる。第2楽章は哀歌。暗い。作曲家の絶望が音符の行間から垣間見られる。一転して第3楽章はシャープに疾走。狂騒的だ。第4楽章は重苦しく、ファゴットが沈痛な叫びを発す。ところが休まず突入する第5楽章になるとそのファゴットのソロがパロディに転化する。アイロニーに満ちた道化師(Pagliacci)の哀しみ。それは政治に翻弄された、ショスタコーヴィチの自画像でもある。表面的にはロッシーニの行進曲風だが、その裏で進行するのはベルリオーズ/幻想交響曲 第5楽章で描かれた「魔女の夜宴の夢」の世界。

ブルックナーの第1楽章 第1主題は思い切った加速がみられた。第2主題はなぐさめに満ちた祈りの音楽。ここで大植さんは感情豊かに歌う。第3主題は滔々と流れる大河のよう。悠久の時を感じさせる。第2楽章は速めのテンポ。ものすごい破壊力、野性的でパワフルだ。しかし中間部は軽快で、そのコントラストが鮮やか。第3楽章アダージョは深みのある弦が素晴らしい!ビロードのような美しさ。また厚みがあり、低い重心の金管群も見事であった。これぞ大フィルの底力。

総評として陰影がくっきりした、色彩豊なブルックナー。大変充実した、手応えを感じさせる演奏会であった。

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ブラームスの交響曲は何故4曲なのか?(シューマンからモーツァルトへの旅)

ブラームスは生涯に4つの交響曲を書いた。

しかし面白いことに交響曲 第4番が初演されたのは1985年。ブラームスが亡くなるのは1897年である。つまり彼は晩年の12年間、一切シンフォニーに手を付けなかったことになる。クラリネット・ソナタが94年、「4つの厳粛な歌」が96年に発表されているので、作曲は続けていたことになるが……。

ブラームスがベートーヴェンを深く尊敬していたのは有名な話。しかし、ベートーヴェンのシンフォニーは9曲。では何故、ブラームスは4番で止めてしまったのか?

その謎を紐解く、面白い本がある。

作曲家・池辺晋一郎さんが書かれた「モーツァルトの音符たち」(音楽之友社、2002)である。

M02

その第3章《「ジュピター」の偉大さ》(32ページ)に次のようなことが書かれている。

ブラームスの交響曲第1番はハ短調、第2番ニ長調、第3番ヘ長調、第4番がホ短調である。この4曲の調性の主音を順に並べるとド・レ・ファ・ミとなる。

これはなんとモーツァルト/交響曲 第41番「ジュピター」第4楽章の主題になるではないか!

さらに、ブラームスの先輩だったシューマンも4曲の交響曲を書いているが、その主音は第1番変ロ長調、第2番ハ短調、第3番変ホ長調、第4番ニ短調。これはド・レ・ファ・ミのちょうど1音(長2度)下になる。

ブラームスがシューマンの世話になり、その未亡人クララを生涯愛したことは有名な話。

これは決して、単なる偶然ではあるまい。

音楽史に秘められたミステリー。なんともスリリングで、魅力的な仮説ではないだろうか?

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2011年2月16日 (水)

映画「白夜行」

評価:C+

Bya

映画公式サイトはこちら

「白夜行」はまぎれもなく作家・東野圭吾の最高傑作である(次点は「新参者」)。僕の小説への想いは下記記事に綴った。

映画「白夜行」の前半から中盤に掛けて、2/3くらいまでは良かった。昭和の雰囲気や、ヒロイン”雪穂”と”亮二”が生まれ育った環境の行き場のない閉塞間・絶望感が上手く醸し出されている。雨の場面など印象的なショットも多い。ここまでなら評価をB+にしてもいい。

でもね、刑事が最初の事件の真相を語りだしてからが駄目!説明過剰なんだよ。そこまで微に入り細に入り状況を再現しなくてもいい。脚本家はもっと観客の想像力(イマジネーション)を信頼して欲しい。大体あれだと血まみれの犯人の指紋が殺人現場にたくさん残っている筈でしょうが。プロットが破綻してる。最後、刑事がビル越しに”亮二”に語り掛けるお涙頂戴の演出にも閉口した。人情噺かよ!?

やはり原作にはない、幼い”雪穂”と”亮二”がふたりで遊んでいる場面もいらない。単なる蛇足。メロドラマじゃないんだから。

東野圭吾の「白夜行」は悪意に満ちた、非情な小説である。”雪穂”と”亮二”が対面するのは最後の一瞬だけでいい。それでこそ深い余韻が残るのだ。

クール・ビューティになりきった堀北真希は好演。彼女の可愛さに評価を少し(+)おまけした。高良健吾も悪くなかった。

韓国版「白夜行」(2009年、日本未公開)はどうだったんだろう?気になる。いずれにせよ、10年後くらいに優秀な監督で再映画化を希望する。

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2011年2月15日 (火)

ブルックナー/交響曲第9番でオーケストラ実力診断

来る2月17日(木)、18日(金)の定期演奏会で大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団ブルックナー交響曲第9番を取り上げる。同じプログラムで東京公演も予定されている。

このシンフォニーはオーケストラ、特に金管の実力が問われる難曲である。

特に厄介なのが終楽章(第3楽章)コーダ(終結部)におけるホルンおよびワーグナー・チューバの約20秒に及ぶロングトーン(同じ音を長く伸ばすこと)。ここでピッチ(音程)をピタッと合わせるのが極めて困難なのだ。

僕は金管楽器を吹いた経験があるので分かるのだが、最初のチューニングで音程を合わせていても、演奏しているうちに楽器が温もってくると、次第にピッチが変化してくる。だから曲の終盤になると音のズレが生じるのである。そこを唇のコントロールや、息の風速(音圧)で微調整するのがプロの腕の見せ所となる。

大植/大フィルは2008年7月9日にこの曲を一度演奏している。

この時の金管はまことにお粗末であった。問題の箇所でロングトーンのピッチが全く合っておらず、ウォンウォンと音がうねっていた。これはライヴCDとして発売されているので僕が言っていることが嘘か真か、ご自身の耳で確認してみて頂きたい。

一方、2000年5月25日に朝比奈隆がNHK交響楽団を振ったこのシンフォニーの演奏を聴いてみると、しっかり最後が合っていた。ここで如実に実力差が現れていたのである。

さて、あれから3年。大フィルは果たして進化したのだろうか?ブルックナーの「最後の音」に注目!

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2011年2月12日 (土)

ウッドストックがやってくる!

評価:B

Woodstock

映画公式サイトはこちら

ブロークバック・マウンテン」で米アカデミー監督賞を受賞したアン・リーはみたいな人である。台湾時代に撮った「恋人たちの食卓」は料理人を主人公にしたホームドラマであり、アメリカ・イギリス合作の「いつか晴れた日に」はジェーン・オースティン 原作の文芸もの。「楽園をください」ではアメリカ南北戦争を描き、アカデミー外国語映画賞を受賞した「グリーン・デスティニー(臥虎蔵龍)」はワイヤーアクションを駆使した武侠映画。そし てアメコミ「超人ハルク」映画化を経て同性愛のカウボーイを主人公にした「ブロークバック・マウンテン」に至る(台湾時代にもベルリン国際映画祭・金熊賞を受賞したゲイ映画「ウエディング・バンケット」を撮っている)。その後は男女の激しい性愛を描く「ラスト、コーション(色|戒)」(ヴェネチア国際映画祭・金獅子賞)を世に問うといった具合。で今回はウッドストックだ。

ウッドストックは「愛と平和」を謳い、1969年に3日間開催された野外ロック・フェスティバル。これを記録した映画はアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門で受賞、編集を担当したのがマーティン・スコセッシ(後に「タクシー・ドライバー」「ディパーテッド」を撮る)である。

ウッドストックはヒッピー文化が頂点に達したイベントであり、反ヴェトナム戦争、ドラッグ、フリーセックスの文脈で語られることも多い。そのあたりのことが「ウッドストックがやってくる!」でも巧みに描かれていた。

この映画にコンサートの場面は一切登場しない。あくまでもバック・ステージでどのような出来事が起こっていたのかに焦点が当てられる。そのドタバタは喜劇的であり、面白い。特に主人公がラリって、周囲が色彩豊かになるサイケデリックな演出はさすがアン・リーだなと嬉しくなった。

「自由」は度を過ぎると、「無秩序」、「カオス(混沌)」に至る。その境界線を行き来するのがこのイベントの実態だったと言えるだろう。しかし観ていて、「何だか登場人物たちが皆、楽しそうだな」と感じた。そういう心地よさがこの映画にはある。良いか悪いかは別にして、これも青春の一風景であるのだろう。

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2011年2月11日 (金)

お勧めコンサート/大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会

来たる2月21日(月) 午後6時半より、ザ・シンフォニーホールにて大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の定期演奏会が開催される。

T1

大阪桐蔭は2009年度と2010年度の全日本吹奏楽コンクール&全日本マーチングコンテストに2年連続W金賞に輝いた。2010年度にW受賞したのは大阪桐蔭と柏市立柏高等学校(千葉)の2校だけである(大阪府立淀川工科高等学校は吹奏楽コンクールが3出休み、福岡の精華女子は両者とも3出休みだった)。

また2009年の全日本吹奏楽コンクールにおいて、審査員が付けた点数は大阪桐蔭が最高得点であった。

そんなアマチュアにおいて日本最高レベルの演奏が、どんなものか知る良い機会と言えるだろう。

今回の定期で取り上げられるヴェルディ/レクイエムは2010年の吹奏楽コンクール自由曲。コンクール・メンバーで演奏されるとのこと。その磨き上げられた鉄壁のサウンドに、度肝を抜かれること間違いなし(僕は普門館で聴いた)。

入場料は1,000円で座席は当日指定。三木楽器心斎橋店2F (06-6251-4596)で発売中。予め電話をしておけば、チケットの取り置きもしてくれるようだ。

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2011年2月10日 (木)

あの「幻の定期」から4年!〜遂に実現した大植英次のブラームス/交響曲 第4番

ザ・シンフォニーホールへ。

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大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団で、

  • ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための協奏曲
  • ブラームス/交響曲 第4番

ヴァイオリン:竹澤恭子、チェロ:ダーヴィド・ゲリンガス

大植さんのブラームス第4番は2007年6月の大フィル定期演奏会で披露される予定だったが、幻に終わった。当日僕もその現場に居合わせたが、新聞報道もされる大変な事件だった。

あれから4年。ようやく聴くことが叶った。それは演奏者たちにとっても同じ気持ちであったろう。

まずドッペル・コンチェルト(二重協奏曲)の感想から。第1楽章 第1主題からソリスト2人が雄弁な表現力で、強い意志に満ちた音楽が展開された。一転して第2主題はしなやか。この曲は2009年に神尾真由子さんで聴いているが、火の玉のように燃える若い神尾さんに対して、竹澤さんのヴァイオリンはしっとりした潤いがあり、大人の演奏だった。ゲリンガスさんのチェロも良く鳴り、素晴らしい!第2楽章は濃厚なエスプレッソの味わい。第3楽章は弾力に富み、丁々発止のやりとりがスリリング。

演奏が終わり、ブラボーが飛び交う。ゲリンガスさんが大植さんにフィナーレをもう一度やろうと耳打ちする。驚く大植さん。竹澤さんに目を向けると、「もちろん、いいですよ」と頷く。そして大植さんがオケに「第3楽章を!」と呼びかけ、慌てて閉じていた楽譜を開く楽員たち。こうして前代未聞のアンコールが実現した。それだけリハーサルの時から奏者たちが意気投合し、乗っていたということなのだろう。音楽の愉しさを実感した一時であった。

さていよいよ後半のシンフォニー。以前から僕が書いてきたように、大植さんが描くのは「新古典派」としてではなく、あくまで「ロマン派の作曲家」ブラームスの肖像である。

僕は今までこの交響曲第4番を諦念とメランコリーに満ちた音楽だと理解してきたが、大植さんの解釈はひと味違った。

第1楽章は流れるように始まり、決然としている。展開部では次第に熱を帯び、生命の輝きを感じさせる。第2楽章は慰め。第3楽章は躍動感に満ち、魂の鼓動が聞こえてくる。それは力強い地球讃歌だ。そして第4楽章パッサカリア(ブラームスは「シャコンヌ」という呼び方を好んだ)。深い弦の音が聴く者の魂を揺さぶる。音楽は厳しい表情で、次第に激しさを増す。そして終盤は指揮者と楽員の万感の思いが込められ、大いに盛り上がる。曲が終わると、大植さんは長距離を完走したマラソン選手のように息をハーハーしていた。まさにこれぞ一音入魂の演奏であった。

4年前と比べると(ダイエットで)すっかり痩せ、元気溌剌、パワー全開、むしろ若返った大植さんの姿がそこにはあった。その至福をホールに集った人々全てが噛みしめ、そして祝福した。

鳴りやまぬ拍手の中、日本に恐らく1つしかないというブラームスの自筆楽譜を持って再登場した大植さん。実は初演の後、旧友のヴァイオリニスト、J・ヨアヒムから「いきなり冒頭から第1主題が登場するよりも、序奏があった方がいい」と助言され、ブラームスが付け加えたという「幻の4小節」が余白に書かれているという。それをなんとアンコールの代わりとして実演してくれた。はっきり言って僕は蛇足(本当は「足」じゃなく「頭」だけれど)だとしか思えず、聴きながら笑ってしまったが、とても貴重な体験で有り難かった(ちなみに帰宅し調べてみると、この異稿は2001年に曽我大介/大阪シンフォニカー交響楽団が定期演奏会で取り上げているようである→こちら)。

さらに大植さん一人を残し楽員全員が舞台袖に引っ込んでから、ピアノが登場。ブラームスはどうして交響曲を4曲しか書かなかったのか?その謎の答えがシューマンとモーツァルトのシンフォニーに隠されていることを大植さんは詳しくレクチャーして下さった。まさに目から鱗のすこぶる面白いお話だったのだが、それはまた、別の話。……というか「このことはブログに書かないで!」と釘を刺されたので、仁義を守る。

そうそう大植さん、予定されながらやはり実現しなかった定期プログラム、マーラー/交響曲 第9番もいつかきっと演って下さいね!

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2011年2月 9日 (水)

工藤重典&関西の笛吹きたち vol.1/フルートライブ・セッション

ザ・フェニックスホールへ。

K2

日本No.1のフルーティスト・工藤重典さんと、仲間たちの和気藹々たるコンサート。

フルート:工藤重典榎田雅祥(元・大阪フィル)、小林志穂(現・大阪交響楽団)、長山慶子(元・大阪センチュリー)、山腰まり(兵庫芸文管弦楽団アソシエイト・プレイヤー)。ピアノ:鈴木華重子

  • ボアモルティエ/5本のフルートのための協奏曲 第3番
     1工藤 2長山 3小林 4山腰 5榎田
  • ベルリオーズ/オラトリオ「キリストの幼時」~若いイシュマエルのトリオ
     1工藤 2榎田 Pf鈴木
  • ドヴィエンヌ/3本のフルートのためのトリオ 第1番
     1工藤 2山腰 3小林
  • ップラー/シューベルトの主題によるコンセール・パラフレーズ
     1榎田 2長山 Pf鈴木
  • ュナン/「雨が降る」の主題による幻想曲
     Picc山腰 Pf鈴木
  • ショッカー/2本のフルートのための「遥かなる冒険」
     1永山 2小林 Pf鈴木
  • ボリング/フルートとジャズピアノのための組曲 第2番より〈エスピエーグル〉
     工藤 Pf鈴木
  • ロレンツォ/シンフォニエッタ(フルート風ディヴェルティメント)
     1小林 2工藤 3(+Picc)山越 4長山 5(Alto)榎田
  • ジョプリン/メイプル・リーフ・ラグ(アンコール、歌あり!)
  • マンシーニ/映画「ハタリ!」~小象の行進(アンコール、象の鳴き声付き)

全曲、フルートのためのオリジナル曲。アンコール以外は初めて聴く音楽ばかりだった。

フルート5人で演奏したボワモルティエ(1689-1755)とロレンツォ(1875-1962)は妙なるハーモニーで均整のとれた美があった。

キリストの幼時」は優しく可愛らしい曲。

ドヴィエンヌ(1759-1803)はモーツァルトの音楽に雰囲気が似ており、軽やか。

ドップラー(1821-1883)は華麗で、縦横無尽な超絶技巧を披露。

ジュナン(1832-1903)のピッコロ演奏は、小鳥の囀りを彷彿とさせる。嵐の描写も。

ニューヨーク在住の作曲家ショッカー(1959- )は都会的でJAZZY。粋だね。

今回、一番気に入ったのはボリング(1930- )の曲。「エスピエーグル」とはいたずらっ子のことだそう。組曲 第1番は工藤さんの師ジャン・ピエール・ランパルが初演している。一陣のつむじ風が吹き抜けていくかのような爽快感。切れがあり、クール。惚れた!

工藤さんのフルートは太く豊かで、大きな音がする。また、鈴木さんのピアノも達者でお見事。アンサンブルの愉しさを堪能した。

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2011年2月 8日 (火)

笑福亭福笑・たま/たった二人の一門会

2月5日(土)繁昌亭へ。補助席もいっぱいの大盛況。

F1

F2

  • 笑福亭たま/山寺瓢吉(福笑 作)
  • 笑福亭福笑/幽霊狂詩曲(福笑 作)
  • 笑福亭たま/初天神
  • 笑福亭福笑/口入屋

「『山寺瓢吉』を師匠の前で演じるのは今回が初めて。また古典『初天神』は師匠より先に覚えたネタなので、二重の意味で緊張します」と、たまさん。

その「山寺瓢吉」は脱獄犯が人質をとって立てこもる噺で、過剰な登場人物たちがすこぶる面白かった。

初天神」は生意気な息子の描き方が秀逸。キレる父親が、物語の進行と共に次第に幼児化していくのがいいね。

福笑さんは「世相のアラで飯を食うのが我々芸人」であると、大相撲の話題をマクラに。力士は「はだか芸者」であり、エンターテイナーたれ、という持論を展開。成る程と首肯した。「過激だ」と評されることもあるが、どうしてなかなか福笑さんは理性的な人である。

好色な番頭が最高に可笑しい「口入屋」にも大満足。終演後「笑い疲れたね」と客席の声。天晴れなり!

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創作落語の会(三枝・福笑・仁智・あやめ)

2月4日繁昌亭へ。

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  • 林家笑丸/カルチャースクール
  • 桂 三風/たまり場
  • 桂あやめ/妙齢女子の微妙なところ
  • 笑福亭福笑/霊媒詐欺
  • 笑福亭仁智/兄貴の頭
  • 桂 三枝/親父の演歌

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全員自作ネタ下ろし。

笑丸さんは歌いながら紙切り(ブルドッグ)、背中で後ろ紙切り(ねずみ)、ウクレレの弾き語りといった演芸を披露。紙切りがもたつくのと、サゲがいまいちで落語としてのまとまりに欠ける。

三風さんは年初に三枝師匠から、繁昌亭近くにある喫茶店「ケルン」に入り浸らないよう釘を刺されたことをマクラに。

あやめさんの噺は40代の女子会。登場人物は3人。等身大で「そういうの、あるある」と共感出来る。

福笑さんは途中「祟りじゃ!」と叫ぶ、「八つ墓村」にでも出てきそうなばあさんが登場し、これが爆笑もの。

仁智さんのネタは昨年10月に笑いのタニマチで聴いたものがさらに膨らまされていた。これって「源太と兄貴」シリーズだったんだ!ヅラネタで、禁句の羅列が愉しい。今回、これが一番面白かった。

三枝さんは「老い」をテーマに、古典「片棒」みたいな遺産相続を絡めて。挿入歌「なにわ恋サブレ」が可笑しい。噺の終盤で舞台が暗転。サプライズで司会者姿の桂文福さんがマイクスタンドの前に登場。相撲甚句、なぞかけの後に、「嵐龍太郎(by 桂三枝)歌謡ショー」となるオマケが付いて場内が盛り上がった。

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2011年2月 7日 (月)

「ろくでなし啄木」と三谷幸喜 論

シアターBRAVA !へ。

B1

劇作家・三谷幸喜が書く芝居にはちょっとだけ興味がある。

生の舞台を観たもの。「君となら」「笑の大学(初演・再演)」「ヴァンプショウ」「アパッチ砦の攻防」「温水夫妻」「オケピ!(初演、再演)」「竜馬の妻とその夫と愛人」「彦馬がゆく」「You Are The Top/今宵の君」「なにわバタフライ」「12人の優しい日本人」「コンフィダント・絆」「グッドナイト スリイプタイトの13作。

テレビ放送、DVDなどで観たもの。「天国から北へ3キロ」「ショー・マスト・ゴー・オン」「巌流島」「バイ・マイセルフ」「マトリョーシカ」「バッド・ニュース☆グッド・タイミング」「returns」の7作。合わせて20作。これが僕のささやかな観劇歴である。

その中からベスト5を選ぶとすれば、「笑の大学」「オケピ!」「彦馬がゆく」「12人の優しい日本人」「コンフィダント・絆となる。

B2

さて、三谷幸喜 作・演出、藤原竜也中村勘太郎吹石一恵 出演の舞台「ろくでなし啄木」を観た。

初期の三谷作品、つまり「東京サンシャインボーイズ」時代には大きな特徴が2つあった。

  1. 舞台転換がなく、最初から最後までワン・シチュエーションで物語が展開される。
  2. テーマは「仲間が一番!」ということ。チーム・プレイを大切にする。つまりピクサー・アニメーションに代表されるバディ・ムービーに近い(ちなみに三谷は「トイ・ストーリー」を大好きな映画として挙げている)。これはまた、三谷のテレビ・ドラマ「王様のレストラン」「総理と呼ばないで」「合い言葉は勇気」「新選組!」にも共通する特徴である。

しかし、コミュニティの崩壊を描くコンフィダント・絆あたりから大きな転換期を迎えた。三谷は新たな次元へと確実にステップ・アップしたのだ。

「ろくでなし啄木」は目まぐるしく舞台が転換し、動的である。友情の終わり、男女の別れが描かれている点でも初期の作品とは一線を画す。

ミステリー仕立てになっているのも面白い。さすが「古畑任三郎」の作者!第一幕がレコードA面(カードの表)で、二幕がB面(カードの裏)という構成。つまり、第一幕で描かれた物語の裏側で、実はどんな出来事が進行していたかが第二幕で明らかにされる。前半で張り巡らされた伏線が、後半でボディーブローのようにじわじわと効いてくる。非常にスリリングである。

藤原竜也中村勘太郎吹石一恵といえば、三谷が執筆したNHK大河ドラマ「新選組!」でも三角関係を形成していた。キャラクターは全く異なるが、なんだか同窓会みたいで懐かしかった。必見!

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フィンランドと日本人についての考察/尾高忠明のシベリウス~大阪交響楽団 定期

ザ・シンフォニーホールへ。

Otaka

尾高忠明/大阪交響楽団でフィンランドの作曲家、ジャン・シベリウスの音楽三昧。

  • 組曲「カレリア」
  • ヴァイオリン協奏曲(独奏:戸田弥生)
  • 交響曲 第2番

シベリウスはヨーロッパ大陸で人気がない。カラヤンこそレパートリーにしていたが、トスカニーニ、フルトヴェングラー、ワルター、セル、ベーム、ショルティ、アバド、ムーティら巨匠たちがこの作曲家を取り上げることは稀だった。しかし一方、イギリスでは愛されている。コリンズ、ビーチャム、バルビローリ、デイヴィス、ラトルら英国の指揮者たちが得意としている。

日本人もシベリウスの音楽をこよなく愛す民族である。嘗ては近衛秀麿渡邊暁雄というスペシャリストがおり、そのポジションを現在引き継いでいるのが尾高忠明さんである。

フィンランドを構成する主要な民族がフィン人。言語的にアジア系のウラル語族であり、日本語に似たところがある。

日本画家・東山魁夷はフィンランドに魅せられ、「白夜の旅」という著作もある。詳しくはこちら

僕が大好きな作家・福永武彦(代表作「草の花」)は遺作長編「死の島」でシベリウス論を展開している。

また吉松隆はシベリウスの申し子みたいな作曲家だし、ピアニスト舘野泉はフィンランド在住。

さらにフィンランドで生活する日本人を描いた「かもめ食堂」という映画もあった。

このように、シベリウスの音楽とフィンランドの風土は日本人を惹きつけてやまない「何か」があるのであろう。

さて、コンサートの感想に移ろう。

「カレリア」組曲間奏曲バラードの仄暗い音色に魅了された。行進曲で音楽は弾け、優雅に展開。

コンチェルトは戸田さんのソロが素晴らしい。鋭く研ぎ澄まされた響き。熾火の如く静かに燃える。第2楽章は哀切な歌を雄弁に、そして直向(ひたむき)に奏でる。

シンフォニーには勢いと情念が感じられた。第2楽章はパンチの効いた主題と厳粛な主題が交差し、荒々しい第3楽章は雪崩の如し。そして生命の歓喜を歌う第4楽章で力強いクライマックスを築く。

さすが尾高さんの解釈は万全で文句なし。是非次回は交響曲第5-7番あたりが聴きたいな。あっ、「レミンカイネン組曲(四つの伝説曲)」もいいね!

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2011年2月 5日 (土)

文化庁芸術祭受賞記念/旭堂南湖「南湖十八番」

大阪・難波にある鯨料理「徳家」3Fにある徳徳亭へ。

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講談師・旭堂南湖さんがこの度、文化庁芸術祭新人賞を受賞した記念の会。

一日目

  • 対談
  • 旭堂南湖/荒大名の茶の湯
  • 旭堂南湖/薮井玄意 1
  • 桂歌之助/片棒
  • 旭堂南湖/赤穂義士銘々伝より「武林唯七 粗忽の使者」

二日目

  • 対談
  • 旭堂南湖/子ほめ(南湖 作)
  • 桂 吉弥/かぜうどん
  • 堂南湖/薮井玄意 2
  • 桂かい枝/丑三つタクシー(かい枝 作)
  • 旭堂南湖/赤穂義士本伝より「刃傷松の廊下」

三日目

  • 対談
  • 旭堂南湖/西行(鼓ヶ滝)
  • 桂 米紫/まめだ(三田純市 作)
  • 旭堂南湖/薮井玄意 3
  • 坂本頼光/活弁
  • 旭堂南湖/赤穂義士銘々伝より「矢頭右衛門七」(やとうえもしち)

客の入りは初日6人、二日目16人+「徳家」の女将(前半のみ)、三日目11人。

各回、開演時間より前に入門直後の南斗さんが一席。南湖さんによると新人は通常、お客さんの入る前=「空板」(からいた。誰もいない高座で一人、釈台を叩いて稽古すること)でやるものだが、それでは可哀想だからこういう形でやらしてもらってると。

2001年から始まった「旭堂南湖話術研究会・南湖だんご」のゲストは第1回目・かい枝、2回目・歌之助、3回目・吉弥だったそう(3人とも既に芸術祭新人賞を受賞)。

南湖さんは現状を打破するため、文化庁文化交流使として海外でも活躍するかい枝さんに相談。すると「交流大使になりたいのなら、賞を取らんとあかへんで」とアドヴァイスされた。それが今回の受賞に結びついたと。

南湖さんが吉弥さんに「兄さんの普段の落語会と比べると、お客さん少ないでしょう」と話を振ると、「俺も地元の尼崎で小さい会をやっているし、人数なんか関係あらへんで」と。続けて、若い頃に梅田・太融寺で覆面を被って(!)「ラクゴレンジャー(文鹿、かい枝、都んぼ、吉弥、三金)」をしていた頃の苦労話を語られた。また、吉弥さんが主任を務める「岡町落語ランド」に南湖さんが出演した際、お客さんのアンケートで全員が異口同音に「南湖さんの『柳田格之進』が良かった!」と書いていたそう。

現在も続いている新作落語の会「できちゃったらくご!」をそもそも始めたのはかい枝さんと三金さんだったことも判明。そして南湖さんも「一緒にやらへんか?」と声を掛けられた。当時かい枝さ んは「タイタニックばあちゃん」という作品などを発表したとか(最近「キネマばあちゃん」に改変)。「しかし、かい枝兄さんは新作落語ではなく、替わりに子供が『できちゃった』ので、やがてこの会から離れられました」と南湖さん。結婚式ではかい枝夫妻の馴れ初めを、南湖さんが講談に仕立てて披露され たそう。

さらに三人で話しているうちに、2005年にそれぞれの師匠=文枝、南稜、吉朝を亡くしていることが判明。

吉弥さんの高座は「クリーニング ママ号」のテーマソングを歌い、また江戸時代の氷屋や金魚屋など物売りの声を披露して「かぜうどん」へ。これはもう鉄板ネタだし、文句があろう筈もない。

三日目は東京から活動弁士の坂本頼光さんがゲスト。30代前半でまだ若い。ウィキペディアによると現在、日本に活弁士は14人いるそうだが、全国各地に散らばっているので、坂本さん自体は現状を把握していないと。今回、活弁付きでスクリーンに映された無声映画は、

稀少な体験が出来て、すごく良かった。

子ほめ」は落語ではなく、昨年6月に生まれた南湖さんの息子(芸名:小南湖)をめぐる、子育て奮闘記。とても面白い。

南湖さんは大学時代、落語研究会に所属していたということもあり、彼の講釈はウィットに富み味わい深い。時折盛り込まれるユーモアのセンスが光る。

受賞作「柳田格之進」は6日(日)午後2時開演の「南湖十八番」で演じられるので、お見逃しなく。

N2

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2011年2月 2日 (水)

笑福亭鶴瓶 2連発!/繁昌亭朝席、昼席(桂塩鯛襲名披露興行)

1月30日(日)、繁昌亭へ。午前10時開演の朝席。

  • 森乃石松/動物園
  • 笑福亭学光/鼓ヶ滝
  • 笑福亭枝鶴/初天神
  • 笑福亭鶴志/平の陰(無筆の手紙)
  • 笑福亭鶴瓶/お直し(ネタおろし)

「朝から笑福亭」は鶴志さんによる命名。この言葉のニュアンス、意味合いはお客さんで決めてくれと。その第一回目。

鶴瓶さん出演ということで、立ち見も出る大入り満席(続く昼席も同様)。「兄さんのおかげで今日は一杯のお越しですが、(鶴瓶さんの出ない)来月第二回のお客さんは2~3人やと思います」と鶴志さん。

鼓ヶ滝」は元々、講談ネタ。

笑福亭鶴光さんの十八番。お家芸を堪能。

初天神」はみたらし団子の件まで。

鶴志さんの大声で豪快な芸が良かった。「ヨッ、Mr. 笑福亭!」(←鶴志さんが楽屋で、そう呼んでくれと言ったそう。本人は否定)

鶴瓶さんの「お直し」はネタおろし。3年ほど前、南光さんから勧められたものだそう。元々は江戸の噺を上方に移殖。新地を舞台に、吉原から来た花魁という設定で、彼女のみ江戸弁、その他の登場人物は大阪弁(なにわことば)に。江戸の「けころ」(「蹴転がる」が由来。江戸時代最下層の女郎のこと)は上方で「どぐろ」と言ったという話も盛り込まれた。役者としても活躍する鶴瓶さんだけに、演じ分けが巧みで聴き応えある一席。

H1

昼席も立ち見が出た。

  • 桂 鯛蔵/動物園
  • 桂ひろば/狸賽(たぬさい)
  • 桂 出丸/寄合酒
  • 桂 米平/立体紙芝居「シンデレラ」
  • 桂小春團治/祇園舞妓自動車教習所(小春團治 作)
  • 笑福亭鶴瓶/転宅
  • 襲名披露口上
  • 桂ざこば/ざっこばらん(我が弟子達)
  • 桂春之輔/まめだ(三田純市 作)
  • 桂 塩鯛/はてなの茶碗

H2

鯛蔵さんの「動物園」で登場する園長さんは「前田一郎」。朝席・石松さんの「動物園」園長は「河村はん」(桂三枝さんの本名)で、主人公に紹介状を持たせたのが「長谷川はん」(五代目桂文枝の本名)だった。調査したところ、石松さんは三枝さんの弟子・枝三郎さんにこのネタの稽古をつけてもらったそう。

ひろばさんが入門した時、芸名の候補が他に3つあり、「なんば」「ふろば」「はかば」だったとか。

僕は今まで小春團治さんの新作を面白いと思ったことがないのだが、その理由が今回分かった気がした。噺にリアリティがなく、かといって(「粗忽長屋」「綿医者」みたいに)シュールと言えるほどぶっ飛んでもいない。何だか中途半端な印象。

鶴瓶さんの「転宅」は純情な泥棒の笑顔が可愛らしい。

襲名披露口上の〆は大阪締め。しかし「手締め」というのは本来、江戸の言葉で、上方では「手打ち」というのが正式なのだそう。つまり大阪打ち

ざこばさんが塩鯛さんを弟子に取ったのは30歳の時だそう。「どうしてわしのところへ来たんや?米朝師匠に頼んだらええのに」と言うと、既に行ったが(二人が内弟子修行中で手一杯だと)断られた。「だったら枝雀兄ちゃんのところに行けばええ」と言うと、雀々さんが修行中なのでやはり断られたと。そこでざこばさんは米朝宅に塩鯛さんを連れて行き、弟子にしてやって欲しいと直談判したが、「お前が取れ。師匠になるというのもいい勉強になるから」と諭されたのだとか。当時ざこば宅は手狭だったので通い弟子に。しかし近所に借りたアパートの敷金や家賃、食費などは全てざこばさんが支払った。やがて数年経ち塩鯛(当時、都丸)さんが売れてくると、まとまったお金を包みざこばさんの家を訪ねてきて「師匠、本当にありがとうございました。これでは足りないかも知れませんが、今までお世話になったお礼です」……「そういう男なんです」と、ざこばさん。さらにざこばさんは既に辞めた弟子や、最近入門したばかりのあおばさんについてのいろいろなエピソードを面白おかしく語られた。

続く膝代りの春之輔さん。「まめだ」は秋の噺だし、しかも「狸賽」とネタがついて(かぶって)いるのだが……。

塩鯛さんの「はてなの茶碗」は行商の油屋が威勢があって気風がよく、さらに小市民の哀感も漂う。トリとして文句のない高座だった。

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